TVアニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』のオープニングとエンディングが音楽、映像含めてヤバい――!本作のEDテーマ「Gospelion in a classic love」を手がけるのは、コンポーザー・羽柴 吟のアーティストプロジェクト・The 13th tailor。『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』の劇伴も担当する羽柴 吟に、1stシングルについて話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 塚越淳一
――羽柴 吟としてTVアニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』の劇伴を担当されていますが、これはどういった経緯だったのでしょうか?
羽柴 吟 元々原案のJUN(INAGAWA)くんと3~4年前ですかね、彼が日本に住み始めたばかりの頃にお会いしたんです。そのときに彼が描いていた魔法少女の女の子のイメージが、僕が当時音楽を担当していたアニメが原点だったらしくて。その後、そのアニメのプロデューサーとMBSのプロデューサーの3人で彼のところへ遊びに行ったら、次に作るアニメの劇伴をお願いできないか、という話になって。
――そうだったんですね。そこからの流れでEDテーマも担当することに?
羽柴 EDテーマに関しては、劇伴のあとですね。どんな音楽がエンディングに合うのかという話になったものの、なかなか浮かばなくて。具体的なイメージが挙がらない状況ではあったんですが、アニメの制作陣から「このアニメに合うEDテーマもお願いしたい」と言われ、楽曲を作ることになりました。
――主題歌は名義を変えて羽柴 吟のアーティストプロジェクトとして、The 13th tailor(ザ サーティーンステイラー)を立ち上げたということですね。
羽柴 そうです。
――JUNさんとは昔から親交があったのですね。
羽柴 彼が日本に来てからですけどね。彼は音楽が大好きなので、音楽の話をすることが多いんですよ。その流れで劇伴についても、四つ打ちの曲が欲しいとか具体的な希望を言ってくれるんです。あとはイメージの中でピンク・フロイドとか、洋楽のアーティストの名前も挙がっていて。彼はDJをしているので、クラブ系のアーティストの名前とかもよく話していたかな。彼がクラブで流したいからという理由で、四つ打ちの曲が多かったのかもしれないですけど(笑)。
――音楽以外の話もするのですか?
羽柴 ファッションの話とかはしていました。彼はイベントをよくやっていたので、GR8というお店だったり、DIESEL ART GALLERYとかに顔を出して。そこでもDJをやったりしていたから、アパレル関係の話は、よくしていたと思います。
――お互い趣味が合うんですね。
羽柴 特に音楽に関してはそうだと思います。彼がいる音楽カルチャーって主にアンダーグラウンドなんですけど、僕もそこにいたので、近いところにいたんです。趣味嗜好が合うからこそ劇伴もほぼリテイクがなかったので、それはすごく助かりました。おおよそ彼の好みだったみたいで。
――劇伴も、結構歌モノが多かったですよね?
羽柴 多いですね。それに1曲3~4分のものとかも多いんです。こんなふうに自分の得意なサウンドトラックを作ることって、アニメ界隈でもまずないことなので新鮮でした。好きに作ってほしい、というオーダーだったので、こんなに自分らしいサントラを作れたのは初めてかもしれないです。だからこそ、サントラを聴きたいと思ってくれる人も多いんじゃないかな、と思いますね。
――自由に作ってほしいというオーダーとのことでしたが、物語や構成は知らされていたのでしょうか?
羽柴 いえ、聞いていませんでしたね。ビリー・アイリッシュの衣装や、エイサップ・ロッキーのTシャツだったり、彼のイラストで使われている女の子が動くということで、どんな話になるのかなっぁと。全然予想もつかないし、ストーリーなどに関してはまったくわからなかったんですよ。細かいストーリーも教えてもらえていなかったけれど、そういうときに呼ばれることが多いんです、「とりあえず作ってくれ」と(笑)。なので、JUNくんがこういうのが欲しいと言ったものを順に作っていく感じでした。歌モノの歌詞とかも独断で。ただ日本語にしなかったのは、セリフと被ってしまうと思ったからという理由があります。
――EDテーマの「Gospelion in a classic love」は、どのように作っていったのですか?
羽柴 サントラはリファレンスもあったんですけど、EDテーマは、そういうものは何もなくて。プロットのみ知っているという状態で、そこからは自由に作っていきました。こういう曲が合うんじゃないかなというものを送ったら、JUNくんから「音楽、最高!」ってメールが届いて(笑)。でも、アニソンでこういう雰囲気のものってあまりないですよね。ローファイで、ノイズが混ざっていて、明確にAメロ・Bメロ・サビという展開をしない曲って。
――たしかに、あまりないですね。
羽柴 だからこそ、こういうことがしてみたいと思ったんです。それに対して「良いじゃん!」と言ってもらえて嬉しかったですね。
――A・B・サビというJ-POPの構成は、89秒のTVサイズにするのにも適してるのかな?とも思ったんですけど、そこはいかがでしたか?
羽柴 そう、その89秒の問題は大変で(苦笑)。今回、全部作ってから89秒にしたんですよね。というのも、最初から89秒を想定すると枠にはまってしまう思ったんからなんです。この曲はアーティストとして制作するものだったので、仕事では表現できないことをしたいという気持ちがあって。イントロもフル尺で聴かせたいけれど、それを半分にしたりと、大変なところもありました。
――全英詞にした理由はあるのでしょうか。
羽柴 J-POPって、歌詞を聴いて曲を楽しんだりするので、“曲を聴こうと思って聴く”と思うんです。でも、そういう感じよりは、もっと海外のパーティー文化に寄せたかったというか。流し聴きでもいいよという気持ちで作りたかったんです。何かをやっているときの後ろに流れている、みたいな。これは自分の聴き方や感覚なのかもしれないけれど、どれだけ風景に音楽がしっくりと馴染むかというか……。ロックとかはまた違うんですけど、クラブミュージックってそっち寄りだと思うんです。このサウンドを鳴らしたら、こういう風景になるかなっていう空間音楽というんですかね。そういう感じになればと思っていました。
――その場合、楽曲はどういう順番で作っていくのですか?
羽柴 作り方としては、まず楽曲(オケ)を先に作って、そこから歌詞やメロディをつけていく感じです。こういう一枚絵にしたいという構想から、自分が想像する絵に近づけるためには何が必要かということを考えていく。そこでドラムを生にするか、エレクトロにするかというところから始まって、そのあとに、楽器を何にするかとか構成を考えいくんです。この曲はシンプルにしたかったんですけど、結局色々な楽器は入ってしまったんですよね。でも、主にはエフェクトがたくさん入っている感じかな。
――生のバンドサウンドもしっかりいますよね?
羽柴 いますね。生音感が欲しいとなると生ドラマーが必要になるし、最初はシンセベースだけにしようと思ったけれど、それだと自分の想像した絵にならないからフレットレスベースを入れたり。その楽器の選定には時間がかかりました。
――楽器の選定は、頭の中でするのですか?
羽柴 頭の中でやっています。なくてもいいものは削ってシンプルにしたいんですけど、その削るという作業が一番難しいかもしれません。
――今回「Gospelion in a classic love」が1曲目で、そのあとにこの曲のインストがきますけど、インストもすごく良いんですよね。
羽柴 そうなんですよ!ぜひインストも聴いてほしいんです。イメージとしてはインストに歌を入れた感じがあって。歌部分も減らしたかったんですけど、そこは作品性もあってできなかったので、ぜひインストも同時に楽しんでほしいです。
――個人的には、ずっと鳴っているブザーのような音が良いビートを刻んでいて、すごく素敵だなと思いました。
羽柴 あれはちょっとピッチをずらした不協和音なんですけど、象徴的に入れようと思っていました。この音、好きな人は好きですよね。僕も好きです(笑)。ああいうシンプルなビートをメインで使ってみたかったんです。
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