リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2023.08.24

みあ自身が「三パシの“これまで”と“これから”が凝縮されている」と語るニューEP『ゴールデンレイ -解体新章-』。三月のパンタシアの現在地に迫る。

みあ自身が「三パシの“これまで”と“これから”が凝縮されている」と語るニューEP『ゴールデンレイ -解体新章-』。三月のパンタシアの現在地に迫る。

三月のパンタシアがTVアニメ『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』のOPテーマを表題にしたニューEP『ゴールデンレイ -解体新章-』をもって、サブタイトル通りに新章へと突入した。明るく爽やかで少し切ないブルーポップの世界から、仄暗さも孕むような新しいブルーポップの世界へ。はるまきごはん、いよわ、Sou、栗山夕璃という気鋭のネットクリエイターと描いた“新章”のはじまりを時系列に振り返ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ

目標はいかに人間の醜い部分を書くか

――3月のワンマンライブで、「仄暗さも孕む新しいブルーポップの世界を作っていく」と宣言してました。

みあ そうですね。インディーズ時代からずっと青春の情景を描き続けていて。青春の中でも爽やかだったり、甘酸っぱかったり、淡くてほろ苦い――どちらかというと、ボロボロになりながらも、どこかキラッと光ってるような青春の情景を描き続けて。

――それを“ブルーポップ”と名付けて、音楽と小説、映像での表現を続けてきましたね。

みあ でも、青春って実はもっと得体の知れないものだとも思っていて。誰にも言えなくて、見せたくなくて、心の中に隠してる……ドロドロした醜悪な感情だったり、惨めな嫉妬心だったり、暗い興奮をはらむような気持ち悪さだったり。そういう青春の暗部みたいなものに関しては、これまではさすがに三パシとしてはえぐみが強すぎるかなと思って、選んでこなかった部分ではあるんです。でも、青春を描くっていう覚悟を決めて続けてきている身としては、人間の多面性みたいな部分を描くことでより物語に深みを見出せるんじゃないかと思って。なので、仄暗い部分まで深く潜っていくのは、表現する側としても、リスナーに対しても、勇気のいるチャレンジではあるんですけど、もう一歩踏み込んでみたいっていう決意を持って、今、新しく“青春を暴く”っていうコンセプトを追加して、音楽を作ってみています。

――その第1弾として、4月に「ピアスを飲む」「レモンの花」が先行配信されましたね。

みあ 2曲とも栗山夕璃(ボカロP・蜂屋なな)さんと一緒に制作して。これまでになかったようなダークな曲を作りたいっていうイメージを元に作家候補を上げていったときに、栗山さんがやっているバンド、Van de Shopの世界観と三パシがマッチしたらちょっと面白いのかなと思って。最初は1曲だけのつもりで話をしていたんですけど、せっかく新章と銘打って、新しく幕開けをするんだったら、2曲同時リリースのほうが盛り上がるんじゃないかなと思って。それで、もう1曲はどういう感じにしようかなと思った時に、その時点で「ピアスを飲む」の軸になっている男女の物語――主人公の女の子が大好きな恋人に浮気されて、気づいてるけど、離れられないという物語自体はあって。ここにもう1人登場人物を追加して……。

――え?それが「レモンの花」の子なの?やだー。

みあ あははは。そうです。主人公の女の子を好きな別の男の子がいて、その男の子視点の片思いの甘酸っぱさみたいなものを描くと、連綿とした物語が完成して面白いんじゃないかっていう話になりまして。最初は、「レモンの花」はこれまでの三パシが描いてきたような片思いの切なさとか、叶わない苦しさみたいな感情を描く曲にしようって思ってたんですけど、せっかくこういうタイミングなんだから、「レモンの花」ももうちょっと気持ち悪くていいんじゃないかということになって。この男の子の気持ち悪さはどういう部分にあるのかなって考えたら、恋人がいる相手をずっと思い続けてるって結構、強い感情だったり……。

――すごい執着ですよね。

みあ それがないとそこまでついていけないと思って。そこをちょっと加筆して、独占欲や執着心の強さのあまり、盗撮やストーキング行為までやってしまう。一途すぎる男の子の怖さを描いた曲にしようと。いかに人間の醜い部分を書くかっていうことで、「ピアスの飲む」と「レモンの花」を作っていきました。

――「ピアスを飲む」は浮気された側の心情ですよね。これも怖いです。浮気相手のピアスを見つけて投げつけるだけならわかるんですが……。

みあ 別れなきゃいけないってわかっていて、でも言い出せなくて。でも、最後は別れを切り出す決意をするんですけど、ただ別れるだけだと、やっぱり悔しい。人ってどうしても相手に何かを残したいって思うというか……私自身は思うんです(笑)。最悪な記憶でもいい。傷でもいいから最後に何か残したいという思いから、ピアスを奪って飲み込むという奇行を起こす。そんな女の子のごっちゃになった感情をどうにか曲にできないかなと思って、栗山さんと相談しながら作っていきました。

――「ピアスを飲む」はエレクトロスイング、「レモンの花」はジャズになってますが、メロディラインが「ここで下に行くんだ!?」という驚きというか、不穏さがあって。

みあ 人間の二面性ですよね。一見爽やかなんですけど、サビの最後にめちゃめちゃ下がったりして。

――「レモンの花」は“支えるんだ”は彼氏じゃなく、ストーカーが言っているフレーズだと思うと……。

みあ 本当にそういうふうに聞こえてくるから面白いですよね。

――その後が3拍子でマーチのような表題曲「ゴールデンレイ」になりますが、TVアニメ『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』の主題歌ということに関してはどう感じました。

みあ 原作のゲームを調べていくなかで、少年少女たちが大人になる前のなんでもない日常の中で、本人にとっての特別なものを探し出していく成長物語なんだっていうことを知って。私は元々青春小説や青春群像劇みたいな風景が好きなので、これはもう絶対に物語に寄り添えるようないい曲を作りたいと思って。すごく楽しみにしながら制作も進んできました。

――はるまきごはんさんにお願いしたのはどうしてですか?

みあ はるまきごはんさんはスペイシーな曲も多いですが、どこか田舎の牧歌的な風景が思い浮かんだり、少しオリエンタルな風を感じるような楽曲が素敵だなと思っていて。『ライザのアトリエ』の異国情緒のあるファンタジーな世界観と、すごく似合うんじゃないかなと思って、お声掛けさせてもらって。そしたら実は、はるまきごはんさんが「ライザのアトリエ」の大ファンということを知って、もうこれは最高だ!と思って(笑)、トントン拍子で制作が進んでいきました。

――(笑)。少年少女の成長物語と、今の三パシが描こうとしている“青春を暴く”という新章のテーマで重なった部分はありましたか。

みあ サビに“止まらないで行こう”という強いフレーズがあるんですけど、大人になるライザたちのことを思ったときに、自分が18~19歳の頃、大人になる直前の頃のこと思い出して。大人になることって、楽しみもあるけど、ちょっと寂しい気持ちもあるというか。これまでは子供だからこそ無邪気にはしゃげたところがたくさんあって。そういう無垢さみたいなものが、もしかしたら、これから薄れていっちゃうのかもしれないなっていう不安とは違う寂しさみたいなものが、期待と同じくらいあったなと思って。その感情と今の三パシにある、期待と同じくらいのちょっとした不安、揺れ動く気持ちみたいなものが重なる部分があるなと思って。それでもやっぱり“止まらないで行こう”と歌い切るのが、すごく心がこもったというか。自分自身にも言い聞かせてるようでしたし、今の自分にもリンクする楽曲になったなと思っています。

――はるまきごはんさんには作詞もお任せしてますね。

みあ 実はMVもやってもらっているので、もうほぼプロデュースに近いですよね(笑)。『ライザのアトリエ』の台本の2話くらいまで読ませてもらって。はるまきごはんさんとどういう楽曲にしていくかという話をするなかで、ライザたちは物語の中で、めちゃくちゃ世界を突き動かすような大きな選択とは違う、日常生活の中で小さな選択や決断をたくさんしていくんですけど、それって自分たちも同じだなと思っていて。私はそういう選択をする瞬間って、その選択が良い方向に進むか悪い方向に進むかは別として、選択するということがすごく大事だと思っているんですね。人が何かを選択する瞬間って、ちょっと強くなれると思うし、その瞬間に小さな光がぽっと灯るような感覚があって。その後がどうなるかは別として、ライザと仲間たちが選択を続けていく、その瞬間に小さく灯り続ける光の情景を描きたかったんです。あとは、それが大きな喜びに繋がったときに、めいっぱい発散される鮮やかな光の光景みたいな。とにかく光についてすごく話していて。そういった会話をきっかけに「ゴールデンレイ」に繋げてくれたのかなと思うんですけど、私の言葉を還元してくれてありがたかったです。

三パシが表現するネットミュージックとしての在り方

――さらに、EPに収録されている「マイワンダー」と「まぼろし」も含めて、今回はボカロPや歌い手さんたちと制作されてますよね。最近はフレデリックやフジファブリック、ストレイテナーなど、ロックバンドとのコラボレーションも多かったですが、これは偶然ですか?

みあ いえ、今回は、あえてネットクリエイターの皆さんとご一緒させてもらっています。ジャンルはあまり関係ないんですけど、三パシはいわゆるボカロPの皆さんと制作を続けてきて。でも、三パシが表現するネットミュージックとしての在り方はまだまだたくさんあるなと思って。それを改めて探すという意味でも、今までご一緒したことがなかったボカロPの皆さんとの制作をやってみました。

――「マイワンダー」は、はるまきごはんさんのアニメ映像スタジオ「スタジオごはん」のメンバーでもある、いよわさんさんです。

みあ これはイメージソングなんですけど、私、クリスタっていうイラストを書くアプリのアンバサダーをやらせていただいているんですね。この曲を元に、クリスタのユーザーさんに塗り絵を募集するという企画で。なので、“創作”の楽しさと難しさをテーマにした曲になっていて。自分もずっと悩み続けていますし、すごく傷つくことを言われることもあるし、うらやましさを感じることもある。自分には絶対に書けないけど、そもそも思考の根本というか、素養が違うのかなって落ち込むこともある。そういうことをかなり等身大な気持ちで書いた楽曲です。

――他者に対する嫉妬や羨望まで書いていますね。

みあ そういうのを言うとちょっとダサイし、言わずにヘラヘラしているほうが楽だし、自分を守れるんですよね。でも、恥ずかしいし、傷つくし、嫌な思いもするけど、自分がやりたいことやチャレンジしたいことに関しては、むき出しで向き合っていきたい!という思いで歌いました。

――3月のライブでも披露していましたが、超絶技巧で、テンポもかなり速い曲になってます。

みあ 本当はもっと早くて、ちょっと下げたんですけど、サビは早口言葉かなと思ったくらい言葉が詰まっていて。でも、彼のオリジナル楽曲もそうなんですけど、すごく独特なんですよね。1つの言葉では言い表せない複雑さがあるんですけど、ハイパーポップさでどこか成立している部分がある。いい意味でのアンバランスさというか、そんな部分が私はものすごく好きなので、「マイワンダー」に関しても、創作に対する希望を持ちたい気持ちと、一方ではめちゃくちゃ嫉妬してしまう気持ちとか、もう諦めたくなる気持ちが、すごく複雑に絡んでいると思っていて。その混沌としたものをサウンドに落とし込んでもらえたら嬉しいですっていう話をしたら、この楽曲になり、すごく納得しました。希望的な感情はあるけど、どこかがぐちゃぐちゃに乱れているみたいな(笑)。自分が歌いたかったこととマッチしたサウンドが返ってきたので、面白かったです。

三パシ×男性ボーカリスト

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP