着ぐるみの奥にあった仁奈のほんとのきもち。【TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」第3芸能課観察記録01】

TVアニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ U149」（以下、「U149」）の第1話「鏡でも見ることができない自分の顔って、なに？」と第2話「おでかけなのにただいまをするもの、なに？」が放送された。本コラムでは「U149」の物語や音楽、アイドルたちの魅力を追いかけていく。

【特集】TVアニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ U149」が彩る夢のステージを紐解く！

TEXT BY 中里キリ

「U149」の世界を披露したこだわりの数々

アニメ「U149」は、ソーシャルゲーム「アイドルマスターシンデレラガールズ」シリーズから生まれた作品で、スマートフォン・PC向けマンガ配信サービス「サイコミ」で連載中のコミック「アイドルマスターシンデレラガールズ U149」（漫画：廾之　原作：バンダイナムコエンターテインメント）が原案。タイトルのU149とはアンダー149の意味で、身長149cm以下の小学生アイドルたちにフォーカスして描かれるのが大きな特徴だ。学年も性格もてんでんばらばらの9人の少女たちが所属する第3芸能課。そこに米内佑希演じる、やる気だけはある新人“プロデューサー”がやってくる。

第1話では橘ありすの家庭や学校生活を通した日常の姿や、プロデューサーと第3芸能課のアイドルたちの出会いが中心に描かれた。ありすの寝起きのぼんやりした無防備な姿、青いリボンと制服をまとって登校した学校でちょっと見栄を張ってしまう姿などが点描されることで、事務所で見せるありすのちょっとツンとした（ある意味見慣れた）姿が新鮮に映り、キャラクターとしての奥行きや厚みを与えてくれている。おっと思ったのは、第3芸能課で9人がプロデューサーの訪問を待っている際、ありすが「ありすと呼ばないでください」の名台詞を言ったときの周りの反応だ。真っ先にありすの心の防壁の距離を飛び越えて、零距離まで詰めていく市原仁奈の関係性の突破力。そこに龍崎薫、赤城みりあが続き、最後にちょっと遅れて佐々木千枝が加わっていく順番の中にも、小さなアイドルたちの性格やアクションに至るまでの瞬発力といった要素がしっかりと入っている。

自分の“ありす”という名前が子供っぽくて嫌なありすだが、年少の子たちにありすと呼びたいと頼まれるとすぐに許してしまうちょろ優しさがある。同年代の結城晴のありす呼びはすげなく断るギャップが良い。なかなか第3芸能課にやってこないプロデューサーを迎えに行こうとするみりあ、仁奈、薫が走っていく姿をコミカルに描く描写の“子供たち”感があまりにも絶妙で、こだわりを感じる作画だった。

みりあたちと衝突する形でアイドルたちとの初対面を果たしたプロデューサー。様々なアイマス作品で描かれてきたプロデューサーの中でも少年っぽく、精神的にも身長的にも「U149」のアイドルたちと目線が近い印象だ。初めてのプロデュース（社会人3年目）ということもあり未熟ではあるけれど、アイドルに対する夢と憧れに真っ直ぐで、情熱を持っているように見える。うっかり気遣いを忘れることもあるけれど、自分が間違ったと思うときは反省して、年下のアイドルにも対等に頭を下げることができる好漢だ。時に突っ走りながらも物語を動かす、少年漫画の主人公タイプのプロデューサーと言えるだろう。

第1話では、それまで担当声優が伏せられていた古賀小春が声を発し、担当声優が新人の小森結梨であることが放送上で明かされた。今後に向けて気になるのは、ありすと両親の関係性だろう。ありすは両親のことを大好きなのに、芸能活動についてきちんと相談することができず、両親との関係についても何かわだかまりを感じている。

「シンデレラガールズ」でお馴染みの島村卯月、渋谷凛、本田未央のニュージェネレーションズが、電車の中吊り広告に登場するレベルのアイドルとして先を走っていることも押さえておきたいポイントだ。ありすたちのレッスンを担当する身近な存在として、ルーキートレーナーが登場したのも「シンデレラガールズ」好きには嬉しいところだった。

第1話EDテーマ「よりみちリトルスター」は作詞を朝倉路、作編曲を渡部チェルが担当。このコンビと言えば2015年のTVアニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」における「私色ギフト」を思い出す、信頼しかない組み合わせだ。秀逸だと感じたのは、プロデューサーのカラオケからありすの鼻歌へと歌い継ぐ「お願い！シンデレラ」を、疑似EDテーマ的に挿入したこと。スタッフテロップなどをそちらに回したことで、「よりみちリトルスター」の初披露はノンテロップで、U149のMVのように見せることができていた。今はまだデビューを目指しているU149の、未来のMVを見ているような感覚だ。

作品全体のエンディングではあるのだが、魅力的なパート割の妙もあいまってU149というユニットのユニットソングとしてきっちり成立しているように感じた。

仁奈の始まり――「U149」だからこそ描ける最高のお当番回

第2話では輝かしくも心浮き立つ躍動感に溢れたOPテーマ「Shine In The Sky☆」が初お目見え。「シンデレラガールズ」発の作品で“ガラスの靴も馬車もないけどじっとしてられない”という歌詞がとても「U149」らしくキャッチー。作曲の俊龍はコミック版「U149」発の楽曲「ドレミファクトリー！」でも作曲を手がけていることでお馴染みだ。

第2話「おでかけなのにただいまをするもの、なに？」は市原仁奈中心の物語。仁奈が公園で花に水をやったり、道を歩いているだけでも色々な人が笑顔になって話しかけてくる。仁奈自身はそれは彼女が着る着ぐるみの力だと思っているようだ。着ぐるみを着ているとみんなが仲良くしてくれる、一緒にいてくれるというのは仁奈にとっては大切なことなのだろう。ところが宣材写真の撮影の日、張り切って色々な着ぐるみをかばん一杯に詰めこんできた仁奈は、お気に入りのにわとりの着ぐるみを落としてしまう。

なくした着ぐるみを探すうちに、仁奈が街の人にどれだけ好かれているか、そして父親が海外にいて母親も多忙な仁奈が抱えている寂しさと孤独への恐れが徐々に見えてくる。そこでキーパーソンになるのが、仁奈たちと同じ事務所に所属し、既にトップアイドルとして活躍している一ノ瀬志希と宮本フレデリカのコンビだ。仁奈の着ぐるみを偶然拾った志希フレコンビは、漫才のような掛け合いを繰り広げながら、自慢の嗅覚と直感で逆追跡を開始する。

そしてクライマックスとなるのが、夕暮れの公演での志希と仁奈たちのやりとりだ。着ぐるみと友達になったという志希は「この子もらっちゃ、ダメ？」というちょっといじわるな質問をきっかけに、仁奈の秘めた気持ちを魔法のように引き出していく。仁奈の答を導きながら、ありすの介入をさらっとかわしたり、ここぞというところでプロデューサーの一言を待ち受けたりと、志希の表現が本当にきめ細かい。そして一番求められているタイミングで、すごいのは着ぐるみではなく仁奈の元気さと笑顔、存在そのものだと熱く語れるプロデューサーの素晴らしさ。そして仁奈のお話でありながら、ありすが仁奈の孤独に共感し、プロデューサーを見直す心の動きがしっかりと描かれているのもとても良かった。

ラストシーンは宣材写真の再撮影。着ぐるみに頼っていた仁奈は大事な着ぐるみをプロデューサーに託し、素の自分で元気いっぱいに写真に写った。1人ではなく9人全員で、デビューに向けて歩み出す第3芸能課だった。

そして第2話のエンディングは「みんなのきもち」！「THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 035」に収録された仁奈の始まりのソロ曲をここで持ってきた。仁奈のかかえた孤独と寂しさを描いたうえで乗り越え、プロデューサーはその背中をしっかりと支えて熱く後押しする。「U149」だからこそ描ける最高のお当番回だった。

●作品情報
TV アニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ U149」

原作：バンダイナムコエンターテインメント
原案：「アイドルマスターシンデレラガールズ U149」廾之（サイコミ連載）

【スタッフ】
監督：岡本学
副監督：高嶋宏之
シリーズ構成：村山沖
アニメーションキャラクターデザイン：井川典恵
コンセプトアート：大久保錦一
デザインワークス：
野田猛小田崎恵子中村倫子渡部尭皓槙田路子
美術設定：曽野由大
高橋武之金平和茂
美術監督：井上一宏
色彩設計：土居真紀子
3DCG：石川寛貢榊正宗神谷宣幸
撮影監督：関谷能弘
編集：三嶋章紀
音響監督：岡本学
音楽：宮崎誠川田瑠夏睦月周平
音楽制作：日本コロムビア
アニメーション制作：CygamesPictures