2018年にTVアニメ『やがて君になる』OPテーマ「君にふれて」でデビューを果たして以来、『彼方のアストラ』『慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる〜』『蜘蛛ですが、なにか?』『メイドインアビス 烈日の黄金郷』など、数多くのアニメ・ゲームの主題歌を担当してきたシンガー・安月名莉子。彼女が2023年3月29日にリリースする1stアルバム『BLUE MOON』は、これまでの活動を凝縮した1枚であり、1stであると同時にベスト盤でもある。4年間かけて作り上げてきた楽曲への思い、そして自身の作詞曲による新曲「BLUE CYALUME」について、本人にじっくりと語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY はるのおと
――デビュー4年目にして初のアルバムリリースとなります。安月名さんにとってこの4年間はどんな日々でしたか?
安月名莉子 長かったような、短かったような……でもどこか、心にもやがかかった時期でもあったように思います。デビューから今日までの4年間のほとんどがコロナ禍のなかで、やりたいことがあってもなかなか実現できない時間も続きましたから。
――そんな我慢も多かった4年間を経て、ついにリリースとなるのが今回のアルバムだと。
安月名 そうなんですよ。私、結構SNSでエゴサをするんですけど(笑)、「まだアルバム出してないんだ」「アルバムがあったら聴きたいのに」なんて話も見かけていたので、こうして皆さんにアルバムを届けられるのがすごく嬉しいです。配信やサブスクで音楽を聴く人が多い今、アルバムは永久に出せないんじゃないか、なんてことも思っていたので喜びはひとしおです。
――CDアルバムという形でのリリースに思い入れがあったと。
安月名 はい。世代的にCDを買ったり借りたりということは普通にしてきましたし、好きなアーティストさんの作品はCDという形で手元に持っておきたい派なので。今回アルバムをリリースするにあたっても、どうすれば皆さんが手元に置いておきたくなるかはすごく考えました。
――1stアルバムを、これまでの全シングルを収録したベストアルバムの形にしようと思った理由は?
安月名 アルバムを出すというお話をいただいた時に、この4年間の軌跡すべてを詰め込みたいと思ったので、これ以外の選択肢はありませんでした。収録順もリリースの順番そのままにして、この1枚を聴けば私のこれまでの道のりを感じてもらえるようになっています。
――『BLUE MOON』というタイトルはどのように決まったのでしょうか?
安月名 まず考えたのは、私自身のアルバムだということがすぐにわかるようにしたいということです。それで安月名から「月」の字をとって「MOON」。そこに私にとって馴染みの深い「青」を付けて『BLUE MOON』に決めました。
――“BLUE MOON”という言葉には“ありえないこと”を意味する慣用表現もありますが、そちらも意識したのでは?
安月名 実はこのタイトルが決まった時、その意味を知らなかったんですよ(笑)。だからそこは偶然です。ただ素敵な慣用表現がアルバムタイトルになってるなんてラッキーだとは思いました。
――先ほど話にあった、青という色にはどんな思い入れが?
安月名 私のイメージカラーは青だと思ってくれているお客さんが多いのか、ライブでもサイリウムの色は青が多いんです。あと、高温の炎って青くなるじゃないですか。アルバムを聴く人に、そういう熱さも感じてほしくてこの色を選びました。
――サイリウムに青が選ばれるようになったのはいつからでしょうか?
安月名 アルバムの1曲目に収録されている「Memories」(2018年)の頃からですね。この楽曲はOVA『Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow』の主題歌で、アニメのイベントで歌わせていただいた時に客席が全面真っ青に輝いていたのを覚えています。あの光景は忘れられません。
――では「Memories」がなかったらイメージカラーが青じゃなかったかもしれない?
安月名 どうなんでしょうね? 「Glow at the Velocity of Light」(2019年)でタイアップをいただいた『彼方のアストラ』も青い宇宙が印象的だからか、サイリウムを青にする人が多かったですし。どちらにせよ私のイメージカラーは青になる運命だったんじゃないかな、という縁のようなものを感じています。
――アルバム制作にあたって、ご自身の楽曲をまとめて聴き返す機会もあったかと思います。
安月名 もちろん、じっくりと聴き返しました。我ながら成長したのを感じましたね。歌で表現できるものが圧倒的に増えていて、自分で聴きながら「こんな歌い方もできるようになったの!?」って驚いたりもしました(笑)。
――ではこの流れで、これまでの既存楽曲について伺います。まず、自分の歌い方に変化を感じたのはどの楽曲でしょうか?
安月名 「Whiteout」(2019年)です。曲調もですが、EDテーマにしていただいたアニメ『ブギーポップは笑わない』に合わせてダークで、ほかとは一味違いますよね。
――続いて、CDのジャケット写真で気に入っているのは?
安月名 「keep weaving your spider way」(2021年)です。このジャケットは自分の中にある強さが表れていると感じます。撮影するまで、自分がこんな強い表情ができるなんて想像もしていなかったのですごく驚きました。
――アニメの映像が加わったことで印象に残っている曲はどうでしょう?
安月名 デビュー曲の「君にふれて」(2018年)です。『やがて君になる』の先行上映会で初めて映像を観たんですが、自分の楽曲がアニメ映像と共に流れたあの瞬間は一生忘れられません。儚くも美しい花の演出が詰まった映像が楽曲とマッチしていて感動しました。
――この4年の活動のなかで一番の転機になったと感じる曲は?
安月名 「Glow at the Velocity of Light」です。その後もたくさん歌詞を書いてもらうタナカ零さん、「知らなきゃ」を作ってもらうナスカさんに作詞と作曲をしてもらったので。あとはこの頃、プロデューサーの竹山沙織さんに、自分の歌声はエモーショナルさもありながら明るい……「エモ明るい」のが強みだと言っていただけてすごく腑に落ちたのを憶えています。今でもそれを長所として伸ばすように心がけています。
――「Glow at the Velocity of Light」は『彼方のアストラ』の、特に最終回での使われ方も印象に残っています。
安月名 あれはすごくエモかったですね。あんな一番いいシーンで流れるなんて……私も放送されるまで知らなかったんですよ。だから流れた瞬間に光栄であると同時に「よっしゃ!」って思っちゃいました(笑)。
――続いて、既存曲で歌っていてもっとも楽しい曲は?
安月名 「知らなきゃ」(2022年)です。Aメロ、Bメロと言葉数が多いパートが続いて、そこからサビの“知りたい昨日の感情 追い越して最初の一歩”という歌詞がバシッと決まるのがすごく気持ちいい。ただ、歌うのが一番大変なのもこの曲なんですよ。
――楽しさと難しさを同時に味わう曲だと。
安月名 はい。息継ぎのタイミングがないんですよね。ライブでも歌うたびに窒息するんじゃないかと思ってしまいます。特にAメロが早口なので滑舌には気を遣います。皆さんもカラオケで歌うことがもしあれば、そこを意識して歌ってもらえると上手く歌えるかもしれません。
――歌っていくなかで印象が変化した楽曲もあるのでは?
安月名 いくつかありますが、特に「かたち」(2022年)は印象が変わりました。レコーディングの時は歌うだけで精一杯だったし、『メイドインアビス』という人気作品の主題歌を歌うことへのプレッシャーもありました。ただアニメ映像が完成し、それを観た皆さんからの反響もいただいて、印象が変化していきました。今はこの曲が私にとって応援歌のように感じられています。
――応援歌ですか。
安月名 そう、聴いているとリコとレグが私を応援してくれている、迷った時はそっと背中を押してくれている感じがするんです。正直、リリースするまでは、『メイドインアビス』のオープニングをキャストではないアーティストが歌って大丈夫なのかと不安に感じていましたが、今は自信を持って歌えています。
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