この記事を開いたあなたに質問です。次のテキストを読むことができますか?
“キャラメル マシュマロ いちご飴 これ全部可愛い女の子の夢”
“パンケーキ わたあめ カフェオレ これストーリー載せてる子はオシャレ”
……あれ、私はたしか「読むことができますか?」とだけ尋ねました。もしかすると、読み進めるうちにふと、頭の中にメロディが浮かんだり、あるいはそのメロディに乗せて読んでしまった方もいるのではないでしょうか。
そんなあなたに次の質問です。あなたは日頃からTikTokを開く“Z世代”の方ですか?また、先ほどのワンフレーズが「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」という楽曲から引用したものであること。“キャラメルとマシュマロのやつ!”ではなく楽曲の正式なタイトル、そして歌唱しているアーティストが音莉飴(ねりあめ)というユニットだと知っていましたか?
この記事の内容は、前者の問いに“はい”、後者に“いいえ”と答えた方にぜひ読んでほしいものです。TikTokで数え切れないほどの動画をスワイプしていると、そこで使われている楽曲のタイトルや、歌っているアーティストなど、余程のことがないと調べることも少ないことでしょう。ですが、音莉飴はこれからのZ世代の象徴として大きな存在を放つアーティストとなり、あなたもきっと好きになれるに違いありません。この記事では、音莉飴が5月24日(水)にメジャーデビューシングル「運命共同体!」をリリースすることを機に、ユニットの成り立ちやZ世代の心に刺さる理由について紐解いていきます。
TEXT BY 一条皓太
改めて、音莉飴は青森出身の親友同士=“あかね”と“あかり”が2021年9月に結成した、作詞から作編曲までをこなすガールズユニット。彼女たちもまた、ユニットのメインリスナーであるZ世代と同年代なのですが、今日の人気ぶりを築き上げるまでのストーリーもまた、なんともZ世代的なのです。
というのも、中学時代から音楽投稿アプリ「nana」に親しんできたあかねが、高校卒業後に何気なく「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」の歌詞を書き上げます。アイデアの基となったのは、彼女が渋谷で食べたキャラメルパンケーキとマシュマロ、いちご飴。当初はフリートラックに乗せて歌っていたところ、親友のあかりから編曲の練習をさせてほしいと、楽曲アレンジの希望が届きます。その後、あかねの友人に完成した楽曲を聴かせた際、SNSにアップすべきだと後押しが。そのあとにどうなったかは、もう語らずとも明らかでしょう。
何の気なしに“投稿してみた”ら、インターネットでバズった。具体的な数字にすれば、TikTokの関連動画数が約10万件、YouTubeにアップした公式MVの再生回数が約1,270万回(2023年4月の本稿執筆時点)。しかも、この公式MVの制作と同時に、楽曲の人気ぶりがクリエイターユニット・HoneyWorksの目に止まり、彼らのサウンドプロデュースの元、リレコーディングバージョンとしてシングル配信もされることになったわけです。
もちろん、あかねの作詞作曲、あかりの編曲技術は、一朝一夕で培ったものではなく、長年の努力に裏打ちされたもの。それでも、SNSの力によって当人たちの意図していない形で成功への道が拓けるのは、Z世代のアーティストらしい、良い意味で模範回答のようなストーリーラインではないでしょうか。
2021年9月の結成から1年半。わずか1年半で、音莉飴は時代の寵児になりました。ただそれは、音莉飴の音楽がいわゆる“売れ線”を狙ったからではなく、彼女たちと同じZ世代の心に刺さるポイントを、丁寧に押さえているから。音莉飴がこの時代に“売れた”のはもはや必然。その理由について、ここからはシングル「運命共同体!」収録曲に触れながら考えていきましょう。
表題曲「運命共同体!」は、TVアニメ『女神のカフェテラス』OPテーマに起用。音莉飴は作詞作曲を担当し、共同作曲と編曲にはHoneyWorks系列にあるユニット・MARUMOCHIのクリエイター陣が参加しています。こちらはタイアップ楽曲として、複数のヒロインが海辺のカフェの立て直しを目指すというアニメのストーリーになぞらえて、シーサイドカフェテラスを舞台に、女の子同士での青春模様を描いた歌詞に。同時に、“君が大好きなんです!”と、ほかのヒロイン以外=アニメでいうところの主人公・粕壁 隼に向けた想いも織り交ぜるなど、作品との親和性も申し分ありません。
また、サビ後半には“このカフェテラスを照らす ウチら運命共同体!”という象徴的なフレーズも。ここで触れておきたいのが、あかねが作詞において特にこだわっている“韻”。基本的には脚韻を意識したもので、「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」においても、小節ごとの最後のひと文字を同じ母音に揃えて綺麗に処理をするなどのラップ的な見せ方をしてきましたが、「運命共同体!」は軽快なギターが映える爽やかなポップス。Bメロなどでラップは披露されますが、楽曲全体を見渡すと韻の割合も少なめです。
それでも“キャラメル マシュマロ いちご飴”のように、“ビーチ・浮き輪・サンダル カモメも楽しそうです! Yeah”と、サビで歌い出しに固有名詞を並べて、情景をビジュアライズさせる伝家の宝刀や、“このカフェテラスを照らす”のフレーズで、このパート唯一の韻を踏むなど、音莉飴らしさやこだわりはしっかりと感じられるところ。特に後者の“カフェテラス”はアニメタイトルをそのまま引用しているため、ワードとしてインパクトもあります。2番では“照らす”“te・ra・su”を“描く”“e・ga・ku”に変えることで、たまたま音が重なったのではなく、意図して韻を踏んでいることも伝わるのではないでしょうか。
一方で、トラックはかなり新鮮。「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」に代表されるように、音莉飴は“Kawaii”や“Future”といった形容詞がつくサウンドで、オートチューンを掛けながら流れるような聴き心地で歌うスタイルが得意な印象がありました。しかしながら「運命共同体!」は前述の通りかなり王道なポップス寄り。この辺りは、HoneyWorksの得意とする爽やかなサウンドにフィットすべく、作編曲までをこなすクリエイター的な側面よりも、シンガーとしてのそれにますます磨きを掛けていく。そのようなアーティストとしての新たな道を模索する狙いがあったのかもしれません。
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