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2022.12.31

新曲のサプライズ披露も!楠木ともり、初のホールツアー“Kusunoki Tomori Birthday Live 2022『RINGLEAM』”の東京公演をレポート

新曲のサプライズ披露も!楠木ともり、初のホールツアー“Kusunoki Tomori Birthday Live 2022『RINGLEAM』”の東京公演をレポート

2022年は、楠木ともりにとって大きな飛躍の年となった。声優としての活躍ぶりは言わずもがな、アーティストとしても2度のツアーを経験し、作品だけでなくライブでも自らの音楽表現をアップデートし続けてきたからだ。そんな1年のアーティスト活動の締め括りとなったのが、2022年12月22日に行われた初のホールツアー“Kusunoki Tomori Birthday Live 2022『RINGLEAM』”の東京公演。彼女は自身の23歳の誕生日当日に、ファンに素敵なプレゼントを届けてくれた。

TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
PHOTOGRAPHY BY ハヤシマコ

初のホールツアーで見せた、進化したステージ表現と演出

この日の会場となった昭和女子大学 人見記念講堂は、音響に定評があり、クラシックやジャズのコンサートなどにも使われるホール施設。開演時間の19時になると照明が暗転し、シンセが幾重にも重ねられたアンビエントなサウンドがSEとして流れ始めたのだが、その鳴りの良さが早くもホール会場ならではの魅力を伝えてくれる。本公演はPIA LIVE STREAMでの有料生配信も同時に行われていたが、後述する通り、今回のライブには現地でしか味わえない体験も多く存在していた。

真っ暗のステージにバンドメンバー、そして楠木が順に上がってスタンバイすると、ライブは「narrow」からスタート。“冬”をコンセプトにした3rd EPの表題曲で、まさに冬の夜の人々の想いが交差する情景を描いた楽曲だが、ここでは音源版とは趣きの異なるアコースティックアレンジで届けられ、アコギや弓弾きのウッドベース、クリスマスのシーズンを感じさせる金物の打楽器が豊かな音を作り上げるなか、楠木はどこか切なさを感じさせながらも温かな歌声を、感情たっぷりに紡いでいく。楽曲が進むにつれて背面に灯るライトの数が増えていく照明演出、最後にキーボードがさりげなく織り込んだ「ジングル・ベル」のメロディを含め、心がホッと温まるような立ち上がりだ。

そこから一転、印象的なピアノイントロと共にアッパーな「熾火」へと雪崩れ込み、楠木も「行くぞ!東京!」と呼びかけて、ときに前傾姿勢やかがみ込んだりしながら情熱的なパフォーマンスを展開。Aメロのどこか気だるげな歌い口と、サビでの感情が迸るような身のこなしとの対比が、苛立ちのような気持ちが封じ込められた本楽曲の衝動を、より鮮烈に浮かび上がらせる。

楽曲ごとにまるで異なる世界を表現する巧みさは、役者ならではの才能を感じさせるが、MCでは逆に飾らない素の「楠木ともり」を見せてくれるのも、彼女のライブの魅力の1つ。「ツアーファイナル!東京ただいま~!」と元気いっぱいに挨拶する彼女の話しぶりは、まるで友達と会話しているような気さくさで、この日は大き目のホール会場ながらもステージとの距離を感じさせなかったのは、そういった彼女の人柄によるところも大きかった気がする。観客や配信視聴者とひとしきりやり取りした楠木は、「今日はホールなので自由にゆったりと楽しんでいただければと思います」と呼びかけて次の曲「アカトキ」へ。ファンは心地良いグルーヴに身を委ね、体を揺らしたりクラップしながら、思い思いのリズムでこの日の思い出をアップデートしていく。

続く「よりみち」は大胆なジャズアレンジに変貌。楠木はステージに用意されていたイスに座って、腕や足で調子を取りながら、スウィングしたリズムに合わせて、ささやきにも似た艶味のある歌声を聴かせる。後半はバンドの演奏もよりリズミカルになり、サウンドからも寄り道を心から楽しんでいるような気持ちが伝わってくる。楠木による終盤の軽いスキャットを交えた歌い口を含め、粋な「よりみち」になっていた。

そしてホール環境の素晴らしさを特に強く実感できたのが次の「山荷葉」。アンビエントなイントロを経たあと、一瞬の静寂が訪れ、次の瞬間、楠木が完全なアカペラで歌い始める。僅かな照明のみで暗がりとなった会場に響き渡るのは、彼女の歌声のみ。息を吸う音や細かなニュアンスの変化までが、研ぎ澄まされた感覚にダイレクトに入り込んでくる。おそらくクリックもなし、自分のリズムで歌っていたのであろう。そのある種の人間らしさを感じさせる揺れが、まるで子守歌のように体に心地良く沁み込んでいく。会場全体が「楠木ともり」の声に包まれたかのような、得難い経験がそこにはあった。

そのようにワンコーラスをすべてアカペラで歌い切ったのち、バンドの幻想的な演奏が加わった2番以降のパフォーマンスもまた絶品で、ゆったりとしたリズムとハーモニーが重なり合う光景は玄妙のひと言。円形のモニターが映し出す映像演出も重なっては解れていく運命の機微を思わせ、万物の流転を感じさせるような、心に深く残る名演だった。楠木が後のMCで説明したところによると、以前にリリースイベントで「山荷葉」を歌った際に、アクシデントによりサビ部分で音源が止まったものの、そのままアカペラで歌い切ったことがあり、それがファンに好評だったことから、今回のライブ演出を思いついたのだそう。ホールの音響効果や特質を活かした素晴らしいアイデアと言えるだろう。

盛大な拍手に続いては、優しくもメランコリックなギターのイントロが景色を塗り替えて「タルヒ」へ。この楽曲も3rd EP「narrow」収録曲だが、日常を慈しむようなメッセージ性を含め、多くのファンから愛される楽曲に育っている。サビでは観客も揃って手を左右に振り、こうして共にある日々の充足を、会場が1つになって確かめ合っていたように思う。

次ページ:新曲や名曲カバーで紡いだ、この日だけの輝く思い出

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