REPORT
2023.01.19
2022年に南條愛乃の卒業を経て、阿部寿世、上杉真央という2人を迎えてツインボーカリスト体制となった第3期fripSide。そんな彼らがこの秋から行ったライブハウスツアーのエクストラステージとなる東京公演が2023年1月8日、Zepp Haneda(TOKYO)にて開催された。すでに音源でその実力は明らかとなっていた新ボーカリストを迎え、fripSideのライブはどう進化を果たしたのか。多くの観客が、そしてシーンが注目するなかで行われた熱狂のステージの模様をレポートする。
TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 中村ユタカ
2022年4月24日、Phase 2の終焉とともに幕を開けたfripSideのPhase 3。その後最初のシングル「dawn of infinity」と2枚のアルバム『double Decades』『infinite Resonance』をリリースしたのち、京都から始まる全国ツアー“fripSide phase3 concert tour -the Dawn of Resonance-”と、走り出しから1年経たずして、まさに“駆け抜けた”という言葉がぴったりな、精力的な2022年を過ごした。
その全国ツアーのエクストラステージともいえる本公演<fripSide phase3 concert tour -the Dawn of Resonance-“TOKYO SPECIAL”supported by animelo mix>は、そんな新生fripSide 2022年の集大成という位置づけである一方で、Phase 3の東京初お披露目にもなる。つまりはここでライブも含めたfripSide Phase 3の実態が改めて明らかになる、ともいえるだろう。例えば、阿部寿世&上杉真央という新ボーカリストの実力は?八木沼悟志が目指すfripSideの新たな形とは?など、いくつもの期待感が重層的に積み上がった状態で2022年を過ごし、この日を迎えたのだが、多くの観客も同様の期待感を持っているようで、パンパンに膨れ上がった1Fフロアの光景はその裏づけともいえるだろう。
会場が暗転してオープニングSEが流れるなか、バンドメンバー、そして阿部と上杉、八木沼がステージに登場。お馴染みのサウンドカードが鳴り響いたあと、阿部によって「dawn of infinity」のメロディが歌われる。ここまでは昨年までのツアーと同じ流れだ。しかし目の前に広がる光景、ステージ中央に立つ阿部と上杉の姿は、これまでとは明らかに違い、非常に堂々としたものだった。もちろん、昨年のツアーから会場規模や編成の違いなどはあるが、何より2人のボーカリストから発せられる声の力強さに驚かされる。全国10公演というロードが彼女たちを鍛え上げたことは間違いないが、改めて八木沼が惚れ込む才能というものがステージ上で存分に発揮された、という印象である。また、昨年までは八木沼のキーボードと大島信彦のギターという編成で、デジタルなサウンドが小さい会場で反響する音圧の気持ち良さがあったが、今回はドラムに八木一美、ベースにfripSideバンド新加入の山田潤一が加わったことで、八木のビートと八木沼のシンセのアンサンブルなど、サウンドのフックがより色濃く感じられる、本来のfripSideのライブ感になったことも新鮮だ。いずれにせよフレッシュさを持ちながら安定感というものがひしひしと感じられるオープニングとなった。
そして昨年のツアーでも感じられたことだが、ライブになると2人のボーカリストのコントラストがはっきりするのも面白い。彼女たちのチャームがあえて浮き彫りになるようなライブという場は、整えられたスタジオ音源では得られない体験があるということを記しておきたい。特に「Regeneration」の2コーラス目の冒頭、上杉のパワフルな歌唱にはハッとさせられる。一方でダンサーも加わった(これもこの公演から)「fermata~Akkord:fortissimo~-version 2022-」でも2コーラス目からギアが入ったかのように力強い歌唱を聴かせる阿部と、ライブならではのダイナミズムが彼女たちをよりか輝かせているように感じられた。
八木沼による最初のMCを挟んでからは、キラキラとしたサウンドが続く。「trust in you -version 2022-」の第3期バージョンでキュートでポップな魅力をのぞかせたあとは、上杉がステージをあとにして、阿部のソロコーナーがスタート。のちのMCでも語っていたように、阿部のfripSide加入以前からの魅力である“笑顔”を振り撒きながら、得意のダンスを交えての歌唱、そして会場一面に輝く黄色いペンライト……という、これぞfripSideの新しい景色を見たという印象だ。何よりニコニコしながら高度なダンスを難なくこなす阿部の底知れぬポテンシャルをまざまざと見せつけられた格好で、それは一転して90年代R&Bテイストの「Flames」でも同様に、妖しげな低域を聴かせながらダンサーと共に息の合ったパフォーマンスを見せる。
その後は上杉が戻って「come to mind -version 2022-」を披露し、今度は上杉のソロコーナーへ。彼女の魅力といえばクールな佇まいから発せられる感情豊かなボーカル表現、いわば“説得力のある声”という印象だが、「Reach for the light」では冒頭から、最初の一音ですべてが決まったと感じさせるボーカルの説得力に満ちたパフォーマンスを見せる。これはのちのMCで八木沼が「尊敬する」と語ったように、Spoonでのデビューから10年もの間研鑽を重ねてきたからこそ出るものだろう。その一方で、“今はみんなを信じて”というフレーズでは客席に手を差し伸べて微笑むなど、このツアーでの成長というものも感じさせる。続く、八木沼が2002年に作ったという「transitory orbit -version 2022-」でも、若々しいメロディの中で彼女の様々なチャームを全部詰め込んだような、表情豊かな歌唱を楽しむことができた。
ライブも折り返しを過ぎたところで、上杉が「trusty snow -version 2022-」の美しいメロディを紡いだ瞬間、客席からため息のようなエモーションが漏れる。そこから「Insoluble Snow」とこの季節に合う、メロディアスなナンバーが続いた。そして同じく八木沼の鍵盤も美しい「Forget-me-not」へと流れていくこのブロックはfripSideの変わらないセンティメンタルな魅力を映し出していく。1コーラス目を阿部、2コーラス目を上杉が中心となったボーカルパートは、それぞれの個性が色濃く出た、こちらもライブならではの心地良さが溢れる仕上がりとなった。
SHARE