繊細かつ芯のあるシルキーボイスの持ち主で、「名もない花」(TVアニメ『魔法科高校の劣等生 来訪者編』EDテーマ)や「You & Me」(TVアニメ『裏世界ピクニック』EDテーマ)などで知られるSACRA MUSIC所属の佐藤ミキが、久々のニューシングル「ドラマチック」をリリース。現在放送中のTVアニメ『女神のカフェテラス』のEDテーマとして、すでにアニメファンにもお馴染みの本楽曲には、彼女のシンガーとしての変化と成長が刻まれている。北海道出身で現在も同地に住みながら活動する彼女にリモートで取材した。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
――リスアニ!でお話を伺うのは、デジタルシングル「東雲の空」の取材以来、約1年半ぶりになりますが、佐藤さんはその間、どんな風に過ごしていたのでしょうか。
佐藤ミキ 今思い返してみると、柔軟性を身に付けられた時間でした。まず、去年の私は体調を崩しがちで、歌の表現力を付けるための練習や準備もしつつ、体を整えることに専念していたのですが、そのときに今の自分の状態やこれまでのやり方を振り返って、新しく組み立てていく必要があると感じたんです。それで時間には余裕があったし、北海道はきれいな景色の場所がたくさんあるので、なるべく自然に触れるようにしていたら、物事をすごくフラットに考えられるようになって、体も心も柔軟になってきたんですね。その状態で歌ってみると、自分の声にも変化があって。歌の表現や内側から出るものが変わっていくことを感じた、自分にとってはすごく大事な時間でした。
――逆に言うと、それまでは心のゆとりが足りなかった?
佐藤 やっぱりデビューして1~2年が経つなかで、コロナのこともあってなかなか思うように活動ができなかったので、「何か自分にできることをしなくちゃ……!」と焦っていたし、色々考えてしまって、頭でっかちになっていたところがあったと思います。でも、だからこそ新しいものをインプットするべきだと思って、一度外に出てみようと思って。
――そのように気持ちが柔軟になったことで、ご自身の歌声がどのように変化したと感じますか?
佐藤 デビュー当時の私は「強くありたい」と思っていたのですが、自然に触れることで難しいことを考えず物事をフラットに受け止められるようになったことで、動物や自然が与えてくれる「癒やし」もまた、頑張ったり前向きになれるきっかけの一種だと感じたんです。「強さ」を見せるよりもむしろ「癒やし」が力になることもあると気づいたときに、私もそれまでの芯は引き続き持ちつつ「癒やしの声」を出せたらいいなと思うようになって。その部分で意識が変わったので、以前より声に深さや丸さが出たように思います。
――確かに、それは今回のシングルを聴いて一番変化を感じたところでした。今のお話を聞くと、佐藤さん自身、今は良い心持ちの状態にあるようですね。
佐藤 はい(笑)。
――そんななか届けられたのが、今回のニューシングル「ドラマチック」。表題曲はTVアニメ『女神のカフェテラス』のEDテーマで、佐藤さんにとって久々のアニメタイアップ曲になります。
佐藤 久しぶりにアニメのタイアップをいただけてすごく嬉しかったですし、私、瀬尾(公治/『女神のカフェテラス』の原作者)さんの『涼風』という作品を小学生のときに読んでいたので、「わ、瀬尾さんの作品だ……!」と思って。自分が幼い頃に純粋に触れていた作品を作った方と、今お仕事でご一緒できることにも、特別な喜びがありました。
――『涼風』はどんなきっかけで出会ったのですか?
佐藤 家族がマンガを持っていたので読んでみたら「面白い!」と思って、アニメも観ました。私、瀬尾さんの描く女の子が大好きなんです。だってかわいいじゃないですか(笑)。
――間違いないです(笑)。ということは最初にお話をいただいたときから……。
佐藤 すごくテンションが上がりました(笑)。『女神のカフェテラス』の原作も読ませていただいたのですが、登場する5人のヒロインが、みんなタイプは違えど、やっぱり全員かわいいなと思って。しかもその子たちと男の子1人で共同生活をするなんて、男性からすると夢のようなシチュエーションですよね(笑)。だけど、ストーリーは亡くなったおばあちゃんのカフェをみんなで切り盛りしていく、人間味のあるものになっているのも印象的でした。
――主人公の粕壁 隼(CV:水中雅章)と5人の女の子たちが共同生活を送るなかで、徐々に関係性が変化していくところも物語の軸になっているわけですが、その辺りの恋愛要素に関してはいかがですか?
佐藤 やっぱり「誰とくっつくんだろう?」っていうのが気になりますよね(笑)。隼は今のところ、どっちつかずというか。女の子たちは確実に隼のことを好きになっていて、色々アタックしていくけど、隼は断りもしないし、どの子のことが一番好きなのかまだ掴めない部分があって。そこにドキドキしながら楽しんでいます。
――佐藤さんは、隼に魅力を感じますか?
佐藤 どうでしょう?私は割と結果を急ぐタイプなので、「どう思ってるの?はっきりしてよ!」ってなっちゃいそうですけど(笑)。でも、興味がないというわけでもないし、「今は……」みたいな言い方をするので、もしかしたら振り回されちゃうこともあるかもしれないですね。時々すごく男らしかったり、すごく親身に行動してくれるところがあるので、そこは結構心を掴まれるところだと思います。
――Twitterでつぶやいているのを拝見しましたが、5人のヒロインのなかでは、鳳凰寺紅葉(CV:瀬戸麻沙美)が推しらしいですね。
佐藤 はい(笑)。一見するとクールだけど、隼のことを好きになったときに、いち早く自分から仕掛けていくところは、意外と行動力もあって。クールで情熱家、その二面性が好きです。
――佐藤さん自身はこの5人の中で誰に一番近いと思いますか?
佐藤 う~ん、一番近いのは紅葉なのかなあ。紅葉も音楽をやっていますし。その意味では、もしかしたら近いところがあるかもしれません。
――「ドラマチック」はポップかつソウルフルなミディアムナンバーに仕上がっていますが、楽曲を受け取ったときの印象はいかがでしたか?
佐藤 メロディは春らしくて爽やかなので、一見すると「楽しく幸せに過ごす2人」みたいな雰囲気を感じますけど、歌詞をちゃんと聴くと「あっ、この恋は叶わないんだ」ということがわかる失恋ソングになっていて。そのギャップに魅力を感じました。
――佐藤さんは今まで様々なタイプの楽曲を歌ってこられましたが、この楽曲に「自分らしさ」を感じた部分はありますか?
佐藤 「ドラマチック」はメロディに明るさや温かさがありつつ、歌詞は切ないものになっていますが、私の今までの楽曲も、ただ「明るい曲」や「楽しい曲」というタイプのものはあまりないんすね。1stシングルの「名もない花」(TVアニメ『魔法科高校の劣等生 来訪者編』EDテーマ)も、相手を想う気持ちや絆といった温かさはありつつ、でも「言いたいけど言えない」みたいな切なさがある楽曲でしたし、最初に世に出した「Play the real」も、どんなことがあっても自分で道を切り拓いて前に進む気持ちを歌っていますが、2番の歌詞に進みたいけど進めない影の部分が出ていて。そういう二面性のある楽曲という意味では、「ドラマチック」も私らしい音楽だと思います。
――確かに。逆に新鮮さを感じたところはありましたか?
佐藤 やっぱりメロディですね。ポップな感じもありつつ、リズムがR&Bやジャズっぽい感じなので、サウンドが今までの私にはない感じだと思います。
――生楽器中心でブラスなども入っていますしね。歌詞は失恋ソングになっていますが、『女神のカフェテラス』のEDテーマとして、どんなところが作品に寄り添っていると感じますか?
佐藤 『女神のカフェテラス』も、印象としては女の子たちの華やかさが強いと思うのですが、そもそもは隼のおばあちゃんが亡くなったことから物語が始まっていたり、女の子5人もそれぞれ事情を抱えていて。あとは恋心が芽生えるけど、隼には刺さりきらない切なさ。そういった二面性が作品にもあるように感じていて。そういう部分で寄り添えていたらいいなと思っています。
――『女神のカフェテラス』にはヒロインが複数人いるので、いずれは誰かが失恋する可能性もあるわけですし、その意味では物語が進むことでより作品に寄り添う楽曲になるかもしれませんね。
佐藤 はい、そうなったら嬉しいです。
――ちなみに、この楽曲で描かれているお別れのシチュエーションと主人公の心情は、佐藤さんの2ndシングル「You & Me」に収録されていたカップリング曲「Last minutes」と重なるように感じたのですが。
佐藤 そうですね。「Last minutes」も「もう振り返らない」ということを描いた歌なので。
――「Last minutes」は佐藤さんがご自身で作詞していましたが、その意味で今回の「ドラマチック」の歌詞にも共感できる部分があったのではないでしょうか。
佐藤 私は、相手が自分のことを好きでいてくれないのに、自分だけ想い続けるのは辛くなってしまうので、相手が自分のことを好きじゃないとわかったら、例え自分は好きだとしても「絶対に前を向いたほうがいい」と思って(恋を)終わらせるタイプだと思うんです。その意味では、まさに自分が失恋したら「ドラマチック」みたいなことを思うんだろうなあと思いました。
――ただ「ドラマチック」の歌詞は、失恋に気づいて「前向きに終わる」のではなく、「前向きに終わろうとする」ところがあって。
佐藤 そうなんですよね。すんなりはいけない。「でもやっぱり好きだな」とか「まだ……」みたいなところがあって。でも未練が残っているところが描かれているからこそ、「ああ、この子は本当に相手のことが好きだったんだな」と感じられますし、そこも「ドラマチック」の素敵なところだと思っていて。なのでこの要素は大切なところです(笑)。
――レコーディングでは、冒頭でお話されていた「癒やしの声」を意識したうえで歌われたのでしょうか。
佐藤 はい。なので「Last minutes」と「ドラマチック」の歌を比べると、もちろん曲調の違いもありますが、歌い方は大分変わったと思っていて。「Last minutes」の「もう振り返らない」という気持ちは、もう意志を固めていて「絶対に振り返るもんか!」というのを感じさせる歌い方だったと思うのですが、「ドラマチック」はもう少し女の子心のか弱い部分が出ていて。私の声も柔らかくなったことで、よりそれが出ているように思います。
――この楽曲の主人公の心情を歌で表現するうえで、特にこだわったポイントは?
佐藤 2番サビの“真っ赤なリップさり気なく纏わせるような”“涙と嘘とワガママが似合うような”のところです。ここは個人的に、この曲の主人公の幼さや少女感が一番出ているように感じていて。実際に真っ赤なリップを纏わせたり、涙と嘘を使い分けられたなら、もっとずっと一緒にいれたかもしれない。そういう大人への憧れがすごく出ている歌詞だと思うんです。なのでここは大人っぽい歌詞だけど、一番少女感を出して歌っています。あとは歌詞に感情のふり幅があるので、そういう揺れる恋心みたいな部分が歌でも伝わるように意識しました。
――また、YouTubeにて公開されている「ドラマチック」のMVは、白樺の森の自然溢れるロケーションと温かそうな屋内、スタジオでの歌唱シーンなどがフィーチャーされています。どんなコンセプトで撮影されたのですか。
佐藤 楽曲のサウンド感に合った温かさをコテージや暖色系の衣装で表現しつつ、でも失恋の曲になるので、温かさと切なさの二面性をコンセプトに撮りました。私が枯れた花束を持っているシーンがあるのですが、それはもう終わってしまった恋心をずっと抱えている状態を表現しています。
――シングルのジャケットでも枯れた花束を持っていますものね。撮影で印象深いエピソードはありますか?
佐藤 今回はジャケット・MVともに初めて地元の北海道で撮影をしたのですが、ロケで行くと北海道は本当に景色がきれいなんだなあって改めて思いました。ロケ地は私も初めて行った場所だったのですが、すごく景色が開けていて、雪山や河に囲まれた美しい景色をスタッフの皆さんと共有できたことも嬉しかったです。あとはスケジュールが結構タイトで、数時間撮影したあとに、すぐスタジオに移動してレコーディングする段取りだったので、体が冷えたり喉が絞まらないように気を付けていたのですが、スタッフさんがすごく気を使ってくださって。カイロを貼ってくださったり、温かい飲み物を淹れてくれたり、カットになったら毎回すぐダウンを着せてくれたり……そういうサポートがすごく心に沁みたんです。撮影は大変でしたが、すごくいい経験になりました。
――自然の豊かさと人の温かさに同時に触れられたと。ちなみに佐藤さんは今も北海道在住ですが、やはり地元には愛着があるのでしょうか。
佐藤 私の場合はこれまでずっと、お仕事は東京、帰ってくる場所は北海道という感じだったので、そこにオンとオフがあるんですね。東京に拠点をおかないと動きにくいタイミングもでてくるかもしれないのですが、気持ち的な面でも、たくさんの自然に触れられる北海道はいいなって思います。マイナスイオンがたくさんあるので(笑)。
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