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INTERVIEW

2022.07.27

【インタビュー】安野希世乃1stフルアルバム『A PIECE OF CAKE』が完成!裏テーマに「人生」を掲げた意図

【インタビュー】安野希世乃1stフルアルバム『A PIECE OF CAKE』が完成!裏テーマに「人生」を掲げた意図

声優アーティストとして活動する安野希世乃が、待望の1stフルアルバム『A PIECE OF CAKE』をリリース。新規に9曲も収録した全13曲の充実のアルバムで、声優として培った彼女の表現方法が各曲の至るところに込められている。彼女に「楽器としての歌声」の表現の秘訣について尋ねたところ、“心・技・体”のすべてに渡って驚くほど詳細に技術を語り尽くしてくれるなど、アルバム制作の語りに彼女の新たな一面を見た。

人生の様々な一瞬を切り取った楽曲が並ぶフルアルバム

――安野さんのソロとしてのアーティスト活動ではこれまで3枚のミニアルバムをリリースされてきて、今回が初めてのフルアルバムですが、このリリース形態については何か特別な思いをお持ちでしょうか?

安野希世乃 フルアルバムを出すのが目標だとか、「フルじゃなきゃイヤ」みたいな思いは一切なかったんです。というのも、これまでリリースさせていただいてきたミニアルバムがどれも、本当に7曲で構成されているとは思えないほどのどっしりとした世界観だったので、むしろ「今までフルアルバムじゃなかったんだ」と思ってしまうほど、手応えを感じていました。それに、歌手活動を始めた頃に、プロデューサーの福田(正夫)さんが「安野さんはあくせく曲を出していくタイプではないですよね」とおっしゃって、一曲一曲、本当に丁寧に収録させてもらっていました。自分としてもそれが肌身に合っていて、ライブも年に1回くらいホールでさせていただいて、それをファンの皆さんも楽しみにしてくれるリズム感を心地よく感じていました。

――フルアルバム制作について聞いたときはどんな思いでしたか?

安野 やっぱり嬉しかったです。今回、歌手として5周年のアニバーサリーイヤーに突入するタイミングで、ちょうど出させていただく1stフルアルバムになったんですけど、だからといって最初からそれを目がけていたわけではなくて。3枚のミニアルバムを作り終えてその余韻も楽しみながら、ここ1、2年はシングルを出させていただく機会があり、その頃から「次に出すときはフルアルバムにしましょう」という話が出始めた覚えがあります。そのあとで、タイミングを見計らって、歌手5周年の新たな一歩としてのフルアルバムにしよう、みたい形で決まっていって、福田さんのほうから、「安野さんのキーワードを大事にしたい」と提案していただきました。『A PIECE OF CAKE』というアルバムタイトルも私のほうから提案させていただいた言葉ですし、アルバムコンセプトも自分なりにこの言葉から膨らんだものを福田さんとも共有しつつ、その世界観で遊べるようなキーワードを出させてもらって作詞家の方にお願いしました。

――楽曲選びについてはどのように進めていきましたか?

安野 福田さんが最初に8〜9曲ぐらい楽曲を聴かせてくれて、「この中で歌いたいものを選んでほしい」と言われて、そこで第1弾の選曲として福田さんのイチオシでもある「世紀の祝祭」と「波間に消えた夏」が選ばれ、私が「宇宙の法則」と「OUTな夜」を選びました。あとはこれまでのように堂島孝平さんに書いていただきたいというのは制作陣の総意で、「Bad Temptation」が生まれて。松本良喜さんにも3枚のミニアルバムを通してずっと関わっていただいていたので、表題曲となる「A piece of cake」を書いていただきました。あとは、今回の試みとして初めての若い作家さんともご一緒してみたいという話になり、福田さんからyuigotさんを推薦していただきました。そうして曲が決まっていくなかで、壮大でどっしりとしたバラード曲が1曲ほしいということになり、自分で作詞をすることも念頭に、候補曲の中から「花時雨」を選ばせていただきました。

――では、アルバムタイトルと、表題曲「A piece of cake」に込めた思いを聞かせてください。

安野 『A PIECE OF CAKE』は、慣用句としては「朝飯前だよ」「簡単にできるよ」といった意味合いで、語感からも軽やかさが伝わってきます。あとは文字通り「一切れのケーキ」という意味も大事にしています。手に取りやすいミニマムな感じ。これまでのミニアルバムよりもボリュームはあるけれども、敷居が高くなく軽い気持ちで聴いてもらえるアルバムになればいいなという思いを込めました。そしてさらに裏テーマとして「人生」を掲げておりました。

――まるで違うイメージですが、それはどのように解釈すればいいんでしょう?

安野 これも先程の慣用句の意味でいう「ささやかなもの」から来ています。人生というのは、言ってしまえば一瞬で過ぎ去ってしまう、ささやかなものだと思うんです。それは決して軽んじているのではなく、前向きな意味で「だから、くよくよしていてもしょうがない、どんな瞬間も愛して味わい尽くそう」というメッセージを込めたかったんです。人それぞれ人生は山あり谷ありで、色んな瞬間の感情に揺さぶられたり囚われたりするものだと思うんです。そんな色んな人生の一瞬一瞬に刺さればいいなと。あと、これは偶然なんですけど、1曲目の「Cut the cake ~overture~」という前奏曲があって、その直後の2曲目には「宇宙の法則」がかかる。このスケール感の対比に思わず笑ってしまいました(笑)。

――フルアルバムだけあって、人生の様々な局面を「切り取った」楽曲が数多く並んでいますね。

安野 結構、刹那的な瞬間を切り取った曲が多くなったかもしれませんね。「波間に消えた夏」は、忘れられない初恋みたいに鮮烈に記憶に残る甘酸っぱい夏の情景がとても伝わってきて、形は違えども、そういったシーンを「切り取って」いるようなアルバムに仕上がってるのかなと思います。

――「波間に消えた夏」は楽曲としては、世界で流行しているシティポップのジャンルですね。

安野 そう、このジャンルを令和の世に正統派の楽曲として作ってくれるところが、さすが福田さんという感じなんです。変に逃げたところもないし、ひねって今風にしたところがあるわけでもない。すごく素直に正面から昇華してもらった楽曲だったと思います。

――西(直紀)さんの歌詞もそれを正面から受け止めた感じです。安野さんからはどんなお願いされたんですか?

安野 「人生の夏」というコンセプトでお願いしました。青春を謳歌する、みたいな。すごく晴々しい曲だったので、大人の皆様には、自分の人生のなかであった夏のひとときを振り返っていただきたいですし、今が夏真っ盛りの人たちに向けては、背中を押せるエールソングになっていたらいいなと思っています。若いんだから何にでも挑戦すればいい。「いいんだよ、夏なんだから。行っけ〜!」って、青春を全肯定する歌。ですので、曲の主人公を追体験する身として甘酸っぱい気持ちになりながらも、半分はストーリーテラー的に半歩引いて歌った感じです。歌い上げるところも多いので、オケに寄り添って「一緒に行こうよ!」みたいに手を引く気持ちで歌っています。

――シティポップは本当に世界中で流行っているので、この曲もきっと想像もしないようなところで聴かれることでしょうね。

安野 そうだといいですね。本当に色んな楽曲を詰め込んだアルバムになっているので、何か1曲でも聴いてくれた人の今の心境に寄り添ったり、これまでの人生の何かの記憶に深く刺さったりして……そこから気になって2曲目3曲目と聴いていただいて、曲ごとの雰囲気の違いやアルバムとしてのカラフルさを楽しんでもらえたらなと思います。

――このアルバムにはバラエティに富んだ楽曲が収録されており、それぞれの声の表現も多彩です。声優でもある安野さんは歌に対してどの段階で声色を決めることが多いですか?

安野 アルバム曲の中で一番ナチュラルな歌声は、たぶん「晴れ模様」と「echoes」のあたりのところ。あとラストの「A piece of cake」だと思っています。逆にそれ以外は、自分の声をその楽曲に向けた音色を奏でる楽器として、表現のイメージを膨らませてチューニングしていますね。「宇宙の法則」は、今までにない歌い方をしているので、顕著かもしれません。やっぱり楽曲がファンシーというかメルヘンというか、すごくかわいらしい世界観の中で冒険するような物語なので、ひと癖つけてファンシーさを表現したかったんです。「この曲はこの歌声で歌いたい」と、楽曲に耳を澄ませて自分のイメージを突き詰めていく感じでしょうか。テイクを重ねるにしたがって完成形に近づいていった気がします。

――それは歌詞を読んだ段階である程度行ないつつ、収録現場で深めていくような形でしょうか?

安野 そうですね。たしかに歌詞の世界観はとても影響してると思います。この歌詞の子はどんな年齢感か、どんな価値観か、地に足がついていたほうがいいのか、それとも夢見がちなほうがいいのかとか、そういった歌詞から読み取れる人物像によっても、歌声の方向性は生まれてきますね。それで言うと「世紀の祝祭」は、サビや終盤にかっこよく歌う瞬間がありつつも、艶を求められました。最初は少しワイルドなところからスタートしていったのですが、「もうちょっと大人の女性の艶っぽさが欲しい」と、福田さんに導かれながら舵を切った感じですね。最終的に色っぽくもあり、ワイルドさもある絶妙なバランスの1曲になったなと思います。

――こういった艷やかな安野さんのお声はあまりお芝居でも聞いた覚えがなかったので新鮮でした。

安野 たしかにアニメ作品で任せていただける役柄は、ふんわりしたお姉さんやかわいらしい女の子のほうが多いですね。こうした声は外画の吹き替えのときの芝居のほうが近いです。昨年ごろから現場に行くようになった新参者ではあるのですが、この音域の声って他に何かどこかに使えないかなと思っていたところ、歌声でマッチする楽曲と出逢えました。持っていたけれども使いどころがなかったものに活路を見出したような感覚です。艶っぽさや色気のある楽曲がこのアルバムにはいくつかあって、「世紀の祝祭」ももちろんそうですし、「Bad Temptation」は、まだちょっと小娘感も感じるけれど、結構駆け引きめいたことを言ったり挑発していたりします。あとは「OUTの夜」もまた違った方向での色気が出ていたりして、そういった曲が多いのが、今回のアルバムの新たな特徴の一つと言えるかなと思います。

――その点で言ってもこれらの曲は表現者として安野さんの色んな部分を引き出してくれましたね。

安野 役者としての成長と、歌手としての成長が、相互に影響し合い発揮できる部分があるというのはありがたいですし、素敵なところですね。

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