アニメ・アイドルソングの分野を中心に幅広く活躍する作曲家・俊龍による、歌い手/作詞家/編曲家/イラストレータ―とコラボレーションしながら新たな作品を届けていく音楽プロジェクト、Sizuk。2023年1月にTVアニメ『冰剣の魔術師が世界を統べる』のOPテーマ「Dystopia」でデビューを飾り、注目を集めるなか、早くも2ndシングル「anemone」を配信リリースした。前作に続きロックバンド・AliAのボーカリストであるAYAMEを歌い手に迎え、切なくも情熱的な悲恋歌に仕上がった本楽曲の制作エピソードについて、俊龍とAYAMEの2人に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 河瀬タツヤ
――俊龍さんはSizukとしてアーティストデビューしてから2ヵ月ほど経ちますが、ファンや周囲からの反響はいかがでしたか?
俊龍 SizukのTwitterアカウントは基本的にスタッフの方たちが運用してくれているのですが、自分でも2回ほど、初めてTwitterに投稿してみたんです。そのときに、自分が楽曲を作るときにどんなことを考えていたか、歌い手やクリエイターの方とどんなやり取りをしながら作っていったのかを積極的に発信することの意味、それを待っている方がいることを感じました。まだ全然手探り状態ではありますが、楽しくやっています。
――AYAMEさんは普段はAliAというロックバンドで活動していますが、Sizukの1stシングル「Dystopia」でゲストボーカルとして歌うことになって、周りからはどのような反響がありましたか?
AYAME 今まではAliA以外で歌う機会はあまりなかったので、Sizukでは新しいジャンルに挑戦しているような気持ちでやらせていただいています。たまたまアニメ(『冰剣の魔術師が世界を統べる』)を観た知り合いの方からも「歌声はAYAMEだけどAliAとは違うから、何が起きたのかわからなかった!」といったことをよく言われます(笑)。
――なるほど(笑)。今回はせっかくの対談なのでお二人にはそれぞれの印象を伺っていきたいのですが、前回のインタビューでは、俊龍さんはAYAMEさんの歌声を「良い意味で激しいんだけど耳に心地良い歌声」と表現していましたね。
俊龍 そうですね。AliAの音源を初めて聴いたときは「私たちはこういう音楽をやりたい!」というパッションに満ち溢れていると思いました。尖った気持ちもありつつ、音楽に誠実に挑んでいる姿勢がバンドの皆さんから伝わってきて。特にAYAMEさんの歌声は、かっこいい曲だけでなく、それが例えかわいい感じの楽曲だったとしても、聴いた人を感動させる力があるように感じましたね。
AYAME 俊龍さんから直接そんなお話を聞いたことがなかったので、めっちゃ恥ずかしいですね(笑)。ドキドキしますけど、嬉しいです。
――AYAMEさんにもお聞きしたいのですが、そもそも俊龍さんのことはSizukでお会いする前からご存知だったのでしょうか?
AYAME はい。私は元々アニメやアニソンが好きで、趣味で色んなアニソンを歌っていたので、実は俊龍さんのことも以前から知っていたんです。なので「そんな方に声をかけていただけるなんて!」と驚きました。初めてお会いするときは、俊龍さんはお顔を公開されていないですし、「Dystopia」のデモ音源を聴いたら曲が速くてパワフルな印象だったのもあって、どんな方なのかドキドキしながら現場に向かったんです。だけど実際にお会いすると「なんて物腰の柔らかい、お優しい方なんだ!」と思いました。周りにお花がフワフワ浮かんでいる感じと言いますか。
俊龍 お花って(笑)。
AYAME 実際、俊龍さんにお会いする前と後で「Dystopia」という楽曲自体の印象も変化して、実はそこに儚さや優しさみたいなものがすごくあることを感じたんです。なのでレコーディングのときは全編パワフルに歌うのではなく、曲のなかにある温かみをしっかり作るような歌い方に変えました。
――ちなみにAYAMEさんは、TVアニメの主題歌を歌うのは「Dystopia」が初めてでしたが、自分の歌声がテレビから流れたときは感動もひとしおだったのでは。
AYAME そうですね。自分はアニメに対して憧れと大好きな気持ちが強くて、かつ歌わせていただく前から『冰剣』の原作を読んでいたのもあったので、その作品のアニメから自分の声が聴こえたときは本当に感慨深かったです。
――俊龍さんは、自分の作った曲がアニメの主題歌として流れた経験は何度もありますが、自分のアーティスト名義・Sizukとして楽曲が流れたときの気持ちは、これまでとはまた別物でしたか?
俊龍 そうですね。やはり少し違った心持ちがしました。やはりSizukという屋号を掲げてアーティスト活動をする以上、今までとは違った面を自分なりに出せればと思っていたのですが、そのなかでもイントロとAYAMEさんのボーカルの第一声は大事だと考えていたんです。その最初の数秒でアニメを観ている方の気持ちをグッと掴んで『冰剣』を好きになってもらいたかったし、加えてAYAMEさん、Sizuk、「Dystopia」を好きになってもらいたいと思っていたので。編曲の神田ジョンさん、作詞の藤林(聖子)さんも含めて、良い方々に集まっていただけたおかげで、その目標は達成できたように思います。
――それではここからは新曲「anemone」についてお話を伺っていきたいと思います。今回の楽曲のコンセプトは「引き裂かれた悲恋歌」。かなり切ない楽曲ですが、最初はどういったところから制作をスタートしたんですか?
俊龍 「Dystopia」はどちらかといえば掛け算でどんどん思いが積み重なっていくような、力強く前進するような楽曲だったので、今回の新曲はそれとは違って、リリース時期の3月に合わせた内容、出会いの季節でもあり別れの季節でもある3月にぴったりな切ない方向性がいいかなと。そこで「心が通じ合った人と別れてしまったけど、また暖かい時代に戻りたい」というコンセプトで楽曲を作り始めました。
――たしかにエモーショナルな切なさを感じる楽曲ですよね。「Dystopia」から引き続きAYAMEさんにボーカルをお願いした理由は?
俊龍 Sizukという音楽プログラム全体の流れや物語をこれから作っていくうえで、AYAMEさんに「Dystopia」とはまた違った心情で「anemone」の切ない曲調を表現していただければ、Sizukの2曲目として素晴らしいものになるだろうと考えてお願いしました。あとは「Dystopia」のサビもそうだったのですが、「anemone」のサビのメロディも突発的に高い音程になる作りなんですね。このメロディは以前から自分の頭の中にあって、ずっと気になっていたものだったのですが、(キーが)高すぎて歌いこなせる人がいなかったんです。なので、このメロディを歌える人という意味でも、AYAMEさんが適任だと思いました。
――AYAMEさんはSizukの2ndシングルで引き続き歌ってほしいとオファーをいただいたときの気持ちはいかがでしたか?
AYAME 最初にSizukで歌わせていただくと決まったときに、「この先も色んな曲を歌わせていただきたい!」という気持ちがあったんです。なので、2回目の機会をまたすぐにいただけたのはすごく嬉しかったです。「よっしゃ!」とガッツポーズしていました(笑)。
――それだけ俊龍さんがAYAMEさんのボーカルに魅力を感じたということでもありますよね。
俊龍 そうですね。AYAMEさんはAliAでも、早口じゃないと歌えないスピード感のある楽曲や、気持ちが弱いときには絶対歌えないような楽曲を歌いこなしていたので、難しい楽曲を作るときもチームとして一緒に戦ってくれるんじゃないかと思ったんです。それはレコーディング現場での「できる/できない」ではなく「まずやってみます」というスタンスも大きくて。だからこそ同じチームとして納得できるもの、お客さんにも自信を持って届けられる作品になるんだと思っています。
――一方で今回の「anemone」では、作詞は中村彼方さん、編曲はEFFYさんが起用されています。中村彼方さんとは、石原夏織さんの「Blooming Flower」やPyxis「初恋の棘」「FLAWLESS」などで一緒にお仕事をされていますね。
俊龍 これまでに、かわいらしくて少しおちゃらけた感じの歌詞から、大人の女性の気持ちを綴った歌詞、デビューしたての新人に向けたような、不安を抱えながらも未来に向かっていく気持ちに寄り添う歌詞まで、色々なジャンルの歌詞を書いていただいたんです。実際にお会いしてお話ししたのは1回くらいなんですが、そのときに「俊龍さんの楽曲は、聴くと一気にその世界に入り込めます」みたいなことを言ってくださったのがすごく嬉しくて。いつか自分がお声がけできるような立場になったらご一緒したいと思っていたのですが、今回それが実現しました。
――「anemone」の歌詞を受け取って、それが自分の書いたメロディに乗ったことで、また楽曲の印象が変わりましたか?
俊龍 コンセプトが「引き裂かれた悲恋歌」ということで、切ない心情の楽曲にしようという気持ちはあったのですが、ここまで主人公の気持ちが行ったり来たりする歌詞になるとは想像していなかったです。悲しく切ない気持ちになっているけど、でも諦めきれずにまだ相手と一緒になる希望を持っている。サビの後半で“花の咲かない世界になれ”という、ある意味乱暴な考えとも取れるフレーズがあるのですが、ここは特にお気に入りですね。
AYAME 私もここは本当に好きです!
俊龍 ほかにも最後に“さよなら”を2回繰り返すところが良くて。自分としては中村さんから第1稿をいただいた時点で、メロディとのハマり具合も含めて素晴らしい歌詞だと思いましたし、むしろこちら側が歌詞の意味や文脈を理解しようと考える楽しさ、面白い読み物を楽しむような感覚がありました。
――AYAMEさんはAliAの楽曲で作詞を担当することもありますが、自分の書く歌詞と比べてどのような印象を受けましたか?
AYAME 私はほぼ自分の経験談を元に書いてきたので、「anemone」の歌詞から伝わる儚さや、大人だからこその表現は、自分にはないものだと感じました。なので初めて歌詞を受け取ったときは、「自分がこの言葉を発したらどうなるんだろう?」と思って、どう歌うかをすごく考えましたね。
――逆に、歌うなかで歌詞に共感できる部分はありましたか?
AYAME この歌詞の主人公の、自分の気持ちが溢れ出そうだけどそれを隠している感じは、自分の性格的にもよくあるんです。きっとこの主人公も、本当は素直に言いたいけどグッと呑み込んで前に進もうとしているんだなと感じたので、その部分には共感できました。
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