2022年最注目の作品となったTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』。好評発売中の雑誌「リスアニ!Vol.50」の表紙巻頭特集では、結束バンドのキャスト4名(青山吉能×鈴代紗弓×水野 朔×長谷川育美)、そして楽曲クリエイター(樋口 愛×音羽-otoha-×三井律郎)のインタビューをお届けしたが、今回は結束バンドのフルアルバム『結束バンド』を軸にしたスペシャル座談会が実現!
結束バンドのギター/ボーカル担当・喜多郁代役の声優として最高にロックな歌声を聴かせてくれる長谷川育美、アルバムの14曲中12曲のアレンジを担当したギタリストの三井律郎、本作の音楽ディレクターを務めたアニプレックスの岡村 弦が、TVアニメ第8話と最終話のライブシーンの制作エピソードからアルバム収録曲の話題までを前・後編で語り尽くす!
INTERVIW & TEXT BY 塚越淳一
▼後編はこちら
――岡村さんは、どういった経緯で『ぼっち・ざ・ろっく!』に参加されたのでしょうか?
岡村 弦 これは面白い話は何もなくて、社内で担当作品を割り当てる流れの中で決まりました。ただ、自分はロック畑出身で、下北沢のバンド界隈の人たちとの交流が多いということも理由としてあるかもしれません。自分は元々レコーディングエンジニアの仕事をしていて、『ぼっち・ざ・ろっく!』でもエンジニアを兼任しているんです。
――下北沢といえば、UKプロジェクト(数多くのロックバンドを扱うインディーズのレコード会社/事務所)とかですかね。
三井律郎 僕もそこに所属しているバンドでギターを弾いてますからね(笑)。(注:三井がギタリストを務めるバンド、LOST IN TIMEはUKプロジェクト所属)
岡村 律郎さんはもちろんですが、自分も20代の頃は、STARRY(『ぼっち・ざ・ろっく!』に登場するライブハウス)のモデルとなったライブハウスにガチでいた人間なんですよ。だから第8話のライブ回はリアルすぎて(笑)。
三井 あれはリアルですよね。
長谷川育美 え~! そうなんですか? お客さんがポツポツしかいないっていう。
岡村 レコーディングで携わったインディーズバンドに誘われてライブを観に行くと、だいたいあんな感じでしたね。みんな目当てのバンドがやる一個前くらいに来るんですよ。
三井 それか廣井(きくり)さんみたいに酒を飲みに来るか。
長谷川 あはは(笑)。喜多(郁代)ちゃんはボーカルだから、どうしても客席のほうを見ると思うので、(第8話の)「ギターと孤独と蒼い惑星」のときにお客さんが1人出ていくシーンは、私も「辛い~!」って思いました。
――岡村さんは音楽ディレクターとして、どのように参加クリエイターやミュージシャンを決めていったのでしょうか?
岡村 結束バンドの演奏を担当する中の人(Drums:比田井 修、Bass:高間有一、Guitar:akkin、三井律郎)は、昔からの人脈で決めていきました。律郎さんに関しては、元バンドマンではなく、現役の“まだ”バンドマンですし(笑)、律郎さんのバンドサウンドへの知識量や愛の深さは知っていたので、お声がけしました。ギター、大好きですよね?
三井 ギターしか好きじゃないくらいですね(笑)。
岡村 レコーディング中も本当に楽しそうなんですよ。こんなに仕事をしている感じがしない現場はなかなかないので、今はレコーディングロスになっています(笑)。akkinさんにもアレンジを何曲かお願いしたのですが、akkinさんも昔は下北沢でよくライブをしていたバンドマンなので。
三井 ハートバザールやジェット機ですよね。僕もよく観に行っていました。
岡村 その2つのバンドは、まさに下北系ギターロックという感じでしたよね。
三井 下北沢CLUB251(下北沢にあるライブハウス)にも出ていましたし、その当時、椎名林檎さんの1stアルバム『無罪モラトリアム』にも参加していましたよね。素晴らしいギタリストです。
――三井さんに関しては、ギターが大好きで、サウンドマニア的なところを踏まえて、アニメ作品のアレンジもお願いできるだろうと思ったのですか?
岡村 そうですね。でも、アニメ作品にガッツリ関わるのは初めてなんですよね?
三井 もちろん初めてですし、そもそも編曲のお仕事ってあまり経験がないんですよ。
長谷川 そうなんですか!?
三井 自分のバンドの曲のアレンジはしますけど、他所では片手で数えられるくらいしかやったことがないんです。la la larksでもギターを弾いているので、アニメの主題歌はよくやらせてもらっていますけど。
岡村 でも、ほかの現場とかで三井さんのギターアレンジを聴くと、すごくカッコいいんですよ。
――ただ、アニメの劇中バンドのアレンジとなると、少し話は違いそうです。
岡村 その意味では、今回はあまりアニメ云々を考えて作っていなかった気もします。
三井 最初の頃は色々考えていましたけど、最終的には何も考えなくても結束バンドになっていく感じがありましたからね。特に後半にアレンジした楽曲は、思うがままにやれたというか、本当のバンドをやっている感覚に近かったです。
――結束バンドらしい音にするための工夫については、リスアニ!本誌のインタビューでも語られていましたね。
三井 そうですね。ぼっち(後藤ひとり)、(伊地知)虹夏ちゃん、山田リョウ、喜多ちゃんそれぞれの個性を頭に入れたら、あとはそれを音にするだけだったので、何の苦労もありませんでした。
長谷川 私、あまり音楽に詳しくないんですけど、編曲ってどんな状態から作業するんですか?
三井 それが楽曲によってバラバラで、結束バンドの曲で一番驚いたのは「星座になれたら」と「ひみつ基地」ですね。「ひみつ基地」に関してはデモに弦が入っていたんですよ(笑)。しかも楽器のトラックが精巧に組まれていたので、それを一度ばらして、ギター2本のアレンジにする必要があって。「星座になれたら」のデモもエレピが入っていて、「どうしたらいいんだ……」と思いました。
岡村 「星座になれたら」はピアノがないと成立しなさそうな曲だったので、本当にどうしようかと思いましたね(笑)。最終話の文化祭で演奏する楽曲に関しては、僕からは違う曲をリクエストしていたのですが、最終的に「星座になれたら」になりました。確かに僕も、この曲はすごくいいと思っていたのですが、結束バンドでやるのは難しいかなと思って、候補から外していたんです。試しに聴いてみてください。(「星座になれたら」のデモ音源を流す)
長谷川 確かに全然違う! 歌が始まらないとわからなかった!
岡村 ちょっとおしゃれな曲調で、ものすごくいい曲なんだけど、下北系ロックバンドでこれをやるのか?っていう(笑)。
三井 しかも、その曲の演奏中にぼっちの弦が切れてスライドギター(ボトルネック奏法)で弾くところまでがセットなので、どうしようかなと思いました(笑)。そんな風にデモの段階でしっかり作り込まれているものもあれば、「カラカラ」はドラムのループとエレキギターと歌だけで、「フラッシュバッカー」や「なにが悪い」はアコギと歌の弾き語りでした。
岡村 要するに編曲というのは、色々なデモの状態から、皆さんが聴いている状態にする仕事なんです。
長谷川 すごい! 楽曲によってバラバラだから、編曲の取り組み方も曲によって様々なんですね。
三井 メロディと歌詞は基本いじれないので、まずはそれだけの状態にして、コードを組み替えて、ドラムや間奏やイントロを付けていく感じです。『ぼっち・ざ・ろっく!』の場合は主人公がギタリストということや、メンバー各々のキャラクター性も踏まえて作っていきました。
――そう考えると、ぼっちがギターをめちゃくちゃ弾けて、ベースのリョウも上手いという設定は、アレンジしやすくはありますよね?
三井 そうですね。後藤に迷ったら山田にお願いする感じでした(笑)。あとは、喜多ちゃんがそこまで上手に弾けないところも加味していて。ただ、ぼっちのギターを自由に動かすには、それ以外の楽器がしっかりしていないと破綻してしまうので、そこは考えつつですね。それでもあまり悩むことはなかったですが。
長谷川 そうなんですね! それぞれの実力が原作ですでに決まっていると、逆に難しいのかなぁと思っていました。
岡村 正直、喜多ちゃんはギターを始めてからまだ3ヵ月で、しかも歌いながらあれだけ弾けるので、一番の天才かもしれない説、ありますよね(笑)。
三井 一番才能あると思います(笑)。やっぱり先生が良かったからかなぁ。
長谷川 ぼっちちゃんが教えてくれたから。
岡村 ぼっち役の青山吉能さんも、YouTubeの企画(『ぼっち・ざ・ろっく!』連動企画「ギターヒーローへの道」)でギターを弾き始めて3ヵ月くらいになりますが、普通はあのくらい大変なものなんです。
三井 でも、青山さんもめっちゃ上手くなっていてびっくりしました。(注:三井は「ギターヒーローへの道」にゲスト出演している)
――これはあたり前のことかもしれませんが、アレンジは結束バンドの4人で鳴らせる音という縛りなのですか?
三井 もちろん。劇中曲に関しては完全に4人で演奏している形です。
岡村 ほかの曲も、音源バージョンではギターのハモが付いている箇所があったり、サビで広がり系の音色を加えたりはしていますが、基本はギター2本とベースとドラムのみで構成されています。
三井 普通のバンドでももうちょっと音を重ねると思います(笑)。
――でも、重ねないであれだけの音源ができているのはすごいですね。
三井 そこは結構大変でしたけど、弦さんの音のハメ方が上手いのもありますし、良いスタジオで楽器を録れたことも大きいです。特にドラムはいい音で録ることが大事なんですよ。
岡村 あれくらい音数が少ないと、1つ1つの音がちゃんと見えてくるので、それぞれの音が良くないと、しょぼく聴こえてしまうんです。各楽器の音色やフレーズがものすごく大事になるのですが、そこは律郎さんを含めた奏者の皆さんが素晴らしいお仕事をしてくださったので、あの音数なのに寂しさを感じない仕上がりになりました。
――全然寂しくないですし、むしろコピーしたくなるんじゃないですかね。
三井 良かったです。でも難しいですよ~(笑)。
長谷川 弾いてみた系の動画もたくさんありますよね。
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