2023年6月に活動7周年を迎えるシンガーソングライターのナナヲアカリ。今回はリスアニ!ライターで音楽評論家の冨田明宏との対談をお届けする。5月10日リリースの「奇縁ロマンス」の話から始まり、活動7周年を記念したインディーズ作品のデジタル配信、最近の趣味の話まで、ナナヲアカリの人物像にも迫っていく。抜群の歌唱力を持つアーティストでありながら、素顔はただのオタクでもあるナナヲアカリ、その根源にあるものは何なのか?
INTERVIEW BY 冨田明宏
TEXT BY 金子光晴
冨田明宏 今は何か制作をされているんですか?
ナナヲアカリ 今、動き出すよ!のポーズをしてる段階ですね。
冨田 ナナヲさんは、次、誰とどんな面白いことをするのかというのが常に気になる人なんですよ。
ナナヲ 今、まさに「誰と何を」深掘りしたいムーブをしているところですね。
冨田 そこがぶっちゃけ一番楽しくないですか?(笑)
ナナヲ そうですね。何をやっても楽しいんですけど、その中でも「今、何をするか」というのが重要ですね。色々妄想が膨らむというか(笑)。今、わくわくしてます。
冨田 さて、だんだん世の中も元気になってきまして。
ナナヲ ようやくという感じですね。
冨田 とはいえ、ナナヲさんはコロナ禍でもライブを止めずにやっていましたよね。
ナナヲ そうですね。地方に会いに行きたいという気持ちもあったので。でも、昨年10月のライブでは声出しがなかったのが、今回の春のツアーでは声出し解禁になってキャパも全然違って……両極端にあるものを半年で感じたので、春ツアーはよりくるものがありましたね。
冨田 やっぱり違いますか?
ナナヲ 全然違いましたね。見ている人も「3年大変だったよな……」みたいな。「チューリングラブ feat.Sou」も声出しではできていなかったんですよ。それをきっかけで知ってくれた人もいるし、ナナヲのファンって年齢層が低いので、ライブで声を出したことがない子たちが結構多くて、ある意味「令和」をめっちゃ感じましたね(笑)。「ライブで声出したことないんだ!」って。でも、ツアーの後半になるにつれて、ライブ慣れした人たちが声出してくれたので、ギアが上がっていくのを肌で感じられるツアーになって面白かったです。
冨田 ここ3、4年の間でナナヲさんを知ったけれど、ライブには行けなかった若い世代の人たちって、「ライブでアーティストとコミュニケーションをとる」という概念自体がないのかもしれないですよね。絶たれていたものが繋がってきた感じですが、それはナナヲさんがライブをやり続けてきたからだし、発信し続けてきたからこそ、繋がれる関係だと思うんですよ。
ナナヲ 苦しみながらも続けてきてよかったなって、今やっと思えてきている感じですね。
冨田 ナナヲさんのインディーズ時代の楽曲も、コミュニケーション不全であったり、それでも頑張って生きている人々を肯定するメッセージを強く発信していましたよね。そんなナナヲさんが、あえてライブにこだわって、人との直接的な繋がりを大事にしてきた約3年の期間が、僕にはものすごくかっこよく見えるんですよ。
ナナヲ ありがとうございます。
冨田 もちろんやりにくい部分もあったと思いますけど、結局歌う場所を自分で作って、聴きに来てくださる人たちと目と目で会話するというのが一番のアイデンティティだったんだろうなって、見ていてすごく思ったんです。
ナナヲ 嬉しいです。それが伝わっていたらいいんですけど、コツコツ続けていきたいなと思っています。
冨田 改めて、ナナヲさんの「奇縁ロマンス」は、和ぬかさんだったり、100回嘔吐さんだったり、旬なサウンドクリエイターが参加した最高のポップナンバーで、そういう情報だけでも話題性抜群なんですけど、今回聴いてみて僕は「ナナヲさんの歌がすごいんじゃないか」と思ったんですよ。歌の表現力に改めて気付かされて。ふとナナヲさんのTwitterのプロフィールを見てみたら、「歌うことが好きです」しか書いてない。結局、ナナヲさんはシンプルにそこだけの人なんじゃないかなって思ったんですよね。
ナナヲ そうですね。そこだけの人かもしれないです(笑)。それに気付いたのはコロナ禍の後半くらいで、「歌うの好きなだけちゃう?」って(笑)。表面にあるものを色々剥いていって、辿り着いた根源が一番シンプルな「歌うのが好き」の人だよな私、みたいな感じでしたね。
冨田 今回の楽曲でも表現することがすごく楽しいというのが伝わってきました。もちろん、『江戸前エルフ』らしい和の要素があったり、和ぬかさんたちの作る最高にキャッチーな最新鋭のポップスというのがあったりしながらも、歌の情緒を残しながら躍動感を表現する歌唱力がまず耳を引くんです。これはナナヲさんの過去のインタビューなどの文献を紐解いても意外と出てこないんですけど、歌による解釈の引き出し方とか、歌唱表現についてのこだわりがハンパじゃないなって。
ナナヲ そうですね、自分の中で楽しく解釈しています。どうやって歌ったらより楽しいか、より伝わるか、レコーディング前は色々考えるんですけど、「奇縁ロマンス」もいざ歌ってみたらすっごい歌いやすくてシンプルに楽しかったから、自分の中でものびのび感がすごくて、色々試せる楽曲でした。ナナヲの楽曲って、「高い!」「速い!」というのが多いんですけど、それって表現に限界もあるんですよね。でも、「奇縁ロマンス」はたくさん遊べたので、珍しく歌心を感じてもらえる楽曲なのかなと思いました。
冨田 リリースして反響はいかがでしたか?
ナナヲ アニメの反響もすごくて、私も観てるんですけどすごく素敵なんですよね。この時代にすごくほしかったアニメを観ている気がして。日々目に飛び込んでくる社会的問題とか、そういうのにちょっと疲れ切っているときに『江戸前エルフ』を観ると「このアニメありがてぇ」って思うんですよ(笑)。「奇縁ロマンス」という楽曲を聴いて、アニメに合っているだけじゃなくて、「このサビすごくぐっとくるな」みたいなことを感じてくれる人がたくさんいて、ちゃんとこの素敵なアニメと楽曲を通して伝わってるなというのはリリースから少し経った今でも感じますね。今回、アーティスト版とアニメ版でパッケージにこだわってみたんですけど、それも評判が良かったんです。今、CDって集めたくなるものであればあるほどいいなと自分では思っているので、手に取る理由になっていると思うと良かったなと思います。
冨田 これ、パッケージを触ったときの質感も含めてこだわりがすごい。いつまで経ってもCDというモノ自体の価値を最大化してくれているこういう仕様は、やっぱりオタク心をくすぐられるんですよ。
ナナヲ 『江戸前エルフ』は制作陣の愛が強いんですよ。歌詞カードにカエル戦車がいて嬉しかったです(笑)。
冨田 そういうのもこだわって作られてますよね。アニメの制作側と歌い手が想い合ってる感情が、こうやってモノとして形になるというのは理想的なことだなと思います。それは楽曲も含めて感じるところなんですけど、「奇縁ロマンス」の歌詞は、じっくり聴くとすごく泣ける歌詞なんですよね。
ナナヲ そうなんですよね。さらっと聴けちゃうんですけど、グサッとくる人はいるんじゃないかなって。
冨田 制作の中で和ぬかさんとはどんなやり取りがあったんですか?
ナナヲ 『江戸前エルフ』の原作を読んで、自分が歌いたい気持ちとリンクするところがあったので、それをメモにまとめて和ぬかさんにお渡しして、1~2回のラリーでデモは出来上がった感じですね。ナナヲは昔から「変化」を歌ってきて、それは多分自分にコンプレックスが強いからこその「変わりたい」という気持ちだったんですけど、やっと「一歩踏み出す」のも「新しい世界を見てみる」のも意外と悪いことばかりじゃないって思えるようになってきて……まずはリスナーにそういうメッセージを届けたいなって思ったんです。そんな気持ちが『江戸前エルフ』のエルダとシンクロするところがあって、ナナヲの分身であるダ天使ちゃんとエルダって「まんまやん」と思うくらい近くって(笑)。だから、このタイミングでこの想いを歌えたらいいなと思って、和ぬかさんにお伝えしました。そうしたら、言葉遊びもあってキャッチーな感じだけど、でも芯をとらえた楽曲になっていて。めっちゃ歌詞いいなって思いましたね。デモはシンプルだったんですけど、100回嘔吐さんが厚みを出してくださって、完成したという感じですね。
冨田 「一歩踏み出す」というキーワードを、部屋から出るとか、布団から出るとか、自分の限られたコミュニティから出るとか、そういうことで変わってきた現状や環境を経験してきたからこそ表現できると思いました。あえて例を挙げると、“続けることを美徳だとする風潮が嫌でした”という歌詞が特に。
ナナヲ ああ、もうホントにそうですね(笑)。
冨田 でも“嫌でした”は過去形なんですよ。それに対して、“現代に迷う僕と君が 理想を描くために旅立つんだ”は現在進行形。ここの価値観の違いが、過去形と現在進行形で表現されているところに、「今のナナヲさんはこうなんだ」というのが伝わる歌詞で、ナナヲさんを7年間追いかけてきたファンはぐっとくるワードなんだろうなって思います。
ナナヲ そこはナナヲもぐっときたところで、“続けることを美徳だとする風潮が嫌でした”というのは昔めっちゃ思ってたんですけど、なんだかんだ自分も7年歌ってきちゃっているなあというのがあって(笑)。それが美徳かどうかはわからないですけど、7年続けてきちゃっているので、楽しいから歌えてきたんだろうなとは思ったし、この1行はすごく好きって言ってくれるファンの子も結構いて、色んな人の芯をとらえたワードなのかなって思いましたね。
冨田 1つのことを、頑なに、愚直に続けられる人って、純粋に尊敬するしすごいなって思うんですよ。僕はすごく苦手だから、音楽評論や音楽プロデュース、ラジオMCとか、色々なことを仕事にすることで〈飽きる〉ことから辛うじて逃げ続けてきた人生なので(苦笑)。でも改めて聴くと“続けることを美徳だとする風潮が嫌”ということに安易に同調するのではなくて、「今は~でした」というのがこの曲のキモだなと思っていて。実はこういうことを言うのって、勇気がいるんですよね。ある人たちに対しては耳の痛いことでもあるし、ナナヲさんのファンにも様々な考え方の人がいるはずだから。
ナナヲ 前だったらこの過去形になっている部分は歌えなかったと思うんです。でも今回はすっと歌えたので、「時」を感じますね。
冨田 それには色々理由があるとは思うんですけど、何が一番大きいですか?
ナナヲ 発信を止めなかったことで、みんなと繋がっている感覚、ですね。デビューした当初の心持ちのままなら、続けられなかった気がするし、1人だったら辞めちゃってたと思うので(笑)。「続ける理由」になってくれる人がいるっていうのは、やはり大きいと思いますね。
冨田 その一方で、Aiobahn feat. KOTOKO「INTERNET OVERDOSE」のような曲の盛り上がりと、曲の持つメッセージや意味をちゃんとキャッチして、サラッと“歌ってみた”をYouTubeにアップしちゃうフットワークも相変わらずに持っているという。
ナナヲ やっぱりインターネット大好きキッズの心を根底に持ち続けているので(笑)。たしかに、リスナーの気持ちのままの自分もいるんですよね。
冨田 その辺がナチュラルボーンな感じがするんですよ(笑)。
ナナヲ 本当はもっと色々歌いたいんですけど、あんまり節操なく歌うのもアレだなと思って(笑)。
冨田 韓国のトラックメーカーであるAiobahnさんと、美少女ゲームソングや電波ソングのレジェンドであるKOTOKOさんによる、ある意味では結構高度な批評性も含まれているああいう曲に、ちゃんとビビッドに反応できる感じ。このナナヲさんのバランス感覚ってやっぱり普通じゃないと思うんですよ。しかもそれがすごく自然で、「今のマインドとしてはこうだよ」というシンクロ感を表現できるのって、ナナヲさんしかいないなってすごく思うんですよ。アンダーグランドにだっていつでも「ただいま」できるし、それがちっとも嫌みじゃないというか。
ナナヲ ナチュラルボーンにオタクしてますもんね(笑)。
冨田 そういう芯のあるオタク的なマインドと、アーティストとしてすごい表現力を持っている部分が乖離していないんですよね。それはナナヲさん独自のものだなって。
ナナヲ たしかに不思議ですね。ここまでナチュラルボーンオタクアーティストはあんまりいない……まあ、自分で言うことではないかもしれませんけど(笑)。
冨田 インターネットの混沌とした海から自然発生した感じ(笑)。ご自身の成長をちゃんと音楽として表現することもブレてないんですけど、この曲はどの曲とも似てなくて、圧倒的に新しい。サビもめちゃめちゃキャッチーで。あと、今回のMVも本当にすごいですね。
ナナヲ すごいですよね。あれは十八番茶さんにお願いしたんですけど、ネットサーフィンをよくするので、インディアニメのタグを漁るのが好きなんですよ。
冨田 #indie_anime。あのこむぎこ2000さんのやつ、僕も大好きでずっと前からチェックしています。めちゃくちゃ面白いですよね。
ナナヲ あれ一生見れちゃいますよね!すごく画期的なハッシュタグですよね。その流れでYouTubeを色々見ていたら、「なにやってもうまくいかない」のリミックスのMVを見つけて、「この人やば!」と思って調べたら、あれが十八番茶さんの初作品らしくて、「えっ、何者!?」と思ってずっと密かに見てたんですよ。それで、今回の「奇縁ロマンス」が『江戸前エルフ』のタイアップということで、「和じゃん!……絶対お願いしたい人がいるんですけど!」って(笑)。そうしたら、たまたまナナヲアカリを聴いてくれていたらしく快諾していただけて、制作期間1年くらいでお一人でやってくださいました。最初、絵コンテが送られてきたんですけど、枚数が多すぎて1人でできる量じゃなかったので、「素敵だけど、ここからカットされるんだろうな」って思っていて。そしたら……なんと、超えてきたんですよ(笑)。ご覧になってわかると思うんですけど、枚数えぐいじゃないですか。
冨田 あれをお一人で!?
ナナヲ そうなんですよ。本業はアニメ制作ではなく別のお仕事で、昼は仕事、夜に映像制作をされているらしいです。
冨田 へぇー!
ナナヲ ナナヲを含めたネットミュージックが好きで元気をもらっていたから、還元したいと思って、「アニメーションでも描いてみようかな」と2年間独学されたそうです。
冨田 2年であれができちゃうんだ。
ナナヲ 何をやったら2年であれができるんだろって(笑)。今回のMVもナナヲのサブチャンネルとかインタビュー記事とか色んな要素が散りばめられていて、「えっ、なんでそれも知ってるんですか!?」ってちょっと引くくらい、十八番茶さんの愛の深さを思い知りました(笑)。
SHARE