アーティストデビュー10周年にふさわしく、ベストアルバムを含む9ヵ月連続リリースや3年ぶりのワンマンライブなどに加え、アーティストへの楽曲提供も目白押しと、2022年は実に濃密な1年が続いているZAQ。アーティストだけではなく作家としても充実し、存分に実力を発揮しつづけるシンガーソングライターに対して、10th Anniversaryを記念してリスアニ !WEBではインタビュー企画を連載してきたが、ついに最終回を迎える。稀代の才能を輝かせるZAQの魅力を最後まで追っていく。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
PHOTOGRAPHY BY 三橋優美子
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――2022年はZAQさんにとって10周年イヤーとなりますが、先日、鬼頭明里さん、上坂すみれさん、新田恵海さん、佐咲紗花さん、YURiKAさん、森久保祥太郎さんへの楽曲提供を解禁、アーティスト活動以外でも忙しく活動されていたことを発表されました。
ZAQ しかも、実はまだ発表されていないものもあるんですよ(笑)。
――なかには初めてコンペで勝ち取った曲もありますね。
ZAQ 鬼頭明里さんへの提供曲がそうですね。この連載のインタビューでコンペを通ったことがないと話した翌日に連絡をもらったんですよ。5、6月に作っていて、その前には上坂さんの曲も作っていたんですけど、とにかく自分のリリースとかぶっていたので大変でした
――鬼頭さん以外は指名でしたか?
ZAQ 指名でしたね。森久保さんの曲は、私の誕生日である3月16日に(プロデューサーの)佐藤純之介さんから「ZAQに誕生日プレゼントだよ、森久保さんに1曲書いて」と言われました(笑)。
――男性アーティストに楽曲を書きたいとおっしゃっていましたね。
ZAQ 書きたかったですね。今後も書きたいと思っているし、なんだったら森久保さんは一番書きたい人といっても過言ではないんですよ。お世話にもなったし憧れてもいるので。今回は森久保さんが歌詞を書かれていて、これまでに寺島拓篤さんと小野賢章さんに歌詞を提供したことはあるんですけど、男性アーティストに作詞・作曲どちらも提供、というのは一度もないので、いつかやってみたいですね。
――言霊で、また実現するかもしれないですね。楽曲提供した中で、YURiKAさんの名前は意外に感じました。接点はあったのでしょうか?
ZAQ イベントとラジオで一度だけお会いしたことはありました。彼女もずーっとアニソンを追ってきたアニオタで、初めて行ったワンマンがGRANRODEOさんということで、作曲を(GRANRODEOのメンバー、e-ZUKAである)飯塚(昌明)さんにお願いしたんですよね。なので私も、飯塚さんの曲に合う、GRANRODEOのようなかっこいいロックの歌詞を意識しました。でも、実は最初に曲をいただいたとき、飯塚さんが作曲したことも仮歌を歌っていることも一瞬気づかなかったんです(笑)。作曲が誰かを尋ねたら「飯塚さん」と言われて「あぁっ!!」みたいな。たしかにめちゃめちゃ飯塚さんでした。
――では、大ファンの飯塚さんの楽曲に合わせる歌詞、ということで並々ならぬ期待は感じますね。
ZAQ でも、「ここで私なんだ」とはすごく思いました。コロナ禍もあってちゃんとお会いできてはいないので、直接彼女の真意を聞けてはいないんですけど。だって作曲が飯塚さんなら歌詞は栗林(みな実)さんに書いてほしいと思うじゃないですか?飯塚さんとZAQのタッグなんてもちろん初めてですし。多分、歌詞のテーマ性だとは思いますけど。事務所を通じてお伺いしたのは、「リリースがストップしていた2年間の苦難にも心折れずに立ち向かってきた彼女の心情に寄り添う歌詞」みたいなお話だったんですよね。栗林さんが書かれる歌詞は女神のようにすごく慈愛に満ちていて、自然体ですよね。「wonderful worker」という曲で栗林さんが、“働くあなたって輝いてる キラキラしているの”という歌詞を書かれていて。なんて慈愛に満ち溢れながらも身近な、隣でお母さんが言ってくれるような歌詞なんだろう、と思いましたね。素の優しさが出ているというか、「……好き」ってなりました。普通、歌詞って気合いを入れて書くじゃないですか?誰かの希望になりたいとか背中を押す曲を書いてやるとか、「私についてこい」みたいなカリスマな曲にするとか。私が好きなアーティストであるカノエラナさんの歌詞にも同じことを感じるんですけど、すぐに作った感がめっちゃ素敵なんですよね。カノエラナさんにも「ダイエットのうた」とかあって、すごいと思いました。
――ただ、YURiKAさんサイドが今回望んでいる歌詞はそこではないだろう、と。
ZAQ 栗林さんは、何かをはねのけるにしても「黙れ」とか「くたばれ」とか言わなそうですよね。でも私なら言えるというか(笑)、そのテーマ性を求められているのかと思いました。
――YURiKAさんに対してはどのようなイメージを持たれていましたか?
ZAQ 真面目で芯が強くて。タイアップをもらっても流されることなく何かを掴み取ろうとするハングリー精神はビビッと感じました。
――自身で“ユリパ! YURiKA presents Live party Vol.1 Acoustic Session”を主催するなど、精力的で貪欲ですよね。
ZAQ 自分で動くところが偉いですよね。そういう貪欲で強い部分もあるんですけど、葛藤や迷いも普通の女の子のようにあるように感じました。空気が読めなくないというか、周囲を気にせず唯我独尊で突っ走るというよりは、大人が言うことに対して苦虫噛んで必死に耐えながら乗り越える子のような……。何を言ってるんですかね?私は。1回会っただけなのに(笑)。
――ただ、それだけ歌い手のイメージが明確ならば歌詞も書きやすかったですか?
ZAQ そうですね。この歌詞が彼女の声質に合っているのかは悩みどころでしたけど。良くも悪くもクリアな声なので、私の得意ながなり声や叫びといった汚さを上手く引き出せるか、そこは少し不安でした。でも、YURiKAさんのレコーディングの翌日、歌を録っていたエンジニアさんと一緒になったんですよ。私はさや姉(=佐咲紗花)の歌録りだったんですけど。そのとき、ラップ部分をすごく大変そうにしていて……仮歌を聴いてZAQの歌に寄せようと必死だったと聞きました。そう、ラップを入れちゃったんですよね……。だって飯塚さんの仮歌から入ってたんだもん(笑)。でも、彼女の歌を聴いたらめちゃくちゃかっこ良く歌ってくれていましたよ。歌いこなしていけばライブでも映える曲になるんじゃないかと思っています。
――今お名前が出た佐咲紗花さんは、長い付き合いながら(『だから僕は、Hができない。』OPテーマの)「Reason why XXX」以来の楽曲提供となります。
ZAQ まだZAQがデビュー前だったので、すごく久しぶりですよね。10月アニメの(『不徳のギルド』)OPテーマのカップリング曲ということで、早くから発注はいただいていましたけど、さや姉からは「佐咲紗花の歌ではなくZAQの歌にしていい」と言われたんです。たくさんの曲を歌ってきたから自分のメッセージは歌い尽くしてきたから、って。ZAQはキャラクターやアーティストに寄り添って、お客さんが望む姿をすごく想像しながら書いていると思うけれども、そうではなく誰の目線でもない曲を、とお願いされたんですよ。
――先ほどのYURiKAさんや、「ライブを忘れたオタクに捧げる聖譚曲 feat.内田真礼」で内田真礼さんを想像したようにではなく。
ZAQ なく。ちょっとした短編小説のような歌詞ということでしたね。ただ、「もしかしたら私のことかも」とみんなが思えるような。で、曲はピアノロックにしてほしいということだったので、めちゃめちゃピアノが目立つ曲になっています。アレンジはギタリストの奈良悠樹さんにお願いしました。だから、これはもうZAQがきったシングルですよね。さや姉の(歌声の)レンジに合わせることもまったく考えていないし、作家として書いた曲ではないです。
――YURiKAさんや森久保さんのような初仕事も、佐咲さんや上坂さんのように10年来の付き合いがある方への楽曲提供も10周年にふさわしい出来事ですね。奇妙な偶然というか。
ZAQ そうですね。上坂すみれさんも、ZAQや内田真礼さんと同じく『中二病でも恋がしたい!』が最初の出世作で。同じ瞬間に走り出し、違う道を進みながらもここでようやく互いが交差した感覚があります。真礼さんにもそういう曲を書いたことがあるし、YouTubeの「上坂すみれのおまえがねるまで」に出演したときにも上坂さんに同じことを言われました。
――上坂さんへの提供曲はアルバムのリード曲でもあるので、そういったお二人の歴を期待してのオファーだったかと思います。
ZAQ 上坂さんのプロデューサーさんも満を持しての打診だったか思いますし、同期の化学反応みたいなものはひしひしと受け取っていたので、「その期待に応えなきゃ」とは思っていました。
――結果的に、タイプの異なるアーティストに次々と楽曲を提供することになりました。
ZAQ そういう面白い発注のほうが燃えますよね。「いつも通りのZAQさんの色で」とか言われると、「じゃあ4つ打ちかな」「コードはこうかな」と曲がなんとなく想像できてしまうんですけど。でも、斜め上な発注がやリテイクがくるとめっちゃ燃えます。いや、田淵(智也)さんとか天才ですよ。
――DIALOGUE+さんの楽曲でご一緒されていましたね。
ZAQ 決して作家を傷つけないようなリテイクなんですよね。制作がめちゃくちゃクリエイティブに富んでいるので面白くて。
――では、リリースと重なりながらも充実した作家作業でしたね。
ZAQ いやー、えみつん(=新田恵海)の曲がすっごく大変だったんですよ(笑)。
――(笑)。それはどういった点でしょうか?
ZAQ さや姉さんとは真逆というか、レンジですごく苦労したんですよ。えみつんのレンジって平均的な女性の音域と違うというか、普通サビで歌い上げるとしたらだいたい似たような音域になるんですけど、その音域は得意ではないというオーダーがあって。そこのロングトーンが使えない代わり、その上の音域はめちゃめちゃ出せる、みたいな感じでした。
――地声とファルセットの切り替わりのところでしょうか?
ZAQ かもしれないです。いや、ありとあらゆる女性に曲を書いてきましたけど、メロディ作りでこんなに苦戦したのは初めてでした。いつも使っている音域を外しながら、新田さんが得意な音域をたくさん使いたかったので、A・Bメロはこの範囲の音域で完結してサビだけは違う音域、というとんでもない曲になりました。でも、リード曲やほかのアルバム曲を聴いてみたら皆さんはそこまで気にしてなかったですね(笑)。普通の対比で書いていると思います。黒須(克彦)さんの曲もストレートに爽やかな曲でしたし、全然歌えていたし。新田さんとは2ndアルバム『EMUSIC 32 -meets you-』で(「君に咲く愛のうた」の)作詞をしたんですよね。その曲がとんでもなく高い曲だったので、高音域を厚くしたというのはありました。
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