ついに、5月28日に開催される高橋洋子の記念すべき初の『エヴァンゲリオン』をテーマとした単独コンサート“YOKO TAKAHASHI EVANGELION ultimate Live『月十夜』”。その見どころを聞くインタビュー。最近のライブについても尋ねると、彼女のこれまでのキャリアを踏まえた様々な試行錯誤から、アーティストとしての姿勢が浮き彫りになった。これを踏まえてコンサートに臨むとより一層、歌やパフォーマンスを楽しむことができるだろう。
※インタビュー前編はこちら
INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
――ここからはライブのお話を伺っていきたいと思います。ようやく息を吹き返したライブエンターテイメントの業界ですが、高橋さんも2023年に入ってから精力的にライブの場に立たれています。近いところでは、2023年プロ野球ソフトバンクホークスの「エヴァンゲリオン」コラボ開幕セレモニーにサプライズ登場し、「残酷な天使のテーゼ」を歌唱されました。
高橋洋子 以前にもお話したことはありますが、私は人前に出るととても緊張するタイプなんです。そんな私が福岡ドームという広大な場所で約4万人を前に歌うって、もう、自分の心臓の音が聞こえました(笑)。
――野球には親しみがありましたか?
高橋 はい。子供の頃から好きで、後楽園球場へ観に行っていました。中学生の時が一番ピークで好きだったんですが、今年のワールド・ベースボール・クラシックでまた火が点きまして、そんななかでの歌唱でした。登場前の映像演出も最高で、歌い出す直前にうっかり見入っちゃって。むしろ、私のほうが楽しませていただいた一生の思い出になりました。
――また、3月4月には東京と大阪で“「エヴァンゲリオン」ウインドシンフォニー”も開催されました。こうしたクラシックの場で歌うことはどんな経験でしたか?
高橋 私は大元としてはクラシック出身ではありますが、このポップスの世界で歌うにあたり、「クラシックっぽい」と言われて一度、その技法を捨てたんです。それが、2017年3月に開催された「シン・ゴジラ対エヴァンゲリオン交響楽」(総監督:鷺巣詩郎、指揮:天野正道)というコンサートに呼ばれ、「Who will know」という『シン・ゴジラ』の曲でソプラノを歌ってくださいと言われまして。もう寝耳に水で。何十年もクラシックを歌ってこなかったので、スタジオに毎日籠もって練習したのですが、全然声が出なかったんです。
――なぜだったのでしょう?
高橋 それは、これまであまりにもポップスを歌いすぎていたから。クラシックを歌う方は地声ではなく、裏声なんです。ポップスはその逆。そこで急にクラシックを歌おうと思っても、ポップスの癖が残っているので上手くいきません。ですので、ここでまたポップスの歌い方を捨てて、ゼロから組み直すことにしました。そんな経験をしてから、以降ときどきは裏声を出す機会があり、そんななか“「エヴァンゲリオン」ウインドシンフォニー”で「シン・エヴァンゲリオン劇場版」本編で使われている「the path」という曲を歌唱することになりまして。鷺巣先生のアレンジは凝っていて、普段オーケストラをやっている方でも苦労するリズムなんです。しかも、リハーサルは当日の朝のみ! ポップスと違ってクラシックは始まる前もシン……とした緊張感で、心臓が3回くらい飛び出しそうになりました(笑)。でも、さすが皆さんプロ中のプロなので、みんなでアイコンタクトというか、テレパシーですね。結果、大変ご好評をいただきました。
――ゲストに世界的トランペッターのエリック・ミヤシロさんも参加されたそうですね。
高橋 鷺巣先生が私とエリックさんのカデンツァ(最後に用意された即興部分)を用意してくださったのですが、リハ1回でどうしようと思っていたら、エリックさんがとても面白くしてくださって、後にお客様から「お笑いパート」と呼ばれて、好評となりました(笑)。それって、ライブにおいてとても大切なことなんですよ。“ウインドシンフォニー”で一番感じたのはそこでした。コロナ禍以降ずっと、座席ではマスクでじっと見るだけのスタイルが続いていました。でも、お客さんは何をしに来てるかと言えば、その場を楽しみたいわけですよね。そこで何が起こるかわからないのがライブの醍醐味。お客様の聴き方は色々あると思いますが、今回は「ライブってこういうものだったと思い出せた」という回答が一番多かったです。
――緊張感も含め、そういった場に身を置くことはアーティストとしてどんな経験だったと思いますか?
高橋 本当に素晴らしい体験をさせてもらったなと思います。鷺巣先生とのお仕事は、いつも見えないところから思いがけないボールが飛んでくるんです(笑)。それでビックリするんですけど、何とか受け取ることを続けてきたことで、自分の可能性がすごく広がりました。私の娘も「鷺巣先生はすごいよね。ママのいいところをいっぱい引き出してくれる」と言うんです。「今回はもう出来ないんじゃないか」と思いながらも、終わったときには貴重な経験になっていますし、こうでもしなければ絶対にチャレンジしなかったことばかりです。本当に緊張するので、終わった後も自分で自分にダメ出しの嵐みたいになっちゃうんですけど、でもそれも含めてライブです。それに対してお客様が一緒に作ってくださってるものだから、拍手とか歓声とか、今回はマスクをしながらでも一緒に歌っていただけたので、嬉しかったです。
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