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INTERVIEW

2023.04.19

『NieR Replicant』『NieR:Automata』からTVアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』まで、音楽の歴史を振り返る。音楽:MONACA(岡部啓一、帆足圭吾、高橋邦幸)【前編】

『NieR Replicant』『NieR:Automata』からTVアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』まで、音楽の歴史を振り返る。音楽:MONACA(岡部啓一、帆足圭吾、高橋邦幸)【前編】

2023年1月7日より放送中のアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』のオリジナルサウンドトラック『NieR:Automata Ver1.1a Original Soundtrack』が4月26日(水)にリリースされる。本作はアニメのための新規書き下ろし楽曲と、リアレンジ曲、計15曲収録予定だ。

本作の音楽及びサウンドトラックの制作を手がけたのは、NHK連続テレビ小説の『ちむどんどん』や、『アイドルマスター』シリーズ、TVアニメ『アイカツ!』、TVアニメ『Wake Up, Girls!』などの音楽制作を担うクリエイター集団・MONACAである。

本稿では、『NieR:Automata Ver1.1a Original Soundtrack』のリリースを記念して、MONACA代表・岡部啓一、帆足圭吾、高橋邦幸のインタビューを前後編にわたりお届け。前編では、3人の『NieR:Automata Ver1.1a』についての想いを探っていく。

彼らにとっての『NieR』とは?『NieR:Automata Ver1.1a』を彩る音楽や制作秘話を語る。音楽:MONACA(岡部啓一、帆足圭吾、高橋邦幸)【後編】

INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ

シリーズの中で、アニメは「一番期待度が高かった」

──『NieR』シリーズ(以下、NieR)の音楽をこれまでも手がけられてきた皆さんですが、改めて『NieR』及びTVアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』の音楽制作にどのようなポジショニングで携わっているかを教えていただけますか?

岡部啓一 この3人は同じMONACAで活動しております。『NieR』及びTVアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』において私は音楽ディレクション的なところを担当して、曲も作りつつ、という立ち位置で携わっています。また、僕と帆足は初代『NieR Replicant』(2010年スクウェア・エニックスからPlayStation 3用ソフトとして発売/以下、レプリカント)から一緒にやっています。当時、帆足はMONACAに入社した直後だったんです。新人だったこともあって、僕が細かくダメ出しをしつつ(笑)、作っていたんですけども。『NieR:Automata』(2017年にスクウェア・エニックスからPlayStation 4用ソフトとして発売/以下、『オートマタ』)のときにはベテランの大先生となり、そして今では世界の……。

帆足圭吾 それはどうでしょうか(笑)。

岡部 また、元々帆足はピアノの演奏をやっていたので、初期『NieR』のコンサートではピアノを弾いてもらっていました。

高橋邦幸 僕はゲーム『オートマタ』のときから参加しています。その流れで、引き続きアニメも担当させていただきました。

岡部 単純に年代的に今席に座っている順番通りなんですよ(岡部さん→帆足さん→高橋さん)。パワーバランス的にも、こんな感じです(笑)。

岡部啓一

岡部啓一

──帆足さんは入社していきなりの『レプリカント』だったのですね。

帆足 当初は会社に人が少なかったんですよ。

岡部 そうですね。若手を入れていこうか、というタイミングでした。2008年にうちの石濱(翔)という作家が入って、その半年後くらいに2人(帆足と高田龍一)入ったという感じでした。

帆足 『レプリカント』のときは、1曲作っては岡部さんに見せて、全リテイクが入っていました(笑)。「どの辺がだめですか?」「全部!」って。

岡部 「お前の曲は盆踊りか!」ってね(笑)。

──『レプリカント』は楽曲制作の難しさを味わった作品でもあったのですね。

帆足 そうですね。でも今考えると良い経験でした。そこでじっくりと時間を取ってもらっていたのが良かったなと思っています。

岡部 当時の私の感覚だと『レプリカント』はそこまで期待されているとは感じなかったですね(笑)。元々(シリーズディレクターの)ヨコオ(タロウ)さんとプライベートで仲が良かったので、その流れでお話をいただきました。「今度新しい企画を立ち上げようと思っていて」「今回は音楽演出を頑張りたいから、ゲームのプリプロの段階から試行錯誤をしてくれる人がいいです」と。それで、元々知り合いで、無理も言いやすいからと、声をかけてもらったような感じだったんです。プリプロの段階のときは帆足はまだいなくて。

帆足 結構長いことやってましたもんね。自分が入ったときは何曲か完成していて、作風も全部聞いて「なるほど、こういう作品なんだな」とわかる状態でした。

岡部 少なくとも2年間くらいはやっていましたね。ただずっとやり続けているというより、要所要所で曲を作る、というのを繰り返していました。

帆足圭吾

帆足圭吾

──ヨコオさんと岡部さんの関係性について、自分はヨコオさんのパワーポイントやインタビューで存じ上げてはいるのですけれども、改めてお伺いしてもいいですか?

岡部 パワーポイント!(笑) 元々は一緒の大学出身なんです。ヨコオさんは1年先輩で1期生、僕は2期生でした。新しい学校で、しかも少人数だったので自然と顔見知りにはなっていくんです。ただ、ヨコオさんは学生時代から一目置かれる存在で、僕は明確に認知をしていました。同じ学年で仲が良かったのが『レプリカント』のときに株式会社キャビアのプロデューサーでもあった岩崎(拓矢)。岩崎はものすごく社交的な人なので、興味のある人にはグイグイいくタイプなんです。それでヨコオさんにロックオンして絡んでいました(笑)。僕は岩崎を介してヨコオさんと知り合ったのですが、学生時代は何かを一緒に作ることはなかったんです。その後、ヨコオさんは1年留学されていたので、就職のタイミングが一緒になって。そして、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)に同じタイミングで就職することになって、「同期だね」と(笑)。実は僕は大学に二浪して入っていたので、年齢は1つ上なんです。だから「大学はヨコオさんのほうが先輩だけど、人生的には俺のほうが先輩だよね。それでイーブンだ」みたいなノリになりました(笑)。そこでグッと仲良くなった感じでしたね。

──『レプリカント』のときは期待されていなかった、というお話がありましたが、高橋さんが携わったゲーム『オートマタ』の時はまた違った状況だったと思いますが……。

高橋 そうですね、結構怖かったです(笑)。

岡部 でもゲーム『オートマタ』のときも、そこまでではなかった印象があります(笑)。

高橋邦幸

高橋邦幸

──そうだったんですね。『レプリカント』ファンや、ヨコオさんのファンの方は高まっていた印象がありました。

岡部 コアな方には期待されていたかもしれません。狭く深いファンの方に支えられているコンテンツになっていたので、大ヒットするイメージが持ちづらかったというか。ただ、『レプリカント』と『オートマタ』では毛色が違って。ファンタジー寄りの『レプリカント』に対して、『オートマタ』はSFだから、元々『レプリカント』が好きだった人からすると「ちょっと違う」となるのかもしれない、と個人的に思っていたところがありました。だから「期待されているシリーズモノ」という感じはなく受け取っていましたね。

帆足 音楽的にも少し違いますよね。

高橋 2作目で初参加した僕からすると『レプリカント』は愛の深いファンの方が多い印象だったので、『オートマタ』で毛色を変えるとはいえ、「どれくらい(前作に)寄せればいいんだろう?」と考えるところは少なからずありました。ただ、寄せすぎてしまうと『オートマタ』に合わなくなってしまうな、と塩梅を悩んだ結果、あのくらいになりました(笑)。

岡部 元々のクリエイターとしてのカラーが3人それぞれあるんですよね。それを僕が割り振って。ディレクションもガチガチにというよりは、「あなたが思うような感じでどうぞ」という形でお願いしていました(笑)。ヨコオさんは参考曲と一緒にオーダーを出すので、それを踏まえたうえで、それぞれの良さが出たほうが結果的に良いものになるだろうなと。その結果、放任に(笑)。

──『レプリカント』のときとは作り方が違ったのですね。そして、アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』は、それこそ期待度が高い作品です。

岡部 一番期待度が高かったと思います(笑)。最初に「ゲームの楽曲やアレンジのものも使えるよ」といったお話をスクウェア・エニックスさんから聞いていたので、それを使えるのであればかなりの物量が手元にあるなと。実質どれくらい新規で書くんだろうな、というのはわからない状態でプロジェクトに参加していました。新規で書いた曲はそこまで多くないんです。MONACAではアニメのお仕事もよくさせてもらっているので、比較すると通常のアニメの物量と比べると多くはないなと思いますが、そのぶん、1曲、1曲にかけられる時間が多かったので、じっくり作れました。

──ゲームとアニメで、音楽を作る意識に違いはあったのでしょうか?

岡部 あまりそこは、僕は考えていなかったです。でも『オートマタ』らしさは出したほうがいいかなと思っていました。それを踏まえたうえで、あとはそれぞれ「良い感じで」(笑)。「良い感じならすべてオッケー!」と。

帆足高橋 (笑)。

岡部 違いがあるとしたら、ゲームの場合はループして再生されるんですよね。劇伴の場合は、頭と最後が重要。そこはそれぞれ意識していたと思います。

帆足 曲の内容に関しては、媒体の違いは意識していなかったです。ゲームの曲も一緒に並べるので、そこに違和感が出ないように『オートマタ』っぽさを出していこうと。

──お二人から『オートマタ』らしさ、という言葉が出てきて、インタビュアーとしては、その“らしさ”についてもお伺いしたくなってしまうのですが……。

岡部 そうなりますよね(笑)。

──ぜひ教えていただきたいなと(笑)。

岡部 『レプリカント』の流れから、エミ(・エヴァンス)さんの歌の印象が強いんじゃないかなと思っていました。だからエミさんの歌が映える、メロが立っている曲が、一番『NieR』らしいカラーの曲なのかなと考えています。全部が全部そうなるとバランスが取れなくなってしまうので、楽器の部分を声に置き換えればいいというわけではなく、声が効果的に聴こえるような曲作りは大前提でありますが。ほかの映像作品では「主張が強すぎるかな」と思いすぎるくらい主張がある曲が『NieR』、『オートマタ』らしさだと思っています。

帆足 作り方としては歌モノのような感じですね。厳密に言うと、ポップスのような歌モノではないんですけど、歌のメロディが主軸になるように、と意識して作っています。

高橋 音楽的な特徴としてはその通りで。作品の世界観を色で考えると彩度が低くて、グレーの強いイメージ。それが“らしさ”なのかなと思っています。

岡部 『NieR』においてのこの3人の役割でいうと、僕が一番ポップス寄りの概念が強いんです。高橋は劇伴っぽい曲作りがいいなと。壮大で激しいクラシックっぽい曲も得意なんですよね。だから『オートマタ』でも、そういう曲を担当してもらっています。帆足も元々クラシック畑の人間なのでそういう曲はやっているんですけど、もう少しベタな感じというか、ハリウッドっぽい曲のイメージがあります。

──なるほど。

岡部 もちろん帆足もクラシックっぽい曲もできるし、高橋もハリウッドっぽい曲もできるんですけど、僕が思う2人の曲の良さはそういったところでした。「『NieR』はこういうものですよ」というわけではなく、それぞれの持つ感性をミクスチャー的に入れ込むと、独特の雰囲気が出るかなと。それは『レプリカント』のときに感じていたんです。1曲ずつ別々に聴くと全然違うジャンルにも聴こえるんですけど、1つのタイトルの、適切な使い所で流してもらうと、ちぐはぐな感じにならずに独特のミクスチャー感が生まれる。ゲーム『オートマタ』のときもそういう役割で作っていたので、アニメもそれを踏まえて、曲を割り振らせてもらいました。

アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』は「集大成感がある」

──アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』について、さらに深堀りしていけたらと思います。アニメ化が決まったときは、率直にどのような印象を音楽チームとしては受けたのでしょうか?

岡部 この中では僕だけが最初にアニメ化の話を聞いたんです。たしか最初は、(スクウェア・エニックスの)プロデューサー・齊藤(陽介)さんかヨコオさんに「そういう話があるらしいよ」と、ふわっとした感じで聞きました。「もしきたら音楽、やりたい?」って。

──そういうノリで(笑)。

岡部 はい(笑)。それで「やりたい、やりたい!」と。でもその後、話を聞いていなかったので「これは立ち消えたかもな」くらいの気持ちでいました。そしたらまたふわっと「ついに動き出すらしいよ」と聞き、じわじわじわと進んでいって。だから「ついにアニメ化!」といった衝撃はなかったです(笑)。本格的に動き出すとなったときに、2人にアニメ化のことと「『オートマタ』のメンバーでやりたいと思っている」と伝えました。

帆足 僕としては「アニメ化するんだ!」と少し驚きました。プレイアブルなところが良いところでもあったので、アニメでどうやってやるんだろうと。

岡部 たしかにね。僕としては、先にやっていた舞台(『舞台少年ヨルハ Ver1.0』、『音楽劇ヨルハ Ver.1.2』)のノリの映像版なのかなとは思っていました。舞台もゲームの前日譚的な時系列だったので、あの世界ではあるけれど、違うエピソードになるのかな、って。蓋を開けて「ゲームをなぞってるんだ」とびっくりしました。

──それでいて、舞台版などでお馴染みのリリィも登場しますし、『レプリカント』を彷彿させるものもありますし。それこそミクスチャーされているようにも思います。

岡部 集大成感がありますよね。

アニメ制作陣の熱意を受け取りながらの音楽制作

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