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INTERVIEW

2023.05.24

抱えていた想いをひとつの花束に――早見沙織、ニューアルバム『白と花束』と、これからを歩んでいくための想いを綴る

抱えていた想いをひとつの花束に――早見沙織、ニューアルバム『白と花束』と、これからを歩んでいくための想いを綴る

早見沙織がニューアルバム『白と花束』をリリースした。2枚のミニアルバムを挟み、前作『JUNCTION』からは実に5年ぶりとなる通算3枚目のフルアルバムには、TK(凛として時雨)や清 竜人、Kevin Penkin、Tomggg、ぷす(fromツユ)、いよわ、諭吉佳作/menといった音楽クリエイターが集結し、早見自身が作詞作曲を手がけた3曲の新曲も収録。「孤独や生きづらさを感じる人の心に寄り添い、光となる音楽を届ける」というテーマを軸にしながらも、これまでにない挑戦や変化にも富んだ、実にバラエティ豊かで個性溢れる楽曲たちを束ねた1枚を完成させた心境から話を始めた。

INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ

1つ1つを束ねて作り上げた、早見自身が手がけた楽曲

——2021年から掲げてきたテーマの集大成となるようなアルバムになりましたか?

早見沙織 “集大成”という言葉の響きは大きいのですが、今現在の早見沙織を表したアルバムになったと思っています。自分の心の中に常にあったことですが、今回のアルバムを制作するうえでも大切にしたのは、人間はやっぱり、光もあれば闇もあって、どちらの側面もあるということでした。

——これまでは影や闇ではなく、“淀み”や“痛み”と表現されていましたね。

早見 決して、こちらから一方的に誰かを救いたいとか、誰かを変えたいという気持ちを持っているわけではなくて。自分も痛みがあるし、人にも痛みがある。自分にも悲しみがあって、相手にも悲しみがあるっていう部分をちゃんと理解したうえで、音楽を作っていきたいなと思っていて。なので、今回アルバムでは、裏テーマとして<光>はあったんですけど、例えばリード曲の「Abyss」は、サビの中にもあるように、<闇>を意識しながら作りました。

——早見さんが作詞作曲を手がけられています。

早見 曲が先にできたんですけど、すごく明るいというよりは、寂しい雰囲気や切ない雰囲気が感じられるような曲にしたい、というイメージから作り始めて。渡辺(拓也)さんに編曲していただいて、そのあとに歌詞をつけ始めました。

——楽曲からは海に沈んでいくような情景が浮かびました。

早見 最初にアレンジしていただいた楽曲を聞いたときに、私も海みたいなイメージが浮かびました。いつもはピアノでデモを作ることが多いんですけど、別の楽器の音を聞きながら作ったほうが違うものが生まれるんじゃないかと思って、ギターの音を中心に作っていった曲だったんですね。冒頭の部分で生かしていただいているんですけど、海のイメージから色々とばあっと想像を広げていったときに、皆さん、人生の中で変化があった数年だっただろうな、と思って。

——そうですね。特にこの3年間のコロナ禍では、現実の生活でも、それぞれの心の中でも、大きな変化があったと思います。

早見 その変化を経て、得たものもあれば、失っていったものもあるな、と。例えば、家族や大切な人や友達。人だけなく、大事にしていていたものや動物、仕事を失ったという人もいるかもしれない。もっと大きく見ると、世界情勢では争いもあるし、災害もある。色んなことがあると思うんですけど、それを経験したとき、すぐには乗り越えられないですよね。そのなかで、色々な複雑な心の動きがあって。プラスになったり、マイナスになったりを繰り返しながら、それでも少しずつ生きていくっていう流れがあるのかなと私は感じていて。喪失感と、その心の揺れ動きみたいなところに焦点を当てて歌詞を書きました。

——編曲で感じた水や海のイメージというのは?

早見 自分が喪失感に見舞われているとき、考えに考えると思うんですね。それを“記憶の海”という言葉にしています。自分の想像の中で色々と思考していって、脱力して力が入らなくなっちゃったりする。どんどんと沈み込んで、深淵のほうまで潜っていってしまう。でも、そのなかでは、思い出に浸って、ちょっと幸せな気持ちになったりするし、逆にもう戻れないんだと思って力が抜けてしまったり、もがき苦しんだりする。この曲では、もがいて上に上がって光を掴むんじゃなくて、沈んでいくんだけど、それでも水面には光が射している。このアルバムのために作った曲として、どこかにそういう<きらめき>みたいなものを入れたくて。

——このまま、早見さんが作詞作曲の両方をご自身で手がけた新曲について聞かせてください。「フロレセンス」ではポエトリーリーディングに挑戦してます。

早見 音楽チームから「少し語りっぽいパートを作ってみたらどうか?」というアイデアをいただいたんですけど、セリフとも歌とも違って面白かったですね。全体をまとう空気としては、浮遊感があって、ちょっとダウナーな感じなんだけど、サビはしっかりとあって、リズムも刻んでるというイメージで作りました。

——四つ打ちのバスドラが鳴ってますね。

早見 「Awake」とはまた違う心の残し方というか。グッと刻み込んで、そのビートが続いていく。心臓の鼓動からイメージした曲ですね。

——“夜明けを指す方へ”という歌詞もありますし、“光”や“愛”といった、このアルバムを象徴するような言葉が込められてますよね。

早見 アルバムの後半にできた曲なので、1つ1つを束ねて持っていくんだという気持ちは入ってますね。

——「フロレセンス」というタイトルはどんな意味なんですか?

早見 ダブルミーニングみたい感じなんですけど、<開花>と<蛍光>っていう意味を込めています。英語の綴りは違うんですけど響きは似てるんです。

——「Abyss」はアコギと弦が基調で、「フロレセンス」はエレクトロポップになってますが、ピアノと弦のみで、ベースとドラムなしで構成されたラストナンバー「はじまりの歌」は、どんなところから作り始めましたか。

早見 これまでやってこなかったことをやってみた2曲とは違って、自分の中では「真っ直ぐ」を意識した曲でした。あくまでもストレートに、そのなかでメロディーをどんどん変えていく。とても試行錯誤した曲だったんですけど、チームにたくさんの意見をもらって、どんどんブラッシュアップしていって。みんなとコミュニケーションを取りながら作っていったのが大きかったですね。

——どんなメッセージを込めましたか?

早見 歌詞を書くときはアルバムの最後の曲だと思っていたので、これまでの歩みの中でのまとめの1曲という意味は持ってます。でも、自分の意識の中では、自分が歌っていくことや音楽に携わらせてもらう道は、決して終わりではないと思っていますし、このアルバムを手に持って歩んでいきたいっていう気持ちもある。もっと広い目で見れば、自分の人生もずっと続いていくっていう。明日も朝がきて、生きていく。このアルバムを聞いてくださった方にも、紆余曲折ありながらも、明日は朝がくる。ちゃんとここからもう一度始めることができるっていう希望を込めた曲です。

——“立ち止まってもぶつかっても明日は来ると 信じ続ける。それが希望だと”と歌ってます。

早見 まさに、そこかなと。陰と陽のどちらもあるけれど、それでも明日がくるって信じたい。信じることが希望になる、という想いです。

「この1枚を作れたことが嬉しいし、本当に幸せ」

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