INTERVIEW
2022.04.11
数々のアニメ作品を手がけてきた水島精二がエグゼクティブプロデューサーを担当し、飯森みちる(CV:中島由貴)、中沢 栞(CV:鈴代紗弓)、太田 希(CV:大野柚布子)という女子高生3人の日常をコミカルに、そしてカオティックに届けるピクチャーボイスドラマ「VOISCAPE」。水島監督とともにYouTube上で公開された全6話をプレビューしながらボイスドラマの可能性を拡張する画期的な試みを振り返っていく短期連載の最終回は、大きな話題を振り撒いた第5、6話のカオティックな内容を解説してもらうとともに、「VOISCAPE」がこの先向かう、ボイスドラマの新たな地平に向けて語ってもらった。
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――さて、今回は5、6話についてお話をお伺いします。まず5話「七福神の話をしてる場合じゃない」ですが、いわゆる神回というか……。
水島精二 そうですね、この回が一番大変でした(笑)。
――神回というか、サイケ回というか(笑)。
水島 最後までそのノリで終わりますからね(笑)。
――4話での“ラジオやってみた”からの流れで“漫才やってみた”なのかな?と思いきや、中盤から全然違う方向にいきましたね。
水島 よくわからない世界に飛んで行くという。しかもそのあとは「トワイライト・ゾーン」みたいな終わり方をしますからね。
――最後は怖いという(笑)。いわゆる最初は漫才のなかでもパワー系というか、力技でゴリ押す流れなのかなって思っていたんですよ。鈴代さんの演技もそちらに振り切った、鬼気迫るものがあって。
水島 多分喉が鳴ったんだと思うけど、変な音もN Gにせずそのまま採用してますからね、「あれ、なんか変な音鳴った、けど生々しいからこれで!」って(笑)。3、4話とエスカレートしたお芝居をやっていくなかで、多分焚きつければ行き着くところまで行くだろうなと思ってんですよ。だからあの一連だけ特に「もっといけるでしょ!」という気持ちも込めて3テイクくらい余計に録って。もっと鬼気迫るヒーローインタビューをやりたいと思っているのにどうしてもできないみたいな部分に加えて、体に異変が起きて……という流れで、彼女に「体がボコボコ膨らんでいくんだよ」と伝えたら、「ボグッ!」みたいな変な音を口で言ったりしていましたね。
――まるでボコボコ膨らむSEが鳴っているような……。
水島 SEはつけてないので恐らく息や喉の鳴っている音だと思うんだけど、もう偶然、その息遣いのなかで体から発した変な音を、余す事なく採用していますね。そういう意味ですごくナチュラルな彼女の芝居のみで、全然加工していないんですよ。
――まるで死ぬ間際のセルみたいな(笑)。
水島 でも本当にその苦しさがないとダメなんです。あそこからの爆発する音もめちゃめちゃこだわりましたから。結局僕が作っているんですけど、効果音を探しまくって、その中で4つくらい音を重ねて作っている。「ドーン!」って音がして遅れて衝撃波による爆風がきて、それによってビリビリっていう振動がくる……みたいな段取りと大きい音がレベルを振り切って割れている、みたいなことも狙って。ハリウッド映画的な音を目指して素材を組み上げて調整して、かなり良い感じになりました。けど、結構時間はかかって、今まで組んだ音響効果さん達の技の素晴しさを感じました(笑)
――効果も本気で作ったという。しかもそこから様々な漫才師がネタ合わせをしていき高次元の世界に移るという、誰も予想していなかった展開になっていくわけですよね。
水島 漫才師の声をどうしよう、弊社の役者で録るか悩んでいたんです。鈴代さんたちのお芝居を録ったあとに別録りでやることにはなるので、予算と時間を考えてベストな策をとりたくて。それで知り合いの、BAN BAN BANの鮫島(一六三)さんにネタ提供か、あるいはネタ持ち込みで出演できないか相談して、そうしたらトントン拍子で話がまとまり、鮫島さんの伝手でオトメタチとスクラップスという若手芸人にも参加してもらえて、あとはよっぴー(ニッポン放送アナウンサー吉田尚記)にも出てもらえて。
――DJ仲間の鮫島さんと吉田さんに本業でお願いしたと(笑)。高次元で色んな方向からネタが聞こえるという、サイケデリックな仕上がりになりましたね。
水島 ネタだけもらって役者に演じてもらうより格段のリアリティがありますからね。メタだし。芸人さんの1組に2つくらいずつネタをやってもらって、それを録って調整させてもらいました。でもあの空間でも、せっかくやってもらったからにはネタがちゃんと聞こえてほしいので、あまりリバーブはかけられないよな……とか、結構細かく調整しました。
――高次元に移ってからはまさに別世界のお話になって、栞も爆発後は毒気が抜かれたような思念体的な演技になりましたね。
水島 1人だけ違うところに飛ばされてますからね。
――そこから日常に戻って、ループしているようなオチもゾッとするというか。
水島 3話までの制作と、4、5、6話の制作って少しスパンが空いているので、映像も含めて4話以降のほうがクオリティーが上がっているんですよね。最後も音楽はミステリアスな、それこそ「トワイライト・ゾーン」みたいな感じの曲をつけたら、映像もバババババ!と光る演出をしてくれて。話を聞いたら動画担当のアドリブだったんですよ。
――映像演出としてもより研ぎ澄まされていったと。
水島 みんなが「これはやりすぎたほうが面白いんだ」という感覚が映像チームにも波及したのを実感できて、音響ディレクターとして嬉しかったですね。
――そんなエンディングのあとに流れる「I☆SPECIAL!」ですが、こちらはまたポップな楽曲で。
水島 そうですね、普通あんな終わり方をしたら、それこそ「トワイライト・ゾーン」みたいな曲がきそうなのに、一番かわいくてポップな曲がついてますからね。
――それこそもっともアニソン的なアプローチですよね。
水島 普段は自分でシナリオや音を作っているときに、曲も同時に考えていくんですけど、今回は良いアイデアが思いつかなくて……収録の時にその話をしたら、弊社プロデューサーの桟敷(宗太)から「1曲ハッピーハードコアやりたいんですけど、どうですかね」ってアイデアが来て、「(DJ)Genkiがやっているような明るくて、とにかくハッピーなやつです」って。それは本編とのギャップがあって面白いなと、「それやりましょう!」ってなりました。
――なるほど。
水島 デモが上がってきて「歌詞の方向性はどうしますか?」と言われたので、曲調から「今日は晴れているから、散歩がてらにでも世界救っちゃおうかな~」みたいなノリの感じのテンションの曲にしたいと話して。それが異世界とパラレルになっている、そういうことをすぐ妄想するオタクのお話みたいな感じになると共感できていいな、と思って作ったんです。ハッピーハードコアは僕的に浅い分野だったので、桟敷にリードしてもらって制作しました。1コーラス目と2コーラス目の入りのアレンジだけ少しニュアンスを変えたいとか、そこで歌詞も展開していってほしいという要望だけ投げかけて、GenkiとGettyが頑張ってくれました。yukaccoさんの歌詞も最高、めっちゃかわいいってなって。
――かわいい仕上がりにはなりましたが、あのストーリーからのこの曲で、ますます今後の展開がわからなくなってきました(笑)。
水島 これでかなりはぐらかせたと思います(笑)。
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