声優として目覚ましい活躍を見せる一方で、アーティストとしてもコンセプチュアルな衝撃作『11次元のLena』などで個性的な活動を行う近藤玲奈。約1年半ぶりの新作となるニューシングル「アルコルとポラリス」では、自身も声優として出演するTVアニメ『事情を知らない転校生がグイグイくる。』のOPテーマとして、作品に寄り添いながらまた新たな表現を追求している。表題曲とは正反対の情念溢れるカップリング曲「LemonAid LOVE」を含め、表現者としての多芸多才ぶりが詰まった本作にインタビューで迫る!
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
――前作のミニアルバム『11次元のLena』から久々のリリースになりますが、その間にも2ndライブやファンミーティングの開催などがありました。改めてその期間を振り返ってみていかがでしたか?
近藤玲奈 2ndライブでは『11次元のLena』の世界観をより深く表現するために朗読も行ったのですが、あの作品がかなり闇深いコンセプトだったこともあって、すべてを出し尽くして燃え尽きたような感覚がありました。そこから1年間はお芝居に集中する期間で、アニメで尖った役を演じさせていただく機会が多かったので、お芝居でも殻を破ることができたように思います。それを経ての今回の2ndシングルは、『11次元のLena』とは違って清い感じなのですが(笑)、アニメのタイアップ曲ということで、作品に登場するキャラクターの気持ちを考察したうえで臨んだりもしたので、また新たな歌い方を見てもらえる楽曲になりました。
――その表題曲「アルコルとポラリス」は、TVアニメ『事情を知らない転校生がグイグイくる。』のOPテーマですが、近藤さんはアニメに安達海美役で出演もされています。最初に作品に触れたときはどんな印象を受けましたか?
近藤 最初に原作に触れたのはオーディションを受けたときだったのですが、私はこれまで戦ったり少しヘビーな描写のある作品に携わらせていただくことが多くて、自分が好きでよく観る作品もホラーやサスペンス系が多いので、久々にすごく平和な作品に触れることができて癒されました(笑)。
――確かに、昨年に出演されていた『アキバ冥途戦争』も血がドバドバ出る作品でした(笑)。一方、今回の『事情を知らない転校生がグイグイくる。』は、小学生の日常を描いた作品ですものね。クラスメイトから「死神」と呼ばれて距離を置かれている主人公の西村さんと、その事情を知らずにグイグイくる転校生の高田くんの交流がメインになっていて。
近藤 私はそのなかでも高田くんの存在がすごいなと感じました。無自覚だけど真っ直ぐで、誰も傷つけずに、西村さんの助けになっているところが素敵だなあと思って。きっと高田くんみたいな子が全国にいれば世界は平和になると思うんですよ。西村さんと高田くんのボケとツッコミの関係にクスリとなるようなギャグもありつつ、深いことも考えさせてくれるので、私は子供たちにこそ観てほしい作品だと思いました。
――それは例えばどんなところが?
近藤 世の中には、普段の何気なく発した言葉が実は誰かを傷つけてしまうこともありますし、逆にそれが誰かを助けていたりすることもあって。子供たちにも、この作品に触れることで、それを実感してほしいなと思うんです。私も、自分ではさりげなく言った言葉が、ファンの方から「あの言葉が救いになった」と言っていただけた経験があって。きっと誰が観ても考えさせられる、言葉の大切さに気付かせてくれる作品だと思います。
――近藤さんが声を担当している安達海美はどんな子でしょうか。
近藤 海美ちゃんは、ほかの子たちの小学生らしいワチャワチャ感とは少し距離を置いた、一歩引いたところからみんなを見ているような、少しお姉さんというか大人っぽい感じの子になります。それと海美ちゃんは日野(大地)くんのことが大好きなんですけど、日野くんはポケーッとしていて何も考えてなさそうな、「THE 小学生」みたいな男の子なんです(笑)。
――日野くんは格好も常にタンクトップですもんね。
近藤 そういえば私が小学生のときにもそんな男子がいたなあと思いました(笑)。日野くんはそんな子なので、海美ちゃんに対しても特に何も考えることなくガンガン接してくるんですけど、海美ちゃんからするとそれが耐えられなくて「きゃあー!」って赤面しちゃうんです。あとは恋愛ごとに対して敏感なので、西村さんと高田くんの関係性を探ったりするときは、モノローグのテンションがすごく高くなったりして(笑)。接する相手によって表情が変わる子なので、楽しく演じさせていただきました。
――アフレコ現場では皆さんとご一緒できたのでしょうか?
近藤 そうですね。今は分散収録が主なので、そのときによってまちまちなのですが、アフレコブースを2つ用意していただいて、それぞれに3人ずつ分かれながらですが、一緒に掛け合いすることもできて。皆さんと色んなお話もできましたし、温かい空気の現場でした。
――そんな本作のOPテーマとなる「アルコルとポラリス」ですが、楽曲を最初に受け取ったときの印象はいかがでしたか?
近藤 まさに『事情を知らない転校生がグイグイくる。』の世界観を表しているような曲調で、特にサビのメロディは初めて聴いたときから、頭から離れないくらい印象に残りました。歌詞も西村さんの気持ちそのままのように感じて。なのでレコーディングのときは、原作を読み返したうえで、西村さんの感情を意識しながら歌いました。
――今までの近藤さんの楽曲のなかでは一番明るい曲調ですよね。
近藤 ただ、曲調は明るくて爽やかなのですが、歌詞をよく読むと、ちょっと切なさも混じっていて、そこが作品のテーマに寄り添っているように感じました。作品自体も、一見すると小学生たちの日常を描いた、平和で温かい内容に見えますけど、実は大人が観ても深く考えさせられるところがあって。その正反対の要素が混ざり合った雰囲気が、この楽曲にもあるように思います。
――なるほど。確かにイントロのフレーズも少し揺れ動くような感じがして、西村さんのまだ不安な気持ちが表れているように感じました。
近藤 ですね。歌詞も最初はポジティブとは言い切れないところから始まりますし。
――“笑顔が不得意だった 強がることに慣れすぎてた”ですね。このフレーズはまさに西村さんの心情そのままのように感じます。
近藤 そうなんですよ。だからこそサビの明るさが引き立つところがあって。西村さんが高田くんと出会って、だんだん2人でいることに心地良さを感じていく。そういう気持ちの流れが、楽曲の全編を通して表現されているように感じました。
――レコーディングでは西村さんの気持ちを踏まえて歌われたとのことですが。
近藤 基本的にはそこを意識しつつ、声色も今までの私の楽曲にはない、ちょっと幼くてかわいらしい感じで歌ってみました。特別ディレクションをいただいたわけではなかったのですが、作品的にもその声音が合うかなと思って試してみたんです。ほかにも、Bメロの“君の気持ち真っ直ぐに受け取る資格すら”で始まるところは、西村さんの独り言というかモノローグ感を出したかったのでウィスパーボイスにしてみたり、かなり自由に歌わせていただきました。
――そのウィスパーの部分は絶妙な工夫だなと思ったのですが、近藤さんの発案だったんですね。そこのサビに入る直前のフレーズ“言葉にできなくて”が少しセリフっぽい歌い回しになっているのも素敵でした。
近藤 ささやき声にすると、いい意味で音程があまり付いていないような聴こえ方になるので、その部分はより気持ちを吐露している感じを表現できるといいなと思いながら歌いました。
――その後のサビで開放感ある歌い方に転じることによって、高田くんと出会えたことの喜びみたいなものが感じられて。
近藤 ありがとうございます。この曲は元々、今よりもキーが高かったのですが、そこから少し下げていただくことで、自分の等身大のキーで歌えるように調整していただきまして。そうすることで、この楽曲の歌詞にある深み、寂しさや切なさの部分も際立ったように思います。
――そこまでがTVサイズの音源になるわけですが、2番以降もAメロにタンバリンが加わってより賑やかになったりと、西村さんの心の動きに寄り添うような作りになっていますよね。
近藤 そういった演出もありますし、2番のサビは、西村さん的には高田くんの何の悪気も無く自分に伝えてくる言葉が本音なのか不安になってしまうような……相手への想いが強いからこそ「本当は自分のことをどう思っているんだろう?」と不安になってしまう気持ちも表れているように感じていて。そこはすごくリアルだなあと思いました。
――物語が進むなかで、西村さんにとっての高田くんの存在が大きくなればなるほど、そういう不安も募ってくるという。
近藤 本当にこの歌詞のそのままなのですが、西村さんは高田くんに「本当は私のことをどう思っているの?」と聞きたいんだけど、もしそれを聞いたとしても、きっと自分の望む答えは返ってこないだろうことをわかっているような気がするんです。高田くんは「えっ?一緒にいて楽しいからいるだけだけど?」みたいな返事しかしなさそうじゃないですか(笑)。
――確かに(笑)。
近藤 だからこそ、高田くんに対して「ありがとう」としか言えない西村さんのもどかしさが、特に2番の歌詞に感じられて。その部分でもキャラクターの細かい感情の機微が表れている楽曲だと思いました。
――その意味では、まさに本作のOPテーマに相応しい楽曲ですよね。
近藤 この曲は『11次元のLena』の楽曲を作っていただいたhisakuniさんに、引き続き作詞・作曲・編曲をしていただいたのですが、hisakuniさんは作品に対しての熱量が高い方で、『11次元のLena』の制作のときにもそのことをすごく感じたんです。
――そういえば『11次元のLena』のインタビューで、hisakuniさんと長文のやり取りをしたとおっしゃっていました。
近藤 あのときはPDFで20ページくらいの長文で説明していただいたんです(笑)。それくらい作品と真摯に向き合ってくださって、バックボーンも含めて全部描いてくださる方なので、今回も作品の特徴を捉えて素晴らしい楽曲を作っていただきました。
――楽曲タイトルになっている“アルコル”と“ポラリス”も、2番以降の歌詞に出てきますが、その意味を考察するとすごくいいですよね。
近藤 西村さんと高田くんの関係をアルコルとポラリスに例えているシーンが原作にあるんです。二等星のポラリスは高田くん、四等星のアルコルは西村さんで、その光の輝きの強さがキャラクターそのままですし、西村さんは高田くんの光に照らされることで光っているのかな?みたいな想像もできて、私も「エモい!」ってなりました(笑)。
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