今年3月にソロアーティストデビュー5周年を迎え、声優・シンガー・表現者として着実に成長してきた石原夏織が、約1年ぶりのニューシングル「Paraglider」をリリースした。自身もキャストとして出演するTVアニメ『夢見る男子は現実主義者』のOPテーマとなる本楽曲は、石原とは3度目のタッグとなる渡辺 翔が作詞・作曲を手がけた、青春のもどかしさを爽快なギターサウンドと共に届けるキラーチューン。“家族愛”をテーマにしたカップリング曲「To My Dear」を含め、彼女自身の今表現したいものが反映された充実作にインタビューで迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回の新曲「Paraglider」は、石原さんもキャストとして参加されているTVアニメ『夢見る男子は現実主義者』のOPテーマということで、まずは作品の印象をお聞かせください。作品とはどのように出会ったのでしょうか。
石原夏織 出会いはオーディションで、マネージャーさんから(オーディション用の)資料を渡されたときに、「なんか懐かしい感じだよね」という話をしたのが最初の印象でした。こういうラブコメ作品は自分がデビューした2010年前後に多かったと思うんですよ。コメディ要素のある学生の恋愛もの作品は久々で、原作も読ませていただいたうえでオーディションを受けたのですが、役が決まった段階でタイアップのお話もいただいてびっくりしました。
――王道的な学園ラブコメでありつつ、主人公の佐城 渉(CV:宮瀬尚也)とヒロインの夏川愛華(CV:涼本あきほ)を巡る関係性に一捻りがあるのが特徴です。
石原 最初からお互いのことを好きなのに、ずっとすれ違っているところが、この作品の良さでもあり、面白いところですよね。佐城くんは愛華ちゃんのことを熱烈に好きと言っていたのに、急に諦めてしまって。ラブコメは片方が好きでアタックしていくうちに相手も好きになっていくパターンが多いと思うんですけど、この2人は最初から「お互い好きじゃん!」っていうのが見え見えなところがかわいいなあと思います。
――石原さんが演じる四ノ宮 凛はどんなキャラクターですか?
石原 佐城くんたちよりも先輩の風紀委員長の女の子で、見た目がクールでかっこいいし、威厳もあるので、後輩を含む他の生徒たちから憧れられている存在です。佐城くんと出会うことで、佐城くんのことをちょっと気にしているような、乙女な一面が出てくるんですけど、ただの乙女というよりは「この感情は何だろう?」みたいなちょっと浮世離れした反応が面白くて、それに対して戸惑っているときの様子が普段との印象と全然違っていてギャップがある女の子なんです。
――そういった二面性があるという意味では、演じ甲斐もありそうですね。
石原 淡々としたクールさはありつつ、ちょっと心がぶれるところは、どこまでやっていいのかの匙加減を考えるのが毎回楽しくて、テストで「一度ここまで思い切りやってみて、ダメと言われたら抑えよう」という感じで、色々試しながら演じさせていただきました。この作品は割とオーバーめな演技でも「全然大丈夫です!」という感じだったので、キャラが破綻しない範疇で探りつつやらせていただいて。アフレコでは、私は役柄的に佐城くんとばかりしゃべるキャラだったので、他の方とはあまりご一緒できなかったんですけど、どのキャラクターもそれぞれの個性が溢れていて面白い現場でした。
――そんな本作のOPテーマ「Paraglider」は、渡辺 翔さんが作詞・作曲を手がけた爽快なロックチューン。
石原 今回はアニメの制作サイドから「爽やか」「清涼飲料水のCMみたいな雰囲気」といったご要望があったので、そういう楽曲であればぜひ翔さんに作っていただきたいと思ってお願いしました。翔さんにはこれまでにも「Page Flip」や「マジックマーチ」を作っていただいたのですが、毎回レコーディングにも来てくださって、一緒にお話しながら制作してくださるんです。しかも、かっこいい曲やかわいい曲だけでなく、爽やか系も得意な方なので、ぜひにということで。
――楽曲を最初に受け取ったときの印象はいかがでしたか?
石原 青春感が溢れていて、すごく青空を感じました。透明感や爽やかさ、それとイントロのところは「入道雲と青空」っていう夏っぽいイメージが浮かびました。
――あのイントロの轟々と鳴るギターを「入道雲」と例えられるとは、詩人ですね。
石原 そんなそんな(笑)。アレンジはそこからさらに手を加えていただいてパワーアップしたのですが、最初のデモの段階からそういう夏の風景が見えてくるような楽曲だったんです。なのでサビも、もっと伸びやかになったら映えそうだなと感じて、私から翔さんに「この部分をもう少し伸びやかにしてもらえますか」というお願いをさせていただいて。
――デモから楽曲を詰めていく段階で、石原さんから意見することも多いんですか?
石原 そうですね。もちろん全部が通るわけではないんですけど、言わずして後悔するのは違うと思うので、あくまで自分の意見として提案はします。今回も最初からすごく素敵なものを作っていただいたんですけど、そのサビのところを伸びやかにすることで、自分っぽくなると思ったし、作品にも合うように感じて提案させていただきました。
――歌詞も作品に寄り添った内容に感じました。
石原 私も歌詞を作るうえで、作品を観てくれている方には要所要所でその内容が思い浮かぶようなもの、今回であれば佐城くんと愛華ちゃんのことを思い描いてもらえたら嬉しいなと思って。それに加えて、作品を観たことがない方、偶然この楽曲と出会った方には、自分の青春を重ねて聴いてほしいなと思ったので、そういった情景が見える歌詞にしてほしいです、ということは翔さんにお伝えしました。
――実際に上がってきた歌詞をご覧になった印象はいかがでしたか?
石原 すごくきれいなワードもありつつ、青春のちょっと青臭い部分や学生が思い浮かぶような雰囲気があって。例えば、今の自分の大人からの視線だったら、学生時代の悩みは意外と難しくなかったりするけど、当時はすごく大きな問題に感じることがあるじゃないですか。そういうことに一生懸命もがきつつ、真っ直ぐ頑張っている姿が見えるところが、楽曲と作品がちゃんとリンクしているように感じて、素敵な歌詞をいただけたなと思いました。
――その青春の中でもがく様が、風に乗りたいけどうまく乗れない様子を例にとって表現されているのが素敵ですよね。
石原 そうなんです!「Paraglider」というタイトルは翔さんが付けてくれたのですが、歌詞の中には「パラグライダー」というワードは一切出てこない仕掛けになっていて。でも「こういうことだよね!」というのがすごく見える歌詞になんですよね。楽曲のスピード感がもっと速かったり、悩みを吹き飛ばすような強い自我を感じさせるものだったとしたら、この例えも「飛行機」とか「ジェット機」みたいになってたと思うんですけど、このちょっと揺れ動く感じ、でも自分でもコントロールできそうなところが、このタイトルに込められているんだろうなと思って、すごく気に入っています。
――少し話を戻して、石原さんがこの歌詞に感じる、『夢見る男子は現実主義者』とリンクするポイントを教えてください。
石原 作品的には「両片思い」がテーマになっていますけど、きっとお互い素直になって本音を言ったら1秒で解決する問題だと思うんですよ(笑)。でもそこが上手くいかない歯がゆさ、伝えきれなかったことですれ違うところや、「でも自分は好きでも相手は違うだろうから……」って決めつけてしまうところは、“なぜか色違いのキミの本音すれ違った”という歌詞に表れていると思います。“言葉を深読み考え中”のところもそうで、私なんかは「えっ、深読みなんてしないでそのまま言っちゃえばいいのに」って思うんですけど(笑)、きっと2人にとっては、恥ずかしい気持ちも含めてすごく感情の大きい出来事なんだろうなって思います。
――それが青春のもどかしさですよね。そういった歌詞やサウンドの印象を受けて、レコーディングではどんなことに重点を置いて歌いましたか?
石原 歌詞の内容的に、今まさに青春の真っ最中にいる子たちを描いているように思ったたのですが、自分は学生時代から仕事をしていたこともあって、いわゆる青春から連想されるような学校生活、部活みたいなことをほぼ経験していなくて。当時は学校からすぐ帰宅してお仕事に行く感じで、悩みもどちらかというと仕事に関することが多かったので、最初は「どんな気持ちで歌えばいいんだろう……難しい!」と思ったんです。でも、青春もののアニメやドラマから得たものを一生懸命思い出して、自分になかった第2の青春を体感しながら歌うようにしました。それと伸びやかな曲なので、青空の下で歌っているイメージを膨らませながら歌っていて。実際はスタジオのブース内だったのでめちゃめちゃ室内だったんですけど(笑)。
――歌声からも爽やかさや晴れやかさが浮かびますし、全体的にキラキラして躍動感のある声音のようにも感じました。
石原 確かにそうですね。最初はもう少し自分の出しやすい声色で歌っていたのですが、翔さんから「もう少し明るめの声のほうがいいかも」とご提案いただいて。翔さんは「このフレーズはこういうイメージで作ったのでこういう感じで歌ってほしいです」という指示をくださるので、自分の中にはなかった引き出しにもチャレンジすることができて、楽しくレコーディングできるんです。自分で「じゃあ次はこういう風に歌ってみようかな?」と考えるのも楽しくて。それとDメロの“風を捕まえて”のところにクラップが入っているんですけど、あの音は私と翔さんで一緒に録ったんですよ。翔さんにリズム感の音頭を取ってもらいながらクラップして。なんだか部活をやっているみたいでした(笑)。
――まさに第2の青春を体感していたわけですね。先ほどのお話にもあった、サビの伸びやかさも印象的です。
石原 キーも上がったりしたので、自分の中では難しい位置のキーだったのですが、苦しい気持ちが声質に乗るのは良くないので、そういうことは忘れて、どうやったらこのサビを楽しく歌えるかを意識して歌いました。歌詞のフレーズ的にはちょっともどかしさもあるんですけど、表情は笑顔の状態で歌うようにしていると、音が明るくなったり、伸びやかさが出てくるので、心と顔が別々のことをやっていました(笑)。顔は笑顔だけど、心はちょっと切なく、みたいな。
――サビのメロディもハイトーンから入るので、滑空するようなイメージがあって。
石原 確かに。揺れる感じもありますよね。サビの歌詞の1行目はワーッと上がっていくので、そのテンションのままで2行目に行くと落としきれなくてハチャメチャになっちゃうと思って、1行目と2行目の心情を切り替えるように意識していました。練習しているとだんだん慣れていくんですけど、最初はその切り返し、心のモノローグみたいになっていく感じが難しかったです。
――こちらの楽曲はMVも制作されています。
石原 今回は作品(『夢見る男子は現実主義者』)のモデル地になっている浜松で撮影させていただきました。青春の「青」がテーマにある楽曲なので、青い空や浜名湖、青っぽい雰囲気のロケーションに行くことが多くて、風景美も詰め込まれた映像になりました。それと今回は、私のMVとしては初めてエキストラの方に参加してもらっていて。現役の学生の子たちが、部活や勉強、恋愛といった学生らしい悩みでつまづいているところを、私が遠くから見守っていて、あることをきっかけにみんなが少しずつ変わって前に進んでいく、という作りになっています。
――石原さんもついに「見守る側」を演じるようになったと。
石原 今までのMVであれば、私自身が「つまずいても頑張る!」みたいなことを演じる立ち位置だったので、自分の年齢を含めて、「私もこういうことができるようになったんだなあ」という喜びもありました。ファンの方がどんな反応をしてくれるのかが楽しみで。「大人になったね」って……もちろんとっくに大人なんですけど、私にはそういう印象がないと思うので(笑)、きっと新鮮に受け止めてもらえると思います。
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