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INTERVIEW

2023.07.29

ハッピーエンドを始めたい――。長く険しい道のりを越え、Lenny code fiction第二章の幕開けとなるニューアルバムで紡いだのは“幸せ探し”。

ハッピーエンドを始めたい――。長く険しい道のりを越え、Lenny code fiction第二章の幕開けとなるニューアルバムで紡いだのは“幸せ探し”。

Lenny code fictionが2ndアルバム『ハッピーエンドを始めたい』をリリースする。実に5年ぶりとなる本作には、「脳内」(TVアニメ『炎炎ノ消防隊』EDテーマ)、「ビボウロク」(TVアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』EDテーマ)、「SEIEN」(TVアニメ『魔王学院の不適合者 Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』OPテーマ)の3曲のアニメタイアップを含む全11曲を収録。
ボーカル・片桐 航がかつてなく己と向き合い「悔しさや反骨精神から始まったバンドが今は幸せを探して歌い続けている」ことに気づき、これまで培った技術と新たなチャレンジが詰まった幅広い楽曲で、バンドのこれまでとこれからを繋いでみせた。ここに在るのは、フィクションではなく紛れもなくドキュメント。『ハッピーエンドを始めたい』から、Lenny code fictionの第二章が開幕する。

INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ

このバンドの根本は幸せを探すこと

――しみじみ良いアルバムだなと感じました。5年ぶり、コロナ禍が明けてからは初となるアルバムですが、制作のきっかけについて教えてください。

片桐 航(vo、g) コロナ禍が明けて、徐々にライブも増えてきて。活動的になったことで、やはりアルバムをリリースもしたいなと思っていました。「ビボウロク」(TVアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』EDテーマ)、「SEIEN」(TVアニメ『魔王学院の不適合者 Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』OPテーマ)のシングルを出すちょっと前くらいから、アルバムを視野に入れた設計図が生まれていて。アルバムを出すという次の目標があったほうが活動もしやすいんですよね。

ソラ(g) 1枚目のアルバム『Montage』を出したときには「良いものができたな」と思っていたんですが、コロナ禍の中で「本当にこのままで良いのか」と考える時間もあって。そうやって自分たちを見つめ直したときに「ちょっと変えていかなければいけないよね」と思ったところがあって、その答えがこのアルバムに表れているのかなと思っています。

――自分たちを見つめ直す……ということは、皆さんで熱心にお話し合いもされていたんですか。

ソラ そんな感じもなくて。これだけ一緒にやってると、曲が上がってくるタイミングで「今こういうことを考えているんだな」って察しています。仲は良いんですけど会話が多いバンドでもないので“察し合い”のような(笑)。心理戦をしているわけじゃないんですが、多くは語らず、曲で通じ合うという感じでした。

kazu(b) 曲選びもスムーズだったもんね。このアルバムの半分以上はコロナ禍に入ってから作った曲なんです。今思うと、これくらい期間が空いていて良かったなと。1作目、2作目と期間が空いたことで、ギャップはあるかもしれませんが、芯の部分は地続きで、その中での挑戦があって、色々な可能性やパターンを入れることができた作品になったと感じています。僕らの20代の最後のアルバムとして、「これが完成形」と言えるくらいに突き詰められた。この数年を凝縮して、詰め込んで……このアルバムでLenny code fictionの第二章が始まったような気がします。

KANDAI(ds) コロナ禍で何ができるのかを見つめ直したときに、とにかくドラムを上手くなろうと。だから家でできる細かいことをやっていました。新しいものだけでなく、基礎に立ち返って、培ったものも、このアルバムには詰まっていると思います。

――先ほど見つめ直すというお話がありましたが、『SEIEN』ツアーを経て、「幸せをさがしている」ことに気づいた、といったコメントを寄せられていました。その気づきがこのアルバムタイトルやテーマに繋がっているんでしょうか。

片桐 そうですね。このバンドが今歌うべきこと、いちばん信念として持っているものはなんだ、と考えた時に……100パーセント幸せな人間が集まったわけではないし、“楽しみたい”がメインなバンドでもないし、政治的なバンドでもない。じゃあどこに根本はあるのかというと……このバンドのテーマは、“幸せを探すこと”なんじゃないかと。ずっと幸せなわけではないけど、幸せを探し続けている。そういった思いをラストの「幸せとは」で描いていて。だからアルバムタイトルは『ハッピーエンドを始めたい』か『幸せとは』の二択で迷っていました。どちらかは最後の曲、どちらかはアルバムタイトルにしたいなと。それで悩んだ結果、『ハッピーエンドを始めたい』をタイトルにしました。それとタイトルに関しては、映画が好きなこともあって、映画でよく使われる概念的な言葉を使いたいなという思いが漠然とありました。

――幕開けを飾る「夢見るさなか」には、“誠実に生きてこれたから大事な物も増えたよ返さなきゃ 幸せを返さなきゃ”という言葉もあります。

片桐 まだ叶っていない夢も、悔しさもたくさんある。その思いがラストの「幸せとは」の時間軸に繋がっていけばいいなという思いで書きました。元々大きなテーマは決まっていたのですが、言葉選びに迷ったところがあり、悩みながら書き出した曲ですね。100パーセント完成したのは最後の最後です。

――ラストにきても遜色ない曲だなと感じていました。

片桐 実は最後に順番を入れ替えているんです。この曲が出来て、今の現状をまずは知らせたいなと思い冒頭に持ってきました。今までのバンド像であれば「アイデンティティの始まり」(6曲目)や「脳内」(TVアニメ『炎炎ノ消防隊』EDテーマ/3曲目)のようなものが1曲目にきたと思うんです。でも「夢見るさなか」が1曲目にくるのが新しいし、自分の性に合っているのかもしれないなって。なんとなくの気持ちではあったのですが、それでも1曲目に持ってきたらピッタリでした。

――皆さんはこの曲を聴いたときにどのような印象がありましたか。

ソラ 自分たちにとって大事な曲になるだろうなというのはデモの段階から感じていました。その時点で名曲というか。なんやかんや“楽しい”に振り切る曲がLennyの強みでもあるんですけど、最後に持ってくる曲ってこういう曲や「幸せとは」などのメッセージ性があるものなんですよね。

――それでいて、第二章の幕開けを感じるような新しさも光ります。ストリングスも印象的ですね。

kazu デモ段階のときはもうちょっとストレートで、個人的にはいちばん変化の大きかった曲のように感じています。バンドで録ったあとにピアノとチェロも生伴奏で弾いてもらって、すべて完成したときに「自分たちの曲でこんなこともできるんだな」と。バンドらしさもありつつも、新しい感覚がありました。

KANDAI ドラムは当初から全取っ替えくらいの勢いで変わっています。ピアノとチェロを生で入れたのも始めてだったので「こんなにも変わるんだな」と勉強になりましたし、より壮大になったというか。むしろライブハウスでやって大丈夫なのかと(笑)。

――2曲目の「DURARA」は特にライブハウスで盛り上がるだろうなと思っていました。

片桐 あまり悩まず作った曲です。ライブ曲っぽい、リズムの良い楽曲を作ろうって感じで書き始めて、気づいたら出来てたっていう。

――曲の中にもある「DURARA」って言葉も、リズムの良さから?

片桐 そうですね。まったく意味のない言葉です。一発目に口ずさんだ言葉で良いや、と。全員で歌えたら良いよなぁって。

「【Lenny code fiction】」には32本の映画のタイトルが……

――アルバムに収録されている新曲で、最初に出来た曲というのは?

片桐 シングル以外だと「Memento」(5曲目)が完成に近い形でありました。基本的には8~9割型完成させて、最後に全部仕上げをするという流れだったんですけど、8~9割型完成させるのにいちばん早かったのが「Memento」でしたね。

――「Memento」は、思い出の、思い出の品などの意味で、曲もシリアスな内容になっています。

片桐 他にも死ぬ間際に残すものなどの色々な意味があって。この曲では、自分が死ぬときに残る遺品という意味で使っています。死ぬことからは逃れられないという思いが根本にあって、「どうせなら何か残したい」という漠然とした気持ちが子供の頃からありました。(生きているうちに)作品として何かを残せたら最高ですし、死んでなお名が残っていたら嬉しいなと。ずっと思っていたその気持ちや思想を素直に書いたというか。もったいない死に方はしたくないという、死に方を描いた1曲ですね。20代最後の今だからこそ、色々な方向から書けたように思います。

――そのMementoという言葉が、7曲目「【Lenny code fiction】」では映画名として登場します。歌詞の中には様々な映画のタイトルが網羅されていますね。

片桐 Lenny code fictionというバンド名も映画からとったものだったので、こういう曲はいずれ作りたいと思っていました。でもこの歌詞を完成させたのは最後くらいです。自分の中ですぐ書ける自信があったので、1日も掛からずに書き終えました。Lenny code fictionというアーティスト名の元になったタイトルも入れながら、自分がインスピレーションを得た作品のみを入れました。32本の映画タイトルを【】の中に入れて。

――Lenny code fictionという言葉も散りばめられています。タイトルにも【】がつけられていますがこれは【Lenny code fiction】という1つの作品として見てもらいたいという思いがあるのでしょうか。

片桐 そうです。タイトルのみにカギカッコをつけていて。この1曲を一個の作品として見てもらえたらなと。

――ここに登場する映画のタイトルは、皆さんもお好きなんですか?

片桐 いや……(笑)。僕の個人的な意見です。

kazu 半分以上観たことがない(笑)。有名どころはわかるんですけど、時々マニアックなのが入るので。

KANDAI 僕もそこまでは(笑)。何作かは観たことがあります。

ソラ 僕は結構映画を見るので分かるものも多いんです。歌詞を見たときに「すげえな」って思いましたね。確かに“【Snatch】は冒頭が最高”とか(笑)。映画好きに広まったらそれはそれで面白いなと思いました。

片桐 個人的にはこの曲を聴いてくれたなかで誰が最初に全部観られるかをちょっと楽しみにしています(笑)。この曲を聴いて、32本観てくれるのは誰がいちばんになるのか。

――ところで、「【Lenny code fiction】」というタイトルだけ見たときはバンドのアイデンティティが語られているのかなとも思ったんです。でもむしろそれは、その直前の「アイデンティティの始まり」で語られていて。

片桐 そうですね、そこで語っています。「アイデンティティの始まり」は1曲目っぽい曲を作ろうってところから始まって。でも時間が経つごとに、初期衝動感というか。希望しかないというイメージが大きくなったので、このバンドや音楽を始める発端のようなものを書こうと。

――「SEIEN」のインタビュー(https://www.lisani.jp/0000225773/)のときにメンバーそれぞれの初期衝動についてお伺いしましたが、その時のことも思い出しました。

片桐 「SEIEN」の初期衝動とも時期的に近いところがあります。「SEIEN」での初期衝動は、バンドを始めて明確な夢が出来たときのことで、それよりも前のことというか。いち音楽人として、音楽をやろうとした瞬間を切り取って曲にしています。

――このアイデンティティの始まりは、皆さん共通するところがあると思います。

ソラ そうですね。まさに高校時代って……あまり“普通”という言葉は好きではないのですが、就職や大学進学と決まった道を進むという、いわゆる普通のレールに乗ることに違和感を覚えるゴロツキみたいな感じで(笑)。確かにそういうことあったなと。音楽を聴くときの快感の1つに、歌詞に共感できる瞬間があると思うんです。聴いたときにその喜びを感じましたね。

kazu 「SEIEN」はその二次的な衝動や反骨心が出ていると思うんですが、最初の最初の初期衝動はまさにここに書かれている通りで。10代のときの思いは20代後半になっても、覚えているものだなと思いましたね。

KANDAI 僕のアイデンティティの始まりは中学生の頃で……歌詞の内容的に、この通りに生きてきてしまっているような気がします(笑)。だから「すごくわかる」と。デモの段階から好きな曲でもありました。

――ところで、ミディアムな「Sleepless Night」(8曲目)のドラムはライブでどのように再現されるのかが気になるところなのですが……。

KANDAI 「Sleepless Night」は「ライブでどうなるんだろう?」と思われるかもしれませんが、最近はハイブリッドドラムにして、生ドラムと電子ドラムを同時に叩いていますので、安心してください(笑)。

“幸せってこんな難しくて 遠くて届かないものじゃなかったよな”

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