2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、1人のアーティストとして音楽活動をスタートさせ、疾走感あるロックナンバーで自身の音楽を表現してきた七海ひろき。役者、声優としての活動でも自身の表現を研磨しては音楽へと投影し、昨年は色とりどりの楽曲を引っ提げてのZEPPツアーも大成功に収め、その進化は止まることを知らない。今年に入り、立て続けにデジタルシングルをリリースしてきたなか、自身も出演するTVアニメ『Helck』第1クールのOPテーマ「It’s My Soul」を完成させた。初めてのアニメタイアップに向けた七海ひろきの熱意を聞く。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
LIVE PHOTO BY hajime kamiiisaka
――音楽活動をスタートされてからまもなく4周年という今、アニメのOPテーマを担当されることとなりましたが、そもそもアニメのOPテーマに対してはどのようなイメージをお持ちでしょうか。
七海ひろき OPテーマはアニメの世界観やストーリーを引き立てて、さらに視聴者をアニメの世界へと引き込むものですよね。その曲を聴くことでアニメのストーリーやキャラクターのことを思い出せますし、観ていたときの自分の感情をも蘇らせる存在だなと思っています。
――特に印象に残っているアニメソングはありますか?
七海 本当に色んな作品があってなかなか選べないですが、あえて挙げるのならばTVアニメ『少女革命ウテナ』のOPテーマ「輪舞-revolution」(奥井雅美)です。この曲は歌詞もメロディラインも大好きで今でも歌いますし、聴けば当時のことやキャラクターのことを想い出します。とても印象的なOPテーマだったと思います。
――そんな七海さんが今回OPテーマを歌うのがTVアニメ『Helck』です。楽曲を制作する際にイメージやキーワードなど、七海さんのほうからのオーダーはあったのでしょうか。
七海 アニメの制作側の皆さんと直接的なやりとりはなかったのですが、楽曲制作をするにあたってサウンド的には『Helck』の世界観に合うロック調であることをお願いさせていただきました。これまでも私自身がアーティスト活動で歌ってきた楽曲がロック調でしたし、音楽活動では「七海ひろきらしい楽曲を歌おう」と見つけた“七海ひろきらしさ”がロックでした。それに『Helck』の世界観には激しく熱いロックが合うと思っていたので、その想いをオーダーとしてお届けしました。
――そして生まれたのが「It’s My Soul」。曲を受け取ったときにはどのような感想がありましたか?
七海 なんて『Helck』にぴったりな曲だろう!と感動しました。前奏いきなりの重厚感から、だんだんリズムに乗っていって歌詞が入っていくところや、歌詞も含めてこんなにぴったりな曲があるだろうかっていうくらい作品とシンクロしていました。作詞・作曲・編曲をしてくださった本田正樹さんに伺ったところ、元々『Helck』の大ファンだったんです。なるほど!と思いました。だからこそこれほどまでに『Helck』の世界観に合致した曲が生まれたんだと思い、とても嬉しくなりました。そんな喜びを胸に私もレコーディングまでにたくさんこの曲を聴き込んで、歌での表現を深めたいなと思っていましたし、『Helck』の世界観をしっかり作っていきたいと改めて思いました。
――本田さんは『Helck』の大ファンだったとのことですが、七海さんご自身はどのような印象をお持ちでしたか?
七海 実はこのお話が来るずっと前に、友人が「このマンガがすごく面白いよ」と紹介してくれていたのが「Helck」だったんです。「わかった!読んでみる!」と手にしたコミックスは全12巻。短く完結しているわけでもなく、長すぎるほどでもない中にすべてのものが凝縮されているな、と感じました。それこそ人間と魔界の住人たちの、お互いの葛藤や友情、愛といった様々な要素が詰まっていて、こんなに密度の高いマンガがあるのかと心を動かされました。さらにシリアス展開もあればギャグ展開もあるところが「Helck」の面白いところだなと感じています。
――導入部分のコミカルな雰囲気から物語が進んでいくとすごくシリアスになりますよね。
七海 そうなんですよね。だから最後まで読んで、もう一度1巻から読み直すと、違う感情が湧き上がりますよね。何度でも楽しめる作品だなって思います。
――先ほど、「何度も聴き込んで、表現を深めたい」と思われたお話がありましたが、この曲を七海さんとしてどんなふうに表現したいと思われましたか?
七海 歌いながらとにかくヘルクのことをたくさん考えていました。特に1番は物語の始まりを意識しながら歌うことを念頭にしていましたし、2番は冒険をしていくうえでの様々な出会いを歌えたらなと思いました。ただ全体に軸として持っていたのは、シリアスな展開であっても旅をしながら心が盛り上がっていけるようにしたいという想いでした。
――アニメ尺の89秒の部分と、その先の部分とでは歌唱表現に違いはありましたか?
七海 アニメで放送される部分である1番はアニメの導入として、これからどういうことが起こっていくんだろうか、見逃せない展開になっていきそうだな、とお客さんのワクワク感や期待感、興味が高まるように、お客さんを引き込める歌にしたいとう気持ちがありました。
――特に歌っていて「ここが好き」という部分は?
七海 サビの英詞の部分はレコーディングでも力を入れました。みんなの耳に一番残る部分だろうと思ったので、そこは伝わることをかなり意識して歌いましたし、「蹴り上げる」というところでも本当に地面を蹴り上げるような気持ちで、歌声で感情が届くようにマイクに向かいました。レコーディングのときには歌がマイクから外れてしまうんじゃないかっていうくらいの勢いでした(笑)。
――そんな彼らの旅路を思わせる1曲ですが、MVは非常にハードボイルドな展開のある映像となっています。こちらはどういった想いで制作されたのでしょうか。
七海 ソウルフルなMVにしたいなと思って、制作スタッフの皆さんと色々相談しながら作りました。当初は、歌うシーンをメインにして、サブカットとして、ミッションをクリアして行くようなシューティングゲーム実写版映像をイメージして撮影しようというかたちで進んでいったんです。サバイバルシーンの話になった時に、制作スタッフさんが「キャスティングはこの方たちを考えてます」と言われた時に、「え!?私やらないんですか!?」、「え!?サバイバルするんですか!?」という問答があって(笑)。演技シーンがあるなら、絶対自分が参加したいと伝えたところ、それならサバイバルシーンをメインにしようとなり、今回のMVになったんです。とやるからには、命を懸けて戦う私を見てもらおう、そこに魂を感じてもらおうという気持ちで作ったMVです。でも「これは本当にMVの撮影なのか?」と言いたくなるくらい本格的なアクション映像の撮影となっています(笑)。
――本当に、本格的なアクション映画かと思いました!
七海 MVでは歌に合わせて口を動かすリップシンクをやりますが、最初の1時間くらいでリップシンク撮影自体が終わって、そこからあとの時間をかけて私がサバイバルするシーンを撮影したんです。それがすごく大変で、撮りながら「MVの撮影ってこんなんだったっけ!?」という気持ちになってきちゃったんですけど(笑)、出来上がりとしては今までで一番かっこいい映像になったなと思いました。エキストラの皆さんが、撃って隠れるときにも「今、命を懸けて撃っています!」って言ってくださって。皆さんが熱を受けて、リーダー役でもあった私の役者魂にも火がついたことでエンジンがより強く掛かった撮影でした。
――撮影のときにもご自身の曲を聴いていたかと思いますが、改めてどんな曲だと感じられましたか?
七海 歌うシーンの撮影のときだけ曲を流していて、戦闘シーンでは流していなかったのですが、それでも頭の中でひたすら「It’s My Soul」を再生していました。特に、一生懸命走ったり、階段を駆け上がったりする大変なシーンは、頭の中で反芻していました。ました。そのときの衣装が本格的なサバゲーの衣装でしたし、装備もしっかりつけていたのでかなり重量があったんです。銃も結構な重量で。それを持って1日中、ドローンも飛ばしながら、懸命にアクションを重ねたんです。それも撮影の最後のほうだったのですが、撮影が終わったときには達成感がありましたし、この曲を心と頭で流していると、体力の限界にきているときでも力が湧いたんです。自分が何かをやらなければいけない瞬間や戦わなければいけないときに聴くと、きっといい結果をもたらす曲だと思います。ジョギングや腹筋のお供にもなる1曲です。
――そんな『Helck』で七海さんはヘルクと関わりの深いエディルを演じられます。エディルとしての気持ちと、「It’s My Soul」を歌うときの気持ちに違いはありましたか?
七海 レコーディングのときはヘルクの世界を俯瞰で見て、ヘルクたちをイメージしながら歌っていました。ただ時折、エディルを演じる自分が、『Helck』の演者の皆さんのお芝居を見て感じたことを意識してレコーディングをした瞬間もありました。皆さんが演じるキャラクターを感じたからこそ臨場感を持って歌うことができたと思います。その気持ちを胸に歌うことができたことは曲の表現にも繋がっていったと思っています。
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