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INTERVIEW

2022.12.23

やなぎなぎ、“ノベルゲーム的発想”でファン投票を募集し各曲テーマを決めた6thアルバム『Branch』からみえるファンへの想い

やなぎなぎ、“ノベルゲーム的発想”でファン投票を募集し各曲テーマを決めた6thアルバム『Branch』からみえるファンへの想い

やなぎなぎのソロメジャーデビュー10周年プロジェクトの1つ「隔月新曲デジタルリリース」をおさらいしておこう。これは対になる2つの言葉を提示し、ファン投票で選ばれたテーマの楽曲をこれまで発表してきた。12月23日にリリースされた新作の6thフルアルバム『Branch』は、そうしてリリースした楽曲に加え、対になった選択肢のテーマの楽曲もすべて収録された全10曲の作品で、テーマの読み解きや構成にも注目したいアルバムだ。このクリエイションを本人に解説してもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

テーマのきっかけは“周回プレイ”!?

――ファン投票によって選ばれたテーマから楽曲を隔月でリリースしていくというインタラクティブでユニークなこの取り組みはどのように思いつかれたのでしょうか?

やなぎなぎ まずは10周年の企画として、新曲を連続でリリースしていくという計画が持ち上がりました。それであれば楽曲を単体で出すよりも、選択肢を提示して皆さんと物語を作っていったほうが面白そうだなということで、この企画の形になりました。私自身、趣味でゲームをするときも、選択肢で迷って「もし別の選択肢を選んでたら……」みたいに気になって、周回プレイをしてしまうタイプなんです(笑)。それでどちらを選んでも“正解”になる物語を作れたらと思いながら、テーマを考えていきました。普段の私は曲のテーマを決めるまでに時間がかかるのですが、今回は最初に物語を考えて選択肢を作り楽曲を作る形になったので、とても作りやすかったです。

――選択肢はそれぞれ“夢”と“現実”、“安らぎ”と“刺激”、“新しさ”と“懐かしさ”、“永遠”と“刹那”でしたが、皆さんが投票で選ばれた言葉は予想通りでしたか?

やなぎなぎ “夢”は割と予想通りでしたが、そのあとは“刺激”のほうに向かうと思ったんです。そうした意外な展開になっていくのも面白かったです。毎月ライブも行なっていたのですが、そのモードも皆さんの投票に影響があったのではないかなと思っています。

――リリース企画とライブが並行して展開していく、まさに10周年記念ならではの試みでしたね。作曲家さんたちにはどのようなご説明をされましたか?

やなぎなぎ 共通してお願いしたのが、この企画の趣旨とテーマの言葉です。その際、どちらの曲が選ばれても違和感なく次の選択肢に進めるよう、内容についてはあまり細かく決めはしませんでした。投票で多数になった曲の歌詞は、次の選択肢に進めるような言葉を入れるような調整を加えています。もしかしたら、最初からすべての曲を用意していたと思われるかもしれませんが、やっぱり皆さんが毎回選んでくれたことに、きちんと意味を持たせたかったので、そこは反映させていきました。

――では各曲について伺わせてください。起点となった『Branch』はどのような思いで作れた楽曲でしょうか?

やなぎなぎ 企画のイントロダクションの曲ですので、まずは世界観を提示する曲として、「あるはずだった世界」といったキーワードを散りばめていきました。実はこの時点で以降の選択肢を2番の歌詞として提示しています。物語を引っ張っていくための曲ですから、今から始まるワクワク感を皆さんに感じていただきたかったので、力強さも意識してリードするような気持ちで歌っています。

――続いては最初の選択肢で選ばれた「dream puff」について、曲作りの着想を教えてください。

やなぎなぎ 現実から逃げ込んだ“夢の世界”といったイメージで作っています。夢の中なので自分の思い通りになるのですが、逆に味気ないという違和感が芽生えてくる流れになっています。そこでサウンドにパンチを効かせてもらいたくて、siraphの皆さんには違和感があるくらいゴリゴリに攻めていただきました。

――この後の曲もそうですが、テーマとなった言葉だけでない歌詞の世界が展開されているようですが、それはどのような意図からでしょうか?

やなぎなぎ 次の世界に向かうためのステップとして、反発するテーマの言葉を入れ、違和感を覚えて次の世界を求めるという流れを全体に入れています。「dream puff」の歌唱はデビュー前の雰囲気が強く、ふわふわさせつつも、尖らせる感じを出しています。

――「just another day」は、選ばれなかった選択肢“現実”をテーマにした楽曲。歌詞には、日常の退屈から抜けて出て別の世界へ行きたがる主人公の願望が描写されています。

やなぎなぎ 異世界転生作品が人気ですが、私もそうした物語を読んできたので、「もし自分にそうした機会が訪れたら」というテーマで書いた曲です。歌詞の最後の“逆さまの虹”は、滅多にないものの象徴です。現実に対する反抗心みたいなものが最後に出てきてほしいなと思って、ちょっと天邪鬼的に入れてみました。

――この曲はtofubeatsさんによるトラックですが、いかがでしたか?

やなぎなぎ 以前からお願いしたいと思っていて、今回ようやくご一緒できました。まずシティポップな感じがあり、それに加え私がお願いした「日々同じような景色に見えてちょっとずつ変わっている様子」を、ミニマルの中で音がちょっとずつ展開していく感じで表現してくださいました。メロディは一緒だけれども、音の変化のおかげで少しずつ歌のノリも少しずつ変わっていくのが面白いなと思いました。

――そしてまた選択肢です。“安らぎ”と“刺激”から選ばれた「Echo」についての曲作りについてはどのように考えましたか?

やなぎなぎ “夢”のあとの静けさということで、その世界から逃げてくるとしたらどんな場所かな、と考えました。静かな場所にいると、自分の考えや状況が冷静に見ることができると思うんです。そこでグルグル考えるけれども、自分しかいないので、投げつけてみても自分に返ってくる。抜け出すにはどうしたらいいのか、という流れの曲になっています。

――やなぎさんはアーティストとしてこのようなことに覚えはありますか?

やなぎなぎ そうですね。クリエイティブというものは正解があるわけではなく、どこで自分がいかに納得して終わらせるかだと思うので、その意味では常に私もグルグル回っていたりするので、共通するところがあるなと思います。レコーディングではお馴染みのエンジニアさんと一対一で、“安らぎ”のテーマに沿ったフレーズを1つずつ組み立てていきました。

――“刺激”の「OverSupply」は渡辺 翔さんによる作曲。どんなことをお願いされましたか?

やなぎなぎ ちょっとゴシックっぽい雰囲気のロックでとお願いしつつ、歌詞に書く予定の内容もお伝えしました。そうした曲も1曲は望まれているだろうなと思っていましたし、自分としても久々にこうした激しい曲を歌えて新鮮でした。このアルバムの中で一番尖っている曲になりましたね。

――次に皆さんから選ばれた「more than enough」は“懐かしさ”がテーマですが、ただの懐かしさではなく、含みをもたせた要素があります。歌詞を書く上ではどんな狙いがありましたか?

やなぎなぎ “懐かしさ”って結構、美化されがちだと思うんです。「自分の記憶はどこまで本当なのか……?」というところを書いてみたいなと思い、この楽曲になりました。自分の思い出として、きれいだった場所に留まりたいのか、それともそれは思い出として未来に進むべきなのか、みたいなところを書いてみました。

――次の曲「brand new world,brand new me」は、それとは逆の、文字通り“新しさ”をテーマにしていて、サウンドもUKジャズのような新しさがあります。

やなぎなぎ “新しさ”がテーマということもあったので、コンテンポラリージャズっぽい曲もやってみたいなと思い、冨田恵一さんに相談をして、まさに冨田さんらしい新しい感じで表現していただけました。楽曲は最初からかっこ良かったのですが、やり取りの中で、最初は打ち込みベース、次にはカットアップが増えていたりとどんどんブラッシュアップされていきました。それがテーマの“新しさ”とも偶然リンクしていて楽しかったですね。歌詞は「発表された時点では新しいけど、時間が過ぎるとやがてそれも古いものになってしまう」というジレンマを描いています。

――こうしたリズムに乗せて歌う上で、どんな声の表現を目指しましたか?

やなぎなぎ オクターブユニゾンを重ねるところも多かったので、重ねることを前提に歌っていきました。通常であればメインとなる1本をまずベストに仕上げるのですが、この曲では後々色んなものが乗ってくる前提でかっこ良くなるように録っていきました。

次ページ:ファンがいるからこそ完成した『Branch』

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