声優・青山吉能が、12月14日に3作目となるデジタルシングル「My Tale」をリリース。これまでの2作とは雰囲気をガラリと変えた攻撃的なダンスチューンとなっており、アートワークも含めて非常にスタイリッシュな作品に仕上がった。実はデビュー作の候補でもあったという本作。それをこのタイミングでリリースした、青山の狙いとは。楽曲自体の制作秘話と合わせて、じっくり語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
――3rdシングル「My Tale」は、これまでとはガラリと雰囲気の変わった楽曲となりました。
青山吉能 実はこの曲は、デビュー作の「Page」のコンペに寄せていただいたうちの1曲なんです。
――たしかにあのとき、「ほかにもプリプロが終わった曲がある」というお話をされていましたね。
青山 そうなんですよ! デビュー曲ということもありそのときは選べなかったんですけど、「いつか歌えたらいいなぁ」とずっと心の中に置いていた曲で。「こういう曲、声優もやっていいんだ!」という驚きもあって心の中にずっと残っていて、「いつか絶対に、こういう一面は見せたい」と思っていたんです。それで12月に何かリリースすると決まったときに「あのときの曲って今どうなってますか?」というお話をさせていただいて、この曲に決まりました。
――デビュー作としてはハマらなかったけれども、今のタイミングにはピッタリなんですね。
青山 やっぱりデビュー曲では青山吉能の音楽活動の指針にもなる曲を歌いたかったし、2ndシングルの「あやめ色の夏に」は夏のリリースだったので「私の夏の思い出を、聴いてください!」という曲をやりたくて、どちらも“青山色”が結構強かったんです。でも、だからこそ3rdシングルは、逆に皆さんの想像や先入観をぶち壊すのに一番いいタイミングのように感じて(笑)。1回冒険して、ちょっと攻撃的なほうに振ってみようかなと思いました。
――ポジティブな意味で、聴いてくれる方々を驚かせたいというか。
青山 「青山さんって、こういう曲しか歌わないんだ」というイメージが付いてしまうのも、ちょっと嫌なので(笑)。いい意味で皆さんの想像を裏切っていきたい気持ちを持っていたので、ビジュアルを含めて期待を超えていけたんじゃないかなと思っています。
――そんな「My Tale」で、青山さんがポイントだと感じられているのはどんなところですか?
青山 この曲のキーポイントはサウンドですね。今までの2曲では歌詞を特に大事にしていたんですけど、「My Tale」みたいにインパクトのある曲だと、歌詞に意味を持たせすぎると重すぎるかなと思って。なので「My Tale」の中では、私の歌声もあくまでも“音楽の要素の1つ”なんです。
――歌詞自体もですし、歌声もバラードのように感情を乗せすぎると、少ししつこく聴こえるかもしれない曲調ではありますよね。
青山 そうなんですよ! ただ、私は“感情爆発野郎”っていう異名もあるくらい感情を乗せるのが大好きな人なので(笑)、レコーディングではいかに感情を抑えるかがすごく大変で……歌に対する技術が改めて必要になるなと感じました。そういう「新しい課題が見つかった」という意味でも、歌をうたうということに対してもっと上手にならないといけないなと思いました。
――“歌い上げる”のとは違う上手さというか。
青山 そうですね。歌には、感情以外にも伝えられる部分がたくさんあるんだなぁと思って。今までは「感情を出してナンボでしょ!」という考えだったんですけど、そうじゃない繊細さとか、訥々としたなかにある味みたいなものを活かせるよう、楽曲の世界に順応できる自分というものを作る……という課題が見つかりました。
――そういう課題には、「My Tale」の中ではどのように向き合っていったんですか?
青山 今までの「魂が湧き出るような感じの歌い方」とは違う、自分の制御下に置ける歌声というものを研究しながらレコーディングしていきました。例えば、自分が「A」という声を出したいときに、そのまま「A」をぶつけるのではなくて、「A」だけじゃないものもぶつけたほうがより「A」っぽく聴こえたり。あとは譜割り通りを意識し過ぎずに、少し走り気味に歌ったほうが良く聴こえたりしたので、そういう感覚的な部分を大事にしながら進めていった覚えがあります。
――単に楽譜の通り、歌詞の日本語を言葉通りきれいに歌うだけではなくて。
青山 はい。ただ、聴いてくださる方に歌声から滲んでくる何かを感じていただきたい曲ではありますけど、直接的に何かを伝えるような歌詞ではないので、そのバランスを取るのがすごく難しくて。それを追求するのにかなりの時間をかけたことで、最終的に納得のいくものができました。
――歌詞には、青山さんの最近の心情なども反映されているのでしょうか。
青山 いえ、歌詞に関しては、作詞家のタイラヨオさんに「この曲の世界観に合っているものを自由に書いてください」とお願いしました。ただ、歌詞に明確な意味を持たせたくはなかったのですが、「これはひょっとしたら、このことを言っているのかも?」とは感じられるような……ちょっとした回りくどさみたいなものがほしかったので、そのバランスを話し合いながら調整してもらいました。私からも言葉の表現の提案をさせていただりして、最終的に歌詞が完成したのはレコーディング前日でした。
――ギリギリまでこだわられた。
青山 はい。なのに「歌詞の意味はそんなに意識していない」というのはちょっと矛盾しているかもしれませんけど(笑)、1つも妥協したくなかったので。それに、「歌詞も大事にしたいけど、楽曲の中ではボーカルはそこまで主張しなくていい」というのは自分の中で決めたことではあったので、そこはどちらも欲張れてよかったと思っています。
――人それぞれ感じるものや感じ方の濃淡に違いが出そうという点では、前作「あやめ色の夏に」とは真逆ですね。
青山 全く逆です! 「あやめ色の夏に」のときは「私の理想のこの景色を、みんなにも観てほしい」みたいな強い気持ちがありましたけど、今回はみんなそれぞれの気持ちを抱いてもらいたくて。
――歌声も含めて、色々解釈してもらいたいというか。
青山 歌というものは聴き手と作り手で全然違うイメージがあってもいいと思うので、それぞれの楽しみ方をしていただければとても嬉しいですし、皆さんの色んな解釈も聞いてみたいです。
――青山さん自身は、歌詞からどんなものを感じましたか?
青山 この曲の主人公は、根底に「寂しい」という感情を持っているように感じました。私は歌うにあたって「この曲で描かれているのはどういう主人公か?」を大事にしているのですが、この主人公は1人で生きていると思うんです。「1人で生きる」って、言葉だけで受け取ると強そうにも弱そうにも見えるじゃないですか? だから最初の方は「どれでもない自分」みたいなものを感じられるように歌って、その曖昧なところから「でも、なんとか頑張っていくんだ」という強さが徐々に出るように、大サビでは力強く歌って表現していきました。
――そのイメージを浮かばせたのが、hisakuniさんが作編曲を手がけられた非常にスタイリッシュな楽曲です。
青山 デモの段階では歌詞が全部英語で、それもまた超かっこよかったんですよ! なので、私が歌ったときもそれくらいかっこいいものにしたくて……hisakuniさんが作った世界を私のボーカルで壊したくなかったので、色々と試行錯誤しました。
――レコーディングには、hisakuniさんやタイラさんはいらっしゃったんでしょうか。
青山 いえ、お二人とはお会いできておらず……。私、クリエイターのことを尊敬し過ぎているというか大好き過ぎるので、「私がこういう歌い方をすることで、ちゃんとお二人の作りたい世界に寄り添えてるのかな?」みたいな不安があったんです。だから、ディレクターさんの「大丈夫だから」という言葉を信じてのレコーディングでした(笑)。
――その言葉に支えられて(笑)。
青山 ただ、実はそのとき、ディレクターさんがhisakuniさんに電話して聴いてくださっていたらしいので、根拠のない“大丈夫”ではないと後から知ったんですけど……未だに「大丈夫なのかな?」という不安もありますが、自分としては妥協のない作品にできたと思っています。
――青山さんから、歌ううえで何か提案されたようなことはあったんでしょうか?
青山 2サビの後、Dメロでサウンドの雰囲気が変わる部分で歌い方も変えてみたところですね。元々は割と普通に歌う予定だったのですが、オケの雰囲気や拍の取り方がガラッと変わる部分なので、「いっそ振り切っちゃっていいんじゃないか?」ということで、地声で歌えるキーでしたけどウィスパー気味のファルセットで歌ってみました。
――そういった部分を含め、今回も様々な挑戦をされた1曲になりました。そのなかで、何かポジティブな気付きのようなものはありましたか?
青山 うーん……あればよかったんですけど(笑)。私、自分に対する自己評価が低い分、理想がめちゃくちゃ高いので、そのギャップを埋める作業がかなり苦しくて、逆に新しい課題はたくさん見つかりました。今の私にできる「My Tale」としては妥協なく100点満点のものが完成しましたけど、「もっと、こういうふうにもできたのかな?」みたいな感情もあります。
――飽くなき探究心のようなものが。
青山 そうなんです。「この人だったらもっとこう歌えるから、私もこう歌いたい」みたいに、理想を持ったうえで自分を追い詰めた先に成長があるはずですし、「これでいいや」となった瞬間に成長は止まると思うんですよ。だから、今回の曲を通してまた新しい課題が見つかったというのは、自分としてはいいことなんですよね。
――そうして理想を追い求めるなかで、“青山吉能らしさ”みたいなものが、徐々に確立されてくるんだと思います。
青山 その“青山吉能らしさ”に関しては、私よりもファンの皆さんのほうが詳しい気がしているんですよね。私は「もっとこういうふうになりたい」という理想が多すぎて、たまに自分というものがわからなくなってしまうんです。でも、そんなときにファンの皆さんからのお手紙を読むと、「よっぴーのライブを観て、こういうところがすごく良かったです」と書いてくださった部分が同じだったりするので、そこで私らしさというものを気づかせてもらえるんです。
――なるほど。迷ったときには手紙を読んで、自分らしさを確認する。
青山 そうなんです。みんな同じところを見て、同じ感情を抱いてくれているので。
――それに、この「My Tale」で見せたものもまた、間違いなく新しい“青山吉能らしさ”の1つにはなったでしょうし。
青山 自分でもそう思います。しかもそれを、やらされている感も全然ないし、自分でこうして今「意外とハマるんだ……」と言えることも嬉しいというか。それも発見だなぁ……あ、それがポジティブな気付きです!
――今、気付きました?(笑)。
青山 しゃべりながら気付いた!(笑)。課題しかないと思っていたけど、いい発見もありました!
SHARE