INTERVIEW
2023.06.10
アーティスト・音楽家として幅広い作品を手がけるのみならず、近年は役者や映像監督としても活躍するマルチな才人、清 竜人。アニメファンにとっては堀江由衣や田村ゆかり、上坂すみれといった女性声優への楽曲提供でもお馴染みの彼が、TVアニメ『山田くんとLv999の恋をする』のEDテーマ「トリック・アート」で、自身初となるアニメタイアップを担当している。付かず離れずの関係性を描いた爽やかなラブコメ作品に寄り添いつつ、彼らしい優雅でウェルメイドなポップソングに仕上がった本作について、さらには彼のクリエイティブにおける「女性」の重要性について、忌憚なく語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
――清さんがアニメ作品のタイアップを担当するのは今回が初になります。お話をいただいた当初は、どんな感想を抱かれましたか?
清 竜人 原作を読ませていただいたうえでの第一印象としては、「これは難しいな」と思いました。今までもドラマや実写作品のタイアップの経験はあったのですが、アニメの場合はファンが抱いている作品の世界観が実写よりも固まっている印象があるので、その世界観を壊すようなものになってはいけないですし、なおかつ僕の楽曲としても成立していなくてはいけない。アニメの世界観と僕の世界観のクロスオーバーという意味で、バランスを取るのが難しい制作になりそうだな、と。ただ、裏を返すとそれがやりがいに繋がりましたし、また1つ、新しい挑戦になりましたね。
――では、今回の楽曲「トリック・アート」を作るうえで、まずどのような青写真を描かれたのでしょうか。『山田くんとLv999の恋をする』のアニメ制作サイドから、何かテーマの提示はありましたか?
清 テーマというよりも、歌詞の世界観に関してリクエストがありました。要約すると、この作品は主人公2人のラブストーリーになるので、2人の感情の進み方とまったく違うような歌詞の内容にしないでほしい、といったお話をいただいて。サウンド的には、特に細かい指定はなかったですね。
――原作を読まれたとのことですが、作品からはどのようなインスパイアを得ましたか?
清 特に歌詞に関して、主人公2人の間に流れている空気感を邪魔するような世界観にはしたくなかったので、そこは原作を読んで空気感・テンポ感を把握したうえで楽曲に落とし込みました。制作サイドからは「これから恋愛になるフェーズ」というか、まだお互いの気持ちを量りかねていて、一番むずがゆい時期の男女の感情みたいなものを描いてほしい、というお話をいただいていたので、そういう距離感を描いています。
――プラスして「清 竜人の楽曲として成立するもの」という命題に対しては、どのように考えていかれたのでしょうか。
清 今回の新曲は、昨年の11月にアルバム(『FEMALE』)を出して以降、最初のシングルになるので、ある種、次のアルバムの方向性を示唆するような意味合いもあるなと思っていて。なので自分の次の音楽制作に向けて大事なものになるし、そこのバランス感は本当に難しかったのですが、結果、今改めて聴いてみたら、ちょっと失敗したかなと思っています(笑)。
――えっ!? それはどういうことですか?
清 ちょっとアニメに寄り過ぎたかなと。バランス的に「5:5」くらいでやろうと思っていたのが「6.5:3.5」くらいになったんですね。アニメ作品にとっては良いバランスなので、それはそれで良かったと思っているんですけど、次のアルバムの方向性に関しては、この楽曲を出したことによって、今ちょっと迷路に迷い込んでいます(苦笑)。
――とはいえ、楽曲自体には清さんの世界観がしっかりと備わっていて。主人公である木之下 茜(CV:水瀬いのり)と山田秋斗(CV:内山昂輝)の、くっつきそうでくっつかない絶妙な関係性を、「トリック・アート」というワードを用いて表現されているところに、清さんらしい粋を感じました。
清 その辺りは自分の表現の仕方として上手く落とし込むことができたと思います。あまり直接的に書いても空気感が出ないですし、ベタな比喩表現でもあまり良くないので、良いキーワードが見つかったと思って。
――なおかつ、2人はネットゲームの世界と現実世界の両方で交流を深めていくので、そういった世界の二面性もトリックアート的に感じました。
清 そのリアルとアンリアルの部分もそうですし、恋に関しても、その感情はリアルなのかフェイクなのか、主人公たちが悩むわけじゃないですか。そこはダブルミーニング、トリプルミーニングという形でかけていますね。
――ちなみに清さんは、こういったラブコメや恋愛もの作品を普段ご覧になったりしますか?
清 最近はあまり見ないですね。このインタビューで言うのもなんですけど、ラブストーリーに触れても、あまり胸が高鳴らなくなったので(笑)。
――いやいや(笑)。でも、この間のアルバム『FEMALE』も愛について歌った楽興が多い印象だったので、ラブソングにはこだわりがあるように感じたのですが。
清 ああ、あのアルバムは『FEMALE』というタイトルにも表れていますが、ここ最近の自分のMVには色んな女の子に登場してもらっていたり、この間、自分が監督した映画(「IF I STAY OUT OF LIFE…?」)もラブストーリーだったこともあって、ディレクターやスタッフから「清 竜人と女性」をテーマにしようという提案があったので、ラブソングが多めの構成になったところがあって。それと、ラブソングは作りやすいんですよね。
――というのは?
清 基本は男女2人の話になるので、シチュエーションを色々設定しやすいし、ストーリーを作りやすいんですよね。これが例えば応援歌になると、バリエーションを付けづらくて。なので長く活動を続けるほど、ラブソングが増える感じはあるかもしれないですね。僕ももう14年くらいやっているので。
――それでも素晴らしいラブソングを書き続けていらっしゃるところがすごいですよね。話が逸れて申し訳ないんですけど、自分は『FEMALE』に収録されている「愛が目の前に現れても僕はきっと気付かず通り過ぎてしまう」という楽曲が大好きでして。
清 それは嬉しいなあ。
――愛を見つけられない哀しさ・切なさが、美しいメロディと共に表現されていて、ものすごく共感してしまったんです。
清 あの曲は僕の最近の作品の中でも唯一と言っていいくらい、フィクションではないというか、結構自分が出ている楽曲で。あの歌詞、バーでべろんべろんに酔っ払ったときに、一筆書きぐらいの勢いで書いたんです。で、朝起きてスマートフォンを見たら「あれ?これよくね?」みたいな。それにメロディを付けて出来た曲です。
――ということは、ご自身の本音が漏れている部分があるかもしれない?
清 だと思います。
――これは自分が「愛が目の前に現れても僕はきっと気付かず通り過ぎてしまう」を大好きだからこその感想かもしれないですが、今回の「トリック・アート」にも、永遠の愛が存在しないことを知っているがゆえの切なさみたいなものを感じたんですよね。それはもしかしたら、清さんのアーティスト性の本質にあるものなのでしょうか。
清 なるほど。多分、歌詞だけでなく色んな要素がミックスして、そういうふうに聴いていただけるのかなと思ったのですが、今回は歌詞の世界観だけでなくボーカルに関してこだわったところがあって。本来ならアニメタイアップの楽曲ですし、サウンドのダイナミクスに合わすのであれば、ボーカルももっと抑揚を付けたほうがパフォーマンス的に良いと思うのですが、今回はあえて歌に感情をあまり持たせずに、少しニヒルに、抜いて歌っているんですね。歌詞やサウンド的には、これから恋が始まるかもしれない心の抑揚を表現しているなかで、ボーカルだけは無感情とは言わないまでも、どういう気持ちなのかを読み取れない。そういうバランスが、まさにトリックアート的な部分に繋がりますし、楽曲の奥行きを増長できるのではないかという想いがあって。そこに清 竜人の音楽性みたいなものが表れているのかなと、今のお話で僕自身も再認識できました。
――その歌声から感情が読めない感じは、アニメの山田を彷彿させますし、楽曲の深みを増しているようにも感じます。
清 エモく歌ってエモくなるときもあれば、感情を抑えることによってエモくなることもあるじゃないですか。そこはもちろんアーティストや楽曲によって違う部分ですが、今回、こういうセレクトをして、そういうふうに受け止めていただけるのは良かったなと思います。
――また、本楽曲はお洒落なメロディラインとスウィング感あるサウンドアプローチも特徴となっていますが、こちらは作品を意識して生まれたのでしょうか。
清 メロディに関しては、アニメ本編が終わったあとのEDテーマとして、いかに美しくニュートラルに導入できるか、という発想から広げていきました。サウンド感に関しては、アレンジャーのハヤシベトモノリさんと密にコミュニケーションを取りながら作り上げたのですが、最初に僕が弾き語りのデモを送ったら、彼から「ビッグバンドっぽいアレンジが合うと思うんだけど」というお話をもらったんです。ただ、僕としては、今回はちょっと渋谷系の匂いがするアレンジにしたかったので、ハヤシベさんには最初に聴いたときのビッグバンドの印象とフリッパーズ・ギター辺りの渋谷系のサウンドを混ぜてほしい、とリクエストしたんです。
――なるほど!まさにその2つの要素が混ざったようなアレンジですね。ちなみに、清さんは元々自分でアレンジもできるわけですが、なぜ今回はハヤシベさんにお声がけしたのでしょうか。
清 まず、今回の楽曲は自分でアレンジメントしないほうがいいなと思ったのが1つ。それとスケジュール的に忙しい時期だったというのも少しあります。これは言い方が難しいですけど、僕がアレンジもすると、僕の色がより強く出てしまうので、アニメタイアップとして中途半端なものになりそうな気がしたんです。メロディと歌詞だけでも僕の色は十分出ると思っているので。それでアレンジは誰かにお任せしようと思ったときに、最初に浮かんだのがハヤシベさんでした。
――ハヤシベさんは、清さんが乙女新党に楽曲提供した「ツチノコっていると思う…?♡」(2015年)のアレンジを担当されていましたね。
清 それ以来、久しぶりにご一緒しました。「ツチノコっていると思う…?♡」もおもちゃ箱をひっくり返したようなアレンジにしていただきましたけど、ハヤシベさんは『スポンジ・ボブ』のサウンドトラックに関わっていたりだとか(Plus-Tech Squeeze Box名義)、カートゥーン系みたいなものを得意とされているし、ほかのアプローチもできるオールラウンダーな方なので、今回アニメタイアップという意味でも適任かなと思って。元々の出自も渋谷系と近いと思いますし。
――渋谷系のサウンドイメージはタイアップ作品に合うと思ったからこその判断だったのでしょうか。
清 そうですね。原作の内容もそうですし、女性のファンの方が多い作品というお話だったので、アニメ本編を観終わったあと、特に女性の方が主人公2人の素敵な描写の延長線上で、ちょっとお洒落に余韻を楽しめるような楽曲のバランス感を意識してのことでした。
――アニメをご覧になった感想もお聞かせください。
清 ベタな感想ですが「最近こういうのないなあ……」と思いましたね(笑)。主人公の2人がまだ大学生とか高校生なので、ちょっと自分とは年齢が離れすぎているのかも。2人の初々しくてキュンキュンする感じはわかるんですけど、自分のプライベートに繋がることは何もないというか、「俺もゲームをやれば何か出会いが……って、ゲームもやらんしなあ」みたいな(笑)。
――まあ、年齢的には共感しづらい面があるかもしれません(笑)。
清 あと、これはクリエイター目線なんですけど、女性に人気があることがすごくわかりました。素敵な空気感だし、ちょっとした言葉のやり取りを含めて、すごく理解できるなあと思って。良い意味でトゲがないというか、害意がないというか。
――キャラクターに嫌味がないので、女性から見ても共感できたり愛着が沸く部分がありますよね。エンディングアニメはご覧になっていかがでしたか?
清 アニメを観る前から絵コンテをいただいていたんですけど、イメージそのままでした。アニメーションの力もあって、本編からエンディングに行く流れの違和感のなさも演出されていましたし、それこそ歌詞のワードをピックアップしていただいたシーンもあって。曲を作りながら「そうなればいいなあ」と思っていたので嬉しかったですね。
――そのエンディングアニメとは別に、楽曲のMVも清さんご自身の監督で制作されています。こちらはどんなコンセプトで撮影されたのでしょうか。
清 元々はディレクターから「かわいい女の子が歌っているのがいいのでは?」というアイデアが出たのでその内容でほかの方に監督をお願いして制作する予定だったのですが、なかなかスケジュールが合わず進捗が良くなかったため、「まあ自分で監督しようか」となって……プロットを書いているときに、ハッと気が付いたら、最後は自分が女の子をお姫様抱っこしていました(笑)。
――いやあ、役得というかズルいですけど、清さんがやるとなぜか憎めないんですよね(笑)。
清 そう言っていただけると嬉しいです(笑)。
――楽曲に合わせて歌って踊るかわいい女の子役として、特撮作品「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」に出演されていた女優・モデルの宮崎あみささんが出演されていますが、これはどういったご縁で?
清 面識はまったくなかったのですが、スタッフから候補として挙がったので調べてみたら、元々彼女自身もアイドル活動の経験があって、歌や踊りの素地もあるということだったのでお声がけしたところ、快諾していただきました。彼女はアイドル時代にMVを撮ったことがなかったらしいので、撮影では本人もすごく楽しんでやってもらいました。すごくアイドル向きの子だと、監督しながら思いましたね。もちろん普段からかわいいですけど、アイドル的なスタンスでより魅力的に見えるポージングをわかっている子だったので。
――ただ、楽曲の1番は宮崎さんメインですが、2番になると監督役の清さんが出張ってきますよね(笑)。
清 あれも一応、「トリック・アート」というタイトルにかけているところが若干あって。実際に僕がMVの監督をしているんだけど、その劇中劇としてMVの中に監督役として僕が出てくるという。そこもダブルミーニングでかけてみようかな、というところからの発想でした。
――2番のサビで清さんが急に踊り始めたときは、思わず笑ってしまいました。
清 アハハ、僕も踊ったのは久々でしたけど、楽しかったです。
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