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INTERVIEW

2022.11.02

【インタビュー】BOOM BOOM SATELLITES・中野雅之とTHE NOVEMBERS・小林祐介によるロックバンド“THE SPELLBOUND”がTVアニメ『ゴールデンカムイ』第四期EDテーマ「すべてがそこにありますように。」をリリース!ひたむきに“音楽”に向き合う2人が今作を語る。

【インタビュー】BOOM BOOM SATELLITES・中野雅之とTHE NOVEMBERS・小林祐介によるロックバンド“THE SPELLBOUND”がTVアニメ『ゴールデンカムイ』第四期EDテーマ「すべてがそこにありますように。」をリリース!ひたむきに“音楽”に向き合う2人が今作を語る。

BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之と、THE NOVEMBERSの小林祐介により結成されたロックバンド・THE SPELLBOUND。彼らのニューシングル「すべてがそこにありますように。」の表題曲が、TVアニメ『ゴールデンカムイ』第四期EDテーマに起用された。これまでBOOM BOOM SATELLITESや他アーティストへの楽曲提供、リミックスなどでアニメのテーマソングに関わってきた中野と、初めてアニメのテーマソングの制作を行った小林。2人はどんなイメージのもと同曲を完成させたのだろうか。

THE SPELLBOUND結成で感じた苦労と達成感、そして人生の学び

――THE SPELLBOUNDは中野さんが2019年にTwitterでボーカリストを募ったことで結成に至りましたが、ソングライターでありプレイヤーである中野さんにとって「ボーカリスト」とはどのような存在なのでしょう?

中野雅之 人にはそれぞれ声という個性があって、なかでも歌手と呼ばれる人間は突出して伝える力を持っている。それは神様からの授かり物だと思っているんです。それがあるとないとでは、音楽の力は断然変わってくる。僕が昔やっていたバンド、BOOM BOOM SATELLITESのボーカリストである川島道行も類い稀な声を持つ人物なので、もう一度特別な声を持った人と自分の音楽表現をやってみたかったのでボーカリストを募ったんです。

――それに対して一番乗りで連絡をしたのが小林さんだった。

小林祐介 「始めたらこんなふうになるだろうな」「こういうふうに大変かな」とか、そんなことを考える間もなく体が動いていましたね。ただ、中野さんと一緒に音楽をやってみたいという一心でした。

――ですが結成から1年ほど、楽曲が形にならない時間が続いたとのこと。根気強くいられたのには、どんな理由があったのでしょうか。

中野 最初のうちは話がなかなか噛み合わなかったり、何も物事が進まなかった1年間は僕も堪えたんですけど……「何かを起こせるんじゃないか」という可能性を感じていたんでしょうね。小林くんは知らないこと、わからないことに直面しても卑屈にならなかった。諦めずに答えを探し続ける姿勢や、僕に立ち向かってくる気概があったんです。週に1回必ず会うようにして、1日明けてそのまま一緒に音楽を作ることもあれば、音楽や人生観、家族観、死生観など様々なことを話して、それだけで終わってしまう日もあって。それを繰り返すなかで音楽の断片ができた時は、ものすごい達成感でした。

小林 僕にとっての最初の1年は、中野さんに提示してもらった新しいものや、新しい感覚に出会っていく期間だったんです。それを上手く消化できないプレッシャーや不安ももちろんあったんですけど、それ以上に「中野塾」で勉強している充実感がありました。中野さんとの会話で自分の内面や核心を見つめ直して、新たな視野を得たタイミングでその断片ができて――その時のことは強烈に覚えています。僕自身が認識できていなかった僕の本心と、パチっと目が合ったんですよね。

――点と点が繋がったような。

小林 自分はずっとこれを持っていたんだけど蔑ろにしていたんだな、世の中を侮っていたんだなとか……。自分のわかったことが、ちゃんと曲になっているんです。必要な時間を過ごして、必要なことを学んだからこそあの断片を生むことができて、それが今のTHE SPELLBOUNDにも繋がっているんだろうなと思います。

中野 僕はBOOM BOOM SATELLITESでアーティスト人生を一度全うしているのと、小林くんよりもひと回り以上年上なので、経験則から見えてくるものが小林くんよりも多いんです。でも小林くんとこの先何作も作っていくのであれば、お互いの人生を通して対話をしていく必要があった。だから小林くんは、僕が今までの人生で得たことを一気に学ぼうとしているところがあるとは思っていて。

――THE NOVEMBERSは2007年の全国デビュー以降、2013年に自主レーベルMERZを設立し、オルタナティブロックを軸にご自身が思う美しい音楽、豊かな音楽活動を妥協なく純粋に追求し続けていました。THE SPELLBOUNDは小林さんをさらに未知の領域へと連れて行ってくれたんですね。

小林 THE NOVEMBERSはずっと同級生、友達、幼馴染の延長線上でバンドをやっていたからこそ「ただあるがままありたい、今作りたいものを作りたい」と純粋に音楽活動を続けてこれた。その反面良くも悪くも、未来に夢を抱いたり、がむしゃらな野心を抱いて走っていくことが少なかったんです。でもTHE SPELLBOUNDを始めてから「もっと良くしていきたい」「素敵なものをもっと見たい」と思うようになって。最初は僕自身そんな僕に違和感がありつつも(笑)、根っこにポジティブなマインドを持つようになった自分を気に入っているんです。

中野 小林くんはこの数年間でボーカリストとしても、作家や表現者としても、ステージに立つ1人の男性としても、すごいスピードで成長しています。THE NOVEMBERSで培った世界観や価値観と、THE SPELLBOUNDで得たそれが合わさって、新しい小林祐介が生まれるのをすごく楽しみにしているところですね。

強度を高め続けた楽曲制作

――シングル「すべてがそこにありますように。」も、THE SPELLBOUNDの強度を感じる作品でした。表題曲はTVアニメ『ゴールデンカムイ』第四期EDテーマ。公式コメントでは命について触れられていましたが、それはTHE SPELLBOUNDの掲げるテーマにも通ずるのではないでしょうか。

中野 これまでの楽曲と同様に、大切なものに対する考え方や生命への祈り、死生観といった観点を反映させながら、普段どおり多くの人の人生と寄り添えるもの、共に歩める曲を目指していて。だからこそ様々なキャラクターが登場する『ゴールデンカムイ』のどこに当てはめても、必ず共感できるポイントを作ることができたと思っています。でもアニメのテーマソングの89秒という、コンパクトなフォーマット内での制作はTHE SPELLBOUNDにとって初めてで。僕たちの持っている音楽のストロングポイントを89秒の中に余すことなく当て込んでいくことを意識しながら制作をスタートさせました。

――抽象的な言い方ですが、THE SPELLBOUNDの音楽を聴くと広大な自然や高く抜けた空に放り出されるような感覚に陥ります。それが『ゴールデンカムイ』の舞台とリンクする印象も受けました。

中野 僕のバックグラウンドや生まれながらにして持っているテイストが、ロシアや北海道のような寒くて荒涼とした風景と合っているというのは、僕自身もよく理解しているところでもあります。そんな僕の作る音楽に血を通わせるのが、ボーカリストである小林くんなんですよね。小林くんが『ゴールデンカムイ』のホットでエモーショナルな部分を担ってくれています。

――ラップ調の箇所など、コーラスワークもカラフルで、ボーカルで様々な人の息遣いを感じられるのも特徴的だと思います。だからこそ生命力を感じる歌詞も一言一句インパクトがあって。

小林 僕はアニメのテーマソングの制作が初めてだったのですが、いちリスナーとしてはハイカロリーでスピード感があってエネルギーが凝縮された1曲だなと感じることが多くて――89秒で何か起こすってそういうことなのかなとも思うんです。だからこそ何を歌うかが重要で。自分が何をすることで何が起きるのかを、1つ1つ考えながら言葉や歌にしていきました。

中野 歌詞は小林くんが書いていて、僕はそれを客観的に見て、絶対に必要なこととそれほどでもないものをシビアに精査していく係をしているんです。後者を削ぎ落として、小林くんには無理なお願いをして、100点、150点の歌詞を歯を食いしばりながら書いてもらう。そうすると強度がどんどん上がって、歌詞の全部がパンチラインになる。THE SPELLBOUNDでは言葉の強さや意味の深さもすごく重要視していますね。

――小林さんはもともとTHE NOVEMBERSでも美しい歌詞表現を追求なさっていたので、それが中野さんのジャッジが入ることで研ぎ澄まされているところも?

小林 THE NOVEMBERSは歌詞も音楽も「表すこと」自体に重きを置いてきていたんですよね。でもTHE SPELLBOUNDで「伝えること」の大切さを知って。どう伝えるのか、どう伝わるのかを考えることによって、口調や手渡し方まで意識することができるんです。「すべてがそこにありますように。」でもそれを大切にできた実感はありますね。

――個人的には“傷跡に針を落とす メロディが君を呼び起こす”という歌詞に胸を掴まれて。

小林 ああ、いいですよね(笑)。

――心の傷にレコードの針を落とすから、自分自身のメロディが鳴り響くということですよね。THE SPELLBOUNDと『ゴールデンカムイ』の世界が色濃く重なった箇所だと感じました。

小林 「傷」や「痛み」はキーワードでしたね。登場人物たちはそれが刻まれていくことで、人生を全うして、運命を転がっていく。だからその痛みにどんな意味があったんだろう、どんな運命の歯車がどんなきっかけで回り始めたんだろう――というふうにどんどん考えを膨らませていって。

中野 人は生きていくうえで必ず何かしらの痛みを負っていて、だからこそ共感というものが生まれると思うんです。だから芸術作品と接する際に、「傷」や「痛み」は最も深く作品と繋がれるポイントでもある。傷、痛み、癒しは、人生を通して音楽活動する上で僕らの普遍的な、すぐ隣にあるテーマなんです。それもあって小林くんから無理なく美しい表現が生まれてきたんだろうなと。それが『ゴールデンカムイ』によって改めて強調されたと思います。

――だからかもしれませんが、カップリング曲の「約束の場所」はアニメとは直接関係がないとはいえ、「すべてがそこにありますように。」と表裏一体な印象を持ちました。

中野 ほぼ同時期に作っていた曲なので、必然的にそうなったのではないかと思います。決定的に違うのは、「約束の場所」は89秒の縛りから解放されていることですね。繰り返し出てくるサビもないし、始まったらそのまま終わりまで一方通行で進んでいく。「すべてがそこにありますように。」とはまた全然違う景色というか、その先にある広大なものを見に行くことができるという仕掛けの意味合いもありますね。

次ページ:2人だからこそ作り出せるTHE SPELLBOUNDの世界観

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