INTERVIEW
2022.06.09
欅坂46「世界には愛しかない」をはじめ、数々のヒット曲で知られる作曲家・白戸佑輔がゼネラルエグゼクティブクリエイティブプロデューサー(GECP=音楽制作総指揮)を務め、日本の音楽シーンの第一線で活躍中のクリエイターたちが集まった『くノ一ツバキの胸の内』のEDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』。そのビッグプロジェクトの裏側に迫る企画連載シリーズの初回として、第1話~第4話の楽曲を手がけた作家陣とプロデュースチームの座談会をお届けする。生々しく語られるアニソン制作の実情。全クリエイター志望者、必読!
――豪華な作家陣が集う企画が発表されたときは驚きましたが、その中心を白戸さんにお願いしたのは、なぜだったのでしょう?
山内真治(アニプレックス・音楽プロデューサー) きっかけは、白戸さんがアニメ音楽界隈の色々な作家さんたちと日頃からツイッターで和気あいあいとやりとりをしているのをよく見ていたことからなんです。こう言っちゃなんだけど、割とどうでもいい会話をよくしていたんですよ(笑)。でも、そうした会話の中に、例えば機材の情報のやり取りであるとか、音楽制作に関する深い内容もしばしば混ざっていた。あと、そうやって交流している方々の中に、同世代や若手の作家さん達だけではなくて、クリエイターとしての円熟期に入っている人たちもいたのが印象的だったんです。それもあって、大勢の作家さんに参加してもらう企画をやるなら、僕が人選するより白戸さんに声をかけてもらったほうが、色んな意味で幅が広くなっていいんじゃないかな?と。出来上がってくる曲はもちろん、白戸さんを中心にした制作過程の雰囲気も含めて、1つのエンタメにできそうな感じといいますか。「アニソンを作る人たちって、なんだか良い雰囲気で楽しそうだなぁ」と思ってくれる人が多いんじゃないかと思えたんです。
――そもそもさらに遡って、企画の始まりはどこから?
山内 『くノ一ツバキの胸の内』のアニメの企画が立ち上がったときに、アニプレックスの担当プロデューサーから、「登場人物が36人いて、全員が歌う曲を作りたいんですけど……」みたいな話をされまして。そのときはまだふんわりとしたアイデアだったので、こちらから、「36人分の歌を録るのって、予算面含めて色々な意味で大変だよ。同じ曲とオケ(伴奏)で、歌う人を変えていくつかのバリエーションを作る形にしても、それって正直今時あまり盛り上がらないし。それより予算少し上乗せしてもっと大きな効果を得られそうな方法を思いついたんだけど、こういうのはどうかな?」と、こちらから発案したのが、今の形でしたね。
白戸佑輔 元々僕のところには、劇伴とエンディングという形で依頼がきたんです。そこから打ち合わせをしていたら、「エンディングで面白い企画をやりませんか?」と山内さんからこの企画を提案されたのを覚えています。
――その時点で発表されたものと同じ企画内容だったのでしょうか?
白戸 最初はエンディングのバージョンごとにアレンジ(編曲)とBメロを別のものにするアイデアでした。イントロは全バージョン同じで、Aメロも同じ。Aメロのアレンジの違いで違うバージョンだとわかって、そしてまったく違うBメロに入り、また全曲で同じメロディのサビに戻って終わる。それが最終的には、Bメロとサビを同じにして、Aパートを変える今の企画の形になりました。作家の皆さんに声をかけるときには、それぞれ「ジャンル」が見える人たちにお願いしたいと考えてましたね。
――ジャンル、というと?
白戸 具体的な音楽ジャンルというわけではなく、その人ならではの得意技を持っているような人といいますか。ただ技術があるだけではなくて、「この人にお願いしたら絶対面白いものができる」と確信を持てるような、1つの強い個性を持った人たちに頼みたいと思ったんです。
――逆に今日お集まりいただたいた皆さんから見た、白戸さんの印象は?
鈴木Daichi秀行 飲み会によくいますね。
白戸 たしかに、集まりがあるとよく参加します(笑)。
鈴木 僕とは結構前からの知り合いで、白戸くんが作家として活動を始めた頃に初めて会ったんじゃない?たしか、白戸くんがスタジオを見学したいというので、一緒に行ったこともあるし。
白戸 ありましたねえ。そうです、昔からお世話になってます。
鈴木 で、まあ、しゃべりが面白い(笑)。いると飲み会が盛り上がる人。
ha-j そうですね。実は僕はこの仕事の前、飲み会でしか会ったことがなくて。だから未だに、素面で会った回数のほうが少ない(笑)。
椿山日南子 私は白戸さんの後輩です。大学も、事務所も。
白戸 気づいたら事務所にいた、みたいな(笑)。で、事務所の歓迎会かなにかの集まりで話していたら、僕の同級生の友達が先生で。お互いびっくりしたね。
椿山 そうなんですよ。色々な共通点がある先輩です。
――企画へのお声がけがあったときはどんなご感想を持たれました?
鈴木 「ヤバいの考えたな」と思いました(笑)。白戸くんだけじゃなく、山内さんのことも結構昔から知ってるんですけど、同じ曲を、全部アレンジ違うバージョンで毎週流すって、そんな企画はこれまでほぼないはず。この仕事をやっているとカバー曲を手がけることはあって、それがほかのバージョンとアレンジを比べられることはありますけど、でも毎週TVで流れて、そのたびに比べられるってことはなかったかなと。めちゃめちゃ面白い、だけど、ふっと冷静になるとめっちゃ怖い! みたいな(笑)。
ha-j わかります!「いやもう、私でよければぜひぜひ参加させてください~!」って、軽やかにお返事したんですけど、電話を切ったあと、「……あれ?待てよ……この企画、結構ヤバくね?」みたいに気付いた(笑)。いわゆる曲のコンペでも、ほかの方と自分の仕事が比較されているわけですけど、選ばれなかった曲は世に出ないじゃないですか。リスナーさんは比べようがない。でも、これは全バージョンが世に出るわけですからね。ただ、とはいえ比べられる不安よりは、どちらかというと横並びで、ちゃんとほかの方のバージョンと同じくらいリスナーさんを楽しませることができるかな?という不安でしたね。自分の番でがっかりされないように、頑張んなきゃ!って。
椿山 私としては……実は、ずっとあったらいいなと思っていた企画だったんです。ありそうで、でも、どこにもなかった。だから個人的にも、嬉しかったですね。
――実際に曲を手がけてみて、いかがでしたか?
鈴木 僕は割とやりやすかったですね。担当するキャラクターの説明……三人娘で、元気な子がいて、やんちゃな子がいて、ちょっと暴れてて……というのを聞いたら、自分に求められているコンセプトがすぐに見えたので。
山内 ちなみに白戸さんからDaichiさんに、僕らの方で各作家さんに付けさせてもらったキャッチコピーみたいな、作家としての特性を踏まえたオーダーってどのくらい伝えられていたんでしょう?一応準備僕らの方でもオーダーの文言を用意していたんですけど。「あの頃Daichiさんが手がけた某グループのような強さとしなやかさが欲しいです」とか。
鈴木 どうだったかな。多分1行くらいの文章だったと思います。「黄金期のあの感じ」みたいな。それだけでもう十分、「なるほど」と納得でしたよ。完成した曲も、そのものになったんじゃないかと。
ha-j 僕はお題が届いたときに、「さすが!」と思ったんです。J-POP職人みたいな私のところに、「チャイコフスキーの『葦笛の踊り』みたいな感じで」という発注をする。それはもう、担当するキャラクターに沿った「かわいい」が生まれるに決まってる組み合わせだな、と。さすがだと思いました。
白戸 このオーダーは多分、山内さんのアイデアですよね。
山内 …そうですね。これは僕たち音楽チームが伝えたイメージがそのまま通っている場合なんだろうと思うんですが……なんでチャイコフスキーだったんだっけなぁ……。
ha-j ええーっ!(笑)。
山内 僕もha-jさんとは、それこそ飲み会でしか会ってなくて。で、飲み会で渡された名刺に「秋田県仙北市観光大使」って書いてあったインパクトがすごく強くて、そこからの連想だったのか……。西田Ⅾは覚えてる?
西田圭稀(アニプレックス・音楽ディレクター) ha-jさんに担当していただいた申班は医療班で、「優しさ」「ほのぼの」というのがイメージだったんですよ。それで「チャイコフスキーの『葦笛の踊り』のようなほのぼのとした感じを出してください」というオーダーを決めたのがまず先にあって……。
山内 ああ、そうか。派手にドッタンバッタンするような曲ではなくて、不思議な雰囲気で、さらにどこかほのぼのとした感じもある曲をお願いできるは誰か?と考えていったんだ。それでha-jさんの作品を色々と聴かせていただいたなかで、ha-jならお願いできるに違いないと、ピンとひらめいた。
ha-j いやもう、さすがとしかいえませんね。
椿山 私は最初にいただいたお題が、「体温の低い感じ」と。あと、そのイメージを伝える具体例として、Winkが挙げられていました。曲でいうと、「淋しい熱帯魚」ですね。私、自分ではそういうジャンルを得意だと思ったことがなかったのでちょっとびっくりしたのと、、参考曲の懐かしい感じをどう落とし込むのか、どこまでその要素を取り入れるか、みたいな部分をすごく考え込みました。白戸さんにLINEで「これって『レトロ』という理解でいいんですか」みたいな問い合わせをしたのを覚えています。
白戸 きた、きた。そうだ。どう返したっけ?
椿山 たしか「別にそこまで『レトロ』とかではなく、Winkの冷たい感じが必要なんだ」みたいなお返事をいただいて。で……私はのんびりした雰囲気の曲のほうが自分は得意なんじゃないかなと思っていたんで、ちょっと戸惑いつつも、キャラクター2人のことを考えながら制作していったんです。そうしたら、結果的には自分でも驚くくらい、しっくりくるアレンジができたんです。
――ご自分的にはちょっと新しい扉を開けたくらいの感覚があった?
椿山 はい、そうです。
山内 実は僕と西田Ⅾで「この人はこの班の曲がいいんじゃないか?」みたいな組み合わせのタタキも1回作っていたんです。その組み合わせもオーダーと同じで、白戸さんの考えで変わったところがあり、椿山さんは実はそのパターンだったんです。そこに主張があったということは、絶対白戸さんには何かしら見えていることがあったはず。でもこの間YouTubeにアップしている座談会の動画(TVアニメ「くノ一ツバキの胸の内」エンディングテーマ制作プロジェクト「くノ一ツバキの音合わせの答え合わせ‼」)でそのことを改めて聞いたら、「いや、なんかできるんじゃないかなと思って」って(笑)。
白戸 ごめんなさい(笑)。改めてちゃんとお答えすると、椿山さんの手がけた曲を色々と聴いていて、僕の感想では、浮遊した感じが得意な人だという印象があったんです。それを自分では「のんびり」と思っていたのかもしれないけど。で、ちょっと不思議な雰囲気を持つ2人なら、浮遊した感じが合うんじゃないかなと思ったわけですね。だからWinkというお題は伝えたものの、あまり意識しないでいいと思っていました。むしろ椿山さんらしさを出してもらうのがいいんじゃないかな、と。それで山内さんが怒ったら、僕が謝ろうと思って。でも結果的には、ばっちりハマったかな。
山内 僕らからすると超ファインプレーでした。結果的には渋谷系っぽくなって、オーダーとは違うけど、これだな!と。
白戸 さすが椿山さんです。
椿山 ありがとうございます!
山内 オーダーをどういう感じでそれぞれの作家さんが受け止めてくれるかも、実はこの企画の面白いところで。違うものが上がってきても、白戸さんがちゃんと『くノ一ツバキの胸の内』という作品に合わせた着地点を作ってくれる安心感もあったんですよね。
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