作曲家の俊龍が様々なクリエイターとコラボレーションを行う音楽プロジェクト・Sizuk。2023年に本格始動して以来、アニメタイアップ曲を含め色んなタイプの名曲を届けてきた本プロジェクトが放つ新たな一手、それが俊龍の過去の提供楽曲を自らカバーする試みだ。今回の4thシングルでは、茅原実里が2008年に発表した「蒼い孤島」をセルフカバー。歌うのは、1stシングル「Dystopia」、2ndシングル「anemone」でも歌唱を担当した、ロックバンド・AliAのボーカリストでもあるAYAME。畑 亜貴の作詞による情熱的な想いを昇華した名曲がどのように表現されたのか。AYAMEに話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回のニューシングルはSizuk初のカバー楽曲ということで、AYAMEさんはそのお話を最初に聞いたとき、どう思われましたか?
AYAME 実はこのプロジェクトが始まる当初から、カバーもやるかもしれないというお話は聞いていたんです。でも、いざ自分が本当にカバー曲を歌うことが決まったときは、ちょっとプレッシャーを感じましたね。私は今までソロで路上ライブをやっていた頃とか、たまにAliAのアコースティックライブでカバーを歌うことはあっても、音源として残る形でカバーをやらせていただく経験はなかったので。オリジナルへのリスペクトと自分の歌とのバランスをどうするべきか、色々考えながら向き合いました。
――しかも今回カバーされるのが、茅原実里さんが2008年に発表された、アルバム楽曲ながらもファン人気の高い名曲「蒼い孤島」ということで。AYAMEさんは元々この楽曲のことはご存じでしたか?
AYAME 茅原さんのことはもちろん存じ上げていたのですが、この楽曲は今回初めて知りました。ただ、この時代の楽曲はすごく好きなので、お話をいただいて原曲を聴いたときから、「初めて聴いた楽曲」という感じがしなくて。
――「この時代の楽曲」というのは、2000年代後半辺りのアニメや声優周りの音楽ということでしょうか。
AYAME はい。でも私自身、その当時からリアルタイムでアニメの楽曲を聴いていたわけではなくて、実は大人になってからアニメという文化で青春を始めたタイプの人間なんです。だから「懐かしい」というよりは、「この音楽好き!」みたいな気持ちでした。
――大人になってからアニメが好きになったのは、どんなきっかけで?
AYAME 友達からの影響と、あとはAliAのメンバーは私以外みんなコアなアニメオタクで、アニメ音楽にすごく影響を受けているんですよ。私はバンドに誘われるまで、アニメは『ONE PIECE』くらいメジャーなものしか観たことがなかったんですけど、メンバーに色々教えてもらうようになってからは、「あれ?アニメって最高じゃん!」ってなって。気づいたらコミックマーケットとかにも行くようになっていました(笑)。
――AYAMEさんがパーソナリティを務めているラジオ番組「SESSION!~AYAME EDITION~」でも、好きなVTuberのお話をよくされているので、結構色々お好きな方なのかなと思っていましたが、だいぶ沼にハマっているじゃないですか(笑)。
AYAME 沼にしかハマってないですね(笑)。昔は大人になりたくないって思っていたんですけど、今は大人って楽しいなと思っていて。だって欲しいものがあったら自由に買えるじゃないですか(笑)。なので今、青春してます。
――前回の俊龍さんとの対談インタビューのときに、「趣味で色んなアニソンを歌う」とおっしゃっていましたが、アニメ絡みではどんな楽曲が好きなのでしょうか。
AYAME 作品で言うと『けいおん!』から『ラブイブ!』シリーズまで色んな楽曲が好きなんですけど、元々アニメを知る前からLiSAさんに憧れていたので、私の一番のルーツはそこにありますね。それとEGOISTさんもAliAで活動していくうえでトリガーになっていて。それこそ私は『PSYCHO-PASS』が世界で一番好きなんですけど、ああいうどこか仄暗いけど美しくてキャッチ―な世界観を、私のフィルターを通してライブで表現したいなと思いながらAliAで活動しています。ほかにもMay’nさんの「Belief」みたいに、激しくて疾走感のあるオープニングにピッタリな楽曲が好きで。そういえば高校の頃に文化祭でバンドを組んで、友達に薦められて「God knows…」(TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』挿入歌)を歌ったことがあるんですけど、そのときから兆候はあったのかもですね。
――AliAでは先日「animation」というタイトルの新曲も発表されましたが、バンドでの活動自体もアニメ音楽からの影響が濃いんですね。
AYAME メンバーもEGOISTさんには影響を受けているところがあるし、あとはCö shu Nieさんにも影響を受けています。ただ、私が結構パワー系というか明るい系のボーカリストなので、そこはうまく演じたり切り分けながら歌っていますね。
――その意味では、Sizukでの経験からのフィードバックもあるのではないでしょうか。AliAでの活動とはまた別の角度の楽曲を歌われているので。
AYAME これはもう俊龍さんのおかげでしかないんですけど、Sizukの活動は自分が知らなかった自分を出してもらえるのが本当に楽しくて。毎回、楽曲をいただいてから練習したり歌っていると、「あれ?ここはどうしたらいいんだろう?」という疑問があるんです。「Dystopia」のときも、最初に自分の頭の中にあった歌のイメージとは違って、「もっとこういう感じで」みたいなお話を俊龍さんとしたんですけど、そうやって今までの自分にはなかった引き出しを引っ張り出してくれるんですね。AliAでは自分が思ったことを出せばそれでいいけど、Sizukの場合は、俊龍さんが思い描くビジョンに自分がついていく作業というのが必要で。大変だけどそこにやりがいを感じますし、完成した音源を聴くと自分とは思えないような表現になっていたりするので、それがすごく楽しくて。スタッフさんもみんな温かいし、大好きな現場です。
――今回、「蒼い孤島」をカバーするにあたり、まずは楽曲と向き合う作業を行ったと思うのですが、改めて楽曲の印象について詳しくお聞かせください。
AYAME ストレートな恋愛感情を描きつつ、ちょっと大人な世界観で、茅原さんの歌声からも「あなたにすごく会いたいんです!」という感じではなくて、「会いたいんだよね……」みたいに抑えきれない本音が出てしまったような感情を感じるんですよ。「え!?そんなこと思ってたの?キュン♡」ってなる感じというか。でも私自身は、誰かを好きになると「会いたい!大好き!幸せ!」ってなるタイプの人間なので、この楽曲の絶妙なバランスをどう表現すべきか考えさせられましたね。「私ならどう歌おう?」って。それがプレッシャーでもあったんですけど、俊龍さんがレコーディングのときに「自分のフィルターを通して表現してくれたらいいよ」とおっしゃってくれたので、肩の荷を下ろして歌えた気がします。
――レコーディングでは俊龍さんを含む周りのスタッフとディスカッションしながら歌の方向性を決めていった感じでしょうか?
AYAME 私もそうなるだろうなと思って臨んだんですけど、意外と「もっとこういう感じで」というのがなくて自分でも驚きました。それこそサビの“闇の美酒より深いのSeabed sign”は「私には美酒は似合わないしなぁ」と思いつつ(笑)、まず自分で何個かアプローチを考えて、それを1テイクずつ重ねて、その中からいいものを選んでもらうやり方だったので、全体的にすごくいい感じでブラッシュアップしていくことができて。今までSizukでやってきたものがあっての今回だったので、それが良かったのかなと思います。
――これまでの楽曲で開けてもらった自分の新たな引き出しを活用できたわけですね。
AYAME はい。特に「anemone」での経験が大きくて。「anemone」は本当にそれまでの私の範囲外だった曲で、ファルセットをたくさん使ったし、感情を抑えに抑えて歌ったんです。そうしたら、俊龍さんいわく、「感情が溢れ出すギリギリの絶妙なバランス」を表現できているとおっしゃってくださって。「蒼い孤島」もまさにそういう部分が必要な曲だと思うんですね。それと「anemone」では「大人になった自分の気持ち」を意識して歌ったんですけど、「蒼い孤島」も普段の自分より年齢感を背伸びしない歌えないと思ったので、低音を意識していつもよりトーンを下げるような歌い方にしました。そうすると大人っぽく聴こえるので。あとは「anemone」より感情的な楽曲だと思ったので、サビでは「Dystopia」のときのエッジ感を少し出したりして。自分の中で今までの経験を色々セレクトしながら、足し算・引き算して歌いました。
――今回のAYAMEさんの歌を聴いたときに、1曲の中で感情のメリハリがしっかりと表現されていて、内に秘めている想いがどうしても抑えきれずに溢れてしまうようなストーリーが見えたんですよね。
AYAME 自分が思い描いていた通りに伝わっていて嬉しいです!1コーラスだけを聴く人もいると思いますけど、今回は全体をツルッと聴いたときのストーリー性を大事にして歌ったので。
――ちなみに、原曲へのリスペクトの意味を込めて、茅原さんの歌唱スタイルを意識したところはありましたか?
AYAME 私はロングトーンで声の揺れる幅が大きいタイプのボーカリストなんですけど、茅原さんはストレートにロングトーンを歌っている印象だったので、私もそれを意識して歌いました。この曲、高音のロングトーンがあるんですけど、茅原さんはそこも力押しで声を張って歌うのではなく、ちゃんと声に芯があるまま歌われているのがすごくて。私は普段、ガンガンいっちゃうタイプなんですけど、茅原さんみたいに安定感を感じさせる歌い方にしました。
――それ通りに歌おうと思って歌えるものでもなさそうですが。
AYAME めちゃくちゃ難しかったです(笑)。今思い出しましたけど、俊龍さんが、この曲がリリースされた当時はアニソン激戦時代だったから、俊龍さんもすごく気合いを入れて作った楽曲の1つで、茅原さん自身も「ここから絶対に頑張りたい!」という熱意も込めて歌っていた、というお話を聞いて。なので「決意」や「力強い意志」みたいなものも、裏テーマとして頭の中にありましたね。
――その意味では、特にラスサビの歌唱がパワフルで圧倒されました。
AYAME あそこは失礼ながら自分全開でいきました。歌詞の内容も含めて、「ラスサビはいいでしょ!」と思ったので。1サビと2サビも表現の仕方を変えていかないと、聴こえ方が変わってしまうような歌詞なので、その意味ではストーリーや情景の移り変わりも絶妙ですよね。本当に素敵な歌詞だと思います。
――作詞は畑 亜貴さんですからね。歌詞で印象的な部分を挙げるとすれば?
AYAME さっきもお話しした“闇の美酒より深いのSeabed sign”は、ほかの誰にも書けないと思います!これは多分ですけど、畑さんは茅原さんのことを見て歌詞を書いているから、すごくマッチしているんだと思いますし、だからこそ、最初は「私はこの言葉をどう歌えばいいんだろう?」っていうのがすごく気になってしまったんですね。私もAliAで歌詞を書くので感じるんですけど、「これは茅原さんだからこそ歌える歌詞だよなあ」と思って。きっと私からは出てこない言葉がたくさんあるんですよね。この歌詞は一生忘れないと思います。
――改めて、完成した音源を聴いたときの感想はいかがでしたか?
AYAME Sizukでは毎回思うんですけど、今回もいい意味で、自分じゃないですね(笑)。自分の声って音源になるとちょっと圧縮されて聴こえるんですけど、それが今回は感情がいい感じに収まった聴こえ方になっていて、生で歌うより良くなった気がします。すごくきれいなところも、いい意味でSizukっぽくなったなと思っていて。そこがまたオリジナル版との違いにもなっていると思いますし、毎回ミックスとマスタリングには驚かされています。
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