リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2023.05.31

「プリキュアらしさ」に捉われないことで生まれた「ヒーロー」の音楽――『ひろがるスカイ!プリキュア』劇伴作家・深澤恵梨香が語る、サウンドトラックに込めた情熱と想い

「プリキュアらしさ」に捉われないことで生まれた「ヒーロー」の音楽――『ひろがるスカイ!プリキュア』劇伴作家・深澤恵梨香が語る、サウンドトラックに込めた情熱と想い

『プリキュア』シリーズの記念すべき20作品目となった最新作『ひろがるスカイ!プリキュア』(以下、『ひろプリ』)。深澤恵梨香が新たに6代目のプリキュア劇伴担当として誕生している。舞台「千と千尋の神隠し」など多くの舞台や映像作品で音楽を手がけ、オーケストレーションで名を知らしめる彼女だが、その深澤をしても『ひろプリ』の劇伴作業はプレッシャーを感じたという。だが、明確に演奏家を想定しながら譜面を起こす「あて書き」を用い、『プリキュア』および「ヒーロー」という主題に真正面から取り組んだ結果、深澤は新たな『プリキュア』音楽を生み出した。「『ひろがるスカイ!プリキュア』オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ミラージュ!!」には様々な想いを宿した音が散りばめられている。

INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司

「ヒーロー」となる音の元に集うイメージでの作曲

――『プリキュア』シリーズの劇伴の依頼が来たとき、自身に求められているところについては考えられましたか?

深澤恵梨香 それは常に思っているところで、今も考えているかもしれないです。ただ、今回は「ヒーロー」がテーマだったことで納得したところはありました。ブラスをメインに、かなり自由な形でやらせていただきましたが、そのなかでだんだんと腑に落ちていっている、という感覚もありますね。

深澤恵梨香

深澤恵梨香

――作曲にあたって、シリーズ全作品を観て、音楽も聴かれたそうですね。

深澤 最初に、「プリキュアらしさとは」というところはやっぱり考えました。でも、『プリキュア』シリーズは作品ごとにテーマが異なりますよね。「変身ヒロイン」という大きな軸がある中で、ストーリーもキャラクターもとても強いシリーズになっていますが、前作(『デリシャスパーティ♡プリキュア』)のテーマは「食事」で、今回の『ひろプリ』は「ヒーロー」。なので、(これまでのシリーズで劇伴を担当してきた)各先生たちが作る音楽も毎年違っていますよね。初代の佐藤直紀さんから『フレッシュプリキュア!』で高梨康治さんに変わったときは、それまでの方向性とは真逆ともいえる“キュアメタル”になりましたし。ですから「プリキュアらしさ」について考えることはいったん置くことにしました。(過去のシリーズに)近づこうとするのも良くないと思ったので、一通り聴いたうえで一回横に置き、「らしさ」よりも(『ひろプリ』のテーマである)「ヒーロー」に対して向き合う、という気持ちで新たに取り組むことにしました。そうやって気持ちを切り替えられたときから楽曲を書き始められましたが、そこにたどり着くまでは結構迷いましたね。

――ちなみに、深澤さんは子供時代にプリキュアを観たことはありましたか?

深澤 世代というには年齢が少し上なので……(スタッフに向かって)ごめんなさい、「プリキュア世代です」と言えたらすごく素敵だったんですけど(笑)。ただ、劇伴作家を志す際に観始めたところはありました。毎週集中して観ていたわけではないのですが、各先生方の音楽のバリエーションがとても豊かなので、勉強するような気持ちで観ていました。

――どのような楽曲が必要かを指定する「メニューリスト」はどのようなものでしたか?

深澤 音楽で何を感じてほしいか、そのシーンでどんな印象を与えたいか、というところは短いながらも明確で、逃してほしくないポイントは書かれていました。

――メインテーマ「ひろがるスカイ!」や変身シーンの楽曲「スカイミラージュ!トーンコネクト!」から書き始めたということですが?

深澤 そうですね。そこが決まったらどんどんと書けるようになりました。

――ブラスを中心とするサウンド、と自身でもおっしゃいましたが、そこは「ヒーロー」が持つ華々しさからのイメージでしょうか?

深澤 というのもありましたし、「ヒーロー」というテーマを考えるにあたり、国内外のヒーロー映画をたくさん観たので、そこからも着想を得たと思います。共通するところとしては、変身シーンや登場シーンにおける高揚感と安心感。そこはヒーロー作品としても一番盛り上がるところなので、(楽器)編成を大きくして、ホルンもトランペットも6管ずつにしました。あとは、資料としていただいた絵コンテの絵がすごくきれいで、「ヒーロー」を感じるところがたくさんあったので、そこからもイメージを膨らませることができました。

――深澤さんは、演奏家に「あて書き」をされることでも有名で、今回の劇伴でもその手法を取られたということですが。

深澤 作曲するうえで、その楽曲を誰が演奏するかをとても大切にしているのですが、今回でいえば、トランペットのエリック・ミヤシロさん、トロンボーンの中川英二郎さん、ホルンの日橋辰朗さんといった方々の音を必要に感じました。完成に向けたイメージ作りのなかで、音の感じ、絵の感じ、そして「ヒーローとは?」というところから導き出された演奏家の方々になります。

――エリック・ミヤシロさんのトランペットを中心に据えてから、メインテーマや変身シーンの楽曲のイメージが湧き上がってきたとお聞きしました。

深澤 そうですね。メインテーマは本当に悩んだところで、自分でも4~5回は書き直したのですが、エリックさんのイメージが頭に浮かんで、ようやく自分でも納得できるものが書けました。

――エリック・ミヤシロさんの音が「ヒーロー」たりえた理由というのはどういったところでしょうか?

深澤 レコーディングで実際に(メインテーマの)最初のフレーズを吹かれているのを聴いたときに、とても説得力を感じて、「あぁ、もう大丈夫」と思ったんですよね。今回は全員が一緒に録れたわけではないので、エリックさんの演奏した音源に他のセクションの音を重ねていったのですが、他の楽器の方みんなが「あ、これ、エリックさんだね」とすぐわかるくらいで、音に名前が書いてある感じなんです。メインテーマでイメージしたのはまさにそこで、エリックさんの音を受けて、「ヒーローが来た!」という感じでみんなが重なっていく。同じフレーズを、プラスもストリングスも全員で歌う感覚ですね。

――『ひろプリ』の劇伴は、フル編成のオーケストラ楽曲以外にも魅力的な楽曲が色々と鳴り響きますが、楽曲のバラエティについては何か意識されましたか?

深澤 オーケストラばかりだとアカデミックになりすぎるので、変身シーンなどの楽曲はダンスミュージック的なトラックを入れた方が今らしくて子供たちには聴きやすいのではないかと思いました。戦闘曲でもシンフォニックだけになりすぎないよう、やはりリズムにダンス的な要素を入れていて。リズムには時代感が特に反映されるので、3年前のリズムでも古く感じてしまうことがあるのですが、ただ、メロディとは別にサウンド感を一緒に覚えている人も多いですし、私も小さいときは音楽的に曲を聴くのではなく、サウンド感で曲を覚えていたと思うので、今の子供たちが将来大人になって聴いたとき、「2023年のプリキュアだね」と思ってもらえる感覚というか、あとで聴いたときにも印象に残っているようなサウンド感を意識していた気がします。

決意・変身・戦闘・勝利後の余韻が決まっていて「さすが!」

――手がけた楽曲群の作中での使われ方については、どのような印象ですか?

深澤 やっぱり第1話が最強でした。カバトンが登場する不穏なシーンが始まり、ソラちゃんが決意した瞬間に、エリックさんのソロが入ってメインテーマ「ひろがるスカイ!」が流れたんですよ。登場シーンではなく。それと、ソラちゃんの「ヒーローの出番です!」というセリフから「スカイミラージュ!トーンコネクト!」に続き、変身後の「ヒーローの出番です!」(楽曲タイトル)へと繋がっていていくところは、楽曲を書いているときもその流れを想像していましたし、その後のエピローグで流れた「澄みわたる空」にも、曲の最後でエリックさんのフレーズが入るのですが、この4曲がトントントントンッと決まったときはもう大満足で、「すごい!」と感激しました。

――自分の中で納得できたわけですね。

深澤 やっぱり第1話は不安のなかで観ていたので、本当にすごく嬉しかったです。

――楽曲に対する想いがエリックさんに伝わったということですよね?

深澤 はい、譜面に込めた「エリックさんの音が大好きです」という気持ちに対して、エリックさんが反応してくださって。エリックさんは、私が学生の頃からいちファンとしてライブに行っていた方で、のちに現場に呼んでくれて見学させてもらったこともあるのですが、お仕事でご一緒するのは今回が初めてだったので、念願というか、満を持しての、という気持ちもありました。

――話は戻りますが、自身の楽曲の使われ方について、放送を観ながら楽しんでいる感覚ですか?

深澤 何から何まで「ありがとうございます!」と思いながら観ています。第1話以降も、毎回観ながら気持ちがアガりっぱなしです(笑)。

――劇伴においては、そのシーンを観ている人の気持ちが音楽に流れ過ぎない、という注意点もあるかと思います。そのうえで良質な音楽を生み出す必要があると思いますが、劇伴作家として意識されていることはありますか?

深澤 それはまさに同意で。映画を観終わったとき、「素晴らしい音楽だった」という感想が出るときは逆に良くない映画だ、ということはよく思います。ただ、監督が最初の打ち合わせでおっしゃっていたのは、「口ずさめるような曲がいい」ということでした。『プリキュア』シリーズは日曜の朝に放送される作品なので、お母さんが食事の準備や片付けをする横で子供が観ていることが多くて、テレビからの音以外にも色々な音が鳴っている状況だと思うんです。そんななかでも耳に残るのは、やはりメロディなんですね。自分としても音楽を作るうえでメロディを一番大切にしていますし、しかも、最初にお話ししたように『プリキュア』シリーズはストーリーとキャラクターがすごく強いので、強いメロディを躊躇なく書いてもいいと思えたのは良かったです。きっとこれまでの各先生もそういった考えのもと楽曲を書いていたと思うので、メロディを強く、というところはすごく意識しました。大人に成長してから、何かのきっかけで音楽を聴いたときに、ソラちゃんの物語と一緒に結びついてくるような。友達同士と話していて、「あー、あの曲!」と口ずさめるような。

――その意味で、よりシーンに溶け込むような日常系の曲で意識した点はありましたか?

深澤 日常シーンでは楽しいことが起きたり、(キャラクターが)どう伝えようか悩んでいたり、観ている子供たちも身近に感じられるような普通の出来事が描かれます。ただ、音楽としてはめいっぱい振り切っていこうと思いました。大人からしたら「そんなことで」と思うようなことでも、子供たちはすごく感情を揺さぶられるものじゃないですか。なので、ファゴットやフルートといったシンプルな木管楽器1本から始まる曲もあれば、フルオーケストラを使った楽曲やエレクトロニカで今どきのサウンドまで幅広く作りました。これまでのシリーズでも日常曲のバリエーションは豊富でしたが、日常曲も覚えて口ずさんでもらえるような、「一緒にいる」感覚を持ってほしいと思っていました。

――楽器面で意識された点はありますか?

深澤 楽器としては突飛なものはあまり使っていなくて、メインテーマなどで鳴っているティンホイッスルくらいだと思います。それもそれほど突飛ではないですが。編成としては、フルオーケストラを使用するなど、振り幅がすごくありますが、それは原点回帰である「ヒーロー」というテーマがあったからで、できるだけ突飛な楽器を使うことなくオーケストラ内に収めたいと思っていました。

「らしく」ではなく、でもこれこそが『プリキュア』という音楽

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP