「アオペラ -aoppella!?-」のコンテンツ立ち上げから音楽制作に関わり、「Think About U」をはじめとした楽曲の制作や、リルハピ、FYA’M’、両グループのレコーディングディレクションも担当するzakbee。そして、大学のアカペラサークルでゴスペラーズの後輩にあたり、そのゴスペラーズをはじめとしたアカペラアーティストへの楽曲提供をし、「アオペラ」の「天体観測」のカバーのアカペラアレンジや1stアルバム『A(エース)』でも楽曲制作を手がけるとおるす。2人を迎え、今年2月にリリースされたアルバムや、彗星の如く登場した新グループ・VadLipについて話を聞く。
VadLipの衝撃のお披露目曲となったAdoの「踊」、YOASOBIの「怪物」のカバーでアカペラアレンジをしたとおるす、ディレクションを担当したzakbee。2人は彼らに対してどんな想いがあるのだろうか。
――「アオペラ」にはリリース後から参加されたとおるすさんですが、コンテンツの最初の印象を教えてください。
とおるす 友人が「こんなプロジェクトがあるよ」って教えてくれたんですが、J-POPカバー「白日/Pretender」を観て「すごいプロジェクトが始まったな!」と思ったのが最初で。そしたらアレンジャーとして橘 哲夫さんのお名前があって。橘さんは大学のアカペラサークルの先輩なので「このコンテンツは誰が関わっているんだろう」と思いました。
――そうだったんですね。どんなところにアカペラの魅力を感じられますか?
とおるす 大学のアカペラサークルに入った当時、先輩たちの歌声に感動して。どうしてこんなに感動するんだろう?どうして歌うと楽しいんだろう?……と自分で解明したくて、どんどんハマっていきました。
――zakbeeさんは「アオペラ」に関わられるようになってからアカペラにどっぷりと浸かるようになられたと思いますが、実際に楽曲を手がけるようになったからこそ感じるアカペラの面白さはどんなところにあると思われますか?
zakbee 基本は全部人の声でやりつつ、毎曲毎曲アレンジが届いて楽譜をチェックしていくなかで、人の声をこの楽器になぞらえてアレンジされているのか!という発見があって。自分が普段、アカペラではない楽曲でやっているような作業を人の声だけでやっている。その対比が面白いなと思いますね。
――アカペラサウンドをクリエイトされるうえでの手法や技術面に変化はありましたか?
zakbee 僕以外の関わっている作家さんやアレンジャーさんは、アカペラのフィールドの方ばかりなんです。ほとんどがアカペラの活動を経験されている方なので、最初にアレンジした「Think About U」という曲は見様見真似でのアレンジだったのですが、色んな人のアレンジを聴きながら「ここはこうすればいいのか」ということや、ベルトーンの使い方にしてもベースやボイスパーカッションといった下支えの人たちも、その上にいるコーラスの3声や4声の使い方も、毎曲楽譜を見ながら勉強させてもらっています。そこで吸収したことを自分の中でフィードバックさせて、アレンジしていく感じです。『A』に入っている「アオペラの“ア”」は、アオペラが始まって何曲か経たうえでの久々のアレンジ作業だったので、この1年で自分が勉強したことを盛り込めたかなと思います。
とおるす 「Think About U」は1曲目だったんですね。
zakbee そうなんです。でもFYA’M’に関してはボイパがいるし、基本的にはR&Bだし、ボイスパーカッションとベースがあれば主メロだけでも成り立つんですよね。それがあったからすごく助かりましたけど、リルハピの楽曲のアレンジはボイスパーカッションがいないぶん、ハードルが上がるなと思っています。リルハピについては「アオペラの「ア」-introduction song-」でアレンジをさせてもらいましたけど、難しかったですね。
とおるす たしかにリルハピのアレンジは難しいですよね。ボイスパーカッションに頼らずにグルーヴを作らなくてはいけないですから。
zakbee 補助的にクラップや足踏みの音とかも入れますが、リルハピに関しては基本的にベースがリズムの要になるので、それがなかなか難しいんですよね。ウワモノの人たちも、ブレスでハイハットを担当することもできなくはないですけど、それをやると全パートがとてつもなく難しくなってしまう。「歌って楽しい」というリルハピの純粋な想いという根幹がブレてしまうかもしれないとも思うので。
とおるす うんうん。
――とおるすさんが思うリルハピのアレンジの面白さはなんでしょうか。
とおるす 僕にとってリルハピは橘さんのイメージがあります。パッと聴きは爽やかですが、裏で複雑で高度なことをやっているんですよね。だけどキャッチー、という塩梅が好きですし、どんな構造になっているんだろうなって毎回思ってしまいます。
――FYA’M’のアレンジを聴かれて、どのような感想がありますか?
とおるす 大好きです!
zakbee ありがとうございます!
とおるす zakbeeさんがアカペラ未経験なことが信じられないですね。曲も歌詞もすごく良いし、とにかくアカペラの典型的な様式がビシッと抑えられていて。経験者の方がやっているんだろう、と思ってスタッフさんに聞いたら「アカペラの人じゃないですよ」と言われて驚きました。
zakbee アカペラ未経験とはいえ、元々ドゥーワップも聴くし、アカペラをやる人たちの音楽は聴いてこなかったけど、コーラスグループの人たちの楽曲は好きで聴いてきたので、ウワモノのコーラスワークという音楽的な教養はそれなりには持っているんじゃないかな、とは思っています。でも実際にアカペラをやってきている人が聴けば「こいつ、わかってないな」ってところはあるのかもしれないですが……。
とおるす そういうのはなかったんですよ。
zakbee 本当ですか?大丈夫でしたか?
とおるす なかったからこそ衝撃でした。アカペラをたくさんアレンジされてきた方の作品だと思っていましたから。「アオペラ」のことを「知っている」から「好き」に変わったのは「Think About U」を聴いたことがきっかけでした。これは本当に良い曲だなぁって。自分でもこういう音楽がやりたかったのに!というところをやられた!と思いました。
――そんなお二人はアルバム『A(エース)』でも様々な楽曲に関わられています。まずはzakbeeさん。「アオペラの「ア」-introduction song-」で全員の空気感を詰め込んでいますが、全員で歌うからこその面白さや難しさはありましたか?
zakbee 最初に「白日/Pretender」のカバーをやりましたが、あのときにも少しだけ2組のパートが混ざるところがあって。パート的に言うと最大8人が一緒に歌っているんです。「Pretender」のアウトロのところは、ベースをやっていた(宗円寺)雨夜(CV:前野智昭)がメインパートにいき、代わりに(猫屋敷)由比(CV:濱野大輝)がベースをやって、ほかのハモりでもFYA’M’のメンバーが入っているっていう、最大で8人だったんですが、今回はようやく11人全員で歌うということで。リルハピの紹介パート、FYA’M’の紹介パート、最後に全員パートがあるんですが、欲を言えば全員パートはもっと膨らますことができたと今でも思うんですよね。6分いかないくらいのサイズで収めているけど、8分でも10分でもできるくらい、やりたいことがたくさんあったんですよ。でもとにかく11人全員で楽しく声を出す、ということがやりたくて。そこを最大目標として作った「アオペラの「ア」」でした。あとはFYA’M’パートとリルハピパートの、基本の1コーラスのループは同じコード進行です。人によって一番おいしいキーが違うから、全部同じメロディにしてもイケるけど、それをやると「(丹波)燐(CV:逢坂良太)にしてはちょっと低いぞ」とか「雨夜くんだとちょっと高いぞ」みたいなところが出てきてしまうから、それは同じコード進行内でメロディを上げたり下げたり、と調整をしながら作れて。同じコード進行だけどバリエーションを作ることができたのは面白かったなと思います。
とおるす これはゴスペラーズさんの「侍ゴスペラーズ」を彷彿とさせますよね。ライブでの名乗り曲。この曲をライブで聴きたいなぁと思いました。すごく好きな1曲です。
――続いてとおるすさんが手がけられた「Follow Me」はゴスペラーズの村上てつやさんと共に制作されています。
とおるす これぞ村上節だな、と感じていました。ゴスペラーズの皆さんが歌っているのもイメージできますよね。実際に『The Gospellers Works 2』でセルフカバーされていました。僕は共作曲と共編曲を担当させていただいて、歌詞は村上さんが全部手がけられています。FYA’M’はちょっと大人の雰囲気のあるイメージなので、大人っぽさも散りばめてかっこいい曲を作ろうと意識をしました。歌詞については、俺について来い(Follow Me)という表向きの意味の裏に、高校生の頃のご自身の体験が入っているそうなんです。高校の文化祭で初めてアカペラを披露して、そこですごく盛り上がったことが今も鮮烈な思い出の一つだという話をしていただいたことがあり。その背景を知って聴くと、オラオラな歌詞の中に高校生の心情が垣間見えて、ますますこの曲が好きになりました。
zakbee それはキャストの皆さんも共有しつつ歌ってくださったので、良い感じの、高校生らしいかわいさある感じになりましたね。
――「Think About U」は時を重ねてきた今、どんな印象ですか?
zakbee 最初に作った曲だから、これぞFYA’M’みたいなところがあると思っています。まだ「Think About U」のコアになっているところを題材にして、もっともっと曲を作れるなっていう気持ちはあるので。常にこの曲が核になっているという位置付けになっています。そこからはみ出して少し違うことをやってみたり、「もっと新しいことをやってみようか」というターンもあると思うんだけど、最終的には「Think About U」に帰ってくるようなところのある曲だなと思います。それはきっとリルハピの「Playlist」も同じだと思う。
――その「Think About U」を作ったからこその「Come on up, Baby」なのかなと感じますが、こちらの曲はいかがでしたか?
zakbee 最初にデモをもらったときには、バンド編成の音で楽曲をもらったんです。それを僕がアカペラにアレンジさせてもらったのですが、そこでワウのギターが効いているソウルミュージックだったんです。アカペラにするにあたって、ワウギターは外せないなと思ったので、それもあって仲村(宗悟)さんにワカチコワカチコしてもらって、ワウギターを音にするとワカチコなんですよね。
とおるす でも日本語としての「ワカチコ」に寄せていますよね?
zakbee 寄せました。元々はサディスティック・ミカ・バンドがワウギターをやっていて。冒頭で女性ボーカルが「ワカチコワカチコ」ってリズミカルに思いっきり日本語で歌うんですね。それがめちゃめちゃかっこ良くて。そこを踏襲しようと思って、「ワカチコ」にしてくださいってお願いしました。良くも悪くも耳には残るから、そういう引っ掛かりは曲のどこかに作っておきたいと思ってアレンジしました。
――そしてとおるすさんは「Let it snow, Let it snow, Let it snow」を手がけられました。こちらはいかがでしたか?
とおるす 今までのFYA’M’とは少し毛色が違っていて、R&Bよりもポップスの空気が強くて、「ファンが受け入れてくれるのだろうか」という気持ちがありました。ただ「良い曲を作れた」という自負はあったんです。あと僕の持論として、冬の曲ほど複雑な和音が許されて、夏のアップテンポな楽曲ほどシンプルに、3和音でいくのがいいと思っているんです。今回の曲は5和音を効果的に使うことでクリスマスっぽさを出しました。「複雑すぎないかな」と心配だったんですが、以前アオペラの生放送で人気投票の3位に選んでいただき、受け入れられた実感ができました。
zakbee アレンジ、めちゃめちゃ良いよね。サビがとにかくJ-Soulというか。J-POPの界隈でソウルミュージックをやっている人たちのような、すごくキャッチーだけどメロディがソウルになっているのがいいなぁ、と思いました。サビが明けてAメロに戻らず展開するところがすごく良い!ジャクソン5みがあるというか、モータウンっぽい感じがして。ソウルミュージックの系譜として「わかってるなぁ」っていう展開が、曲の頭から終わりまで好きです。
とおるす 歌うのはすごく大変だったと思いますが、レコーディングはどうでしたか?
zakbee いやぁ、大変でした。平たく歌えばいいかもしれないけれど、ちょっとした抑揚や歌い尻、しゃくるところや、一瞬だけファルセットにする部分など技術的にすごく難しい曲で。皆さん、現場でもしっかりと向き合ってくださいました。特に浦田(わたる)さんは一音一音をどう表現するか考えてくださって、浦田さんのレコーディングの中でも一番時間を掛けて録った曲でもありました。その甲斐あって、浦田さんのパートがすごく良いサビになっているのでぜひ聴いてもらいたいですね。
――アルバムの最後はゴスペラーズの安岡 優さんによる「RAINBOW」でした。
とおるす 素敵な曲です。この曲で僕はアカペラアレンジをやらせてもらったのですが、安岡さんから「とおるす、これをアカペラアレンジしてほしいんだけど」って受け取った元々の楽曲がすごく良かったんです。いわゆるソウルミュージックとしてすでに完成されていたので、アカペラでやらないほうがいいんじゃないですか?って最初は言っていたくらいだったんです。それを僕なりのアカペラに落とし込みました。リルハピのテーマにすごく合った歌詞ですよね。リルハピというかアオペラ全体のテーマに沿っている歌詞と言っていいかもしれません。この「RAINBOW」があることでアルバムが良い形で締まったなと思っています。
zakbee すごく良い曲なのに、どうしてアルバムの最後にしちゃうんだろうと思ったけど、アルバムを通して聴くとこの曲が最後で良かったなって曲ですよね。この曲もすごくリルハピらしくて、歌やコーラスのアレンジもすごくシンプルなんですよね。どのパートも歌っていて楽しい感じになっていて。5人一緒にメロディを持ってくる気持ち良さもあるし、これぞリルハピ、という曲です。
――コンテンツの立ち上げから最新曲まで。声優の皆さんのアカペラのテクニックや表現力の高まりを感じることはありますか?
zakbee びっくりするくらいリルハピとFYA’M’の11人がすごく真面目にアカペラに取り組んでくれているんです。最初のほうは手探りだし、みんな歌ってはいるけど曲の中でどこの位置にあるのかもわからないまま、不安な気持ちでなんとか歌い切ったけど、これでよかったのかな?みたいな想いで帰られた日もあったと思いますが、最近のレコーディングでは、前野(智昭)さんがおっしゃっていましたが「あとはみんながなんとかしてくれるから大丈夫だろう」みたいな、全員が全体を俯瞰して楽曲に取り組めていることが心強いなとは思います。コーラスの歌い方も、最初はどれくらいの強さで歌えばいいのかも塩梅を確かめながらやっていたんだけど、最近は指示出しをしなくても「ここはこういうパートだから」とわかったうえでレコーディングが進められているので、レコーディングの時間も短くなりました。
とおるす 周りを信じて自分がやる。あいつがこうやってくるだろうからこっちはこうしよう、という表現のキャッチボールにしてもそうですが、僕はそこに気づくまでに何年もかかりましたが、皆さんは1年しかやっていないのにそこに気づかれている。成長速度に驚きます。
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