次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」発の新たなリアルバンド・Ave Mujica(アヴェムジカ)が、6月4日、東京・中野サンプラザホールにて初ライブ“Ave Mujica 0th LIVE 「Primo die in scaena」”を開催。これまでバンド名以外の情報はほぼ明かさないまま楽曲やMVを発表してきた彼女たちが、初めてファンの前に姿を現し、圧巻のパフォーマンスで観る者すべてをAve Mujicaの激しくも魅惑的な世界へと誘った。
TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
PHOTOGRAPHY BY ハタサトシ
2023年2月4日、ライブイベント“BanG Dream! 11th☆LIVE”の会場で配布されたフライヤーでその存在が明かされたAve Mujica。同時にティザーサイトやTwitterなどの公式SNSアカウントが立ち上がり、それらを通じてユーザー参加型の謎解き要素と連動した“現実”と“仮想”が交差する展開を行い、従来の「バンドリ!」コンテンツにはない新しい動きを見せていた。今回のライブは、そういった展開の中で提示されていたキーワード「Masquerade(マスカレード)」に紐づくもので、会場にはAve Mujicaの音楽や世界観に魅せられた多くのファンが集結した。
照明が暗転し、ミュゼットのような懐かしくも妖しげな舞曲が雰囲気を高めるなか、ついにショウがスタート。まずは暗闇の中、ゼンマイ仕掛けの大きな装置が動いているような音と不気味な笑い声が流れ、その後にオープニングムービーと思しき映像がスクリーンに上映される。大写しにされた瞳と、これまでのAve Mujicaの展開を振り返る様々な映像・写真・文字列などが交互に投影され、やがて瞳の中にAve Mujicaのバンドロゴが、まるで刻印されたかのように浮かび上がる。映画「リング」に登場する“呪いのビデオ”のように、どこか不気味なのだがなぜか目が離せない。映像の中に登場したキーワードで例えるなら、まるでAve Mujicaの「傍観者」にすぎなかった者が、Ave Mujicaの魔性に魅入られて「関係者」になってしまったかのような演出だ。
その映像がプツッと途切れると、続いてモノローグ映像がスクリーンに流される。それはAve MujicaのYouTubeチャンネルにアップされている、「莉伽」と「瑠奈」という2人の少女が登場する連作ストーリームービーの第一篇、「ホントウノワタシ -再生-」と題された動画の音声だ。Ave Mujicaと邂逅して魅了される「莉伽」と、その後行方不明になった彼女を探す友人の「瑠奈」――本公演が行われた時点でYouTubeに公開されていた5つの動画の音声を間に挿む形で、今回のライブは進行していった。
導入の映像演出の時点でただならぬ空気が立ち込めるなか、不穏なイントロダクションと共にメンバーが登場。ほぼ真っ暗ななか、キーボード、ドラム、ベース、ギター、ギター&ボーカルの順で1人ずつ薄明りに照らされてその姿を露わにしたのだが、驚くべきことに全員が黒装束にマスクという出で立ちで、手にしている楽器以外は、それが誰かを判別するのも難しい状態だ。まるで黒ミサかブラックメタルのライブといった趣きだが、そんな見た目に相応しい暗黒の重音が渦巻く彼女たちの最初のオリジナル曲「黒のバースデイ」でライブはスタート。まず耳を惹くのは、ボーカルの圧倒的な存在感を誇る歌声。楽器の分厚い音に負けないどころかそれを突き破るようなパワフルさがあるし、とにかくべらぼうに歌が上手い。音源も素晴らしいクオリティだが、そこにライブならではの熱量が加わったうえに、それでいて会場の熱気に呑まれることのない安定感が感じられる。
そしてもう1つ、特筆しておきたいのは楽器編成。ギターは2人とも7弦、ベースは5弦、ドラムもツーバス仕様という完全なヘビーロック~メタル志向の編成で、キーボードも通常のものと電子オルガンの2台を弾き分けるスタイル。「バンドリ!」では、RAISE A SUILENも7弦ギター×5弦ベースで演奏することはあるが、Ave Mujicaは7弦ギター2本と5弦ベースが常態ということで、また別種の音の厚みが感じられる。「黒のバースデイ」に続いて披露したangela「KINGS」のカバーでは、ベースがスラップ奏法を駆使するなど、奏者のテクニック的にも見どころが多く、キーボードの流麗な鍵盤捌き、ドラムのダイナミックかつ安定感ある演奏も素晴らしい。
荘厳かつ重々しい「ふたつの月 ~Deep Into The Forest~」では、イントロ部分でボーカルとギターが背中合わせになって2人で弾いたほか、キーボードが手で舞うような動きを見せるなど、視覚的な演出もバッチリ。続くALI PROJECT「暗黒天国」のカバーも衝撃的で、メロディやリズムが変則的に展開するアリプロ特有のプログレポップを、ハードかつ狂乱的なアレンジで見事に自分たちらしく表現していた。さらにRoselia「Determination Symphony」のカバーでは、「バンドリ!」ファンからの大歓声に応えるように、竿隊による美麗なコーラスを加えた重厚かつエモーショナルなシンフォニーを築く。同曲のラストは、ボーカルがステージ前面のお立ち台に上がってギタープレイでも盛り上げていたが、Ave Mujicaにおいては彼女のカリスマティックな存在感がバンドのキーになっているように感じられる。
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