――さて、そんな「メフィスト」についてサウンド面でもお伺いします。まず冒頭のストリングスから美しいけれど、何か不穏な印象もあって。
ぁゔち 何かよくないことが起こるかもーって感じ(笑)。
――そこから比較的硬いビートが入った、終始ヒリヒリとした緊張感のあるサウンドになっていますよね。
ぁゔち サウンド面でいうと、アヴちゃんは「LOVE PHANTOM」と「フレンズ」って言っていましたね。
――B’zとレベッカですか。たしかに冒頭のストリングスは「LOVE PHANTOM」らしく、そこから硬めのビートは「フレンズ」っぽくもあり。
ぁゔち 「LOVE PHATOM」と「フレンズ」というのは、この曲でのすごいポップな部分だと思っていて。最初に出来たデモはもう少しつらいというか……ぁゔちはアヴちゃんの弾き語りで聴いたんですけど、弾き語りの「メフィスト」もすごく悲しかったです。で、痛切だなって思っていたものがアレンジが上がってきた段階で、でも生きていくしかないというか、生命力に溢れているものになっていたので驚きましたね。こういうサウンドになったのは『【推しの子】』が復讐劇だからだと思います。復讐ではなく転落劇だったらこういう生命力は宿らなかったんじゃないかなって!
――その生命の躍動と思わせるのがサビでの壮絶な歌唱ですよね。たしかに悲しみを背負っていながらも活き活きとしているというか。
ぁゔち 嬉しい!ぁゔちも歌っているんですけど、「ねぇ、息継ぎって知ってる?」ってくらい大変で……。なのでこの曲を歌うときは肺活量を2倍にしました。最初に歌ったときは、素直に「アヴちゃんってすごい!」って。
――だからこそ歌詞の言い切り、というのが光るわけですよね。
ぁゔち そう!女王蜂の今までのアニメのタイアップって、その作品の根幹をちゃんと見出して「こういうことかな?」って書いている姿勢がすごく好きなんですけど、今回はそれ以上に言葉を明確に言い切ったなっていう気がしていて。これまでは「かもね」というか、To Be Continued…という感じだったのが、今回は「こういうことだと思います」という言い切りを感じています。だから今回アヴちゃんは、こうしてインタビューをぁゔちに任せているんだと思いますね。今回アヴちゃんがインタビューで語りたがらないというか、ぁゔちを通して話させるというのは、この曲についてアヴちゃんは言い切ったからなのかな…って。
――たしかにサウンドも歌詞も何より雄弁というか、だからこそ聴く人たちがその意図を考察したくなるというのはありますよね。
ぁゔち ね!歌詞もアクア目線なのかルビー目線なのか、あるいはここはアイが言っているのか、なんて言われていてすごく面白いですね。でもこの前、赤坂(アカ)先生と横槍(メンゴ)先生と対談したんですけど、2人が絶賛してくれたポイントが「この曲は『【推しの子】』のラストを言い切っている」って言っていただけて。「最終ネームの準備稿を見ましたか?」って!
――実際に物語の結末はご覧になったんですか?
ぁゔち え!?見てないです!でもお二人から「実はここのここが……」と言われて、ぁゔちはとんでもないものに参加しているんだな…って嬉しくもありつつ「アヴちゃんやりよったな」って(笑)。シンクロした部分がすごくありましたね。
――意図せずとも作品とシンクロした結果、そうとも取れる楽曲になったと。
ぁゔち 嬉しかったですー!今までもアニメのタイアップのお仕事をするときには、アニメで許されてる範囲での表現で、アニソン、キャラソン、劇伴とはまた違う位置のものを女王蜂は担当してきていて、でもそれってすごく孤独なんだろうなって思っていたんです。その孤独さを祝福してもらったというか、ここ最近はアニメのお仕事をするたびにそこを絶賛してくださったりとか、このシンクロ度や先の示唆を喜んでいただけるというのは、女王蜂ファンのぁゔちとしても嬉しく思いますね!
――そしてもう1つ伺いたいのが、楽曲の最後に聴かれる“さあ星の子たちよ よくお眠りなさい”というパートですね。ここのフレーズがまた新たな想像を掻き立てるといいますか……。
ぁゔち あ、それには面白い話があって。フルバージョンには“さあ星の子たちよ よくお眠りなさい”のあとに“よく狙いなさい”って入っているんですけど、TVバージョンでは“よくお眠りなさい”を繰り返しているんです。最初はフルバージョンと同じく“よく狙いなさい”で提出していたんです。そうしたらアニメサイドから「これはアイちゃんの目線ですか?」と聞かれて、アヴちゃんが「……誰の目線なんですかね?」って返していて。
――アヴちゃんも誰の目線で書いたかわからなかった。
ぁゔち ぁゔちもそれを横で見ていて珍しいなって思っていたんですけど、アニメサイドからはこれがアイちゃんの目線だとしたら、アイは復讐を望んでいるかわからないから“お眠りなさい”のほうがいいかもしれませんねと言っていただいて。それでTVサイズは“よくお眠りなさい”を繰り返しているんです。ただ、フルバージョンは絶対“狙いなさい”って言い切りたかったみたいで。でも、誰の目線なんだろうって半年くらいモヤモヤしていたんです。それでコミックスを読み返してみたら、結構先の話なんですけどとあるシーンで出てくるカラスの女の子……、超然とした存在が出てくるんですけど、この人の目線で書いているんだなって気づいて。そこにはアイちゃんはいなかったんだなとわかって、「ああ、突っ張ってよかったね」って思ったみたいです!
――いわば今放送されているアニメの先にいる存在が語りかけるような歌詞になっていると。
ぁゔち そうですね。だからこの先『【推しの子】』のアニメが続いてくれた先に、このフルバージョンが頭の中で鳴ってくれるようなときを思うと、やっぱり“狙いなさい”でよかったのかなって思っています。
――しかもそれもまた、意図して書いたわけではなく……。
ぁゔち もう、こんなんばっかりですよ!霊媒師と話してるみたいな(笑)。ぁゔちもそう思いますよ、「あなたの職はなんですか?」って。
――改めて様々な縁が繋がっていくような、運命的なものを感じさせる楽曲となったわけですね。
ぁゔち 例えば冒頭の“踊り出すまま駆けたこの夜空”というのも、書いたときに「YOASOBIさんで『夜に駆ける』って曲あるよね?」ってなったんですけど、でもそのときはOP主題歌がYOASOBIさんって聞いてなかったし「まあいいか」って書いてて、その1年後に「OP主題歌はYOASOBIさんです」って。ここも「あなたの職は……」って思いましたね(笑)。
――そういえば先ほどのカラスという話は『後宮の烏』とも通じたり、『チェンソーマン』も悪魔が出てきますよね(笑)。
ぁゔち ちょうどこの3作品の納品がとっても近かったんですよ。なので女王蜂メンバーの間では“魔の三部作”って言われています(笑)。
――“魔の三部作”!
ぁゔち アニソン界隈に魔を輸入してる!怖いですね♡
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