TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」(以下、「U149」)の第11話「大人と子供の違いって、なに?」が放送された。本コラムでは「U149」の物語や音楽、アイドルたちの魅力を追いかけていく。
【特集】TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」が彩る夢のステージを紐解く!
TEXT BY 中里キリ
第1話でも描かれた橘ありすの心象世界。
『大人と子供のちがいってなーに?』
の問いかけに、「大人は……泣かない……」とありすが独白して物語はスタート。ありすが思うサブタイトルの答えがそのまま今回のエピソードのテーマになるようだ。
カメラは変わって、部長、次長、課長と我らがプロデューサーが同席する居酒屋へ。第3芸能課のデビューが決まった祝いの席らしく、卓上には尾頭付きの煮魚が並んでいる。プロデューサーを見つめる部長の眼差しも今となってはどこか柔らかく、彼らも会社で決まったことには従う一会社員というところだろうか。
表面上は和やかな飲み会だったが、アルコールが入ったプロデューサーは何か納得のいかないことがある様子。“U149”……会長肝いりで決まりかけている、第3芸能課のアイドルたちのユニット名についてだ。子供、低身長というラベルを貼ることに抵抗がありそうなプロデューサー。言うまでもなく「U149」は原案コミックとアニメを通じた作品名であり、作品コンセプトでもある。そこにプロデューサーが物申したい様子なのには驚いたが、アイドルたちの“今”という時代を定点観測している我々(U149のアイドルは、基本的にU149のまま)と、子供たちの将来に責任を持つプロデューサーでは見え方がまた違うのだろう。プロデューサーにとって、子供たちはあっという間に大きくなり、大人に育っていくべき存在なのだから。アイドルたちに対するユニット名のお披露目の場でも、櫻井桃華が「私、もう少ししたら150cmになってしまいますわ」と改めて世界の中にいる彼女たちの視点を示している。いずれにしても、アルコールで据わった目で上司たちに向けて大声を出すプロデューサーの振る舞いは“大人”とは言えないものだった。上司と部下の間を取り持ったであろう課長の胃が心配になるところだ。
デビューに向けて、アイドル全員の両親とプロデューサーが面談を行なうことになった第3芸能課。芸能で子供を扱うだけに、そこはきっちりしているようだ。みんなが面談の予定や両親の応援を楽しそうに話すなか、唯一面談予定が空欄だったのがありすだ。時間がかかりながらもようやく面談の予定が取れたありすの両親だったが、いざプロデューサーと対面してみると、何か話が噛み合わない。ありすはアイドルデビューが決まったことを両親に伝えられていなかったのだ。
面談の日を決めなければいけないリミットはあるけれど、どうしても両親にデビューについて話すことができない。結果ありすにできたのは、詳細を話さないままに面談の日を決めることだけ。実際に両親とプロデューサーが対面すればすべてが明らかになってしまうのに、言い出せない。いよいよ面談の日を迎えて追い詰められたありすは、事務所から逃げ出してしまう。子供の、子供ならではのその場しのぎ。
彼女の心象を示すように雨が降りしきるなか、ありすが街を彷徨うシーンで流れるのは「in fact」。8年前に発売された「THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 036」に収録された彼女の最初のソロ楽曲だ。技を感じたのは楽曲の繋ぎ方で、1番から2番へとフレーズを選びながら繋いでいくことでこのシーンだけの、今のありすの心情を示す詞と曲へと昇華させているのが見事だった。心象の中で、金魚鉢に閉じ込められて荒海を行くありす。それでも、いつか雨は止むし、歩き出さなければいけないときが来る。
あてもなく歩き出したありすは、アイドルとして一番楽しい思い出の場所であろうライブを行なった事務所の屋上に立っていた。プロデューサーがそのことに気がついたのは、天啓だったのか、思いつく限りの場所を走り回った結果だったのか。
屋上で向かい合って、想いを吐露するありす。無理に大人になろうとしているありすの在り方を示すような硬質な声音が胸に痛い。両親が大好きだから、両親の期待に応えられないことが怖い。嫌われたらどうしよう。両親が自分のことを好きなら、どうしてお仕事ばかりで一緒にいてくれないのか。零れ落ちたのは、そんな子供の本音だった。
その後の叩きつけるようなありすのこれも本音の言葉に、思わず涙を流すプロデューサーの大人らしくない、情けない姿。だが涙が止まらないくらい本気のプロデューサーの想いが、ありすの心を動かしたのかもしれない。この辺りの心情と2人の関係性が、先ほどの「in fact」であえて歌わなかった“あなただけはいつでも目をそらさず 見つめてくれた”から始まるくだりにも重なった気がした。
結局プロデューサーの“大人”としての言葉はすべては届けられずじまいだったが、その想いはありすにも、やり取りを聞いていたであろう両親にも伝わったはずだ。ありすが秘めていた普通の子供としての想いも。
橘家のリビング。ようやく持てた親子の語らいの場で、ありすはアイドルが好きであること、アイドルがやりたいと夢を伝える。ありすの母も、娘に嫌われるのが怖くて踏みこめなくなっていたことを語る。きっと、似た者親子だったのだろう。万感の想いを込めた「ただいま」の言葉と共に、わかりあえた夜は更けていった。
翌日、何事もなかったように歩む第3芸能課の面々。階段を上がるありすからプロデューサーに伝えられたのは、
「(呼び方は)ありすでいいです!」の言葉だった。
子供も大人も、本当は一緒だから。それは輝くような信頼の笑顔だった。
EDテーマは「to you for me」。「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 27 Vast world」に収録された橘ありすの2曲目のソロ楽曲であり、「in fact」に対するアンサーとも言うべき、小さな一歩を踏み出した先にある楽曲だ。2つの大切なソロ曲を軸に組み立てた、上質な映画を見たような視聴後感の物語だった。
●作品情報
TV アニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ U149」
原作:バンダイナムコエンターテインメント
原案:「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」 廾之(サイコミ連載)
【スタッフ】
監督:岡本学
副監督:高嶋宏之
シリーズ構成:村山沖
アニメーションキャラクターデザイン:井川典恵
コンセプトアート:大久保錦一
デザインワークス:
野田 猛 小田崎恵子 中村倫子 渡部尭皓 槙田路子
美術設定:曽野由大
高橋武之 金平和茂
美術監督:井上一宏
色彩設計:土居真紀子
3DCG:石川寛貢 榊正宗 神谷宣幸
撮影監督:関谷能弘
編集:三嶋章紀
音響監督:岡本学
音楽:宮崎誠 川田瑠夏 睦月周平
音楽制作:日本コロムビア
アニメーション制作:CygamesPictures
【キャスト】
橘ありす:佐藤亜美菜
櫻井桃華:照井春佳
赤城みりあ :黒沢ともよ
的場梨沙:集貝はな
結城晴:小市眞琴
佐々木千枝:今井麻夏
龍崎薫:春瀬なつみ
市原仁奈:久野美咲
古賀小春:小森結梨
プロデューサー:米内佑希
©Bandai Namco Entertainment Inc. /PROJECT U149
TV アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』
公式HP
https://cinderella-u149-anime.idolmaster-official.jp/
公式Twitter
https://twitter.com/u149_anime
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