麻倉ももの約1年ぶりのリリースとなる新作は、彼女らしい夏の恋愛歌を収録したシングルとなった。ソロアーティスト活動では一貫して恋の歌を歌い続けてきた麻倉は今回、昼と夜2つの夏の恋をテーマに楽曲を制作したという。
一種ストイックなまでにコンセプチュアルな表現を貫くその姿勢にもフォーカスし、アーティスト・麻倉ももの世界観を構成する要素について、最新の言葉でたっぷりと語り尽くしてもらった。
INTERVIEW BY 青木佑磨(学園祭学園)
TEXT BY 市川太一(学園祭学園)
――まずは11thシングル「シュワワ!」に繋がる話として、「リスアニ!TrySail音楽大全」でのインタビューからの延長としてお聞きしたいのですが、デビュー当時と現在とでソロ活動への向き合い方って変わりましたか?
麻倉もも 変わりましたね。やっぱり最初は「ソロデビューです」って言われて、自分の好きな音楽や世界観もわからず「どうしよう?」というところから始まったので。そこから経験を重ねて、自分のできることや好きなものがだんだんわかってきて、積極的になれたというか、今でも話すのはあまり得意ではないんですけど、自分の意見を言えるようになっていきました。
――そういう時って、意見をしっかりまとめてから言いますか?
麻倉 いえ、「私はこうだと思うんですけど、どうですか?」みたいな言い方ですね。他の人からの意見も聞いたうえで、「やっぱり私はこう思う」ってこともありますし、「あーなるほど」って思うこともあります。とりあえず言ってみようの精神になったというか。
――ここ最近の麻倉さんのソロ活動を見ていて、ご自身が思う“麻倉もも”像の輪郭というか、やることとやらないことの取捨選択がはっきりしてきたと感じたんですが、これもそういった変化の賜物なんでしょうか?
麻倉 そうですね。今は何かのアイデアに対して「これは違うな」とかも思うようになりましたし、キャリアを重ねて、私自身のことを周りの方にも知っていただけて、みんなが目指す、見せたい“麻倉もも”の形が統一されてきたのかなと思いましたね。だからこれは私の力だけじゃなくて、周りの方の力も込みでここまで持ってこられたんだと思います。
――麻倉さん自身が好む楽曲の方向性として、一貫して恋の歌を歌うとか、少しオールドな世界観が好きという話は伺いましたが、チームとしての見せたい“麻倉もも”像ってどんなものなんですか?
麻倉 基本的には私のやりたい世界観を優先してもらいつつ、最近だと昔より少し大人っぽさや、見せたことがない姿を見せていこうというタイミングな感じはしてますね。
――チームでそういった話し合いをするんですか?
麻倉 話し合うというより、「ちょっと最近この音楽いいと思うんだよね」みたいな雑談から、私が「そういう方向性も見えてるんだな」って受け取る感じです。
――今回はソロでのリリース自体が久しぶりで、しかもノンタイアップということで、比較的自由に新しい“麻倉もも”像を提示できるタイミングだったわけですが、どういった基準で曲を選びましたか?
麻倉 まず発売時期が8月と決まっていたので、夏のシングルにしたいよねというとこから始まりました。でも私の曲に「満開スケジュール」というアップテンポな夏の歌があって、それとは差別化したくて、ミドルテンポで清涼感のある曲にしようという土台が決まりました。
――そうして集まった候補曲からこの「シュワワ!」が選ばれた決め手はどこだったのでしょう?
麻倉 デモを聴いてすぐに頭の中に映像が浮かんだのが一番大きいです。、青空の下でみんなで踊っている夏のイメージが見えて、自分が楽しく歌えそうな予感もあって、この曲を選ばせてもらいました。
――以前のインタビューでも聞きました、麻倉さんは聴いた曲に対して色のイメージやジャケットの図がそのまま思いついたり、MVのアイデアまで思いつかれますよね。「シュワワ!」はどれくらいの状態まで頭の中に浮かんでいましたか?
麻倉 仮歌詞や音の感じからシュワシュワ感というか、炭酸飲料を片手に、水をバシャーってかけ合って、その水に太陽光が反射してる光景、サビでは晴れたハウススタジオの庭とかでみんなで踊ってるイメージが……。
――めちゃくちゃ具体的ですね。そしてそのすべてが実現している。
麻倉 一応「こんなイメージが浮かびました」と伝えたんですけど、そのいいところを汲み取ってもらってMVは作っていただきました。
――本当にしっかり思い浮かぶんですね。レコーディングはいかがでしたか?
麻倉 今までの難しい曲に比べたら楽しく歌えそうだなと勝手に思っていたんですけど、いざ歌ってみたら聴いた時との難易度ギャップがすごくて「あれ?意外と大変だぞ……」みたいな感じで(笑)。でも歌詞の意味的にここどうしようみたいな苦戦をすることはなくて、気持ちのままに楽しく歌えました。
――「シュワワ!」は真っ直ぐ溌溂とした曲というより、少し緩やかなテンションですね。
麻倉 そうなんです。幸せ感がじわじわ溢れて毎日楽しいって感じの女の子像をイメージしていたので、私もレコーディング時はそういう気持ちになって、自然と出てきた声で歌う感覚で録りました。
――この曲は物語が大きく展開するタイプの曲ではないと思いますが、それでもやっぱり主人公像を思い浮かべて臨むんですね。
麻倉 はい、高校生くらいの女の子で、季節の行事とかにも積極的な、明るい少女漫画の主人公みたいなイメージでした。これから来る夏をどう楽しもうかワクワクしてる子というか。
――そうやって歌の主人公を設定するとき、「この子の気持ちはちょっとわからないな」みたいな場合もありますか?
麻倉 あまりないですね。もちろん私とは違うなとかは思いますが、それはそういう子というか、基本的にはみんな曲の主人公で、私がその子になりきる感覚なので。“わからないけど、なりきればわかる”というか、全然わからないってことはほぼないです。
――おっしゃっている意味はよくわかります。付随してお聞きしたいんですが、以前のインタビューで、曲の歌詞を選んでいる時に、麻倉ももの世界観にそぐわない言葉、例えばちょっと現代的すぎる単語とかは省くという話をされていたんですけど、逆に感情移入はあまりできなくても、歌詞の世界観に惹かれたり、その曲の中で成立していれば選ぶ可能性はあるんでしょうか?
麻倉 大いにありますね。その世界観が好きになれば楽しく歌えるので、その子と私が似てないとか、共感できないとかで省くことはないです。
――これは一度伺ってみたかったんですが、そもそもの設定や構図が私の中ではちょっと違うなと感じるケースはありますか?
麻倉 基本的には作家の皆さんは、私のこれまでの楽曲を聴いて書いてくださっていると思うので、全然違うなってことはほぼないんですけど、しいて言えば抽象的な歌詞ってあるじゃないですか。フワッと何かのことを言ってるけど、何のことかはわからないみたいな。そういう受け取り方自由みたいな世界観は私の楽曲にはあまりないのかなって思います。主人公はどんな子で、どんな気持ちかがわかる曲が多いので。
――ストーリーラインがはっきりしてる曲が多いんですね。例えばTrySailのメンバーでいうと夏川椎菜さんってメッセージというか伝えたいことがバキっと確立した曲を歌われていますが、麻倉さんはそういう表現は指向しないですか?
麻倉 あー、それで言うと……ちょっと言い方が難しいんですけど、自分自身の言葉で伝えるというより、“私の好きなこの世界観を見て”みたいなほうが強いんですよね。だから私がその世界観を想像しやすい曲を選ぼうとすると、ちゃんとストーリーや主人公がどういう気持ちなのかがわかる曲を選びがちなのかなって思います。何か本当に伝えたいメッセージが私の中で生まれたらそういう曲も作るのかもしれないですけど、今はストーリーテラーになって物語を伝えるっていうのが、私のソロ活動の特色なのかもしれません。
――確かに楽曲のジャケやMVにしてもライブ活動にしても、トータルで「みんな“麻倉ももランド”を楽しんでいってね」みたいな感じがしますね。
麻倉 確かにそういう感じかもしれないですね。
――レコーディングの話に戻りましょう。ボーカル録りについて、最近はご自身の想定したプランでそのままいける感じですか?それともチームでディスカッションをしますか?
麻倉 曲によって違うんですが、この曲はとりあえず歌ってみましょうって感じで始まって、私が楽しく歌えればそれが正解ってディレクターさんも言ってくださったので、大まかなところは特に話し合いせず進められました。もちろんリズムや歌い方とか、細かいところはディレクションしていただいたんですけど。
――確かに改めて歌詞を見返してみると、ひたすら楽しもうよって周りに提案してくるというか、この主人公良い意味で何にも考えてないですよね。
麻倉 そうなんですよ。いきなり遅刻したところから曲が始まるんですけど(笑)。人柄で愛されてるのが垣間見える子なので、多分友達も多いんだろうなってわかりますよね。「もう、またー?」って言われつつ笑って許してもらってる感じというか。
――「満開スケジュール」との差別化もあって、めちゃくちゃ盛り上げる曲という感じではないですが、ライブ映えしそうな曲ですね。ダンスもありますし。
麻倉 確かにコールを入れるような箇所はないですけど、最近は一緒にフリをやってくださるお客さんが多くて、ライブでみんなで踊れたら楽しそうって思ってて、踊りやすい振り付けを考えていただいたので、会場全体で楽しめる曲になってるんじゃないかと思います。
――空間を共有する感じですね。そのうえで聴いていて感じたのですが、やはりこの曲はサウンド的にも、これまでの麻倉さんの楽曲からすると少し大人びた印象を受けました。
麻倉 確かに……。でもこのシングルって、私のチームが前作から少し変わってからの初制作なので、その変化が現チームの色なのか、たまたま少し落ち着いた曲だったのかはまだわからないです。チームの色って自然と楽曲に出てきたりもするので、自分でも今後の作品が楽しみです。
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