作曲家・澤野弘之によるボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]のニューアルバム『V』(読み:ヴィー)がついにリリースとなった。5枚目のアルバムとなる本作はXAIやsuis(from ヨルシカ)、ReN、秦 基博といった新たなコラボレーションが見られるなか、自身の音楽に大きな影響を与えた存在・ASKAとの共演という衝撃的な内容となった。そんな音楽家として重大なターニングポイントを迎えた『V』について、澤野弘之が現在感じる想いをじっくり語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――2023年早々にリリースされるSawanoHiroyuki[nZk]の5thアルバム『V』ですが、その前に改めて2022年のご自身の活動を振り返っていただきます。
澤野弘之 自分にとって昨年は、[nZk]や劇伴も重要な活動だったんですけど、やっぱりSennaRinのプロデュースとNAQT VANEという新しいプロジェクトがこのタイミングでスタートしたのは自分でも挑戦というか、新鮮な気持ちになれたというのは大きかったですね。これが今後どう広がっていくのか楽しみでしたし、それを広げていくために色々と考えたりした1年でもありました。
――たしかに新人アーティストのプロデュースは昨年のトピックの1つですが、その経験がほかの活動の刺激になったことは?
澤野 自分がしたことが刺激になるというよりは、RinちゃんやHarukazeの、“今から色んなことを築いていくんだ”というエネルギーに刺激を受けたのはありましたね。彼女たちからすると、これからの10年に向けて今自分たちがどう行動していくべきかとか考えていると思うんですよね。もちろん僕も40歳を超えて、この先10年を考えないわけではないですが、スタートラインに立ったときのエネルギーは今の自分とは違うエネルギーなので、そこに刺激を受けてやれているのは感謝していますよね。
――そうした昨年を経て、いよいよニューアルバム『V』がリリースとなります。アルバムの構想はいつ頃からスタートしましたか?
澤野 アルバムにどの曲を入れようかというのは、昨年の6月くらいにはある程度決まっていましたね。毎回のごとくアルバムにはコンセプトを考えてはいなくて、今自分が作りたいものをぶつけるというものでしたが、アルバムのスタートという意味では色んなゲストボーカルに参加してもらっているなかでも、リードトラックを歌ってもらったASKAさんには、「アルバムを出そうと思っているので」と早めにオファーさせていただきました。ASKAさんとのレコーディングは10月くらいだったのですが、その年(2022年)の初頭にはオファーさせてもらいました。
――そのASKAさんとの楽曲も含めて、アルバム各曲についてお伺いします。まずは冒頭のイントロダクション「IiIiI」ですが、こちら読み方は……。
澤野 「ファイブ」です。
――ありがとうございます。硬質なビートにボーカルのサンプリングが乗る楽曲ですが、このサンプリングは逆再生ですか?
澤野 そうです、「FAKEit」のBenjaminとmpiさん、あとLacoさんのテイクを逆再生したものです。これは元々レコーディングセッションで、打ち込みではキックくらい、あとはミュージシャンに「こんなフレーズを」ってアドリブの延長線上で組み立てていった感じなんですよね。MIXもインストの状態で進めていたのですが、途中で声も入っていてほしいなと思い、次の「FAKEit」に繋がるというのもあったし、そのテイクをサンプリングしました。
――そこから「FAKEit」に繋がります。Lacoさんをメインボーカルに、Benjaminさんとmpiさんのラップが終始後ろで鳴っているという面白い作りで。
澤野 Ben(Benjamin)とmpiさんは今回歌以外でも新しいことをたくさんやってもらったのですが、こういう掛け合いみたいなのも試みとしてハマったのかなと思います。
――この3人が横に並ぶ楽曲というと最近だと「Möbius」などがありましたが、こうした前後を使ったアプローチも、トラックと相まって新鮮でした。
澤野 そうですね、少しヒップホップも意識しましたがサビは割とロックで、アルバムの中でもロックなサウンドになっています。自分の中では海外の映画のエンディングや挿入歌の盛り上がるシーンに流れるサウンドをイメージして作りましたね。
――たしかにサビのロッキンなサウンド、そこでのLacoさんの存在感も光る仕上がりで。
澤野 この曲はTVスペシャルアニメ『Fate/strange Fake -Whispers of Dawn-』のテーマソングというのもあったので、バトルや作品を盛り上げる意味でもLacoさんに力強くパフォーマンスしていただきました。ライブでどんな表現をしてくれるのか楽しみな曲ですね。
――続いては映画『七つの大罪 怨嗟のエジンバラ 前編』主題歌の「LEMONADE」ですが、こちらを歌われるXAIさんについてはどんな印象をお持ちですか?
澤野 技術は言うまでもなく、彼女の声のコントラストというか、Aメロを歌っているときの息多めのハスキーな部分とサビに行ったときのバーンと広がるような、突き抜けた部分がすごいなと思いましたね。英語歌詞の歌い方もすごく魅力的で、今後また何か一緒にやれることがあればやりたいですね。
――ダンサブルなサウンドの中での濃淡のつけ方など、どれも素晴らしいパフォーマンスですよね。
澤野 曲の途中で短い間奏があるんですけど、そこでフェイクを入れてもらったんですね。あれはボーカルチェックの段階で彼女がなんとなくやっていたので、それがかっこ良くてそのまま採用したというか、「それ、RECさせてもらっていいですか?」って。センスのある方だなって思いましたね。
――そしてヨルシカのsuisさんを迎えた「B∀LK」。
澤野 ヨルシカの活動でのボーカルパフォーマンスが素晴らしいなと思っていたので、ヨルシカのサウンドとはまた違う打ち込みのダンスサウンドでどう表現してくれるのか楽しみでした。なんとなくsuisさんの歌声をイメージしながらレコーディングに挑んだのですが、実際に歌ってもらうとその上をいくというか、彼女なりに楽曲に対して歌詞も含めて解釈してくれたおかげで自分が思った以上にダンサブルにグルーヴィーになった気がしますね。
――たしかにヨルシカでのキチっとした印象より、よりグルーヴに乗るようなアプローチは新鮮ですね。
澤野 そうですね。あと、n-bunaさんがギターで参加してくれたので、n-bunaさんのエレキのフレーズが入ることでサウンドの幅が広がった感じですね。
――ある意味でヨルシカとのコラボとなったと。続いてはこちらも意外なタッグとなったReNさんとの「7th String」です。
澤野 ReNさんと全然面識はなかったんですけど、ずっとやりたいなと思っていた人で。3年前くらいに、有線からやけに海外っぽいサウンドが聴こえてきて。それで気になって調べたらReNさんだったんですよね。ほかの楽曲を聴いてもかっこ良くて、歌声も素晴らしかったので、どこかで[nZk]でご一緒できないかなと思ってオファーしたら、快く受けていただけました。
――「7th String」のゆったりとしたサウンドの中で、英語と日本の混ざった歌詞をどちらともつかないようなReNさんの歌唱がすごく印象に残って。これは澤野さんからのディレクションがあったんですか?
澤野 ご本人は英語が多い歌詞はあまりやったことがなかったみたいですが、何か細かく言ったわけではなく、色々と考えて本番に挑んでくれました。日本語の歌詞もグルーヴ重視で英語っぽく聞こえるようにcAnON.には書いてもらったので、そこでの表現は彼も悩んでいたのかもしれないですけど、でもそんな悩みなんか感じなかったくらい素晴らしいパフォーマンスをしていただきましたね。
SHARE