――まさに、そこが際立っている「恋愛脳」ですが、カップリングはまた新しい表情を見せた楽曲になっていますね。
ナナヲ 2曲とも短編映画「日曜日とマーメイド」のために、書き下ろした楽曲です。この映画は、頃安祐良監督がナナヲアカリからインスピレーションを受けて書き下ろしてくださった脚本なんですよ。脚本があってナナヲが曲を制作したんじゃなくて、監督がナナヲアカリの曲と人物像から脚本を書き下ろして、その脚本を読んでナナヲが新たに曲を制作するっていう。なので面白い企画なんですよね。この映画に出てくる女の子がアニメーター志望なのもナナヲがアニメ好きだからですし、内省的な性格というのも投影していただいてます。
――言ってしまえば、原作・ナナヲアカリなんですね。
ナナヲ そうなんです。とはいえナナヲの要素を踏襲しながら、そこに偏り過ぎているわけでもない。上手いこと取り入れてくださった脚本になっていて、さらに今作は自分もナナヲアカリ役として出演するという、すごく不思議な映画なんですよね。ナナヲアカリとして出演させていただいてるんですけど、映画に出てくるナナヲは、架空のアニメのエンディングを歌っているアーティストの設定で。そこもまた面白くて。
――カップリングの曲は主題歌と劇中歌ですね。どこで流れるのかも、曲作りをするうえでポイントだったのかなって。
ナナヲ 最初はどっちがどうなるかとか、どこで流れるのかがわかっていなくて。とりあえず2曲を作ってみようという感じだったんです。夏という大きな題材で「二度目の花火」を作り、「陽傘」は主人公の女の子2人の葛藤や関係性をよく表した楽曲になっていたので、前者が主題歌で後者が劇中歌になりましたね。
――作詞作曲をされたのは、どちらもシンガーソングライターの澤田 空海理さんです。まず「陽傘」が届いたときは、どんな印象を受けました?
ナナヲ 率直に天才か!と思いました。歌詞といいメロディの美しさといい、すごく好きな感じだったんですよ。世界観というか纏っている空気感が、中高時代にナナヲが聴いて救われていた楽曲の感じなんですよね。だから当時のことを思い出したし、この曲を聴いてくれた10代とか20代前半の子が救われると言ったら大袈裟かもしれないけど、「これを聴けて良かった」と思ってほしいなって思う曲になりました。
――救われると思うポイントは、特にどこで感じます?
ナナヲ 小学生のときって、みんな怖いもの知らずで無敵だと思うんですよ(笑)。でも中学生になってから先輩後輩みたいな関係値が突然出てきたり、臆病になって失うものもどんどん多くなる。“見えない敵をつくったって 決して生きやすくはならなかった。”というフレーズがすごく好きなんですけど、本当にそうなんですよね。誰かのせいにしようとしても、結局は何も解決しないし、大人じゃないから現状を変えることなんてできない。子供のときって自分の無力さをすごく感じやすいと思うんですよ。逆に、ここまで弱さと未熟さを言葉にせず、鮮明に表現しているのが素晴らしい。こういう曲って、きっと助けになると思うんですよね。
――これって自分だけが抱えている心の闇なのかと思ってしまうと、どうせ他人には理解されないから打ち明けることもできない。そんな袋小路な状態のときに、自分だけじゃないんだと思わせてくれる曲があると、それは救いになりますよね。
ナナヲ 本当にそう。やっぱり“自分の歌がある”って救いになると思うんですよ。これが誰かの自分の歌になってほしいですね。
――「二度目の花火」はどんな楽曲になっていますか。
ナナヲ これはサウンドも歌詞も含めてすべてが王道。映画の内容が女の子2人のもどかしい関係性を表現した作品なので、そこも含めて聴いてもらうと、苦しい感じをより一層楽しんでもらえると思います。でも、それを抜きにしても恋をしたことがある人なら、誰でも胸にチクチクくるストーリー構成になっているので、上手くいかなかったデートの帰り道に1人で聴いてほしい(笑)。
――短編小説のような構成ですよね。
ナナヲ そうなんですよね。ストーリー性が高い歌詞で、シンプルにすごいなと思います。“八月、人混み。合わない歩幅すら、いつか思い出になる。”の箇所はもう天才。今だから「そうだよな!」と思えるんですけど、今恋をしている人はチクチクと辛すぎてわからないと思うんですよ。だけど2、3年後には「ここの3行、まさにそうなんだよな」と気づいてほしいです。
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