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INTERVIEW

2023.08.02

最新アルバム『LEAP』が完成!初の全曲書き下ろしとなる本作に込めた想いを栗林みな実に聞く

最新アルバム『LEAP』が完成!初の全曲書き下ろしとなる本作に込めた想いを栗林みな実に聞く

『君が望む永遠』のオープニングテーマ「Precious Memories」から20年、アニソンシンガーとしても20周年を迎えた栗林みな実が、全曲書き下ろしオリジナルアルバムをリリースする。収録される全10曲にはアニメファン、アニソンファンへの想いも散見できる。自身の立ち位置や特性、求められているものを理解するほどにintelligentで、ともすれば夢現の中に迷い込みそうなアニソンの世界で聴く者に寄り添う歌詞を書くほどにlovingでもある。“アニソン”を歌うシンガーの第一世代であり、デビューから変わらずに第一線でアニソンを生み出し、歌い続けている偉大な存在でもある栗林。そんな彼女がアルバム『LEAP』へとたどり着いた道のりを聞く。様々な想いを込めて誕生させた全10曲からあなたは何を感じ取れるだろうか?

INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)

アルバムの中心となる、自分が一番言いたいことを形に

――まず、全曲書き下ろしのアルバムをリリース、という話が持ち上がった経緯を教えていただけますか?

栗林みな実 全曲を作詞作曲することは、ディレクターさんから「みな実さん、全曲作詞作曲に挑戦してみませんか?」とご提案をいただいたので「じゃあ、やろっか」という感じで決めました。

――アルバムのリリース後には47都道府県ツアーも開催されますが、こちらについてはどのような流れで形になったんですか?

栗林 現在の事務所にお世話になるときにやりたいことを聞かれたんですね。願っていることは言葉にした方が良い、ということで。それで、昔から47都道府県を一つずつ回って歌いたいという気持ちがあったのでお話ししたんです。

――ツアーを発表する際にも「長年の夢」と謳われていましたね。

栗林 歌手という職業についている人でも、その機会に恵まれた人は限られていますよね。歌手っていつまで続けられるかわからない仕事ですけど、たとえば1年に3、4ヶ所ずつ回っていたらいつか全都道府県を回れるときが来るかもしれない。いつか歌手人生を終える時までに47都道府県をすべて巡ることってできないのかなぁと、うっすらと思っていたんです。この話をしたら「やりましょう」と言っていただきました。

――アルバム制作はどのように進行していったのでしょうか?

栗林 去年の12月終わりから4月まで、3、4ヶ月をかけて作ったんですけど、まず、一番言いたいことを明確に形にしよう、と思いました。アルバム全体の中で、立ち位置が真ん中の、正当派な曲を仕上げてから他の曲を作っていこう、と。それが「voice again」です。内容は今お話ししてきたことで、長く続けると自分の中でバランスを取って落ち着いてしまう部分があるというか、夢を叶えて進んできた人だとしても諦めていることもあると思うんですけど、「じゃあ本当の自分はどういう熱量を持っているのか」と自分に問いかけてみよう、というところを書きました。「本当の自分」ってすごくつかみ取るのが難しくて何年かかっても辿り着けないかもしれないけど探しに行こうよ、という歌ですね。曲調は、ライブの終わりの方で歌うとしっくりきそう雰囲気を探りました。その意味でもテーマ曲みたいな感じですね。次に作ったのが1曲目の「LEAP」で、これは今まで私の曲を聴いたことがある人には馴染みやすい、アニソンっぽさがあって勢いのある楽曲にしました。ライブでも盛り上がってもらえる、でも新しい曲、を作ろうと思いました。曲調は、羽ばたいているような印象を持ってもらいたくて。

――そこは今の自身と重ねて。なのでアルバムタイトルなんですね。

栗林 そうですね。アレンジを小高光太郎さんにお願いしたのも、そこに小高さんのストリングスがハマるかと思ってリクエストさせてもらいました。

――核となる「voice again」、リード曲の「LEAP」と作ったあとは?

栗林 あとはもうあまり計画しないで、そのときの感覚で作っていきましたね。次は、ちょっとかわいい曲を作りたいと思ったのかな? 「曖昧♪モーメント」だったと思います。キャラソンっぽくて、アニソン好きなら刺さる曲だと思うんですけど、アレンジは去年お世話になった三好(啓太)さんで、かわいらしさ、華やかさをもった世界観がすごく素敵な方という印象があったのでリクエストさせてもらいました。

――かわいい曲を作りたかったということですが、「♡に気をつけて。」もかわいい系の曲ですよね。

栗林 そうですね。「曖昧♪モーメント」とどちらかが先だったと思います。「♡に気をつけて。」も初期に作った曲で、これは友達の話が元になっています。友達と話している中で私自身驚いた、ちょっとダークなエピソードを曲にしてみました。

――ダークなところからこんなかわいい曲を?

栗林 そうなんです、ダークなんですよ(笑)。皆さん遠慮するのか、この曲を「ダーク」とは言わないんですけど、でも「ダーク」ですよね。だから、「半分世直し」という気持ちで作っていました。かわいい感じの歌詞にして、アレンジをとてもかっこよくしたら、形としてすごく美しいじゃないですか? こういうとき、「音楽は面白い」っていつも思うんですけど。

――では曲だけではなく、歌詞もしっかり読み解き、楽曲を全体で味わってほしいですね。

栗林 そうですね。いい曲が書けたので良かったです。オリジナルアルバムだから生まれた曲ですね。自由度が高い作り方ができました。

――次に作った曲は覚えていますか?

栗林 「Prism Girl」かな? 私はもう長い間、女性スタッフさんに囲まれる現場が多くて、特に若い子から色んなお話を聞くんですよね。大変だったこととか、仕事で意地悪されたことがあるとか。それで、働く女の人たちへの応援歌を作りました。私の中では作ったときからロックなイメージがあったんですけど、伊根さんのアレンジはまさにイメージ通りの仕上がりでした。

――伊根さんに40thシングル『WITH』でカップリング曲「Firewood」を提供いただいていますが、アルバムを作るときからお願いしたいという思いが?

栗林 ありましたね。せっかく同じ事務所になり、ご縁に恵まれましたので。「Firewood」のときは『はたらく魔王さま!!』OPテーマのカップリング曲ということもあり、伊根さんは『はたらく魔王さま!』を全話観てくださって作品を理解したうえで、楽曲の制作をしてくださったんです。ていねいに向き合ってくれる、その仕事に対する姿勢がとても素敵だなと思ったんですよね。

――次に手がけた曲は?

栗林 でも、このあたりからは作った順番と収録順が近い感じですね。

――作りたい曲を作るようにしたら、曲の並びとしても自然なものに?

栗林 やっぱり曲を提出する側の立場としては、聴いてもらうディレクターに、毎回雰囲気が違うものを味わってもらおうと思うんですよね。なので、前と違うものを順々に作っていたら自然と曲順のようになっていたというか。

――では、「星の息吹」についても教えてもらえますか?

栗林 この曲を作ったきっかけは昨年放送されたラジオ(『栗林みな実のMinami Talkx』)で。番組の最後に「みんなのこもりうた」というコーナーがあったんですけど、私がそのコーナーを始めた理由は、例えば(『回復術士のやり直し』オープニング主題歌)「残酷な夢と眠れ」みたいな激しい曲を子守唄みたいに歌ったら面白いかな、という考えからだったんですよ。ちょっとシュールじゃないですか? だから、面白いことをやる気満々で提案したんですけど、そうしたらみんなが思いのほか癒されたみたいで、そういうお便りをくださるんですよ。そのとき、「癒しの曲って求められているのかな?」と思い、アルバムにも1曲はテンポが遅い曲を入れようと決めていたので、1日の終わりの夜に聴けるような曲を作りました。

――編曲の太田貴之さんとはお仕事をご一緒するの初めてですか?

栗林 そうです、「はじめまして」でした。すごくシンプルなアレンジにしていただけたので、優しく歌うことに集中できたのはとても良かったです。

――次の「seed of hope」は?

栗林 この曲は、自分の心の暗い部分を表現した曲も作ってみたいという想いから生まれた曲でした。これも友達がきっかけで、電話していたら「幸せについて考えたことが1回もない」って言われたんですよ。だから、出だしが「幸せのかたちも知らずに」なんです。そこから曲の世界を掘り下げていきました。その友達のことをざっくりと説明すると、わりと親が言った通りの人生を生きてきた子なんですよね。本当は運動が好きなのにやりたくない習い事を続けていたとか、好きな部活に入ったことがないとか。そういうのってずっと心のどこかに残ってしまいますよね。「ちゃんと言えば良かった」とか「こうすればよかった」とか。しかも、そういう人は意外に多いと思って。

――そうですね。いわゆる「いい子症候群」と言われるような。

栗林 自分の周りを見ても、親の意見がすごく反映される世代の人間だと思ったので、そこから作った曲でした。自分の人生を振り返ったとき、白黒つけられなかったこともあるし、つけたくない白黒をつけないといけなかったときもあると思うんです。しかも、つけた白黒も矛盾がいっぱいで、ずっと悩みは終わらずそこから逃れられないようなことがあると思うんですね。闇が消えないことが。でも、そうやって自分の身の上に起きたことに対して、「いつか光を見出したい」「正解はわからなくても強い気持ちで向き合っていこう」という曲になったと思います。

――栗林さんとしては、そのお友達が救われるといいな、って気持ちなんですね?

栗林 そうですね、それはすごくあります。もう大人だから生き方を変えようと思えば変えられるとは思うんですけど、それができる人って限られていて、すごく嫌だけどあきらめてしまっていることもいっぱいあると思うんです。本人はどうにもできなくて与えられた道を生きていく、みたいな。そういう物語がこの楽曲の中にはありますね。

――「seed」=種、と言葉に込めた意味は?

栗林 「種」っていつか変化を見せるじゃないですか? 自分がその事柄と向き合う感覚が変わると、過去の出来事は変えられなくても過去の記憶に対する感情は変えられますよね。そういうところをイメージしました。

――現代社会を切り取ったというか、深く重いテーマですね。

栗林 そう。テーマが難しいぶん、歌の難易度も上げて、表現はいい感じになるように工夫しました。

――「幸せのかたちも知らずに」の歌い出しは核だけあって、特徴的な歌い方というか印象に残りますね。

栗林 そうなんです。シリアスな役割の楽曲になりますね

――「find oneself」もお願いします。

栗林 これは「voice again」に繋がる曲で、「本当の自分を見つけに行く」というテーマなんですけど、それを絵本みたいにライトなファンタジー調で書いた曲です。風に吹かれている風景がイメージにあって。でも、これは本当に、女の子を主人公にした物語を作る感覚でした。最初はサビのコーラスから作りました。あとは、ライブで歌ったらのれそうな感じの曲にしたいと思っていました。

――アレンジは元fhánaの和賀裕希さんですね。

栗林 和賀さんとはfhánaにいたときにイベントでご一緒したことがあって。いつもすごくていねいに挨拶してくださる、礼儀正しい方という印象でしたね。この曲ではレコーディングもディレクションしてくださいました。

――和賀さんのディレクションの印象は?

栗林 やるべきことがすごくイメージしやすかったです。録り慣れているのか、すごく録るのがお上手な印象でした。間奏のコーラスは現場で考えて一緒に録ったんですけど、すごく喜んでくれましたね。

――喜んで?

栗林 「楽しかったです」みたいに言っていただけました。とにかく、「本当に音楽好きな人なんだな!」って思ったんですよ。

――確かに音楽好きな方ですよね。礼儀正しくて、ユーモアがあって、料理も上手で、かつ音楽もできるところが伝わりますね。

栗林 本当にそうですね。そういえば現場でお料理の話をすごくしてくれました。あと、アレンジをされているので歌のイメージがしっかりあったんだと思います。印象的だったのは、ロングトーンのところで、これくらいの拍で歌を切るとかっこいいからアレンジに合わせてピッタリで切りたい、というアドバイスです。なので、私もしっかりと拍を数えて、几帳面に歌いました。アレンジもレコーディングもしていただけたので、最後まで一緒に作り上げた感覚がありました。

環境を変えることで世に出すものも少しずつ変化を

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