ソングライター・渡辺 翔率いるsajou no hanaが、ニューシングル「ニューサンス」をリリースした。表題曲はTVアニメ『スパイ教室』2nd seasonのEDテーマ、カップリング楽曲「影裏」はスマートフォンゲームアプリ「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 〜メモリア・フレーゼ〜」6周年記念主題歌となる。挑発的でどこか妖しげなムード漂う前者と、鋭利なバンドサウンドの後者に共通しているのは、人間の心の裏側や闇を描いたスリリングな楽曲であること。それはsajou no hanaが表現したいテーマであり原点だった。ボーカルを務めるsanaは、どんな感情でこれらの曲と向き合ったのだろうか。2曲の詳細とsajou no hanaの根幹を探っていった。
INTERVIEW & TEXT BY 沖 さやこ
――「ニューサンス」はTVアニメ『スパイ教室』2nd seasonのEDテーマということですが、実はそのお話が決まる前から楽曲の原型はあったそうですね。
sana そうなんです。(渡辺)翔さんが作っていたデモの中に「ニューサンス」の原型――「スパイ」というタイトルの英語詞のデモがあったんです。ここ最近はタイアップ曲を担当させていただく機会に恵まれて、爽やかテイストな曲や、温かく包み込むような曲が続いていて。新しい挑戦ができることを嬉しく思いつつも、デビュー直後にリリースした「あめにながす」や「誰のせい」のような、もっと心の裏にある感情、もっと心の奥の深いところまで掘り下げるような曲をやりたいよね、とはずっとみんなで話していたんです。
――そういうコンセプトのなかで生まれたデモの1つが、「ニューサンス」の原型の「スパイ」であったと。
sana KADOKAWAさんから、「最近作ったデモを送ってくれませんか?」と言っていただけるタイミングがあって。そこで、イントロがめちゃくちゃかっこよくて、sajou no hanaとしても新しい雰囲気がある「スパイ」のデモを送ったんですよ。そうしたら「この曲に合いそうな作品があります」と提案していただけたのが『スパイ教室』でした。そこからは、アニメに合う内容の日本語詞に書き直したり、ブラッシュアップしていきました。本当に、奇跡的に合致したんですよね。
――sajou no hanaがやりたい音楽性とばっちり合ったお話が舞い込んできたということですね。先ほど「心の裏にある感情を表現したい」とおっしゃっていましたが、『スパイ教室』もその言葉に通ずる要素が盛り込まれていますよね。
sana キャラクターがかわいいアニメだなと思いながらシナリオを読んでいたら、陽炎パレスに住むスパイ少女たちはみんなかなり重い過去を背負っている……と驚いて。そんな個性がバラバラでわけありのキャラクターたちの間に団結力を生み出すのは、クラウス先生の才能なんだろうなと思います。あと、陽炎パレスのみんなは共同生活に慣れるの早いですよね(笑)。でもそれはリリィちゃんみたいな、不器用でありながらもまとめてくれるリーダーがいるからなんだろうなぁ。sajou no hanaにはそういうまとめ役はいないんですけど(笑)。
――ははは(笑)。とはいえsajou no hanaも、3人ともキャリアも年齢も違うけれど絶妙なバランスで成り立っていますよね。
sana 3人で頻繁に話し合ったりするわけではないんですけど、最終的にはちゃんと1つの形に着地するんですよね。3人とも感覚タイプなのかなとも思うし、相手が傷つくようなことは言わないし。言葉にしなくても通ずるものがあるのかもしれないなと思います。
――「ニューサンス」は感覚を刺激するドラマチックなソングライティング、スタイリッシュで大胆なアレンジ、挑発的なボーカルと、3人のセンスの三つ巴のような印象がありました。メンタリティとしては原点回帰でも、表現においては新しい挑戦も多かったのではないでしょうか。
sana 新鮮でしたね。最初のデモが英語詞だったので、その時の譜割りありきで翔さんも日本語詞を書いたのかなと思っていて。ボーカルのリズムが前に出た曲にもなったと思います。
――歌詞を読みながら、この曲の主人公は弱気なのか強気なのか、一体どちらなんだろうなと疑問に思って。
sana 最初聴いたとき、まったく同じ印象を持ちました。翔さんはあんまり自分の書いた曲の意味を語らないんですけど、「ニューサンス」は「厄介者」という意味があるというのは教えてくれて。それを聞いたときに、厄介者は根がもろいなと思ったんですよね。心の根っこが弱い人、心がもろい人ほど冷めた目で世界を見がちなんじゃないかなとは、元々なんとなくずっと感じていて。「ニューサンス」の主人公は自分が生きている世界、社会をすごく冷めた目で見ているので、弱い人が強がっている曲なんだろうなと思ったんです。答えが出なくてもどかしくて、弱さをどうにかしたくて強がって。普段あまり感情を表に出さない人にグサッと刺さる歌詞だと思います。
――涼しげな顔をしつつも、内心うろたえていたり、もがいている。人間あるあるかもしれないですね。
sana そうですね。この曲は“落書きだらけの曖昧な運命”という歌詞のとおり、最後まで結論が出なくて、もがき続けてるんですよね。そういうところも人間らしさなのかな。弱みを見せた瞬間に攻撃されちゃうこともあるから、我々は強がって生きるしかないのです(苦笑)。
――(笑)。sanaさんの歌い方もシリアスになりすぎないですし、“湧いた湧いた”や“軽率に騙してく”のような今っぽいワードも使われていますしね。心の裏側を描きつつも重くなりすぎない絶妙なバランスも小気味よいです。
sana サラッと歌いつつもめちゃめちゃ挑発してくるじゃん!って感じのニュアンスで歌いましたね。そこまで感情は出さないけれども、裏ですごくもがいてるというか。そういう歌い方を今までしたことがなければ、曲調もリズム的にも今までとは違うので、最初は難しかったです。歌詞の意味を聴かせるというよりは声が「音」として入ってくるもの――それは洋楽のニュアンスに近いと思うし、歌を曲の世界に溶け込ませることを大事にしました。挑発的なsanaは日常生活にいないので、自分でも歌いながら悪い子になったような気持ちになりました(笑)。
――「ニューサンス」の、冷めた目で見ながらももがいている、というのは元々sanaさんの心の裏側にあるものだけど、表現の仕方はsanaさんが持っていなかったものであると。
sana ほんと、人間の裏は読めないですよね(笑)。自分の中にある本当の感情と重なる部分が多い歌詞だなと思います。そういう曲を歌うのはやっぱり苦しみも伴うんですけど……こういう活動をしていると、聴いてくれる方々に共感してもらうのが一番大事だと思うんです。sajou no hanaを好きな人たちも「その曲の世界に沈んでいきたい」と思う人が多いと思っていて。その理由は、日常生活でネガティブな感情を表現できないからだと思うんです。それができるのはアーティスト活動をしてるからこそだと思うし、自分をさらけ出すという意味でもやっていきたいことですね。
――タイアップのある曲でそれができるというのは、なかなかレアケースかもしれません。
sana タイアップソングは多くの場合、作品に寄り添ったものになるので自分にない感情を歌うこともあるんですけど、そこで溢れてくるのがアニメ愛ですよね。元々アニメが大好きでこの世界に入ったし、「作品あってこそのアニソン」でもあるので、全力で作品の世界観を表現できる喜びも大きいんです。アニメが与えてくれたものを自分が歌にして届けることによって、作品の世界をみんなが感じてくれるのはすごく嬉しいことで。自分の感情を歌うこととアニメの世界を歌うこと、それぞれに違う方向性のやりがいがあるんですよね。それでもsajou no hanaはメンバー全員根っこが似てるところもあるので、タイアップソングでも自分の感情に近しいところで歌える感覚はありますね。
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