REPORT
2022.12.31
楠木がバースデーライブを行うのは今年で5年目。これまでのバースデーライブに来たことのある人に挙手してもらってファンとのやり取りを楽しんだ彼女は、続いてバースデーライブの恒例となっているカバー楽曲を2曲披露することに。1曲目に歌われたのは、アヴリル・ラヴィーンの2006年の楽曲「Keep Holding On」。映画「エラゴン 遺志を継ぐ者」の主題歌として制作された、スケール感のあるパワーバラードだ。なんでもこの楽曲の歌詞には、楠木が「今みんなに伝えたいことが詰まっている」のでセレクトしたという。「君は1人じゃない」「今は耐え忍んで一緒に乗り越えていこう」――英語の歌詞の内容を意訳すると、そういったメッセージが込められており、楠木はそれを伸びやかな美声で歌い上げる。曲の後半ではバンドメンバーによるコーラスも加わり、楽曲のエモーショナルな魅力がさらに加速する。
そしてもう1曲、今度は彼女が単純に好きで歌いたかった楽曲として、L’Arc~en~Ciel「flower」を歌唱。リリースは1996年なので楠木が生まれる前になるわけだが、普段から新旧洋邦を問わず幅広いジャンルの音楽を聴いており、なかでもL’Arc~en~Ciel好きを公言している彼女らしい選曲と言えるだろう(楠木は過去に雑誌の企画でL’Arc~en~Cielに関するインタビューを受けたこともある)。バンドの演奏は原曲を彷彿させる爽やかかつ躍動感あるもので、楠木はそのサウンドに乗りながら気持ち良さそうに、時代を超えて愛される名曲を歌い切った。
ここからは再び楠木自身が紡ぐ音楽の世界へ。キーボードの流麗かつ情熱的なインプロヴィゼーションが雰囲気を高めるなか、楠木の「雨が」というつぶやきを合図に「遣らずの雨」に突入。円型スクリーンに雨が激しく降る映像演出が映し出され、サビでビームライトが舞う様もまるでどしゃぶりの雨のよう。バンドの演奏も激しく熱を帯びたもので、そんな激情的な光景の中で、楠木はまるで吠えるように、楽曲に込められたままならぬ想いをぶつけた。
そこから間髪入れず歌われたのが、変拍子が特徴的なアップナンバー「ロマンロン」。間奏ではバンドメンバーの紹介パートも設けられ、円型スクリーンに映し出されたネオン風の文字がメンバーの名前を映し出すなか、各々がソロプレイを披露する。激しくもシックな魅力を備えた演奏、それらに支えられながら鮮烈な歌声をホール中に響き渡らせる楠木。ラストの高らかと歌い上げたロングトーンも含め、本公演のなかでも特に熱気を感じさせる場面だったように思う。
その後のMCでは、バンドメンバー1人1人に「今日は何を食べましたか?」「どんな1年でしたか?」と聞きながら和やかな時間を過ごす(ちなみに楠木はゼリーを食べたとのこと)。さらに本ツアーのコンセプトについて説明。ツアータイトルの「RINGLEAM」は「RING(=丸、集まる、知れ渡る)」と「GLEAM(=輝き)」を合わせた言葉で、「みんなでキラッと輝くような思い出を作りたい」という想いを込めたのだと語る。そのため、衣装の柄やイヤリング、円型スクリーンを含めた舞台装置や装飾にも丸い形(=RING)を多く取り入れたのだそうだ。自ら作詞・作曲を手がける楠木だが、ステージ演出などの面においても、彼女のクリエイティブがしっかりと反映されていることが改めてわかる。
そして彼女は「今日は私の誕生日なんですけど、私からみんなへのプレゼントを持ってきました」と告げ、出来たての新曲「absence」を披露することに。楠木はまずこの楽曲を作った経緯を説明。彼女にとっての2022年は、良いことと苦しいことの差が激しかった年で、そのなかでも長年お世話になっていたマネージャーが退職したことが、とてもしんどいことだったと涙混じりに語る。その気持ちを切り替えるため、これからもその元マネージャーにファンとして応援してもらえるような人でいるために作ったのが、この新曲なのだと語る。別れは突然やってくるからこそ、今自分のそばにある大切なものを大事にしてほしい。自分の気持ちばかりでなく、彼女がみんなに伝えたい想いがその歌には込められており、ピアノのみをバックに切々と歌うその姿には、胸を締め付けられるものがあった。
歌唱後、改めて聴いてくれたみんなに感謝を伝えた楠木。そして舞台は暗転し、再び明かりが灯ると、彼女はアコースティックギターを手にしていた。ここで歌われたのは「alive」。楠木が2021年のバースデーに合わせて開催した、久しぶりの有観客ワンマンライブで感じた想いを形にした楽曲だ。楠木はストロークしながら柔らかでとても親密な歌声を届け、会場には雨上がりのように静かで優しい空気が満ちていく。
そしてライブ本編の最後は「バニラ」を歌唱。彼女自身の軌跡が詰まった楽曲であり、すべての出会いへの愛と感謝が込められたこの楽曲は、「RINGLEAM」のコンセプトに相応しいものと言えるだろう。丸いライト群が彼女をリングのように囲む照明演出も素晴らしく、特に終盤の高ぶりと、そこから一拍の静寂を置いて、最後の一節“添えよう”を優しい声音で届ける、1曲の中での緩急の効いた表現は出色だった。
アンコールは楠木が作詞、ササノマリイが作曲・編曲を手がけた「もうひとくち」でスタート。ツアーグッズのロングスリーヴTシャツに着替えた楠木は、バンドのレイドバックした演奏に体を揺らせながら、時おり、歌詞の内容に合わせて指を立てたり、手でドーナツの輪を作ったりと、仕草も含めて愛らしいひと時を表現していく。
その後のMCでは、バンドメンバーがサプライズで「ハッピーバースデートゥーユー」を演奏&歌唱。ケーキも登場し、改めて楠木へのお祝いも行われたなか、楠木からファンへの嬉しいサプライズとして、1stアルバムが2023年5月にリリースされること、そして同年夏に全国ライブツアーが開催されることが発表され、会場は祝福ムード一色に。誰もがハッピーな気持ちになったなか、アンコールのラストは爽快なギターロックチューン「僕の見る世界、君の見る世界」を披露。観客はタオルやコブシを回して思い思いに盛り上がり、楠木もステージを移動しながら楽しそうに歌を届ける。ラスサビ前の“きみと”のフレーズでは、客席の方に向けてしっかりと手を掲げ、この日だけの最高の思い出を作り上げて初のホールツアーを締め括った。
楠木は途中のMCで「今ここにいるみんなが、また同じように集まることはないと思うんです」と語っていたが、そんな一期一会の大切さ、今という時間は二度と訪れることのない、かけがえのないものだということを、彼女はこれまでの楽曲でも折々で表現してきた。この日に初披露された新曲「absence」は、まさにその気持ちが息づいた楽曲だと感じたし、今回のライブは彼女のそんな想いがより如実に形になっていたように思う。2021年のライブで受け取ったものが「alive」になったように、彼女は今回のツアーを受けてどんな音楽を生み出すのか。そしてそのフィードバックが1stアルバムにどんな影響を及ぼすのか。シンガーソングライター・楠木ともりの2023年の活躍にも期待したい。
<セットリスト>
M1. narrow
M2. 熾火
M3. アカトキ
M4. よりみち
M5. 山荷葉
M6. タルヒ
M7. Keep Holding On/AVRIL LAVIGNE(cover)
M8. flower/L’Arc~en~Ciel(cover)
M9. 遣らずの雨
M10. ロマンロン
M11. absence(新曲)
M12. alive
M13. バニラ
EN1. もうひとくち
EN2. 僕の見る世界、君の見る世界
●リリース情報
「Tomori Kusunoki Zepp TOUR 2022『SINK⇄FLOAT」Blu-ray&DVD
【完全生産限定盤(Blu-ray)】
品番:VVXL-107~8
価格:¥9,900(税込)
三方背スリーブ+フォトブック
【通常盤(Blu-ray)】
品番:VVXL-109
価格:¥7,150(税込)
【通常盤(DVD)】
品番:VVBL-158~9
価格:¥7,150(税込)
<収録内容>
01.sketchbook
02.僕の見る世界、君の見る世界
03.ロマンロン
04.クローバー
05.Forced Shutdown
06.山荷葉
07.眺めの空
08.よりみち
09.熾火
10.遣らずの雨
11.もうひとくち
12.タルヒ
13.alive
14.ハミダシモノ
Special Contents:全会場ライブドキュメント
楠木ともり オフィシャルサイト
https://www.kusunokitomori.com/
楠木ともり オフィシャルTwitter
https://twitter.com/tomori_kusunoki
楠木ともり オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYU-61cZHXE0P48ZCxvs4cQ
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