“Under149cm”の小さなアイドルたちの物語を描くTVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」(以下、「U149」)。その最終話、U149のメンバー9人のステージデビューを飾った新曲「キラメキ☆」を書いたのが、作編曲家・キーボーディストの渡部チェルだ。関連シリーズの楽曲に多く関わり、今回のTVアニメでも第1話EDテーマ「よりみちリトルスター」、古賀小春(CV:小森結梨)の初オリジナル曲となった第7話劇中歌「アイム・ア・リトル・プリンセス~お星さまにお願い~」を含む3曲を書き下ろした彼に、それらの制作エピソードと「U149」に対する情熱を語ってもらった。
【特集】TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」が彩る夢のステージを紐解く!
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
――まずは「アイドルマスター シンデレラガールズ」シリーズとの出会いについてお聞かせください。
渡部チェル 「アイマス(アイドルマスター)」という意味では、2008年に『THE IDOLM@STER MASTER LIVE』シリーズで2曲だけ編曲をやっていたのですが(秋月律子「9:02pm(REM@STER-B)」と如月千早「GO MY WAY!!(REM@STER-B)」)、「シンデレラガールズ」に関しては「私色ギフト」(TVアニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第17話EDテーマ)が最初でしたね。そのあとに「流れ星キセキ」(第25話挿入歌)も採用していただいて。それまでにも総選挙曲のコンペとかには参加していましたが。
――当時は「シンデレラガールズ」というコンテンツにはどんな印象をお持ちでしたか?
渡部 とにかくアイドルの多さに驚いたのが第一印象でしたね。当時、アニメの第1クールのコンペから参加していたのですが、中心人物だけでも14人いたじゃないですか。しかもアニメを観ていたら、それ以外のアイドルもバンバン出てきたので、これは大規模なコンテンツだなと思いました。
――「私色ギフト」は、城ヶ崎莉嘉(CV:山本希望)、諸星きらり(CV:松嵜 麗)、赤城みりあ(CV:黒沢ともよ)から成るユニット・凸レーションと城ヶ崎美嘉(CV:佳村はるか)が歌う楽曲でしたが、彼女たちが歌うことを前提に制作した楽曲だったのでしょうか。
渡部 そうです。コンペの際に各ユニットの雰囲気と誰が歌うかは明示されていたので。凸レーションの場合は、「大人への一歩を少しずつ上っている」みたいなテーマ性が提示されていて、それに沿って作りました。その頃は個人的に作家仕事の調子が良くない時期で、このままだと“過去の人”になってしまうという危惧があって、自分の中に焦りがあったんです。でも、「私色ギフト」が発表されたらSNSですごく反応をいただいて。自分は今55歳なのですが、この年でもまだアニメ・ゲームコンテンツの最前線で仕事をさせていただけているのは「シンデレラガールズ」のおかげという意識があるので、すごく感謝しています。
――TVアニメ以降も「シンデレラガールズ」シリーズでは数々の楽曲を手がけてらっしゃいますが、今回アニメ化された「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」(以下、「U149」)のアイドルとも縁が深いですよね。凸レーションの赤城みりあはもちろん、櫻井桃華(CV:照井春佳)のソロ曲「ラヴィアンローズ」(2015年発売)も提供されていて。
渡部 そうですね。元々SNSとかでも「U149」のマンガが大好きと公言しているのですが、それも心を惹かれた最初のきっかけは、TVアニメの第17話に出てきた「とときら学園」(劇中に登場するテレビ番組)のメンバーが「U149」のメンバーとほぼ重複していたからなんです。あと自分は元々マンガ好きで、「シンデレラガールズ」のコミカライズ作品も全部揃えているくらいなのですが、そのなかでも「U149」は、ファンの間でもよくスポ根と言われるくらい、少年漫画的な壁を越えていく熱さみたいなものが描かれているので、読み始めてすぐハマりました。全部初版本で通常版と特装版を揃えています(笑)。
――同コミックの7巻の特装版付属CDに収録された、龍崎 薫(CV:春瀬なつみ)の初ソロ曲「ひまわりマークをさがせ!」(2021年発売)も渡部さんが作編曲を手がけていますが、これは日本コロムビア音楽プロデューサーの柏谷智浩さんに直談判したのがきっかけらしいですね。
渡部 忘年会のときに柏谷さんが「楽曲を書きたいアイドルがいたら聞きます」って言うので、いの一番で言いました(笑)。薫に関しては、TVアニメの第17話で初めてキャラクターボイスが付いたんですよ。そのときに桃華も同時に声が付いたのですが、桃華にはすでにソロ曲を書いていたので、薫もどうしてもやりたくて。それと5thライブ(“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!”)の石川公演2デイズのときに、しゅがー(佐藤 心)、森久保(乃々)、(宮本)フレデリカ、薫の4人で「私色ギフト」を歌ったときがあったんですね。初日でそのことを知って、気になって翌日の公演をライブビューイングで観たら、ものすごく衝撃を受けまして。自分はアニメでキャラソンを作り続けてきたので、オリジナルの歌唱者に対するこだわりがあったのですが、そのこだわりを全部破壊してくれたんですよ。これが「シンデレラガールズ」なんだなって思いましたし、その時の薫のパフォーマンスはものすごく印象的でした。
――オリジナルとは別のアイドルが歌うことで、また新しい可能性が広がっていくという。念願が叶って制作された「ひまわりマークをさがせ!」は、TVアニメ「U149」の第9話、薫のお当番回のEDテーマにもなりました。
渡部 自分に決め打ちで発注をいただいたときは、大体2パターンの楽曲を提出するんですけど、先にこの「ひまわりマークをさがせ!」ができて、ちょっと明るい成分ばかりに振りすぎたかなと思って、薫のがんばり屋さんなところにフォーカスした、もう少し落ち着いた感じのミュージカルっぽい曲も作ったんです。ただそっちは年齢感が少し高いかなということで、結果「ひまわりマークをさがせ!」になりました。薫の無邪気な部分を特徴的に出したかったんだと思います。
――そのように「U149」には並々ならぬ思い入れをお持ちだったわけですが、TVアニメ化を知ったときはいかがでしたか?
渡部 コンペの募集で知ったのですが、メールの題名に「U149」とあって、「まさか」と思いながら中身を確認したら、固まってしまって。すぐさま廾之さん(コミック版「U149」の作者)に嗚咽みたいなLINEをしたら、「情報行きましたか」って冷静な返事が戻ってきて我に返った覚えがあります(笑)。そのくらい自分の中でも相当な喜びでしたね。
――第1話のEDテーマ「よりみちリトルスター」の作編曲を担当されましたが、こちらはコンペだったのでしょうか。
渡部 はい。そもそも全体のEDテーマのコンペで作った曲なので、第10話から使われている「グッデイ・グッナイ」と同じテーマで作られているんですよ。一日が終わって今日も楽しかったね、明日も頑張ろうっていう。だから第1話の特殊エンディングで使われることはまったく想定していなくて。なぜそうなったのか、岡本(学)監督にお会いする機会があれば聞いてみたいですね。
――この楽曲のコンペにかけた想いについては、ツイッターでもつぶやかれていましたね。「もうなにがなんでもこれは獲らねばならないと思い全てのアイデアを絞るつもりで毎日そればかり考えてました」と。
渡部 とにかく今まで持ってきた「U149」に対するイメージやアイデアを全部つぎ込もうと思って。そのツイートにも書きましたが、今までの「アイマス」アニメのEDテーマで一番好きだった「夢色ハーモニー」(TVアニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第2クールEDテーマ)にインスパイアされた部分があって、イントロに似たフレーズが入っていたり、特に楽曲の構成や転調の仕方は同じようなやり方を踏襲しているところがあります。あの楽曲、ABメロのキーは「一日の終わり」みたいな感じで、今回のテーマにも即しているんですけど、サビの頭で突然転調して、いわゆるエモい楽曲になるんですよ。で、そこから4小節やったらまた戻って、4小節やったらまた同じところに転調する。しかも楽典的には属調と呼ばれる、比較的自然な感じで転調できるやり方を使っていて、それであそこまでガラッと雰囲気を変えていることにすごく感心して、自分もその方法論をいつか使いたいなと思っていたんです。なので「よりみちリトルスター」は、サビに入る10小節前、Bメロの真ん中から属調に転調して、そのままサビにいって、サビの後半で元に戻る、「夢色ハーモニー」に近いやり方を導入しました。
――歌詞に関しても、コンペの時点で朝倉 路さんに書いてもらって、その歌詞に対してご自身も要望を出されたと、同じツイートでつぶやかれていました。
渡部 普段はコンペの歌詞にそこまでこだわることはないのですが、このときばかりはこだわりを発揮しました(笑)。1番のサビにある“きらめき集めたら 夢にしよう”というフレーズが、メロディと言葉のノリが上手くハマってすごくキャッチーだなと思ったので、「次の行の歌詞もこれに準ずる形に」とお願いした結果“虹の橋かけたら 飛びこえよう”というフレーズになりました。なにしろどうしても獲りたいコンペだったので、少しでも自分が「いいな」と思ったことを取り入れたくて。
――サウンド面で言うと、まさに“きらめき”を集めたようなキラキラ感もそうですし、リズム隊の躍動感ある演奏も本楽曲の魅力だと思います。ベースは田辺トシノさん、ドラムは佐野康夫さんが担当されていて。
渡部 そこをわかってもらえて嬉しいです。自分が作った「シンデレラガールズ」楽曲でドラムとベースを生で入れるときはこの2人にお願いしていて。余談ですが、佐野さんとは若い頃に一時期、フュージョンバンドを一緒にやっていたんですよ。当時はお互い食うや食わずのミュージシャンだったのですが。それから10年近く経ってたまたまスタジオで再会してから、生ドラムが欲しいときはよくお願いしています。この曲でも、デモの打ち込みドラムより30倍くらい躍動感のある演奏をしてくれました(笑)。
――それとフルバージョンでは、2番以降の展開がまた変化しますよね。
渡部 今回は1番のサビ前にある“だいすき”のところが、2番では“あの宇宙(そら)へ”になって、そこから間奏に入るというアイデアが最初にあったので、2番はAメロBメロから間奏に行って、そこからサビに行って終わり、という構成はフルサイズを作り始めたときから決めていました。ただ、今どきは楽曲の要素的にABCDくらいまでないと物足りないという風潮があるので、1番と2番の間に長めのDを入れて。その後の2番のA→B→間奏→サビのあとにもう1回サビを入れたくなかったので、Dメロは長めにして、転調もかまして雰囲気が変わる感じにしました。
――あのDメロ部分の転調は、歌詞の印象もあって、U149メンバーの遊び足りない気持ちがグッと伝わってくる気がしました。
渡部 あそこはちょっと引っ張られるような感じになりますからね。ここはサビのときの転調とは違って、同主調の平行調という、同じ主音の調のメジャーからマイナーに転調しそれと同じ音を使うメジャーキーに移るテクニックを使っているのですが、それをやることで属調に転調するよりもさらにカラーが変わる雰囲気が出るんです。歌ってくれたキャストの皆さんもあの部分が好きと言ってくれる人が多くて、ちょっと意外だったけど嬉しかったですね。
――その意味ではTVバージョンだけでなく、ぜひフルバージョンも聴いてほしい楽曲だと思います。
渡部 自分の中では、テレビでかかる楽曲はテレビでかかる部分で完結しなくてはいけない感覚があるのですが、今回は、デモよりも尺を縮める必要があったので、イントロを短くしたり、結構ギリギリな感じになってしまったなと思っていて。その意味では「デレステ(アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ)」のサイズ(GAME Version)が、自分の中では理想のイメージなんですよね。あれがいわゆる最初に作った、自分の中で確定した形だったんです。2Dリッチの映像もすごいですよね。自分は音ゲーが苦手なので、ゲームをしながらだとろくに映像を観られないのですが(笑)。
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