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INTERVIEW

2023.07.28

【連載】アニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』第3回:羊宮妃那×藤田淳平(Elements Garden)、劇中歌・EDテーマ・劇伴から浮かぶ“迷子”の音楽の本質

【連載】アニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』第3回:羊宮妃那×藤田淳平(Elements Garden)、劇中歌・EDテーマ・劇伴から浮かぶ“迷子”の音楽の本質

次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」発の“現実(リアル)”と“仮想(キャラクター)”が同期するバンド、MyGO!!!!!。彼女たちの“迷うことを迷わない”物語を描く新作アニメーション『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』が、この夏、ついに開幕した。

リスアニ!では、そんなアニメの魅力を音楽面を軸に掘り下げる連載特集を展開。連載第3回となる今回は、MyGO!!!!!のボーカリスト・高松 燈役を演じる声優の羊宮妃那と、第7話のMyGO!!!!!バージョンによるライブも話題となった劇中歌「春日影」やEDテーマ「栞」の作編曲を担当した音楽家・藤田淳平(Elements Garden)による対談を実施。それらの楽曲のレコーディング話を中心に、藤田が手がけた本アニメの劇伴の話題、羊宮が燈として歌う際の心構えなど、ディープなトークを繰り広げてもらった。

■【連載】アニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』――“迷子たち”の音楽を徹底特集!

【特集】アニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』――“迷子たち”の音楽を徹底特集!

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

2つのバージョンが生まれた「春日影」のレコーディング&制作秘話

――まずは藤田さんに、MyGO!!!!!のプロジェクトおよび今回のアニメの音楽制作のお話をいただいたときの印象をお伺いしたいです。

藤田淳平 確か最初にお話をいただいたのは3~4年くらい前のことだったのですが、コロナの影響もあってか一度進行が止まった時期があって、その間に内容もブラッシュアップされて、最終的に今の形のアニメのプロットをいただいたのは去年の春くらいのことでした。それを拝見したところ、キャラクター1人1人の内面にしっかりとフォーカスを当てた内容になっていて、今までにないものを感じましたね。音楽性の部分で言うと、去年の7月に1st LIVEを観させていただいたのですが、メンバー5人でしっかりとグルーヴを組み立てていて、しっかりバンド感を感じました。

――そのときにはもう羊宮さんと面識はあったのですか?

藤田 1st LIVEの1年くらい前にキーチェックで一度お会いしていました。キーチェックのときはすごく柔らかい声の方という印象があったのですが、実際にライブで歌っているのを観ると、バンドの音としてはラウドな方向性にも関わらず、歌声がバンドの音圧に負けていなくて、今までに聴いたことのない面白さを感じましたね。

羊宮妃那 ありがとうございます。キーチェックのことはよく覚えていて。そもそも私はキーチェック自体が初めての経験だったので、自分の「あー」という声を聴いてもらってキーを確かめていただく、身体測定みたいなことをするのかなあと思っていたんです。

藤田 「あ~あ~あ~あ~あ~♪」でどこまでの音域が出るか、みたいなことですね(笑)。

羊宮 そうしたら、その場で試しに歌を収録してみるというお話になって。

藤田 そうでしたね。そのときには既に「春日影」も「栞」も作っていたので、一応、録ってみようということで。そのキーチェックでは他の曲も含めて歌っていただいた結果、どの楽曲も想定したよりもキーが上がったんですよね。なのでライブで歌うときに大変になるんじゃないかと少し心配していたのですが、実際に本番で聴くと、ご自身のスイートスポットに当たる音域になっていて、さすがだなと思いました。

――「春日影」と「栞」はそんなにも前から作っていたんですね。

藤田 「春日影」に関しては、CRYCHICの楽曲でのちにMyGO!!!!!としても歌うことになる、というのは最初に決まっていましたね。なおかつ、普段であれば9割がた、曲を先に作るのですが、この2曲に関しては織田あすかの歌詞が先にあって、詞先で作ったので、思いがけず作品とリンクすることになりました。

――MyGO!!!!!とCRYCHICの楽曲は、まず(高松)燈の歌詞・言葉があったうえで制作される流れですものね。ということは、「春日影」はCRYCHICの楽曲という背景と歌詞の内容を踏まえて制作されたのでしょうか。

藤田 はい。「春日影」は3拍子の曲で、歌詞の言葉、特にサビの“きらりきらり”というフレーズを見たときに、そのリズム感が浮かんできたんです。そこを頼りにサビからBメロ、Aメロと遡って制作しました。なおかつ、多少言葉数が多いなと思った部分が、逆にいつもとは違う仕上がりになったと思います。あとは「CRYCHICにおける大事な楽曲」というテーマ性、燈が1人で言葉を書き留めていたところに仲間が集まっていくということも大切にしています。

――「春日影」は第3話でCRYCHICバージョンが初登場して、その後、第7話でMyGO!!!!!バージョンが披露されました。CRYCHICバージョンについては連載の第1回でお話しいただきましたが、改めて歌う際に意識したことや差異について、羊宮さんにお伺いしたいです。

羊宮 第7話のMyGO!!!!!バージョンに関しては、また別のベクトルの決意があったのと、CRYCHICとして歌ったときに比べると燈ちゃんもそれなりに歌い込んでいるはずなので、それまでに自分が歌ってきたMyGO!!!!!のオリジナル楽曲でのクセを、あまりやりすぎない程度に当てはめるようにしました。それとCRYCHICバージョンではしゃべるように歌うことを意識したのですが、MyGO!!!!!バージョンではちゃんと歌としてうたうようにしました。

――藤田さんはレコーディングのとき、羊宮さんの歌にどんな印象を受けましたか?

藤田 言葉を歌にする表現力が高いなと感じました。僕は基本、キャラクターソングの場合、演じている方の歌い方にお任せすることがほとんどなんですね。「春日影」のレコーディングのときには、すでにMyGO!!!!!はライブも経験してバンドとして出来上がっていたので、歌い方についても割とお任せで何パターンか歌っていただいて、その中からテイクを選んですり合わせていくやり方でした。CRYCHICバージョンに関しては、下を向いて歌っていそうなニュアンスで歌っていますよね。

羊宮 そうなんです!このときの燈ちゃんは多分、まだうつむきながら歌うだろうなと思って。ラスサビのところも、あまりやりすぎず、でも心の叫びみたいなものが乗るように、皆さんとすり合わせしながら歌わせていただいたのを覚えています。CRYCHICバージョンはそうやって微調整を重ねたのですが、MyGO!!!!!バージョンのほうは、その時点でライブも経験していたので、少しだけ調節しつつ、CRYCHICバージョンとまた違った歌い方をさせていただいております。

藤田 でも、CRYCHICバージョンのほうも、演出として拙さの残るような歌い方をしていただきながらも、響くものがある歌になっているんですよね。だからこそ作品の中でも絶賛されるわけですが、そういった表現ができることがすごいですし、どちらのバージョンもぜひ聴いてほしいですね。

――また、CRYCHICバージョンとMyGO!!!!!バージョンは、それぞれのバンドの楽器編成に合わせたアレンジになっています。こちらはどんな工夫を心掛けましたか?

藤田 まずCRYCHICバージョンのほうから制作したのですが、僕はピアノのほうが得意な人間なので、イントロのフレーズに関してもピアニストが発想するようなフレーズで作って固めたうえで、それをMyGO!!!!!の楽器の割り振りに合わせる形でMyGO!!!!!バージョンのアレンジをしました。それとこの楽曲は上品な作りにしたほうがいいと思ったので、CRYCHICバージョンにはオルガンやグロッケンなども入れています。

EDテーマ「栞」の歌に込めた想い、燈として歌い、ステージに立つということ

――EDテーマの「栞」に関しては、どのように制作を進めたのでしょうか。

藤田 この楽曲に関しては、(柿本広大)監督から「こういう音楽にしたい」という明確なオーダーをいただきました。アニメの内容上、各話ごとに色んなテンション感で終わるので、聴くと少しほっとするような、でも違う意味で捉えると寂しくも感じるようなものを求められていて。その意味でフォークっぽい曲調、アコギ一本で歌えるような沁みる曲にしたいというお話だったんです。なのでシンガーソングライターの人がギターを弾きながら言葉を紡ぐような感覚をイメージして作りました。

羊宮 私はキーチェックの段階から「栞」が好きだったのですが、アニメを観ている方の中にも、毎話、この楽曲に救われている方がたくさんいらっしゃると思うので、今のお話を聞いて「うんうん!」とたくさん頷いてしまいました。

――確かに1番はアコギのみを伴奏にしたアレンジですが、2番以降はパーカッションやベースが加わるアレンジになっていますよね。

藤田 まずワンコーラスを制作して、そこからフルコーラスを作るにあたって、どこまで楽器を増やすべきか、というご相談をさせていただきました。というのも、ライブで演奏することを考えると、ギター以外のメンバーがやることも必要なので。その塩梅を考えるなかで、パーカッションをカホンに、ベースをフレットレスのような柔らかい音色のもので構成することをご提案いただき、今の形に落ち着きました。監督からは最初、「間奏はハーモニカを入れましょう」というお話もあったんですよ。実際にそうするとしたら、ハーモニカは燈ちゃん役の羊宮さんが吹くことになったと思うんですけど(笑)。

羊宮 えっ!私がですか!? もしそうなったときは私も全力でハーモニカを練習します(笑)。

藤田 ただハーモニカを入れると、ちょっとブルース寄りになってしまうということで、無しになりました。珍しいところではメロトロンという、いわゆる磁気テープを使った昔のサンプラー的な楽器を使っていまして。テーマ的にすごく合うと思ったんですね。

羊宮 どんな楽器なんですか?

藤田 磁気テープにストリングスの音とかを録音しておいて、その音を鍵盤で音階を付けながら弾くことのできるもので、ザ・ビートルズがよく使っていた楽器なんです。温かみみたいなものを表現するにあたって、すごく効果的な楽器なんですね。なので「栞」に合うんじゃないかと思って入れています。

――メロトロンの音が入ることでノスタルジックな雰囲気も演出されていますよね。この歌のレコーディングでお二人が印象に残っていることはありますか?

藤田 「栞」に関しては自分は「いいですね!」くらいしか言っていないですね(笑)。燈ちゃんが歌っているニュアンスをそのまま表現されていた印象で。「春日影」のMyGO!!!!!バージョンと比べると、「栞」のほうが優しさや慈しみがあるように感じられて、また違ったニュアンスを受けました。それと羊宮さんは伸ばすときの音が上手いですよね。

羊宮 ありがとうございます!

藤田 “悲しみにすべてを奪われないように”の語尾の伸ばし方も独特で。高いところで張るんだけど、響きはマイルドなんですよね。“誰にも叱られはしないから”のところも高い音は張るんだけど、強いイメージはあまり与えずに、優しく柔らかく耳に飛び込んでくる感覚があって。そこが声の特徴になっているように感じます。

――そういった「強さ」と「マイルドさ」を併せ持ったような歌声というのは、羊宮さんとしては燈らしい歌声を意識して作っているものなのでしょうか。

羊宮 前提として、歌の練習のときは録音して聴き返すことを繰り返しやってきたのですが、燈ちゃんとして歌を残すレコーディングをするにあたっては、音も大事なのですが、燈ちゃんが何を思って歌っているのかを一番大切にしていて。例えば「栞」のサビでも、ちょっとひねくれて歌ったときと、悲しみに溺れて自分しか見えていないときに歌ったとき、世界はキラキラしていると心から感じながら歌ったときとでは、全然違っていて。燈ちゃんが何を思ったときにこの言葉が出たのか。それを大切にして歌うと、自然とそういう音や歌い方になっているように思います。

――特別に意識して作っているのではなく、燈の気持ちとして歌うと必然的にそうなると。

羊宮 あと一番嫌なのは、例えば「燈ちゃんの歌を聴いてすごく救われました」といったコメントをいただいたとき、私が音にだけこだわって歌っていたとしたら、それは救われたと感じてくださった方を裏切ることになるんじゃないかということで。MyGO!!!!!の楽曲を聴いてくださっている方は、自分なりの考察をして、色んな意図を汲み取ってくださっていると思うのですが、それが全部「音」の話だったということで片づけたくないんです。中身がないもので救われたんだと、そんなふうに片付けてしまいたくないです。そこには燈ちゃんの想いがしっかりと乗っているものにしたい、だからこそ皆さんが感じてくださったことは薄っぺらいものなんかじゃない。歌うときには大切なものを込められるようにしています。自分の思っていた解釈と違っていた場合は、「なぜ燈ちゃんはそういう風になるのか」ということを細かくすり合わせさせていただいて、それを落とし込んでから歌うようにしています。

――ちなみに「栞」は先日のアコースティックライブでも歌われたそうですが、初めてお客さんの前で歌ったときの印象についても教えていただけますか?

羊宮 印象……どうなんでしょう? ライブは毎回レコーディングとはまた違ったアプローチになって、例えば今回であれば、アコースティックライブをMyGO!!!!!のみんなで披露するうえで、燈ちゃんだったら何をテーマにして届けるのか?ということを考えるんです。今回の「栞」でいうと、救ってあげたい気持ち、「全部僕だよ、大丈夫だよ」って1人1人を見るイメージなので、「そのときの感情は?」と聞かれると答えられるのですが、「そのときの印象は?」と聞かれても、客観視している自分はほんの少ししかいないので、何がどうだったかまでは正直わからないんです。

――なるほど。これは好奇心で聞くのですが、そのときに抱いている感情というのは、「燈としての羊宮妃那」の感情なのでしょうか。

羊宮 難しいですね……。燈ちゃんとして歌うとなると、私としては歌えないので……でも、それこそ、その場で生まれるものもあって。そのライブで目が合った人がいたのですが、本当に目線を逸らさずジーッと見てくれたんです。そのときは、やっぱり嬉しくなりました。それが私本人なのか、燈ちゃんなのかは、正直わからないんですけど(笑)。でも、多分、燈ちゃんは歌っているとき、普段の燈ちゃんではなくなる子なので、そういう状況になったときは気持ちを伝えることに必死で、「目が合っている」という事実を認識せずに「目を合わせている」と思うんですね。なので、そういうときは、伝えきるまでは「目を逸らさない」ようにします。

――……すごいですね。そこまで考えたうえで、燈としてステージに立ち、歌っているとは。

羊宮 でも、これもレコーディングなどで色んな燈ちゃんの姿を知ったうえで至ったもので、それこそ私1人では思いつかなかったことだと思います。

――連載の第1回で、燈を演じる際は「憑依型」か「客観視型」かという話題がありましたが、今のお話を踏まえると、ステージに立っているときの羊宮さんは「憑依型」なのかなと思いました。

羊宮 どうなんでしょうね。でも、その子がその場で生きられるのであれば、どちらを使ってでも、そうなっていきたいです。

「人間になりたいうた」を通して見えた、羊宮妃那と高松 燈の繋がりと対照性

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