艶のある歌声とグルーヴを生み出す歌唱力によって“聴かせる”シンガーとして評価の高い亜咲花。最近では、競馬やグラビア、インターネット配信番組と多方面での活躍も目立つが、その根底にはアニソン歌手としての矜持が満ち満ちている。そんな彼女が「この2年間で出してきたシングルを集め、事務所移籍という新しい門出を迎えるにあたっての集大成としてのアルバム」となる『Who’s Me?』をリリース。今、亜咲花のエナジーとパワーが世界を巻き込み出す。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司
――まずは、アルバムや新曲におけるコンセプトやイメージといったところから教えていただけますか?
亜咲花 はい。既存のタイアップ曲は、ハードコアから『ゆるキャン△』の主題歌みたいなポップス系まで色々とあったので、アルバムではさらに亜咲花の引き出しの多さを知ってもらおう、というところからスタートし、新曲6曲はそこからの逆算で作っていきました。
――既存曲とのバランスを意識されたということですが、新曲に関してはとても大きなテーマで歌われているように感じました。自身のアーティストイメージの確立や投影といったところで意識した点はありましたか?
亜咲花 そう言っていただけると嬉しいです。たしかにスケールは大きくしてみたところはありますね。アニソン歌手という職業自体が今、少しずつ押されている状況で、可愛いし、歌って踊れて器用、という声優さんが増えるなか、純粋に歌だけで活動している方がちょっと少なくなっている印象ではあるんです。なのでリード曲についても、ライブで盛り上がる曲というところは押さえつつも、アニソン歌手という肩書にこだわりを持つ私ではあるので、アニソンを受け継いでいくという「覚悟」を詰め込んだ曲にもなっています。
――そのリード曲ですが、「Triple Crown」というタイトルは競馬からですか?
亜咲花 そうです(笑)。アニソン歌手という職業に対する熱意を伝えたくて、ふさわしい言葉がないかと探していたとき、亜咲花もトークとビジュアルと歌唱力でアニソン業界の三冠を取りたい、という願いを込めて選びました。ちょうどクラシックが始まった(皐月賞が開催された)頃だったので、それにあやかったところもありますし、キャッチーな言葉なのに調べてみたら意外と(曲名に)つけている人がいなかったので選びました。
――仰ったように歌詞は亜咲花さんが手がけられていますが、曲先でしたか?
亜咲花 曲先でした。タイトルが最初に決まって、次に曲、歌詞の順ですね。
――曲を永塚健登さんにお願いすることにした経緯についても教えてください。
亜咲花 楽曲はいつも、自分のファーストインスピレーションを大事にしているので、コンペという形をとっているんですけど、この曲に関してはリード曲ということもあって亜咲花のことをよく知っている方に曲を書いてもらうことになりました。そこで(亜咲花が歌った『ゆるキャン△』の1・2期オープニング主題歌「SHINY DAYS」「Seize The Day」を手がけ)ずっとお世話になっている永塚さんにお願いしたんですね。こちらからは、「Triple Crown」というタイトルに似合う曲ということで、パイプオルガンみたいな音が入った80年代のV(isual)系をイメージしていて。なのでそこはお伝えしました。
――歌詞についてはどのような気持ちを込めましたか?
亜咲花 先ほど「覚悟」とお話しさせてもらったんですけど歌詞にも、覚悟を決めてこの世界に飛び込んだ、というアニソン歌手に対する気持ちを赤裸々なくらいに綴らせていただきました。やっぱり、綺麗事ばかり書くのは違うと思ったんですよね。この業界に入るのも大変だし、入ってからも大変だし。みんなに歌で希望とかを届けるのが基本だと思うんですけど、生き残るためにはどうしたらいいか、みたいな厳しさもある世界なので。私自身、中途半端な気持ちでステージに立ったことは一度もないので、そういった一途さが届けばいいな、と思いました。でも、主張が激しすぎると聴いている人も疲れてくるので、私の意見をどうやって歌に乗せるか、という言葉選びについてはよく考えました。「艶っぽさをちょっと入れたいな」とか。
――艶っぽさは年齢的なものもあり?
亜咲花 そうですね。10代から活動を始め、今年で24歳になるので。ずっと昔から応援してくださってる皆さんに、亜咲花の成長を感じられる曲にしたいとも思いました。なおかつ、いい時間を過ごしていることが伝わるような、過去から未来へと繋ぐような歌にしたいとも思っていました。逆に「輪舞」とか「華麗に誘われて」といった言葉は、いただいた楽曲の音に女王様感を感じたというか、曲に合った言葉というところで出てきました。でも、我ながらいい歌詞が書けたと思っています。曲を自分からオーダーしたこともあって、書きたい言葉がスラスラと出てくる感じで。新曲はどれもそうですけど、1日、2日で書いたと思います。
――手ごたえありな歌詞ということですが、特に想いが込められた個所はありますか?
亜咲花 サビの最後はすべて、私からみんなへの「問いかけ」になっているんです。「私から目を離さないで」「私と共に駆け抜けて」「私を最後まで信じて」、これらは私が本当に伝えたい言葉ですね。亜咲花から目離しちゃダメだし、駆け抜けなきゃダメだし、信じなきゃいけないという想いが詰まっています。
――アニソン歌手に対する想いについては、普段から考えていることでしたか?
亜咲花 この2、3年、アニソン歌手タイアップを歌っている機会が減ってきている気がしていて。J-Popアーティストが歌うことも増えていますし。だから、「残さないと」という気持ちにはなっていましたね。でも、アニソン歌手の方は少なからずそういった想いは持っていると思います。
――歌に関してはどのようなイメージで歌いましたか?
亜咲花 自分で作詞しているので、どうしてその言葉にしたかが一語一句、接続詞までわかるんですよね。だから、遊び心も生まれてきて。例えば、「艶っぽさ」を1番に入れたかったんですけど、そのためにウィスパーボイスでの歌唱を左右のチャンネルで2回ずつ録り、別の声が聴こえるようにしてみました。そこは録りながら試してみることで生まれたところですね。
――「歌ってみた」をしたいファンに向けて、あるいはライブでの声出し解禁も増えてきたというところで、うまく歌うためのアドバイスをするとしたら?
亜咲花 侘び寂をしっかりつける! 引くときは引く、出すときは出す、そうやって抑揚をしっかりつけないとこの楽曲の良さをうまく活かしきれないと思います。アップテンポの曲の場合、気持ち良く歌いたいという気持ちが勝っちゃうんですけど、この曲が耳に残る理由はウィスパーボイスを入れたり巻き舌で強くいったりというバランスにあると思うんです。サビに向かうまでの階段をしっかり作ることが大切なので、1、2番はなるべく気持ちを抑え、サビで解放させるといいと思います。
――サビでの情念を強く感じてもらうためにも、ギャップを意識して。
亜咲花 難しいですけどね。私も気持ち良く歌いたいタイプですし、ライブでお客さんを前にすると、勢いが大事な時もありますし。
――2曲目の「No.1」はどういうふうに生まれてきた曲でしたか?
亜咲花 競馬場に行くようになってから、ジョッキーと馬ってアーティストと立場が似ているというか、ファンの熱量って一緒だと思ったんですね。ジョッキーや馬が本当にどう思っているかはもちろんわからないですけど、私がステージに立っているときと同じ気持ちをジョッキーは持っているんだろう想像しながら書きました。だから、亜咲花ファンにはライブでの亜咲花を書いているように聴こえるけど、競馬ファンには競馬の歌に聴こえる、という曲にしてみました。
――ファンの気持ちをあらためて思い出しましたか?
亜咲花 そうですね。あとは、どの職業にもチャンスは眠っているものだと思うし、特に芸能界や競馬では運をつかむことが大事ですよね。歓声を浴びる職業ですし、No.1を目指す仕事でもあるし、いろいろと結び付けられると感じました。ただ、どうしてこの曲を作ったかというと、私にとってのアニソン歌手って夢ではありましたけど、叶ったからといって終わりではなくて、この業界に入ってからも叶えられた夢、諦めちゃった夢といろいろな夢があったというところを歌にしたかったんですよね。そこも競馬に繋がるんですけど、好きになった馬が引退しちゃったんですよ。
――エフフォーリアですよね。
亜咲花 そうです。で、そのとき、私の夢はもう終わった、と思ったんです。この馬が勝つ瞬間を見たいという気持ちで競馬を始めたのに、私が競馬を始めてからは一勝もできないままで引退できず、競馬からも離れようと思ったんですけど、夢はエフフォーリアが残した子供たちに受け継がれることに気付いたんですね。それに、騎乗していた横山武史(騎手)も、エフフォーリアとは獲れなかったレースを獲るという夢が生まれていました。そのとき、競馬の奥深さを知ったことで、夢や目標にこだわり、そういう歌をたくさん書いてきた私としては「歌詞を書こう」という気持ちになりました。エフフォーリアから色々な夢をもらったので。
――ただそこで、「Dreams come true」といったタイトルではなく、「No.1」というところに競馬の影響を感じました。アニソンは勝負事というよりも、個性やオリジナリティを求められる世界のように感じるのですが?
亜咲花 私の本心としては、アニソンを歌えていれば幸せなのでNo.1でなくても悔しくはないです。例えば、大先輩とステージに並んでいても、勝ちたい気持ちよりも客席で見たい気持ちの方が強いので(笑)。でも、私のファンは「亜咲花が一番」と思ってくれているので、私が「一番じゃなくてもいい」と思いながら歌うのは失礼じゃないですか? そこは歌にも出てくる部分だと思っているので、ステージに立てば「私が一番上手いでしょ?」と思いながら歌っています。例え、嘘だとしても皆さんの期待を裏切りたくないので。
――そういう気持ちが芽生えたきっかけはあったんですか?
亜咲花 でも、コロナに罹ったりやポリープ手術をしたりしたのは大きいかもしれないですね。歌に対する儚さや尊さみたいなものをすごく感じたので。元々は現実主義者で、クリアできそうな目標から目指していくタイプだったんですけど、コロナで生きるか死ぬかという状態を経験すると、もはや「すべてが幸せ」という気持ちにもなれましたね。声帯ポリープになったときも「歌えなくなるかも」と思いましたし、手術しなければ良かったかもと後悔するくらいにリハビリが大変だったんですよ。2年のリハビリを経てようやく満足できる歌を聴かせられるようになりましたけど、まだ低音は出しづらいですし。ただ、それを超えるのがコロナでしたね。アーティスト生命にとどまらず、人生が終わるかもしれないという恐怖があったので。それで、ファンとも会えるうちに会おうと思って、去年、今年とライブやイベントやツアーに力を入れることにしました。これまではラジオ番組といった別の仕事のこともあり、ライブは年に1回くらいと他のアーティストさんに比べるとかなり少なかったんですけど、アーティストとしての活動をもっと強化していきたいと思いました。
――「No.1」についてはどういったイメージで歌入れされましたか?
亜咲花 ライブを意識しながら「こう歌えたらいいな」というイメージを持って、みんなが目の前にいるように歌いました。ライブに来てくれる方はCDを聴いて、練習してくださると思うので。楽曲字体、コール&レスポンスをたくさん入れてくださいというオーダーをしていたんですよ。最初にいただいたときはメロディーに対して言葉数が多い感じだったので、楽曲のスケール感はそのままに、もっと落ち着いた感じでメロディを緩やかに描けるような感じでお願いもしていましたね。
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