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INTERVIEW

2023.06.24

アイを信仰するがゆえに生まれた“究極のアイドル”――TVアニメ『【推しの子】』OP主題歌「アイドル」の制作秘話、ラップ、宗教性、様々な視点から新たなYOASOBIの姿に迫る

アイを信仰するがゆえに生まれた“究極のアイドル”――TVアニメ『【推しの子】』OP主題歌「アイドル」の制作秘話、ラップ、宗教性、様々な視点から新たなYOASOBIの姿に迫る

YOASOBIの快進撃が、止まらない――。今年4月より放送中のTVアニメ『【推しの子】』。同アニメのOP主題歌に起用されている新曲「アイドル」は、4月12日の配信リリース以来、あらゆるチャートを総なめにするなど、社会現象と称して申し分のない盛り上がりを轟かせている。

そんな「アイドル」を収録したシングルが、6月21日(水)に発売された。同リリースを機に、今回は“ラップ”と“宗教性”の切り口から、このビッグタイトルの制作秘話をたっぷりと語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 一条皓太

アイを信仰するがゆえに生まれた、アイとはまた別の“究極のアイドル”

――つい先日、渋谷を歩いていたところ『【推しの子】』の大きな広告掲示を見つけました。新曲「アイドル」もSNSを開けば必ず流れてくるなど、アニメと楽曲、どちらもともに社会現象となっていますね。

Ayase 正直なところ、国内では「絶対に勝つ」という想いでした。それがまさか「アイドル」の勢いが海外まで波及するとは想像もしていなくて。『【推しの子】』の人気に後押しをしてもらったとはいえ、本当にすごいことですよね。

――6月10日付のアメリカを除く「The Billboard Global Excl. U.S.」では第1位を獲得し、日本語楽曲初の快挙というビッグニュースにまで。

ikura 海外のチャートにJ-POPのアーティストがランクインして、しかもそれがほかでもない私たちYOASOBIで。憧れてきたアーティストと一緒に名前が載るなんて、本当に現実なのかと逆に受け入れられないくらいでした。

――今回の「アイドル」はどんな経緯で制作が始まったのですか?

Ayase 元々僕が原作コミックスのファンなんです。当時の最新刊を読み終えたときに創作意欲がものすごく湧いてきて、VOCALOIDでデモ音源を作っていたんです。そのときは『【推しの子】』がアニメ化するとも、僕らがOP主題歌を歌えるとも想像すらしておらず。この楽曲もあくまでVOCALOIDのまま「いつか発表できたらな」くらいに考えていたのですが、それからしばらく経ち、今回のオファーをいただいて本当に驚きました。制作期間でいえば1年半近く作っていたことになりますね。

――実際にオンエアされたアニメを観ての感想は?

Ayase 原作を読んでいるからこそ、今後の展開などを含めて語りたいシーンは山ほどあるのですが、何よりもまず、アニメになった有馬かながかわいすぎる。

ikura いや、そうなんだよね。

Ayase 演じている潘 めぐみさんのお声が“解釈一致”すぎてヤバい。

ikura わかる。すごくわかる。でも、第1話を観て色々と心に刺さったよね。天才アイドル・アイ(CV:高橋李依)が迎える衝撃的な結末と、そのあとに「アイドル」が流れて感動する時間。あの瞬間を何万人もの方々と共有できたことに、すごく感動しちゃった。

Ayase 僕も大号泣しながら観てた。実際に楽曲を作り終えたのはずっと前のことだから、アイにはしばらく会っていなくて。それがアニメになって帰ってきたら、動いて、かわいい声まで付いていたからね。アイを中心に繰り広げられる90分拡大版の第1話の結末のシーンは1つのゴールでもあり、『【推しの子】』という作品の真のスタートだからこそ、「アイドル」はとにかくその瞬間に照準を合わせて作ったんだよね。改めて、とても納得のいく楽曲になったと思います。

――これはあくまで所感ですが、作家の方々は作品の受け取り方を「好きなように」と委ねることが多いなかで、『【推しの子】』は作画やストーリーなど、作品の圧倒的なパワーをもってして、視聴者の誰しもに同質の感動や解釈を与えている印象を覚えました。

Ayase たしかにそうですね。多くの視聴者が、与えられた同じ問題用紙の答え合わせを一緒にする感覚というか。だからこそ「アイドル」では逆に、現時点でオンエアされている内容だけでは感じ取れないアイの実像……言い換えれば、「アイドル」でしか出会えないアイをなんとか存在させたいと奮闘したんです。楽曲を聴いた皆さんが新しいアイを見つけ、彼女がどんな存在なのかと考え、盛り上がっている現象を見られるのがとても嬉しいですね。

――「新しいアイ」とは?

Ayase 難しいニュアンスにはなりますが、僕の真意を強いて言うならば、アイでありながら、アイ自身ではない存在……。アイを信仰するがゆえに生まれた、アイとはまた別の“究極のアイドル”のこと。この楽曲のテーマにも繋がるところですが、ファンはきっとアイその人を目の前にしても、実際には本物の彼女ではなく、自分が信じたい偶像=アイドルとしてのアイを見てしまうんですよ。

――その人自身ではなく、自分の内側にあるイメージを見てしまうという。

Ayase “嘘でもそれは完全なアイ”など、各々のフレーズに登場する“アイ”は、アイドル・アイや“I love you”など、自分なりの捉え方をしてもらえればよいなと。日本語の特徴である、カタカナ表記にすれば様々な解釈の余白を持たせられる点を利用しました。それを前提として、アイ自身が歌うのは「B小町」の『サインはB』など劇中のアイドルソングであって「アイドル」ではないし、この楽曲も『【推しの子】』から切り離して単体で聴いても成立するようにはしているんです。が、そうは言ってもやはり、「アイドル」はどこまでいってもアイとは切り離せない楽曲だなとも思っていますけどね。

私はかわいい!私はかわいい!はい、レコーディングいきまーす!

――ikuraさんは今回、自身初となるラップに挑戦していますが、それもAyaseさんが言うところの“新しいアイ”を表現するために?

Ayase ラップについては、音楽的なカッコよさを追求して行き着いたんです。アイドルソングでありながら、『【推しの子】』で描かれるようなダークな部分も前面に押し出したいと考えたときに、もしかするとラップが最適解なのかなと。

ikura 初音ミクが歌うデモ音源のラップを最初に聴いたときは、まだ自分が歌うなんて考えていなかったなぁ。これまでにアプローチしたことがない方向性の歌声になりそうで楽しみな部分が大きかったし、単純に「うわっ!ラップなんてカッコいい!」って(笑)。

――ラップを歌いこなすコツなどはあるのでしょうか。

ikura とにかくもう「私は世界最強にかわいいんだ!」って強く思うこと。

Ayase 正解です(ぼそっ)。

ikura カラオケなどで歌うときも、振り切ったほうが楽しいはず!

Ayase 歌う際にたくさんの遊び方ができるのが今回のラップパート。テンポダウンする3バース目など、リズムの取り方が難しいと感じる方は頑張って習得していただいて。ボーカルのアプローチや声色で悩んでしまう方は、自分がかわいいアイドルだと思い込んで、純粋に楽しんで歌っていただければ、きっと現状よりも聞こえの良いものになるんじゃないのかな。ぜひ気楽に歌ってみてください。

――あくまで「気楽に」とアドバイスはありましたが、今回のラップからはAyaseさんの並々ならぬこだわりを随所に感じられました。

Ayase リリックの観点でいえば、そこまでダブルミーニングを込めた箇所も多くはなくて。歌い出しの“無敵の笑顔で荒らすメディア”から、“ミステリアス”→“エリア”→“君は”と、韻の踏み方もとてもわかりやすくて、ゴリゴリのヒップホップからは少し離れたものなんです。ただ、ikuraが歌う直前までは、今よりももっとドープな歌い方で、かなり本場のラップに近い本質的な要素を入れることを想定していました。

――ここでの「本場のラップ」とは具体的に?

Ayase 例えば“無敵の笑顔で荒らすメディア”を歌うときに、“荒らす”の“ら”の発音をめちゃくちゃ巻き舌にするとか。本当に細かな部分を突き詰めて、本場のラッパーさながらにikuraがドヤるイメージもあって。とはいえ最終的には、巻き舌などを使わずに一定の発音ペースを維持しながらも、フレーズ全体では大きく抑揚をつけるという、いわゆるアイドルラップらしい歌い方に落ち着きました。

――なるほど。理由が気になります。

Ayase ikuraのラップを聴いて「これだ!」と確信したからです。僕自身もカッコよいラップではなくむしろかわいいものに仕上げたかったし、アイドルソングとしての正解も後者にあるだろうなと。ただ、レコーディング前は本当に怖かった(笑)。

――というと?

Ayase 単純にチャレンジしたことがなさすぎる領域だったので。今回のデモ音源を作るうえで痛感したのですが、VOCALOIDにラップを歌わせるのって本当に難しいんですよ!ボーカルラインを細かなカーブで描く作業がとても大変で、とてつもない時間を掛けたはずなのに、出来上がったデータを聴いてみると「ふふっ、ミクちゃんなかなか頑張っているね(笑)」と思える程度のクオリティにしかならず……。

――想像するだけで途方もない作業なのだろうなと。

Ayase もちろんikuraのことは信頼しています。が、僕の脳内にあるイメージをデモに落とし込みきれなかったぶん、彼女がそれにどれだけ近づけてくれるかという、かなり出たとこ勝負なレコーディングでした。事前にヒップホップの勉強はしてもらったので、基本的なコツは掴めていたものの、やはりプロのラッパーではないわけですから。

ikura 私がラップをしているイメージもないだろうし、実際のところ最初のテイクはヒップホップの真似事をしている状態だったよね。

Ayase そうだね。だからいっそのこと、ぶりっこに振り切ってもらったという。

――良い意味で当初の想定や期待を裏切られるレコーディングとなったわけですね。

Ayase 間違いないです。当たり前ながら、どれだけ親しいスタッフが集まっていても、緊張感漂うのがレコーディング現場。たくさんのスタッフに見守られるなかで、ikuraはラップに挑戦して、しかも超ぶりっこをしてくれと言われたわけです。そうなると何よりもまず……恥ずかしいじゃないですか(笑)。そんな恥じらいの殻を躊躇いなく、たった一撃で破ってきたところに「さすがだな」と感じさせられましたし、逆に僕らの方が照れちゃっていたよね。

ikura みんなが照れている映像が残っていたはず!でも全員揃って、私をすごく持ち上げてくれたんですよ。

Ayase 「もっと!もっと自分のことをかわいいと思って!あなたが世界一かわいいんだから!」と。

ikura それに対して私も「うん、私はかわいい!私はかわいい!はい、レコーディングいきまーす!」と返したり。

Ayase ikuraのぶりっこな歌声を聴いて、最初は「ヤバい、ふざけすぎた」と焦ったけど、ミックス作業を終えてみると、むしろやりすぎなくらいでちょうど良くて。逆に、突き抜けたぶりっこでなければ、これまでの歌声との変化も感じさせられなかった。だから……あのときは本当にありがとう(笑)。

ikura そんなそんな(笑)。

「これはもう間違いなく一種の宗教だな」と

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