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INTERVIEW

2023.03.13

自らを“人間未満”と語るReoNaが“人間”をテーマに掲げた本作に込めた想いとは――ニューアルバム『HUMAN』リリースインタビュー

自らを“人間未満”と語るReoNaが“人間”をテーマに掲げた本作に込めた想いとは――ニューアルバム『HUMAN』リリースインタビュー

“絶望系アニソンシンガー”ReoNaの2年半ぶりとなる待望の2ndフルアルバムが、2023年3月8日にリリースされた。タイトルはズバリ『HUMAN』。“人間”という重いテーマを持ったアルバムに、ReoNaは作詞でも参加している。そこには人間の普遍的な心情から、ある個人へ向けたメッセージまで、ReoNaの様々な想いが詰め込まれていた――。

INTERVIEW BY 北野 創(リスアニ!)
TEXT BY 金子光晴

「早く人間になりたい」

――1stアルバム『unknown』から2年半ぶりとなるアルバム『HUMAN』ですが、すごい大作が生まれましたね。

ReoNa 今作にはシングル「ないない」以降の楽曲が収録されるのですが、「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」、それに「ライフ・イズ・ビューティフォー」を振り返ると、“生きる”“生きていく”ということを歌ってきたように思うんんです。それは言い換えると“人間”、「ないない」で“ここにいない いない いないのは 自分”と歌ったように、すごく大きい意味で“人間”について歌ってきた2年半だったなというところにたどり着いて、2ndアルバムのタイトルは『HUMAN』しかないんじゃないか、と。

――この質問はあまりにも大きすぎると思いますが、ReoNaさんにとって“人間”とはなんですか?

ReoNa 私は自分のことを“人間未満”だと思ってきたんですね。ずっと「早く人間になりたい」と言っていたんです。人間として生きていくには、人と人の繋がりや、人としての営みがあって、ただ息をしてそこに存在しているだけでも頑張っていなければいけない。十分な人間たりえる何かが、自分には欠けていると思っていた期間がすごく長くて、それで「人間になりたい」とずっと言っていたんです。人間だからこそ、「普通ってなんだろう」「人間としての当たり前ってなんだろう」と思ってしまうし、そこにも“絶望”は存在しているんだと思います。

独りであることをあるがままに受け入れる

――収録曲の順にお聞きしたいのですが、まず1曲目が表題曲の「HUMAN」。この曲はハヤシケイさんの作詞・作曲ですね。

ReoNa 今回、ケイさんに「アルバムタイトルが『HUMAN』に決まったので、表題曲を書いていただけますか」とお願いしたら、弾き語りのデモ音源が送られてきたんですね。すごく等身大の言葉たちで、言葉の1つ1つに共感しながら受け取ったことを覚えています。

――どんなところに共感されましたか?

ReoNa “時に人を傷つけて 人を遠ざけて 一人になりたくて 独りは寂しくて”という言葉は、きっと誰しもが抱える想いだとすごく思いましたし、それをケイさんらしいメロディに乗せて歌われたときに、心がグッと掴まれた気がしました。これまでケイさんと一緒に作ってきた楽曲で言うと、「ALONE」(※神崎エルザ starring ReoNa名義の楽曲)にある“どこまでもWe’re alone”という歌詞――人と人はどうしても交わることはできないし、1つの個体になることはできないけど、それを否定も肯定もせず、「そういうものだよね」とうなずいてくれるような想いが、この「HUMAN」にもあると思います。

――そういった否定も肯定もしない歌、ある種、ニュートラルな思いが込められた歌なので、どう表現するか悩まれたのでは?

ReoNa それがすごく難しくて。達観しているような言葉を、少しだけ俯瞰で歌い上げるようで、今までの心の中の切なる叫びを感情と共に吐き出すのとは違う楽曲だなと思いました。実はこの楽曲、昨年に開催したライブハウスツアー“De:TOUR”の前に完成していたのですが、ボーカルレコーディングはあえてそのツアーの後に行ったんです。この楽曲はツアーで色んな方との出会いを経たうえで、歌うのが良いと思ったので。

――編曲は初顔合わせの島田昌典さんで、ストリングスを交えたスケール感のあるアレンジに仕上がっています。

ReoNa この楽曲の良いところや歌詞の魅力を真っ直ぐ伝えるには、どなたに編曲をお願いするのが良いかReoNaチームで話し合いをしまして、今回はぜひ島田さんの力をお借りしたいということでお願いしたところ、ご快諾いただけました。おかげですごくドラマチックなお歌になりました。

――2曲目も「Weaker」もハヤシさんの作詞・作曲ですが、こちらは体験型アトラクション「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」の主題歌となっています。

ReoNa このアトラクションは、攻略のトップチームを組んでみんなと情報を共有しながら何度もチャレンジしてないとクリアーできないような、いわゆる“無理ゲー”と呼ばれるような難易度の、まさに「ソードアート・オンライン(以下、SAO)」と親和性の高いアトラクションなんです。そういった絶望的な状況に対する向き合い方、何度でも立ち上がる意志が、この楽曲のテーマになっています。

――「Weaker」は“弱い人”の意味ですが、語感的に「SAO」に登場する造語“ビーター”(※βテスター×チーターを掛け合わせた言葉で、主人公・キリトの俗称)を思い出します。

ReoNa そうなんです!まさにビーターやチーターと呼ばれる人たちに対して、「僕たちは弱い者たち……だけど」ということを歌った楽曲です。「じゃあ本当の強さって何だろう?」と突き詰めたときに、「強さ」と「弱さ」は表裏一体のものにも感じられて。例え弱くても何度だって立ち向かえるのであれば、果たしてその人は本当に「弱い」と言えるんだろうかっていう。アトラクションに訪れる方には、この曲を聴くたびに「リンクスタート」する気分になってもらえたらと思います。

今は隣にいない、友達へ届けたい想い

――「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」と続いて、5曲目の「さよナラ」ですが、作詞・作曲を担当した傘村トータさんらしい、物語仕立てのユニークな楽曲ですね。

ReoNa 実は以前からトータさんに託していただいていた楽曲になります。最初に聴いたときからチームのみんなが映像や絵や物語と一緒にお届けしたいと感じていたので、今回のアルバムにも収録しているこの楽曲のMVは、絵本仕立てになっています。

――人間の少女とオオカミの友情と別れを描いた、切ない気持になる物語ですね。

ReoNa 私は小さい頃、「はらぺこあおむし」という絵本を読み聞かせられながら育って、耳から受け取った物語で気持ちが切なくなったり、温かくなったりするというのが、私の原体験の1つだったんです。この楽曲は一聴すると悲しいお話になっていますが、2人が過ごしてきた時間や美しい思い出、二人だけの物語はなかったことにはならないし、温かさを持ち続けていくのだと思っています。

――「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」はTVアニメ『シャドーハウス』に宛てて作られた楽曲なので、そこから「さよナラ」と続くこのブロックは、“人間”と“人間ならざるもの”の対比を描くような構成になっていますね。

ReoNa たしかに!今回のアルバムは曲順通りに聴くと、今までの楽曲もまた違った意味に受け取れるような構成になっているのですが、考察していったら、この曲順の中にまだまだ私も気付いていない繋がりがあるかもしれないですね。

――「さよナラ」から「FRIENDS」も1つの流れが見えます。

ReoNa はい。「FRIENDS」は過去の友人に対する手紙のような歌で、私も作詞に参加させていただきました。

――この楽曲を作られたruiさんとは、本作収録のシングル曲「Alive」を含め、これまでに何度もご一緒していますが、この曲では歌詞を共作されています。どんなやり取りをされたのですか?

ReoNa ruiさんとはこれまで以上に近い距離感でやり取りさせていただいたのですが、歌詞の日本語の部分はすべて私が書いて、英語にしたい部分はruiさんにそこで伝えたいニュアンスをご相談して……そうしたら、私が普段使わない“I love you”という言葉が初めて入った楽曲になりました。

――それはReoNaさんが友人に“I love you”の気持ちを伝えたかったということ?

ReoNa 面と向かってだと言葉にしづらいことも、手紙や楽曲にすると「届いてほしいな」と思えるので。今でこそ作詞に携わる機会が増えていますが、もう何年も前、初めて作詞に挑戦したときは、自分で読むのも恥ずかしいくらい上手くいかなくて……。なので作詞は崇高なものという勝手なイメージがあったのですが、この「FRIENDS」では「ありのまま、手紙でいいんだよ」と言ってもらえたことがすごく大きかったです。それこそザ・ビートルズの楽曲も、例えば「Hey Jude」はジュリアン・レノンたった1人に向けて書かれた楽曲だと聞かされて、その想いがたくさんの人に届いて今も愛されていて。だから私も本当に伝えたいことを綴らせてもらってできた楽曲です。

――野暮なことを聞きますが、この歌詞を宛てた相手はどんな方なのでしょう?

ReoNa 10代の頃に本当にずっと一緒にいた友人が2人いるんです。今もライブを観に来てくれたりはしているのですが、会うのはそのときくらいで、私がデビューしてからは以前のように一緒にいることが難しくなって……そんな子たちのことを思いながら書きました。

――気持ちが届くといいですね。ちなみに、歌詞に“メイとガブは離れてく”という言葉が出てきますが……。

ReoNa あ、ご存じでしたか?「あらしのよるに」という絵本に出てくるメイとガブのことです。お互いが対になるような存在で、それぞれがそれぞれの道を歩んでいく物語はないかなと考えたときに、辿りつきました。(メイとガブは)ヤギとオオカミなので、偶然にも「さよナラ」のオオカミとも繋がりましたね。

――8曲目に収録の新曲、毛蟹さんが手がけた「メメント・モリ」は春の曲ということで、今までの毛蟹さんが提供した楽曲とはまた違うイメージもありますね。

ReoNa ReoNaの初めてのオリジナル曲「怪物の詩」を書いてくれた毛蟹さんに、さらに進化した今、原点回帰をイメージして書いていただいた楽曲です。たしかに「怪物の詩」にはどこか金属的な温度感がありますが、「メメント・モリ」には生命が芽吹いている感じがあるなと思います。

――「メメント・モリ」というタイトル自体が、ラテン語で「死を想え」を意味する言葉なので、今作『HUMAN』の本質である“人間”や“生きる”について考えることに繋がる気がします。

ReoNa 「メメント・モリ」という言葉は、ネガティブに捉えるなら「どうせいつか終わってしまう」とも考えられますし、「だからこそ今をどう生きるか」と考えることもできると思っていて。アニメやゲームにもよく出てくる言葉なので、ずっとアニメを観ながら育って、絶望に寄り添ってくれる音楽を求めてきた、今も心のどこかにいる10代の頃の私が「この曲は好き」と言っているような感覚がありました。

――そこから既発曲の「生命線」「Alive」を経て、澤野弘之さんが作曲・編曲した新曲「SACRA」も春の楽曲です。

ReoNa SawanoHiroyuki[nZk]:ReoNa「time」では私が参加させていただいた形でしたが、今回は澤野さんをReoNaのアルバムにご招待させていただきました。アルバムリリースのタイミングが春になるということもありますし、実は「シャル・ウィ・ダンス?」のMVでご一緒したダンサーさんたちが専門学校生の方々で、世の中の情勢で本来できるはずだった課外学習とかができなかったというお話を聞いたんです。そうやって、出会いもしないまま別れていった春があるんだろうなと思って、出会いと別れの季節でもある春をモチーフに作っていただきました。世の中には色々な桜ソングがありますけど、「もし澤野さんと一緒に桜ソングを紡いだら、どんなものになるんだろう?」と思って。出来上がったものを聴いて、改めて澤野さんにしか描けないものがあると感じました。「time」でもご一緒した作詞のcAnONさんにも、ReoNaの伝えたい想いや“絶望系アニソンシンガー”の部分を汲んでいただいて、切なくて、少しだけ痛みが走るような、でも柔らかい歌詞に書き上げていただきました。

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