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INTERVIEW

2022.10.11

【ロングインタビュー】夢みたいな時間を作りたくて――nano.RIPE、ニューアルバム『不眠症のネコと夜』とともにきみコが描いてきた世界と道のりを振り返る

【ロングインタビュー】夢みたいな時間を作りたくて――nano.RIPE、ニューアルバム『不眠症のネコと夜』とともにきみコが描いてきた世界と道のりを振り返る

ライブがない生活に慣れてしまった自分への驚き

――「ネコに日だまり」では歌詞だけではなく、猫飼いでもあるきみコさんが曲も手がけました。

きみコ これはストックの中から出した曲の1つですね。気に入っているのになかなか出すタイミングがなかったんですけど、いつか絶対、とは思っていたので、今回アルバムを出すと決まってすぐに入れたいという話をジュンにしました。で、改めてジュンがアレンジし直して、歌詞も少し書き直しました。といっても、当時だったらそのままリリースしていたかもしれない、くらいに作り込んでいたので、それをブラッシュアップした感じですね。

――当時というのはいつ頃ですか?

きみコ 6、7年前かな。メンバーが4人いたときの曲です。(2016年12月25日にベースのアベノブユキとドラムの青山友樹が脱退)

――リリースが決まっていない曲をほぼほぼ完成させるというのは、nano.RIPEでは普通のことなんですか?

きみコ 当時はどの曲もしっかり仕上げてから次の曲に向かっていましたね。今とはアレンジの仕方も違っていて、スタジオに入ってみんなで「せーの」でやっていましたし。今はジュンがパソコンでアレンジしていますけど。

――歌詞はご自身の飼い猫をイメージしながら?

きみコ いや、そういうことでもないんですよ。どうしてこんな視点で書き始めたのかは……ちょっと覚えていないですね。恋愛ソングだと思うんですけど、何かこういう健気な気持ちが自分の中にあったのか、そういう作品を見て思いついたのかのどちらかだと思います。

――nano.RIPEはこれまでもストックからサルベージすることが多いイメージがあります。

きみコ そうですね。今回はあたしがセレクトして、ジュンに「どうかな?」と聞くスタイルが多かったんですけど、昔に書いた曲って冷静に聴けるんですよね。当時の想いといったものを一旦取っ払って、1リスナーとして客観的に聴くことができるので。そこで、「なんで入れてないんだろう?」という想いから選ぶ曲も結構ありますね。

――5曲目の「トロット」の歌詞についても。

きみコ これは、リリースの予定も全然ないときにジュンが書いてきた曲で、それがすごく良かったので「エンブレム」(TVアニメ『食戟のソーマ神の皿』EDテーマ/2019年)のカップリング曲にしたんですけど、歌詞は自分のことをとにかく書きました。

――自分のことを?

きみコ この辺りからライブで肩肘を張らなくなったというか、みんなのためにライブをしていると言えるようになったんですね。ずーっとあたしはあたしのために歌っているだけ、とステージでも言っていたんですけど、でも、あたしのためだけではなくみんなのため、と言ってもいいと思えてきて。そういった心境の変化がすごく出ていますね。“きみ”というのは会いに来てくれるみんなのことです。“深い闇も見上げれば光”“深い闇も去りゆけば光”というのは、1人でもがいて苦しんで、みんながなぜか敵に見える時期越えた今振り返ると……という気持ちを書いています。ずっと勝手に1人で戦っているみたいなところがあったんですね。

――勝手に周りを敵に仕立てるような、焦燥感にも似た感覚に囚われていた理由というのは?

きみコ うーん、なんだったんだろう?今思うと不思議ではあるんですけど、もしかすると野球の経験も結構繋がっているのかな。女だからダメだった、という悔しさみたいなものを感じさせないようにしよう、「自分がしっかりしなきゃ」と必要以上に思っていたんじゃないかと思います。誰もそんなふうには見ていないのに。

――解き放たれたきっかけはあったんですか?

きみコ やっぱりジュンと2人っきりになったことですね、2人になったのに2人きりな感じがあまりしなくて。ファンクラブの方をより身近に感じるとか、「こんなにたくさんの味方がいたんだ」と気づくタイミングでもありました。それまでのメンバーチェンジもそうですけど、一緒だった時間がなかったことにはならないし、辞めていったメンバーもnano.RIPEというバンドのバンドの命を繋いでくれたとすごく思えるようになった。そういう心境の頃だった気がします。

――「トロット」という単語はそことどう結び付いているんですか?

きみコ それは全然関係なくて。(2019年8-9月期)「みんなのうた」で外山光男さんが作ってくださった「ヨルガオ」のアニメーションが本当に好きで、その後すぐに外山さんのDVDを全部買い集めたんです。その中に(「イメージフォーラムフェスティバル2006」入選、「バンクーバー国際映画祭」招待上映作品の)「trot」という作品があって、それを見てから「トロット」という言葉がずっと離れなくて、あたしの心を柔らかくしてくれた妖精みたいな存在に思えたんです。そこから作りました、

――最初にリード曲候補だった「クエスト」に関しても教えてください。

きみコ これはジュンが曲を書いてきたんですが、めちゃくちゃ良い曲だなと思って。

――またですね(笑)。

きみコ そうなんですよ(笑)。2年前くらいの曲かな。スタッフも当時、これは本当に良いと言っていたのでもっと早くにリリースするタイミングがあるかと思っていたんですけど、ないままここまできちゃったんですね。でもそれが良かったと思っています。歌詞に関しては、コロナ禍直前だったのでそんなに影響を受けていないはずなんですけど、なんとなくその感じが見えますね。でも、バンドの歩いてきた道のりと、これから歩いていく道のりを込めた歌詞です。

――「声鳴文」については?

きみコ イントロの「オー」なんかがまさにそうですけど、これもライブのときにみんなで歌いたいというイメージでジュンが曲を作りました。「トロット」のときにお話したように、あたしもライブでみんなの顔を見ながら「きみのため」という想いをしっかり伝えよう、という気持ちで書きました。なので結構強めの言葉も入っていますね。

――昨年2021年にリリースされた、4曲入りの配信ミニアルバム『小さな祈りの書』にも収録されましたが、そちらから「声鳴文」と「オーブ」の2曲が選ばれた理由はなんですか?

きみコ より想いが強かった、というところですね。「ソアー」があるので、2曲も野球の曲を入れると……ということで「リリリバイバー」はナシにして。「花に雨」も単純にどちらかといえば「オーブ」を入れたかったという理由です。

――どちらもコロナ禍での想いが入った曲なので、ということですね。その意味では、「ペカド」はnano.RIPEの曲としてはほかとは違う、個性が強い曲だと思います。歌詞も、きみコさんらしからぬ情念に満ちていますし。

きみコ これを入れるかどうかはすごく悩んだんですよ。そもそも恋愛ソングをあまり書かないし、書いても「ネコに日だまり」みたいに絵本のような世界観にしてしまうのに、こんなに生々しい歌詞なっているので。しかもこの曲は初めて“あなた”という言葉を使っているんですね。

――今までは「きみ」だったところに。

きみコ だから悩んだんですけど、ただただ曲が良かったので。

――ジュンさんとしてはどういう世界をイメージして作曲されたのか、どういう歌詞をイメージされていたのか、感じるところはありますか?

きみコ どうなんでしょうね。どういう気持ちで作った曲か、ということは全然話さないので。あたしが書いた歌詞についても何も言ってこないですし。でも、驚いたとは思います。

――曲をもらってから歌詞を書き始めるとき、頭の中にあった内容を歌詞にすることはありますか?

きみコ 曲をもらった段階でもどういう曲にしようかはあまり考えてないですね。「さあ、歌詞を書こう」と思ってメロディを聴いていると、ワンフレーズが出てきて物語が始まる、ということが多いです。それはだいたいAメロの頭なんですけど、ただ、いつも言葉を探していたり、良いフレーズみたいなものを頭の中で作ったりそれを書き留めたりはしているので、引っ張ってきてはいるとは思います。でも、歌詞では基本同じことを言っているので。色々な引き出しがあるというよりは、1つの引き出しから出してきたものの表現を変えているだけ、みたいなところはありますね。

――「ペカド」の歌詞でもっとも自身が出ているところはありますか?

きみコ それはDメロ1行目の“この世界のことわりじゃ正しさなんて測れないから”ですね。今は、ジェンダーの問題や色々と考えるキッカケが多く、正しいと思っていたことが全然違うこともあるし、世の中の常識が自分に当てはまらないこともあるとは思っています。

――たしかにここに視点を合わせるときみコさんの歌詞になりますね。

きみコ 良かった(笑)。いまだに不安なんですよ。みんな、どういうふうに聴くんだろうと思って。

――でもドラマの主題歌のようですね。シーンが浮かぶというか。

きみコ いけないドラマの主題歌みたいな(笑)。でもそうですね、ここまで限定的な歌詞もなかなか書かないので。

次ページ:自分の中でもみんなの中でも大事な場所であることを再確認

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