ここ最近、というか結構前から、めちゃくちゃ面白い動きを見せているのが、VTuber/バーチャルシンガー界隈の音楽。そもそも“バーチャルYouTuberの始祖”たるキズナアイが登場してからまだ10年にも満たないので、未だに未知の可能性に溢れているところがシーン全体の魅力だと思うのだが、その中でも近年、特にコロナ以降は、バーチャルタレントという存在や概念が世間一般により深く浸透していくとともに、その音楽もまた広く親しまれるようになってきた。
アニメの分野においてもバーチャルタレントが主題歌を担当するケースが徐々に増えていて、実はリスアニ!でも過去に雑誌「リスアニ!Vol.48」(2022年5月発売号)でVTuber音楽の特集記事を組んだことがあるのだが、ここで改めてVTuberが歌うアニメ主題歌の事例について振り返ってみたい。
TEXT BY 北野 創
最初期となる2019年は、キズナアイが劇場オリジナルアニメ『LAIDBACKERS-レイドバッカーズ-』の主題歌アーティストに起用され、同アニメの劇伴も手がけたkz(livetune)提供の爽快なEDM「Precious Piece」を歌唱。
さらに先日配信された「ぽんぽこ24 vol.7」(VTuberのぽんぽことピーナッツくんによる24時間生放送)でもネタにされた伝説のVTuberアニメ『バーチャルさんはみている』では、同じくキズナアイがOPテーマ「AIAIAI(feat.中田ヤスタカ)」を担当。第7話以降の放送では、同アニメに出演していたVTuberたち(ミライアカリ、電脳少女シロ、猫宮ひなた、月ノ美兎、田中ヒメ、鈴木ヒナ)によるスペシャルユニット・バーチャルリアルによる楽曲「あいがたりない(feat.中田ヤスタカ)」がOPテーマとなり、いずれも中田ヤスタカ節の効いたポップなエレクトロチューンとして話題を呼んだ。その一方、HIMEHINAが歌うEDテーマ「ヒトガタ」は歪んだシンセとビートが鳴り響くハードなダンスナンバーに仕上がっていた。
翌2020年には、バーチャルシンガーの花譜がTVアニメ『ブラッククローバー』第11クールのEDテーマ「アンサー」を、YuNiがTVアニメ『宇崎ちゃんは遊びたい!』EDテーマ「ココロノック」を担当。いずれもアニメ本編が終わったあとの余韻を膨らませてくれるバラード調の楽曲で、VTuberとしてのキャラクター性というよりも、単純に歌唱力や表現力といったシンガーとしての力が求められての起用だったように感じられる。
そして2021年は、VTuber業界における2大プロダクション「にじさんじ」と「ホロライブ 」の勢いが増すなか、そこに所属するバーチャルタレントたちのアーティスト活動も活発になり、それに伴いアニメ主題歌への進出が一気に増えた。にじさんじ所属の森中花咲 meets ▽▲TRiNITY▲▽(鷹宮リオン、葉加瀬冬雪、フレン・E・ルスタリオ)がTVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』のEDテーマ「キズナ・レール」を、ランティスからアーティストデビューした樋口 楓がTVアニメ『100万の命の上に俺は立っている』第2シーズンOPテーマ「Baddest」を担当してアニメ音楽シーンにその存在をアピール。
ホロライブからも、湊 あくあ、大空スバル、桃鈴ねねによるユニット、NEGI☆UがTVアニメ『ジャヒー様はくじけない!』の第1クールEDテーマ「つまりはいつもくじけない!」を歌唱。人間界で不憫な生活をしながら魔界復興を志すジャヒーさまの“くじけない!”精神を、3人が愛らしくもコミカルに表現する電波ソング調のアニソンらしいアニソンになっていた。
同年にはほかにも、40mPが提供したカグラナナ「鼓動」(『探偵はもう、死んでいる。』EDテーマ)、KAMITSUBAKI STUDIO所属の5人のバーチャルシンガー(花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜)によるユニット、V.W.Pの「輪廻」(『マブラヴ オルタネイティヴ』OPテーマ)がアニメタイアップに。この頃にはアニメ音楽のシーンを中心に活躍するクリエイターがVTuberに楽曲提供するケースが増え、音楽的にもシームレスな繋がりができていった印象だ。
そして2022年、春猿火「Oarana」(『地球外少年少女』主題歌)、渋谷ハル「かえりみちの色」(『組長娘と世話係』EDテーマ)といった楽曲も登場するなかで、とりわけ大きなインパクトを残したのが花譜。前年にも『映画大好きポンポさん』の挿入歌「例えば」を担当、さらに声優の佐倉綾音とのコラボ曲「あさひ」を発表するなど、アニメファンにも名を知られる存在になっていたなか、自身の音声を元にした人工歌唱ソフトウェア“可不”とのコラボ曲「流線形メーデー」がTVアニメ『邪神ちゃんドロップキックX』のEDテーマになり、ディスコ風味のエレクトロポップで『邪神ちゃん』らしい中毒性の高い世界観を演出。そしてTVアニメ『うる星やつら』第1クールEDテーマのMAISONdes「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ feat. 花譜、ツミキ」では、“歌ってみた”や“踊ってみた”動画といったSNSでのバズも含めてスマッシュヒットを記録。同年を代表するアニメソングの1つとなった。
そんななか2023年には、キズナアイに憧れてバーチャルアーティストを目指す女の子を描いたTVアニメ『絆のアリル』が放送。いよいよVTuberそのものを題材にした作品も登場した(SF的な世界観なので現実のカルチャーとは異なるが)。また、現在放送中のTVアニメ『英雄教室』では、樋口 楓が軽快なロックチューン「Bravery? Naturally?」で自身2度目のアニメタイアップを担当している。
そして今年の秋アニメでは、VTuberによるアニメタイアップが続々と決定。Netflixで独占配信されるアニメ『グッド・ナイト・ワールド』では、にじさんじ所属の葛葉がOPテーマ「Black Crack」を、戌亥とこと町田ちまによるユニット・NornisがEDテーマ「salvia」を歌唱。さらに、葛葉とChroNoiRというユニットで活動していることで知られる叶も、TVアニメ『オーバーテイク!』のOP主題歌「Tailwind」で初アニメタイアップを担当する。また、Neo-Porte(ネオポルテ)所属の緋月ゆいも、TVアニメ『婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む』のOPテーマ「イケナイエトランゼ」を歌唱。今やVTuberもいちアーティスト/シンガーとして、リアルとバーチャルの垣根を越えて活動するのが当たり前の時代になったのだ。
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