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INTERVIEW

2023.06.14

haju:harmonicsとは何者なのか? TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2のEDテーマ「Ember」を歌うVシンガーの実像に迫る

haju:harmonicsとは何者なのか? TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2のEDテーマ「Ember」を歌うVシンガーの実像に迫る

現在放送中のTVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2の第2クール、そのEDテーマ「Ember」を歌唱するのが、実力派バーチャルシンガー(Vシンガー)として注目を集めるhaju:harmonicsだ。2022年8月に最初のオリジナル楽曲「≒」を公開して以降、カバー動画を含め立て続けに楽曲を発表して、繊細かつ感情に訴えかける音世界を広げてきた彼女だが、その実像に関しては未だ謎の部分が多い。「白く輝く少女」「ひとつの体にふたつの声が紡ぐ歌」「世界のエンドロール」――これらのキーワードは何を意味し、彼女はどこに向かおうとしているのか。デビューEP「Ember」をリリースするこのタイミングで、haju:harmonicsを運営するhaju:unionに話を聞くことができた。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

「エンドロールの世界」で歌う白い少女の物語

――まずは「haju:harmonicsとは何なのか?」ということをお伺いしたいです。いわゆるバーチャルシンガー(Vシンガー)だとは思うのですが、「二つの声が紡ぐ歌」とはどういうことなのでしょうか?

haju:union haju:harmonicsは“命の二面性”というテーマを持っていて、一貫して「命の美しさと醜さ」について歌ってくれています。そして、命がもつ表裏一体の二面性を表現するうえで生まれたのが「ひとつの体にふたつの声があるVシンガー」です。眼にみえる存在としてはhajuという1人の女の子なのですが、その中に「希望(haju_h)」と「絶望(haju_d)」という2つの面があり、あまり伝えられていないことですが、それぞれを象徴する2人の歌い手が存在しています。よく動画のコメントで「この歌い分けはすごい!」といった評価をいただくことも多いのですが、嬉しい反面、上手くお伝えできておらず、心苦しいです。

――見た目的には1人なので、その先入観が大きいんだと思います。でも、確かに「1つの体に2つの声がある」というのはバーチャル体だからこそできるアイデアですね。

haju:union VTuberの大きな可能性とは、例えば絵が上手な人、声が良くて歌が上手い人、お話しするのが上手い人、その他にも色んな人の才能を集めて、それらの才能が新しい一つの人格を生むことだと思っています。新しい人格が生まれれば、そこに新しい物語が生まれます。hajuには「エンドロールの世界で歌っている女の子」という物語があります。作家さんに楽曲をお願いする際は、そういったバックグラウンドを説明したうえで、その世界観に合う楽曲を制作してもらっています。

――「エンドロールの世界」というのは?

haju:union 詳しいことはまだ公にしていないのですが……簡単に説明すると、こことは違う、ある彼岸の世界で、様々な出来事とともに楽曲が生まれていく、というストーリーになっています。「エンドロールの世界」に関しては、グラフィックデザイナーのパンチさんが、美しい世界観イラストを起こしてくださいました。

――haju:harmonicsのオリジナル楽曲に関しては、その「エンドロールの世界」の世界観に沿って制作が進められているわけですか?

haju:union はい。“命の二面性”がテーマに、曲想の幅は広く作っていきたいと思っています。例えば「老い」や「食べる」といったことも命に関わることですし。あとは作家さん自身がそのときに興味があることを尋ねて、それを取り入れていただいたりもしています。「≒」を書いていただいた澤田(空海理)さんからは、キュートアグレッション(※かわいいものを見ると攻撃的な衝動に駆られること)みたいなものを入れ込んでみたいというお話があったりもしました。作家さんと「そのテーマだとhajuのこういう部分が合うかもしれないです」といったお話をしながら楽曲の輪郭を作っています。

――その意味では、楽曲を制作するクリエイターの皆さんを含めて、haju:unionと言えるのかもしれませんね。

haju:union それは本当におっしゃる通りで、今回のEPで協力してくださった方々も含め、これまで関わっていただいた方全員がhaju:unionという気持ちでいます。「haju:harmonics」は、hajuを取り巻くすべてが集まった体験であるというのは、裏側のコンセプトとして持っています。

『ヴィンランド・サガ』と“命の二面性”で共鳴する歌声

――今回、TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2の第2クールEDテーマ「Ember」で初のアニメタイアップを担当したわけですが、この楽曲はどのような流れで制作したのでしょうか。

haju:union まずスタッフ一同『ヴィンランド・サガ』のファンだったこともあり、コンペのお声がけは本当に嬉しいものでした。今回のアニメで描かれるトルフィンとクヌートの物語は、ある種、haju:harmonicsが表現している“命の二面性”にも通じる部分があると感じたので、そのことを(作詞を担当した)THE CHARM PARKさんに説明したうえで書いていただきました。トルフィンは争いではなく平和を求めていますが、命を救うことは誰かを殺すことにも繋がります。ときには逃げ出して生き延びることが大切かもしれません。それはどちらが良くてどちらが悪いというのではなくて、きれいさの中に醜さがあり、醜さの中にきれいさがあるというような二面性に繋がるのではないか?といったことを話していました。結果、素敵な歌詞にしてくださいました。

――楽曲タイトルの「Ember」は「残り火」という意味です。

haju:union トルフィンもクヌートも1回燃え尽きて今に至っていると思うので、その意味でもキャッチーだし秀逸なタイトルになったと感じます。

――アニメ制作サイドから特別な指定やオーダーはありましたか?

haju:union コンペということで、どういう楽曲にするかは委ねられていました。ただ、アニメスタッフの方々とも相談したこととして、歌に関しては、深みというか強さが感じられる「希望(haju_h)」をメインに、透明感のある声質の「絶望(haju_d)」がサビの高揚感を強調するような構成にしていただきました。haju_hはたくさんの英語詞を歌ってくれましたが……英語詞の歌唱に慣れていなくて本当に大変そうでした(笑)。お疲れ様でした。

――『ヴィンランド・サガ』は生と死が表裏一体にある時代や文化の物語なので、その意味でも、haju:harmonicsの楽曲はしっかりと作品に寄り添うものになりましたね。

haju:union これは原作の幸村(誠)先生が作品の後書きでおっしゃっていたことなのですが、『ヴィンランド・サガ』という作品は、先生の中で「本当のヒーローとは何か」ということを考えて生まれた作品だ、と。肉体的ではなく精神的に強い者こそがヒーローであり、トルフィンがその精神性を獲得するまでとその先の物語を描かれているそうです。今回のアニメではまさにトルフィンが英雄になる過程が描かれているので、観ていて心の強さとは、勇気とは何かを真剣に問いかけられるような気がするんです。その意味で「Ember」も、「本当の勇気」が表現できていたらと思います。

様々なクリエイターが織り成す、haju:harmonicsの音世界

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