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INTERVIEW

2023.06.04

【対談】TVアニメ『山田くんとLv999の恋をする』の世界を彩るのは『ワンエグ』でタッグを組んだミト(クラムボン)×DÉ DÉ MOUSE! それぞれのキャラクターを表現したこだわりのサウンドに迫る

【対談】TVアニメ『山田くんとLv999の恋をする』の世界を彩るのは『ワンエグ』でタッグを組んだミト(クラムボン)×DÉ DÉ MOUSE! それぞれのキャラクターを表現したこだわりのサウンドに迫る

彼氏に振られて失意のなか、元彼とプレイしていたネトゲがきっかけでイケメンプロゲーマー高校生の山田と運命的な出会いを果たす――。マンガアプリ「GANMA!」にて好評連載中の大ヒットラブコメ作品『山田くんとLv999の恋をする』が4月よりTVアニメ放送中だ。そんな作品の劇伴を手がけるのは、それぞれ日本の音楽シーンで幅広い活躍をみせるクラムボンのミトDÉ DÉ MOUSEの2人。サウンドにも注目が集まった2021年のTVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』以来となる劇伴タッグを組んだ2人は、王道ラブコメ作品という新たな領域でどのようなサウンドを生み出していったのか?

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一

「僕らに話がきたということは、普通のラブコメじゃないものにしたいのでは」(DÉ DÉ MOUSE)

――ミトさんとDÉ DÉ MOUSEさんのタッグによる劇伴は、2021年のTVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』(以下、ワンエグ)以来となりますね。この度、TVアニメ『山田くんとLv.999の恋をする』で再びこのタッグを組むことになった経緯を教えてください。

ミト 具体的な経緯はわかりませんが、お上から「2人で」という話がきました(笑)。

DÉ DÉ MOUSE 僕は『ワンエグ』でやりすぎちゃったなと思っていたから、もうアニメ界からお声がかかることはないだろうな、と思っていました(笑)。

特別編放送直前!TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』の音楽を手がけたミト(クラムボン)とDÉ DÉ MOUSEが語る、『ワンエグ』の魅力!

ミト いやいや、そんなことはないでしょ(笑)。

DÉ DÉ MOUSE もしかしたら「ミトさんがいるならいいよ」ってことなのかと。ワンチャンもう1回ということで、「ここでやらかしたら次はないぞ!と、ミトさんがいるからいいけどな」っていう(笑)。

ミト 今、アニプレックスのスタッフがいる前での探り合いが酷い(笑)。

DÉ DÉ MOUSE それくらい、お声がかかったというのは僕にとっては奇跡なので。ミトさんは僕の、なんていうんですか……保護者みたいな。

ミト そんなに年齢変わらないじゃん(笑)!

DÉ DÉ MOUSE 僕がぶっちぎっちゃうところを「まあまあ」って抑えてくれる存在ですよね。

ミト いやいや(笑)。

DÉ DÉ MOUSE でも実は一番ヤバいのもこの人っていう。

ミト ちょっとすみません、今日は何の話なんでしょう(笑)?

ミト(クラムボン)

ミト(クラムボン)

DÉ DÉ MOUSE

DÉ DÉ MOUSE

――劇伴のお話です(笑)。なぜオファーがくるに至ったのかというのはお二人としてもぼんやりしている部分はあるんですね。

ミト 『ワンエグ』の劇伴についてアニプレックスの皆さんからリアクションを聞いていなかったので、どういう流れで今回名前が挙がったのかなと……やっぱりお上の、闇の力だと思います(笑)。

――もちろん『ワンエグ』の劇伴の評価の高さから実現したものだと思いますよ。

ミト やはりコロナ禍の影響で打ち上げもなかったりすると、スタッフからのレスポンスをいただく機会がなかなかないのは事実ですね。本来ならアニメが終わったあとに打ち上げとかがあって、そこで感想について話をしたりするんですけど。

DÉ DÉ MOUSE なんなら僕はそういう経験もないですからね。

――DÉ DÉさんにとっては前回が初のアニメ劇伴ということで、未知の部分が多いままでしたしね。

DÉ DÉ MOUSE いやもう、僕にとってはアニメ業界はすべてがヴェールに包まれていて、とりあえず司令書を渡されてミッションをこなすという。だからミトさんが僕にとってのすべての手がかりなんですよ。ミトさんから聞いたものからアニメ業界を想像するという。

ミト 私もそこまですべてを理解しているわけではないですよ。でも各所から2人でやったことへの反応は聞いてはいましたし、ただそれがアニメスタッフの中でどれくらいの反応があってこの流れになったのかは未知数ですよね。

――ただ、ユーザーからの反響同様に『ワンエグ』でお二人が作られた劇伴というのは色んな意味でフレッシュでしたし、そうした音楽での刺激というものをアニメが求められた結果が今回、というのは想像できますよね。

ミト たしかに『ワンエグ』で私とデデくんとやった劇伴の感触というのが、これまでとはだいぶ毛並みが違って聴こえたそうです。それを面白がってくれているような気がしますよね。

DÉ DÉ MOUSE 今回も、プロデューサーの山内(真治)さんとディレクターのゲンダム(岡村 弦)さんと4人で打ち合わせたときに、山内さんが「普通のラブコメにしたくないんじゃないか、だからこの2人になったんじゃないか」というのはおっしゃっていて。実際にどうかはわからないんですけど、僕らに話がきたということは、普通のラブコメ劇伴じゃないものにしたいんじゃないかという。そんな憶測のなかで、「じゃあちょっと変わったことをやろう」という感じでした。そこは推理なんですよね。僅かしかない手がかりでこれはいけるだろう、いけないだろうと挑んでいったのが、本作です。

――たしかにお二人に求めるものとしては、これまでと毛並みの違う劇伴というところはありそうですよね。

DÉ DÉ MOUSE アニメサイドが、何かちょっとした違和感を入れてくれるんじゃないかという期待があったんじゃないか、というのもあくまでも推理であって、もしかしたら『ワンエグ』での結果を受けてのただストレートなオファーだったかもしれない。たしかに『ワンエグ』はいまだに海外人気が高いですし、僕もいまだに『ワンエグ』のことについてはTwitterで海外の人からDMがきたりするんですよ。特にフランスとか。前にもポーター・ロビンソンさんが何かのインタビューで、「『ワンエグ』大好きだ」って書いていたりとか。そういう感じで評判がいいというのはあってのオファーかも。

ミト ラブコメで作れっていったら、わかりやすいものになりがちというか、私たち劇伴作家として作るラブコメとしたら、大体このカードとこのカードだよね、みたいなものがあると思うんですけど、そういう流れではないというか。そういう、例えば私単体の立場のオファーとはまた違ったものが求められている感はありましたけどね。

「シーンごとに曲がどんどん変わっていく」(ミト)

――また今回、そんなお二人の手がける作品が『山田くん』といういわゆるラブコメ現代劇というのも意外というか。最初に原作をご覧になった感想としてはいかがでしたか?

ミト デデくん、どうでした?

DÉ DÉ MOUSE 僕は元々原作を読んでいたんです。タイトルからゲーム要素の強い作品なのかなって思ったんですけど、原作を読むとゲームシーンはあまりないし、僕ら世代のゲームでいうとファミコンやスーパーファミコンとか8bitな感じだけど、やっているのがオンラインのゲームで。だから劇伴をやるとなったときに、最初はゲーム要素もないところでどうしようかなと思って昔の少女漫画原作のアニメとかラブコメアニメとかを観まくったんですよ。

――過去のラブコメ作品でリサーチしたと。

DÉ DÉ MOUSE そこでどんな感じでBGMが使われているのかなと思ったら、大体がボサノヴァやフュージョンが主体で、こういうものなんだろうなってイメージを膨らませたりしていて……だからそれもあってオファーがきたことがハテナだったんですよ!例えば『ワンエグ』と同じようなダブステップみたいなものをやってもダメだよなって。しかも原作がものすごい人気の作品だから、ファンの方から「あいつ原作の雰囲気壊しやがって」みたいなのがくるのも怖かったし、なんなら僕にとってアニメ業界での生存がかかった作品だし(笑)。

ミト あはははは!生存戦略かい(笑)。

DÉ DÉ MOUSE だからどこで攻めていいのか、最初わからなかったんですよね。

ミト いきなり制作の話になりますけど、途中までデデくんの作品が、やたら守りに入っている感がちょっとあって。いわゆる『ワンエグ』っぽい、ダブステだトラップだなんだみたいなものをしないで、リズムがもう少し柔らかいものだったんです。彼はアニメに対してのリスペクトが強いのでケアフルに作ってくれたんだけど、それはあんまり求められていないというか。劇伴だからというテキスタイルを求められたら、そもそも我々はここにはいないだろうと(笑)。だから、よりチャレンジングにしたほうがいいんじゃないかなって。

DÉ DÉ MOUSE 「もうちょっと尖っていいよ」って。ミトさんなんて最初のデモ提出のときに、僕の3倍ぐらいビートを入れた曲を出してきて。

ミト そうそう(笑)。最初に好きにやっていいですよって言われたので、好きにやるということはこういうことですよって。結構カットアップのものとか、ミニマルハウスのサウンドにして。

DÉ DÉ MOUSE 渋谷の宇多川にあるシスコの、テクノハウス館の隅っこにあるものすごいマニアックなレーベルの作品みたいな(笑)。

ミト HEADZのコーナーにある作品みたいなね(笑)。

DÉ DÉ MOUSE それを聴いてものすごくアガったんですよ。これ2人でやったら大変なことになるなって。ミトさんこっちか、じゃあ僕はかわいい要素でいこうかなと。

――いわゆる本作の劇伴に対する、お二人の入口もまた違ったわけですね。

ミト そうそう。だから3曲くらい投げたんですけど、デデくんのほうは……。

DÉ DÉ MOUSE  「すごく使いやすそうです」って言われて。

ミト で、「ミトさんすごく挑戦的ですね」って。普段、私はその役割じゃないのに(笑)。でもデデくんとやるならカットアップやボーカルチョップはやれるものだと思ったから、逆にそっちに全振りしたんですよ。しかも日常に入るんだけど、山さま(山内)から、「また不穏な音楽を作りましたね」って言われて(笑)。

DÉ DÉ MOUSE  ミトさんも「そんなつもりじゃないんだけどなあ」って、なんならちょっとムッとしていて(笑)。もちろん褒めているんですけどね。で、それは僕に言ってほしかった!普段の立ち位置が逆になってしまうという。

ミト だから、後半はトラックにどんどん素材が増えていったのがデデくんのほうで、私は逆にとっ散らかったデモから、らしい王道のものスコアに戻っていくという分担になっていたのかな。

――たしかに劇中で聴かれるサウンドは、一見日常に溶け込んだサウンドなんですけど、細かいところで様々な音が聴かれるスコアだなって印象でした。

ミト 劇中でうっすら流している普段の感じに違和感をつけたくて、差別化したくて私たちがその周りをわちゃわちゃしている感じかな。

――基本は茜と山田の会話や茜のモノローグが中心となるなか、その合間に様々な音が入る、いわゆる会話と音楽のそれぞれの間を埋めていくような聴こえ方ですよね。

DÉ DÉ MOUSE  アニメの放送を観て「すごいな」と思ったのが、1曲を最初のほうでしっかり聴かせるものもあれば、1話ごとに徐々に曲の展開が増えていくようなものもあって。

ミト 音響監督の(明田川)仁さんはステムの使い方が上手いから、パーツパーツで印象を鳴らしていて、そこからキックやリズムを足していったりするんですよね。

DÉ DÉ MOUSE  そうそう、だから音楽も徐々に全貌が明らかになるというか。

――使われ方も様々ですが、とにかく終始色んな音が鳴っている劇伴であり、本編だなと思いました。

ミト 情報量が多いんですよね。茜っちが頭の中で色んなことを考えているから、意外と情報量が多いんだなっていう部分はありましたよね。だから結構シーンごとに曲がどんどん変わっていくんですよ。1分2分のレベルの騒ぎじゃなくて、数十秒おきに曲が変わっていくというか。そういうスピード感というのはこちらに委ねられているのかなって、今アニメを観ている最中で思っています。

DÉ DÉ MOUSE  物語のテンポ感が良いので観ていても飽きないし、やたらだらっと長いシーンもない。そこに情報量の多い音楽が流れるから、観ていると一瞬で終わっていくというか。僕も最近のラブコメをよく観ているわけではないですけど、すごいスピード感を感じていて。

――全体的に、茜のモノローグも含めて思考の情報量が多さがテンポ良く進んでいく、という魅力がありますよね。ちなみに主人公の茜というキャラクターについてはどう思いますか?

DÉ DÉ MOUSE  あの、振られた男からもらったペンダントをずっとしているのは妙にリアルだなあって(笑)。

ミト ああいうのは……僕にはちょっとわからないかな(笑)。

DÉ DÉ MOUSE  もしかしたら若い方にはわかる話なのかもしれないですけど、自分のその人と付き合ってきた時間がなくなってしまうと思うのかな。

ミト いや、あれは思い入れが強くなりがちなんだと思う(笑)。

――たしかに私物を断捨離できないという描写もありましたしね(笑)。

DÉ DÉ MOUSE  そうかなあ……いや、意外と捨てられないものですよ。

ミト この人が一番女子だよ!(笑)。

DÉ DÉ MOUSE  僕は少女漫画に共感するタイプだから。僕も昨日、家にある着ない服を断捨離したんですよ。

ミト えっ、今その話必要(笑)?

DÉ DÉ MOUSE  いやいや、これ大事な話なんですよ!やっぱりもうだめだっていうところまでは捨てられないんですよ。これ、最初にフジロックに出たときに着た服だから捨てられないとか……自分が歩んできた証拠というか、それがなくなると空っぽになっちゃう気がする。

ミト なるほどね。茜っちはそういうタイプなのかなあ。

「劇伴はフィジカルに気持ちを出し切らないといけない」(ミト)

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