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INTERVIEW

2022.07.02

【インタビュー】佐々木恵梨が「ふゆびより」「はるのとなり」「ロッホと旅人」を経て描き出す、映画『ゆるキャン△』EDテーマ「ミモザ」――今作ならではの“らしさ”と 『ゆるキャン△』が教えてくれたものとは?

【インタビュー】佐々木恵梨が「ふゆびより」「はるのとなり」「ロッホと旅人」を経て描き出す、映画『ゆるキャン△』EDテーマ「ミモザ」――今作ならではの“らしさ”と 『ゆるキャン△』が教えてくれたものとは?

女子高生たちのアウトドアライフを描く人気アニメの最新作、映画『ゆるキャン△』が、7月1日(金)よりついに公開される。原作者・あfろの監修による完全オリジナルストーリーで描かれるのは、各務原なでしこ、志摩リン、大垣千明、犬山あおい、斉藤恵那らかつてのキャンプ仲間たちの社会人になった姿。そして成長した彼女たちの新しいステップに優しく寄り添うのが、佐々木恵梨が歌うEDテーマ「ミモザ」だ。

TVアニメ第1作目の「ふゆびより」、第2作目の「はるのとなり」、ゲーム「ゆるキャン△ Have a nice day!」の「ロッホと旅人」。これまで3作品のEDテーマを担当してきた佐々木だからこそ表現できる、今作ならではの『ゆるキャン△』らしさ、そして作品との出会いがもたらしたものについて話を聞いた。

社会人になったなでしこたちの気持ちに寄り添う「ミモザ」

――佐々木さんはTVアニメ第1作目の頃から『ゆるキャン△』シリーズのEDテーマを担当し続けていますが、作品に対してどんな想いをお持ちですか?

佐々木恵梨 『ゆるキャン△』に関わる前もアニメのタイアップ曲を歌ってはいたんですけど、『ゆるキャン△』の第1作目のときに初めて自分で作詞・作曲をしたんです。色んな人たちがどんな楽曲にするかを話し合っている際に、自分から「こういう楽曲はどうですか?」と提案をして。その意味でもターニングポイントになった作品なので、とても感謝しています。

――アニメ音楽を作るシンガーソングライターとしての原点に当たる作品でもあるわけですね。

佐々木 そうですね。それに私は元々インディーポップ系の音楽や自然が好きなので、作品的にそういう部分を活かせたのもやりやすかったのかなと思っていて。今回の映画で4曲目になるので、さすがに少しネタ切れ感もあったんですけど(苦笑)、でもそれだけ長くやらせてもらえて本当にありがたいです。

――映画『ゆるキャン△』では、なでしこやリンら5人の大人になった姿が描かれるわけですが、佐々木さんは本作の物語に触れてどのように感じましたか?

佐々木 原作にはないオリジナルストーリーということで「どうなるんだろう?」と思っていたんですけど、まずチワワのちくわ(斉藤恵那が飼っているペットの犬)がまだ生きていて良かったと思ったのが第一印象です(笑)。物語としては、社会人になった主人公たちが久々に地元で集まってキャンプ場を作るというお話なんですけど、ゆるい雰囲気は変わらずありつつ、もう少し大人なお話にもなっていて。これは(京極義昭)監督も言っていましたけど、きっと彼女たちと同世代の女の子にも刺さる作品だと思いました。

――佐々木さん自身も共感できる部分はありましたか?

佐々木 私はストーリー自体に、というよりも、楽曲会議のときに監督から受けた説明にすごく共感したんですよね。若い頃は「社会人になる=大人になる」というイメージがあって、実際に社会人はすごく大人に見えていたけど、いざ自分がその年代になってみると、思っていたよりも全然子どもで、中身は高校生の頃とそれほど変わっていない。なでしこたちもきっとそういうことを感じているんじゃないかっていう。私自身も20代の後半になってもすごく子どもだったし、30代になってようやく人生がちょっと楽しくなってきたかな、みたいな感覚があって(笑)。なのでそういう要素は、今回のEDテーマの歌詞にも入れました。

――年を重ねたからこそわかる感情、といいますか。

佐々木 というよりも、そこまで届いていない段階の葛藤ですね。自分は大人になったつもりだったけど、まだ全然子どもじゃん、みたいな。例えば、それぞれが自分の就職先で不安を感じていて、でも久しぶりに地元に戻ってみんなと集まると「自分も少しは成長できているのかな?」ということを感じられるっていう。そういう年代だからこそ抱く気持ち、それと「再会」や「ノスタルジー」をテーマに書きました。

――そういったテーマを今回のEDテーマ「ミモザ」に落とし込むにあたって、何かモチーフにしたことはありますか?例えば自分自身の過去の経験とか。

佐々木 どうだろう?私は最近、曲を書くときはあまり脳みそを使っていなくて、インスピレーションをそのまま出す感じなので(笑)。映画のイメージボードやどういうシーンで(楽曲が)かかるかはあらかじめいただいていたので、そこは意識したかなあ。あとは第1期のEDテーマだった「ふゆびより」の歌詞をちょっと言い換えてサビのフレーズに持ってくることで、懐かしさとかノスタルジーが感じられるようにはしましたね。

――久々の再会を懐かしむ温かな気持ち、一旦立ち止まる時間を大切にしつつ、そこからまたそれぞれの場所で頑張る情景が、この楽曲では描かれているように感じました。

佐々木 その通りですね。そこは完全に今回の映画『ゆるキャン△』に合わせて書きました。

――曲名の「ミモザ」という言葉は歌詞の中に出てきませんが、どんなイメージで付けたのでしょうか。

佐々木 私はいつも歌詞を書いたあとにタイトルをどうするか悩むんですけど、今回もそうだったんです。それで先にCDジャケットとMVの撮影を地元の北九州市で行ったんですけど、そのときに私が大好きなお花屋さんでも撮影させてもらったんですね。アニメ盤のジャケット写真はそのお店で撮ったもので。で、そのときちょうどお店にミモザの花がたくさんあって、店長の方が「どうぞ」と花束を持たせてくれたんです。その花束がすごく綺麗で、そのまま持って撮影していたんですけど、あとで花言葉を調べたら「友情・感謝」と出てきたので、なんてぴったりなんだろうと思って。なのでこのタイトルはお花屋さんのおかげです(笑)。

――それは意外でした。MVも拝見しましたが、あれは佐々木さんの地元で撮られていたんですね。中盤で絶景スポットみたいな場所も登場しますけど。

佐々木 あれは皿倉山ですね。あそこの夜景は最近「日本新三大夜景」に選ばれたらしくて、そこに登って撮りました。私は今、北九州市に住んでいて、今回は「ノスタルジー」というテーマに合わせて自分の生まれ育った景色とかを撮影したんですけど、MVは全部iPhoneで撮っているんですよ。映像もちょっとオールド感が出るような演出にしていて。アニメ盤のDVDにメイキング映像も収録しているので、詳しい場所を知りたい人はぜひ観てください。

――「ミモザ」はこれまでの佐々木さんの『ゆるキャン△』楽曲と同様、作曲・編曲は中村ヒロさんとの共作になっていますが、今回はどんなやり取りをしながら制作しましたか?

佐々木 いつも通りセッションしながら作っていったんですけど、さっきも少し話したように、今回は結構ネタ切れだったこともあって難産でした(苦笑)。今までの「ふゆびより」と「はるのとなり」、それとゲーム(「ゆるキャン△ Have a nice day!」)のEDテーマの「ロッホと旅人」は全部、フッと降りてきたものを形にしたらできたんですけど、ああいったアコースティックでゆるい感じの良い曲はもう出し切ったみたいなところがあって……。

――4曲目ともなると、難しい部分があったと。

佐々木 それで、今回は大人になったメンバーたちの話だから、今までよりも少し大人っぽい感じの曲でもいいんじゃないかと思って、ちょっと洋楽っぽいリズムを入れたものとかを提案させてもらったんですけど、やっぱりダメで(笑)。そこで「ふゆびより」や「はるのとなり」の系譜を汲んだ曲を求められていることを感じたので、じゃあ今までは四拍子だったので、三拍子の曲を書いてみたら、今度はサビを変えてほしいと言われて。ほかにも何曲か書いたんですけど、試行錯誤して今の形に落ち着きました。完成までに数ヵ月はかかりましたね。

――その甲斐あって、今回もオーガニックな雰囲気の『ゆるキャン△』らしい楽曲になっていますが、サウンド面でこだわったポイントはありますか?

佐々木 今回、初めての試みとしてバイオリンを入れました。私が自分で弾いているんですけど。

――あっ、あれは佐々木さんが弾いていたんですね。

佐々木 そうです。私は元々クラシックを習っていたので、歌よりもバイオリン歴のほうが長いんですよ。高校生の頃に辞めてしまったので、今はそれほど上手くはないんですけど、それでもポップスのバックで弾くくらいのことはできるので。

――そういえば今回はチェロも入っていて、室内楽っぽい雰囲気があります。

佐々木 今回、ボーカルもバイオリンも家で録ったんですよ。チェロだけプロの方にお願いして、こちらで指示を出しながらリモートでレコーディングしました。基本は家だったので気楽にやりましたね(笑)。

――佐々木さんの柔らかな歌声も『ゆるキャン△』らしさを感じさせるポイントかなと。

佐々木 『ゆるキャン△』らしい発声というのがありまして(笑)。これは完全に「ふゆびより」のときのような、冬っぽい、透き通る感じのイメージで歌っていて。誰かに感情移入するというよりは、物語を読むような立ち位置で歌っている感じですかね。でもこの発声が一番難しいんですよ。(音が)高いし、(声が)張れないし。

――たしかに声を張ると、独特の牧歌的な雰囲気が失われそうです。

佐々木 そうそう、そうなんです。だからゆるく、全然力を入れていなくて。

――あと、先ほどインディーポップが好きというお話もありましたけど、佐々木さんが歌う『ゆるキャン△』シリーズの楽曲は総じて、インディーフォークやブリティッシュフォークの匂いも感じられます。

佐々木 わかりますか?実はそうなんです(笑)。自分の趣味をちょっとずつ入れていて。わかる方にはわかるっていう。だから今、気づいてもらえて嬉しいですね。

次ページ:佐々木恵梨の多様な音楽性が反映されたカップリング曲

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