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INTERVIEW

2023.08.22

nano.RIPE×『はたらく魔王さま!』の世界に浸れる1枚を――きみコが「光のない街」とnano.RIPEとしての10年を見つめる本作について語る

nano.RIPE×『はたらく魔王さま!』の世界に浸れる1枚を――きみコが「光のない街」とnano.RIPEとしての10年を見つめる本作について語る

自然にやっていればnano.RIPEでいられる自信

――提供楽曲だった「水鏡の世界」をセルフカバーした感想を教えてください。

きみコ 楽曲提供でジュンが作編曲するときはあたしが仮歌を歌うんですけど、そのときにも良い曲だなと思いながら歌っていましたし、客観的にその仮歌を聴いて「nano.RIPEっぽいな」と思っていました。nano.RIPEに楽曲提供の機会をいただくときってnano.RIPEらしさを求められていると思っているので、どうしたってあたしが歌うとnano.RIPEになるんですよね。ジュンがこの先、作家としての仕事を重ねていくと変わるかもしれないですけど。なので、自分でもこれまでの提供曲の仮歌バージョンは全部気に入っていましたし、どこかで聴いてもらえる機会がないかと思っていたので、それが実現できた感覚はあります。聴いた人にも、「nano.RIPEの曲ってやっぱりnano.RIPEだね」と思ってもらえると嬉しいですね。

――nano.RIPEの曲としてリリースしていないから、というところで気づいたところは何かありましたか?

きみコ nano.RIPEの曲だったらキーはもう半音下になりますね。あと歌詞に関しては、まり菜ちゃんへの提供だからこういう言い回しになった、という部分は多いのでそこは今回歌いながらも新鮮でした。

――仮歌で歌ったときと何か変わった部分はありますか?

きみコ やっぱり、その間にまり菜ちゃんバージョンがリリースされたことは大きかったですね。しかも、まり菜ちゃんの歌録りに立ち会わせてももらったので、まり菜ちゃんのイメージがあたしの中にも入っていました。そういう意味では多少引っ張られたというところもあったと思います。

――引っ張られたのはどういうところですか?

きみコ まり菜ちゃんの歌はすごく透明感があって、尊敬すべき点がたくさんあるんですよ。そのイメージがあったことで、いつものあたしならもう少し力強く歌いそうなところも良い感じに柔らかくなったり。まり菜ちゃんの歌録りを聴いていたら本当に素晴らしくて。最初に声出しがてら歌ったものを聴いてジュンと、「これでいいんじゃない?」ってコソコソ言っていました(笑)。年齢とか環境とかそれまでの人生とか色々あると思うんですけど、まり菜ちゃんが持っているあの真っ直ぐさはあたしにはもう出せないと思います。すごく素直な良い子なので、そういうものを思い出させてもらったところはありますね。

――次は、nano.RIPE盤に収録される新曲「スポットライター」が生まれた経緯を教えてもらえますか?

きみコ 去年まで3年連続で夏に書いてきたので、書かないという選択肢はなくて。なので来年も再来年も……。

――書くことはもう決定ですか? タイアップのあるなし関係なく?

きみコ 関係ないですね。この時期が来たら「書こうかな」みたいな。みんなからも「nano.RIPEが野球の曲を出す頃だな」って思われるくらいに。

――それは、ジュンさんも同様のモチベーションで?

きみコ そうですね。4月くらいになるとお互いに「あ、そろそろ野球の曲を考えないとね」って感じで。

――早い(笑)。

きみコ 「そうだね、そんな時期だね」って言っています(笑)。 やっぱり2年続けて書くと3年目はもう絶対ですよね。

――(笑)。その調子でいくと今度は、nano.RIPEの高校野球ソングを集めたミニアルバムも出せますね。

きみコ 作りたいですね。今はまだ4曲ですけど、11、2曲たまったら。でも時間がかかっちゃうか。

――春の甲子園や、そこに向けての春季・秋季大会にも合わせて作れば何曲もできますよ。

きみコ 確かに(笑)。ただ、「スポットライター」を書いていて思ったんですけど、やっぱりまったく同じテーマでの4曲目は結構大変でした。

――歌詞を書くことに関してはあまり苦労しないきみコさんでも。

きみコ たとえばアニメ作品なら色々な切り口があるじゃないですか?でも、夏に書く高校野球の曲に関しては、高校球児の最後の夏、という視点を決めているので、去年はバッターだったけれども今年はピッチャーにしようかとか、あまり大きく変えるところがないのでどうしてもワードが似通ってきますね。あと、自分の中で設けているルールとして、「きみ」を出したいというところもあったり。

――きみコさんの歌詞といえば「きみ」ですね。

きみコ 高校生ということで、自分だけじゃなく応援してくれている誰かに「良いプレーを見てもらいたい」「これまでの努力の結晶を見てもらいたい」というところがあると思うんですよね。それは、同級生かもしれないし後輩かもしれないし親かもしれないんですけど。そういう意味でも、高校野球の歌詞を書き続けるのはなかなか大変です(笑)。

――苦労はあるけれども書きたい、と思わせるだけのモチベーションというのはどこにあるのでしょうか?

きみコ そうですね。最初に作った曲が「ローリエ」だったんですけど。

――2019年に「ヨルガオ」のカップリング曲としてリリースされました。「高校野球ダイジェスト 白球ナイン」(チバテレ)のEDテーマ曲、「第101回全国高等学校野球選手権埼玉大会中継」(テレ玉)のテーマソングでしたね。

きみコ あのとき、「どうして今まで書いてこなかったんだろう?」というくらい自分の中にストーンッとハマったんですよね。nano.RIPEらしさも出せたし。とにかくあたしが、「ローリエ」を書いたことでやっと、「野球をやっていて良かった」と思えたんですね。リトルリーグから野球を始めてプロ野球選手になりたかったけれども女子は前例がほとんどないと知って、悔しい思いをたくさんして、野球を見られない時期もあった私が。やっぱり、仕事として音楽に、今の自分に反映できたことが嬉しかったです。そういう意味では、必ずしも高校野球じゃなくてもいいんですけど、高校野球ってプロ野球にはない美しさや儚さがあるじゃないですか。だから、高校野球の曲を書くとなると、夏、甲子園、というところは意識しますね。あと、nano.RIPEの曲にはノスタルジーを感じると言われることも多いので。恋愛を書いてもたとえば「影踏み」のような学生時代の恋の歌になることが多いので、あたし自身、あの頃のことを書くのが好きなのかもしれないです。

――「ローリエ」まで野球の曲を書かなかったという話ですが、野球から離れていたということですか?

きみコ はい、本当に見もしなかったです。悔しかったので。たまにチケットをもらって東京ドーム行くことがあると、(イニングの)1、2回くらいは(眉間にしわを寄せて歯を食いしばり)こういう感じで。泣くのを我慢しながら見ていました。

――今、すごく邪悪なきみコさんが出ましたね。初めて見ました。

きみコ そうなんです(笑)。「そこ(=プロ野球)を目指せる人生でいいね」みたいな想いでグラウンドを見つめていました。お酒が入って来たりして、途中からは楽しく観られるですけど(笑)。最近は女子野球人口も増えてきて、(女子高校野球選手権大会の)決勝を甲子園でやれるのもすごく羨ましいですね。ただ、決勝だけ、というのはやっぱり納得いかないですけど。っていうこともあって、野球にはあまり触れないようにしてきました。

――そうすると、仕事で無理やり曲を書かざるを得ない状況に放り込まれたのはすごく幸運でしたね。

きみコ そうですね。先月も、野球の夢を見て悔しくて泣きながら起きるみたいなことがあったんですけど。

――今も?

きみコ そうなんです。それくらいあたしの中ではいつまでも消化できない気持ちとしてあるんですけど、書くことによって少し救われたところはありますね。

――1年ほど前から草野球チームのHANAWA ROCKSでプレイヤーにも復帰しました。何か視点は変わりましたか?

きみコ そうですね。歌詞に表れている部分はそう多くはないですけど、思い出だけで書いていた野球がもう少し近い存在のものになって、よりリアルになっている感覚は書きながらもありました。

――ジュンさんも野球部出身で、今も同じ草野球チームに所属しているとはいえ、野球がテーマということできみコさんが作曲も手がけたくはならないですか?

きみコ 最近はあたしが曲を書くことは少なくなっているんですよね。ジュンが詰まったときにあたしが一度書いてみる、ということは今も時々していますけど、最終的にジュンがそれを超えるものを出してくるんです。ここ数年、ジュンの才能が開花したと思っていて、昔はデモの段階で「ここのメロはなんでこうしたの?」とかめちゃくちゃ口を出していましたし、「絶対こっちの方がいいよ」って勝手に変えることもあったんですけど、今は信頼して任せられるので、ジュンがどんな曲を書いてくるのか、あたしも一ファンとして楽しみにしていまるくらいです。「水鏡の世界」もすごく褒めました、「開花したね」って。書いた直後はジュンは自信なさげでしたけど。でも、「いや、めちゃくちゃ良い曲だよ」と言いましたね。

――開花したと思った瞬間というのは?

きみコ それも2人になってからですね。もちろん、それまでも良い曲を書くと思っていたんですけど、2人になったことでなんでも一度やってみよう、という話になり、作る曲の幅が広がったんです。そのあとでもう一度nano.RIPEらしさを追求し始めたら、以前とはまた違うものになりつつも、これまで以上にnano.RIPEらしい作品になっていたり。

――ちなみにきみコさんは野球以外にも、バイクや釣りなど趣味が多いですが、そちらの楽曲を作ろうという意欲もありますか?

きみコ バイクは熊田茜音ちゃんに提供した「まほうのかぜ」があって。

――TVアニメ『スーパーカブ』のOPテーマの。その意味ではあれも趣味が仕事に生かせた一例ですね。

きみコ 最近またよく乗っているので、バイクの曲はnano.RIPEにも書きたいと思っていますけど、釣りはなかなか難しくて……。どうしても楽曲として美しい感じにはならないんですよね。テーマとしてファニーな感じになるんですよ。だから、落としどころを悩んではいますけど、のちのち書くこともあるかもしれません。

――そうすると今度はきみコさんの趣味の世界というミニアルバムも実現できますね。

きみコ あ、ホントですね。釣りの曲を書いたら絶対に釣り番組のタイアップは取りたいです(笑)。

――今回のミニアルバムは、nano.RIPEとしての10年を見つめる1枚という側面もありました。バンド自体の変化や成長という点で何か感じるところはありましたか?

きみコ 「月花」「ツマビクヒトリ」「スターチャート」を録り直すとき、10年前はどうやって歌っていたのかと思って、当時の歌を聴きながらレコーディングしたんです。そのとき思ったのは、歌もそうですけど、バンド自体がすごく“強いもの”になったということですね。それは先ほどお話ししたことに繋がりますけど、色々なことをやってみながら、2人になっても活動し続けた結果だと思います。変に変わることもなく、nano.RIPEらしさを見つけることができたことですごく強くなれたんでしょうね。多分、そういう積み重ねが、「自分はこうあらねば」という気負いをなくしたんだと思います。自然にやっていればnano.RIPEになるというか、間違ったことはしてこなかったという自信がつきました。

――バンドを続けることの難しさはよく聞きます。

きみコ でも、そこが難しいと思ったことがあたしはなくて。逆に、nano.RIPEを辞めて今後どうするのかと考えると、辞めることのほうがよっぽど怖い。

――現在、ワンマンやツアー、対バンなど精力的なライブ活動を行っています。「光のない街」の歌詞ではないですが、闇を抜けた先の光が近づいてきた今の心境を教えてください。

きみコ ライブがまたできるとなったときも嬉しかったですけど、声出しがOKとなったときのライブで、思わず歌いながら泣いてしまったんですね。もう2曲目くらいで。みんなの声が聴こえるライブってこんなにも素晴らしいものだったのかと感じました。それこそ、コロナで活動ができなかったときも曲は書いていたので、ライブがなくてもバンドは成立するかもしれない、そんな気持ちもあったんですけど、やっぱり自分たちには欠かせないないものだと、みんなの声を聞いたときに実感しました。逆に、みんなにとっても欠かせないということも感じました。だから、バンドを辞めるつもりはないですけど、全国を回ってライブするようなスタイルがいつまでできるかは本当にわからないので、やれるうちにできるだけやりたい、そんな気持ちですね。


●リリース情報
TVアニメ『はたらく魔王さま!!』2nd Season OPテーマ
nano.RIPE
ミニアルバム「光のない街」
2023年8月23日(水)発売

■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら

【nano.RIPE盤(CD+BD)】

品番:LACA-25066
価格:¥3,520(税込)

<Index>
1.光のない街
Lyrics:きみコ / Music & Arrangement: 佐々木淳
2.スポットライター
Lyrics:きみコ / Music & Arrangement: 佐々木淳
3.月花 -2023 ver.-
Lyrics:きみコ / Music:佐々木淳 / Arrangement:nano.RIPE
4.ツマビクヒトリ -2023 ver.-
Lyrics:きみコ / Music:佐々木淳 / Arrangement:nano.RIPE
5.スターチャート -2023 ver.-
Lyrics:きみコ / Music:佐々木淳 / Arrangement:nano.RIPE
6.水鏡の世界 –nano.RIPE ver.-
Lyrics:きみコ / Music & Arrangement: 佐々木淳

<Blu-ray>
01. 光のない街 -Music Video-
02. スポットライター -Music Video-
03. 月花 -Music Video-
04. ツマビクヒトリ -Music Video-
05. スターチャート -Music Video-

【はたらく魔王さま!!盤(CD)】

品番:LACA-25067
価格:¥2,200(税込)
※描き下ろしイラストジャケット

<Index>
1.光のない街
Lyrics:きみコ / Music & Arrangement: 佐々木淳
2.月花 -2023 ver.-
Lyrics:きみコ / Music:佐々木淳 / Arrangement:nano.RIPE
3.ツマビクヒトリ -2023 ver.-
Lyrics:きみコ / Music:佐々木淳 / Arrangement:nano.RIPE
4.スターチャート -2023 ver.-
Lyrics:きみコ / Music:佐々木淳 / Arrangement:nano.RIPE
5.水鏡の世界 –nano.RIPE ver.-
Lyrics:きみコ / Music & Arrangement: 佐々木淳

関連リンク

nano.RIPE
公式サイト
http://nanoripe.com/

公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/nanoripe_info

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