5月2日、＜小林愛香 Zepp TOUR 2023 “syzygy”＞の神奈川公演が、KT Zepp Yokohamaにて開催。歌手・声優の小林愛香による昨年リリースのEP「syzygy」をタイトルに冠したZeppツアーのラストを飾った本公演は、彼女がアーティストとしての充実期を迎えたと感じさせる、歌・ダンスともにどこを取っても質の高いものに。加えて、解禁された声出し応援も活かした、今まで以上に会場のファンのハートを巻き込んだ公演にもなった。

TEXT BY 須永兼次
PHOTOGRAPHY BY 結城さやか

魅せて聴かせて巻き込んで――色とりどりの楽曲、すべてで観客を惹きつける力

オープニングのSEが流れるなかまずはダンサー4人が登場し、続けて小林も登場。そのままアカペラで「Gimme the mic, gimme the light」の最初のフレーズを歌い上げ、ライブの幕開けを飾る。ハードなダンスナンバーを切れ味鋭く踊りこなし余裕さえ感じるような不敵な笑みも浮かべながら、パワフルな歌声で圧倒。続く「Secret Feeling」でもダンサーと動きをピタリ揃えた質の高いダンスパフォーマンスを織り交ぜて、冒頭2曲ではボーカルワークも含めてスタイリッシュな姿を提示する。その一方で、若干下を向いた際には、視線の先にいるファンと目が合った嬉しさからか、不意に笑顔こぼれる瞬間も垣間見られた。

歌唱後のMCパートでは、この2曲での登場に沸くファンの反応を受けて「頑張って良かった！」と素直に吐露する小林。メジャーデビューがコロナ禍と重なってしまった彼女にとって、待望の声出しOKとなった本公演に対して「待ってたよー！」と叫びファンからも大きな声が返る。続けてクラップやダンスなどにも言及し「色んな楽しみ方で、最高の1日を作っていけたら！」と意気込みを語ると、サビ部分の振付講座を経て「Holiday!!」へ。直前の言及通りにA・Bメロはクラップを、サビでは振付を用いて、声を使わずとも一体感と盛り上がりを醸成していく。それに続く「Tough Heart」の頭サビに観客がさらに沸き返ると、小林はその歓声をマイクで拾いつつ、ジャンプして観客を煽っていく。その軽々と跳ねる姿とは裏腹なパワー溢れる歌声には、この日も改めて驚かされた。そんな小林自身は、2サビ最後のロングトーンを歌いきった瞬間ぐっと拳を握る。そこには歓声含めた盛り上がりを感じた、彼女の手応えが表れていたのかもしれない。

そんな手応えを感じてからのMCパートでは「みんなの声があってこそ、曲がさらに進化していくと思っています」と語ると、その“みんなの笑い声”に彩ってほしいクリスマスソング「HO! HO! HO!」へ。温かな歌声を響かせていく小林は、1サビではコール部での“笑い声”を受け止めてまたもにっこり。リリースから約5ヵ月を経ての、ファンからの遅めのクリスマスプレゼントを受け取った形となった。そして「たたたんばりんりずむ」では、レコーディングでも実際に担当したタンバリンを手にしながら、キュートさに加え若干のファニーさも歌声に乗せてまた違った角度からファンを惹きつけていく。さらにメロウな雰囲気の「Sunset Bicycle」では、音域的に強く歌いたくなりがちなところにも丸みを持たせて、歌声からもムード作りに成功。サンセットを描いた客席のオレンジのペンライトの輝きも左右に揺れて、一体感を生み出していった。

こうしてファンを、楽曲を通じてお洒落な雰囲気に浸らせた小林は、MCパートでファンとしばしコミュニケーションを楽しんだところで一旦降壇。ダンサーによるダンスタイムを挟み、流れ始めた「Happy ∞ Birthday」のイントロに合わせて、この曲にちなんだ赤の衣装に着替えた小林が再登場。イントロ部分に合わせて跳ねつつクラップをしながら、観客を踊らせ盛り上げていく。もちろん小林自身のダンスも、ライブが後半に差し掛かっても見どころたっぷり。2サビ明けの間奏ではこなしているかのように軽快に、しかし1つ1つの動きに確かなメリハリをもったダンスで魅せていく。そしてラストには、曲のとおりにマイカメラで観客を撮影して曲を締め括った。

曲明けには、ライブでもファンと“会話”できることの嬉しさを改めて言葉にして伝えていく小林。そんなハッピーな空気のなか、続いて披露したのはミドルナンバー「Easy Fizzy」。さらに甘めな歌声で、楽曲のテイストに起因する少々ゆるっとしたムードで会場を包んでいく。かと思ったら2サビ中盤では不意にぱたぱたと回ったりと、巧みに“かわいい”を織り込んでもみせた。続く「Night Camp」では、特にA・Bメロでの清涼感のある美しい歌声が光る。その歌声は星々のまたたく夜空を表しているようであり、それを彷彿とさせる客席のペンライトの輝きとも結びついて、この曲ならではの独特の世界を作り上げていく。そしてDメロでは拳を突き上げ、観客とともにコール部での大合唱。様々な面から「みんなで」作った光景は、やはり美しく、胸を打つものだ。歌唱後には小林自身も「やー！やっぱいいねー！」と満足げな様子をみせ、同時に曲中では泣きそうになっていたとも明かすと、各公演ごとにファンと一緒に会場にちなんだ振付を踊る“無重力タイム”を持つ「MI-RA-I miracle circle」へ。持ち前のスキルが生きるダンサブルなナンバーでもあるこの曲、魅せどころではスタイリッシュなパフォーマンスで観客を惹きつけていき、歌声にはほどよくキュートさも込めて披露していく。そして楽曲後半にやってきた“無重力タイム”では会場全体で、歌唱前のMC中に決定した、中華街と神奈川の名産にちなんだ「パンダとひょうたん」のポーズ。両手をグーにして頭の上に置きながら、ふわりふわりとゆっくり屈伸運動。カオスな光景が生まれることの多い“無重力タイム”で、この日も思わず吹き出して一瞬歌えなくなる場面もあった。

会場一体となって楽しんだ後は、この日の日替わり楽曲「Lorem Ipsum」からクライマックスへ。イントロ中に手にしたタオルで小林に煽られた観客は、Bメロのコール部ジャンプで会場を物理的に揺らすと、そんなファンたちに向けてさらにメジャーデビュー曲「NO LIFE CODE」を畳み掛けていく。楽曲冒頭や落ちサビの“NO LIFE CODE”のフレーズをコールとしてファンに委ねつつ、その声から受け取ったエネルギーを活かして圧さえ感じるパワフルな歌声を響かせていく。しかも、鋭いダンスを決めながらもその強さがブレないという点はもちろん、2-Aメロの“ウサギ達 嬉しいかなんて”のフレーズでは突然キュートさを乗せてみたりと、その歌声は細かい表現までおいしいところだらけ。そのうえサビのラストでは跳ねて跳ねて会場の熱量を高めていったりと、みんなの先頭に立って楽しみながら引っ張っていく姿を、この大事な曲の中でしっかりと見せていた。

最後のフレーズで拳を天に向かって力強く突き上げてビシッと決めると、勢いそのままに本編ラストを飾る、ハイスピードなロックナンバー「Heartache soldier」へ。サビや間奏などでウインクを四方八方へと振りまきながら、その先にいるファンと一緒に、この曲もまたコールの掛け合いなどを通じて進化させ、楽しさ溢れる空気のままラストナンバーまで駆け抜けきった。

次ページ：“次の約束”を交わしたファンと、やっと一緒に作れた「最高の“最高”」

• 1
• 2
• 次へ »